「あの……」
想い人の声と息遣いを耳元で感じながら、ニコニコ歩く女の子がいます。
大好きな彼女の左腕にしがみつき、ご機嫌に長い黒髪のポニーテールを揺らす10代半ばの女の子は、着物、袴、ローブと全体的にヒラヒラした服装をしています。さらに腰の刀もご機嫌にカッチャカッチャと音を立てて揺れています。
髪も服も刀も上機嫌にゆらゆらヒラヒラさせている、子犬系サムライガールとは一体誰でしょう。そう———
「———モミジさん。一旦離れてくれませんか?」
「そうです! ちょっとくっつき過ぎですよ」
「まったく同じ体勢でどの口が言うんですか。サヤさんもです」
「サヤ殿。相手の気持ちを受け入れず、自分の気持ちだけをぶつけるのは良くないでござるよ。なので可及的速やかにイレイナ殿の右腕を離すでござる」
「あなた達は会話のキャッチボールをブーメランで行うんですか?」
身長の関係でイレイナ殿の疲れたため息を右耳に感じて密かにゾクゾクしながら、拙者は少し考えるでござる。
確かに、イレイナ殿はこの国に来たばかりで少し疲れてるでござろう。これでも拙者はできる女。そんな疲れた彼女を癒すのも未来の伴侶の務め。
さて、どうしたものか……。拙者はイレイナ殿の腕に回したまま胸に手を当てて考え———ピコン! すぐに思いついたでござる。
「だいぶお疲れのようでござるな」
「えぇ。入国するまでの疲れが1割、入国してからの疲れが9割といったところですね」
「大丈夫でござるか? おっぱい揉むでござるか?」
「……いきなり何言ってんですか」
「モミジの桃の実モミモミして良いでござるよ」
「だから何言ってんですか……」
おかしいでござる。確かどっかの国の偉い人がおっぱいでストレス緩和できる的なことを言ってたはずでござるが、あれは嘘だったのでござろうか? イレイナ殿、めちゃくちゃ引いてるでござる。
逆にサヤ殿はこれでもかと悔しそうな様子。
「……ふっ」
「きぃーーー! なんですかその勝ち誇った顔はぁ〜!」
「イレイナ殿は、ちょっとえっちな女の子が好みでござろう?」
「いや、モミジさんはえっちというか……下品?」
「なんとっ⁉︎」
「ぷっぷっぷ〜! やっぱりイレイナさんは、ぼくみたいに落ち着きのある子が好きですよね?」
「サヤさん。鏡って見たことあります?」
「ひどい!」
下品…下品かぁ……。下品なのかぁ…。ちょっと小悪魔な妹ポジション狙ってたけど、もしかしてアムネシア殿とかシーラ殿とかにも下品って思われてたのかな…。
やべっ、涙出てきたでござる。
「あ、泣いた。イレイナさんが泣かした」
「えぇっ⁉︎ちょっ…モミジさん?」
「ひぐ…ぐすん……」
「だ、大体! あなた初めて会った時はもう少しお淑やかだったじゃないですか」
「猫を被ってたでござるよ。にゃんにゃん♪」
ここはいっそ切り替え、年下という部分を活かして別の属性にクラスチェンジでござる。
腕を絡めたまま、上目遣いで両手を猫の手にして猫ちゃんのモノマネ。
待って今の拙者めちゃくちゃ可愛いのでは!
「うわ…あざとい」
「サヤ殿も一緒にやるでござる。たぶんイレイナ殿の性癖に刺さるでござる!」
「……。あ、はい。そっすね」
「いやこれ絶対面倒くさくなってますよモミジさん」
「でも嫌がってはいないでござろう?」
「普通に嫌がっているの分かりませんか?」
「嫌よ嫌よも好きなうちでござる! つまりイレイナ殿は拙者のこと好き!
「ポジティブの化身ですかあなた」
褒めてもらえた! やったー!
嬉しさのあまり、さらにイレイナ殿の左腕にほっぺをすりすり。拙者の匂いを擦り付けるでござる。他の女が寄ってこないように。
「何度も言ってますが離れてくれませんか」
「えー」
「えー、じゃなくて」
「……サヤ殿が離れたら拙者も離れるでござる」
「え、死が2人を別つまで離れる気ありませんけど?」
「
「愛の重さなら拙者も負けないでござるよ。なにせ拙者、今流行りの過重力女子でござる」
「どこの界隈の話ですか。対抗しないでください」
もう一度、疲れたようにため息をこぼすイレイナ殿は大丈夫でござろうか。ため息を吐くと幸せが逃げちゃうでござるよ。
まぁ、拙者が末永く幸せにするので何も問題無いでござるが。
「とりあえずほうきを飛ばして来たのでお腹空きました。お2人とも、どこか良いお店にでも連れて行ってください。今来たところとか言ってましたけど、どうせ何日か滞在していたんでしょう」
「それでは! この炭の魔女、サヤにお任せを!」
「はい。お願いします」
イレイナ殿はサヤ殿にニコリと笑いかけたでござる。……羨ましい。
そんな気持ちでイレイナ殿の横顔をまじまじ見ていると、サヤ殿が拙者を見る。そして、
「……ふっ」
勝ち誇ったように唇の端を上げたでござるよ! ぐぬぬ……!
悔しさのあまり小さく歯軋りをする拙者は、それを隠すように組んだイレイナ殿の左腕を少しだけ強めに抱き寄せるでござる。
いくら相手がサヤ殿と言えど、拙者以外の女の子を見ちゃイヤでござるよぉ。
「どうしました?」
「むぅ……なんでもないでござる」
「うん?」
「サヤ殿。どちらのお店にイレイナ殿を連れて行く気でござるか?」
「う〜ん色々考えたんですけど、やっぱりママさんのお店が良いかなって」
「あぁ、それなら安心でござるな」
ママさんのお店ならもうすぐそこでござる。味も絶品だし、カノーリもあまり食べられるものではないので、イレイナ殿も喜んでくれるはず。
いくらお祭りで3位になって売り上げが伸びたとはいえ、昨日の今日で引っ越したわけではないでござろう。
それならと、拙者達はイレイナ殿の腕を引いてママさんの店に向かうでござるが……
「あの…ここですか? 空き家みたいですけど」
「「 ………… 」」
ママさんの店、テナント募集中になってるでござる。……マジか。
外から窓越しに中を覗くと、綺麗さっぱり片付いているでござるな。
一瞬場所を間違えたかとも思ったでござるが、なんだかんだでこの国に来てから祭りが終わるまでの約1週間通い続けた場所。周囲を見回せば、普通に見慣れた風景でござる。
「えぇ……」
「昨日あいさつした時は普通にありましたよね?」
「然り。どこ行っちゃったんでござろう」
まぁ、奥さんの菓子パン屋さんに行けば行方くらいは分かるでござろうが、今はイレイナ殿の空腹を満たすことが先決でござる。
ならば、と拙者は1つ思いついたでござる。
「拙者、良いお店知ってるでござるよ。2人が良ければ行ってみたいでござる」
テラス席のパラソルが作る日陰の下で、拙者達は円形のテーブルに置かれたメニュー表を眺めるでござる。
拙者はグランドメニュー———所謂いつでもあるメニュー。
イレイナ殿はドリンクメニュー。
サヤ殿は期間限定メニュー。
「ふむ。拙者は決めたでござる」
「あれ? こっちのメニューにモミジさんが好きそうなのありますよ。ほら」
「あっ、本当だ。迷うでござるな」
「ぼくと半分こします?」
「う〜ん……もう少し考えてみるでござる」
「…………」
「うん? どうしたんですイレイナさん?」
サヤ殿の声にメニューからイレイナ殿へ視線を移すと、彼女は拙者達を交互に見ていたでござる。
戸惑ったようにお口が半開きになってるのが可愛いでござるな。あのお口食べたい。吸いたい。飲み込みたい。
「2人とも普通に仲良いじゃないですか」
「嫉妬でござるか?」
「違います」
即答されたでござる。ぐすん。
「てっきりピリピリした関係だと思ってました」
「なんだかんだで1週間くらいずっと一緒にいましたしね」
「お祭りでのアピールタイムの練習はめちゃくちゃ大変でござったな」
「ですね。最初なんてモミジさん、切ったイチゴの果汁で真っ赤になってましたし」
「それはサヤ殿が果汁が飛ぶことを想定してなかったからでござろう。洗濯大変だったでござるよ」
「あはは、すいません」
「まぁ…拙者が自分に飛ばないよう切れば良かっただけでござるが」
笑い合う拙者とサヤ殿は、そのタイミングで注文も決めたでござる。イレイナ殿に目配せをすれば、頷いてくれる。
というわけで、店員さんにご注文。
「お2人はお祭りに参加できたんですね」
「何故か楽しむ側じゃなくて、楽しませる側に回ってましたけどね」
「……いいなぁ」
「いや、わりと本当に大変でござったよ。過重労働とはあの事でござるな……。労働ってマジクソでござる」
「あ、それに関しては私も同意見です」
「ダメですよ。生きるということは働くことです。2人とも、ぼくを見習ってください」
そういえば、この3人の中で唯一サヤ殿だけはちゃんと就職してるでござるな…。意外なことに。
「生きるということが働くことなら、協会で働くのって矛盾してないでござるか?」
「どういう意味です?」
「だって、結構命懸けの仕事があるでござろう? 生きる為に働くのに、その働く場所で死ぬ可能性があるでござる」
「あっ、確かに」
「サヤ殿〜。ニートは良いでござるよぉ〜。今日が楽しければもう最高でござる。明日のことは明日考えればいいでござるよ」
「…………」
「『今日』の積み重ねが『今』であり『明日』でござる。今を大切にできない者に、明日はないでござる」
「なんか良いこと言ってるように聞こえますけど、結局のところそれって無計画ってことですよね?」
「イレイナ殿、痛いところを突いてくるでござるな」
「でも、共感できる部分はあります」
「おぉ! それは嬉しいでござる。ちょっとくっついて良いでござるか? 唇とか」
「キモいです無理です拒否します」
「ぐすん……」
椅子ごとイレイナ殿にくっつこうとしたら、椅子の脚を蹴られたでござる。
でも、何故でござろう……。このぞんざいな扱いに、拙者の心臓は一瞬ときめいたでござるよ!
ちょっと言い知れない新感覚に体温を上昇させ息を荒らげる拙者に、イレイナ殿は氷のように冷たい眼差し。ふっ、今の拙者には逆効果でござるよ。むしろ体温上がっちゃう!
「話を戻しますが、お祭りに参加って具体的に何したんです? 何をしたらイチゴの果汁で真っ赤になるんですか?」
「あっ、気になるでござるか? それならこれを読むでござる」
拙者は鞄からイレイナ殿に貰った日記帳“武士の旅々”を取り出して渡すでござる。
それを受け取った彼女は、何かを感じ入ったように目を細めてページを開く。たぶん拙者の愛かな?
ついでに、サヤ殿にはドヤァ。
「あの日記帳、少し前にイレイナ殿から貰ったでござる。しかもイレイナ殿の直筆付きで。羨ましいでござるか?」
「この三角帽子、イレイナさんに貰ったんですよ。あと首から提げてるネックレスあるでしょ? あれぼくとお揃いです」
「マウント女子は嫌われるでござるよ」
「どの口がほざいてんですか」
バチバチ。拙者とサヤ殿の間で不可視の火花が散る。
睨み合う2人と日記帳を読み込む1人。そんな端から見たら奇妙のテーブルに、明るいウェイトレスさんの声と共に美味しそうな料理が乗せられたお皿が置かれるでござる。
「おぉ! 美味しそう!」
「然り。結構楽しみにしてたでござる」
お皿に乗せられ、カラフルなソースに彩られたものにサヤ殿は無邪気に目を輝かせているでござる。可愛い。
拙者が2人を連れてきたここは、デザートバーガーのお店でござる。
ハンバーガーに使われるバンズはそのままでござるが、その間に挟まれているのはお肉ではなく、果物と生クリーム! 拙者はイチゴとあんこで、サヤ殿はチョコバナナでござるな。
「本当にあんこ好きですね」
「はい! 大好きでござる!」
「あはは…。イレイナさん、お食事来ましたよ」
「あっ…はい。すみません」
「そんなに拙者の日記面白いでござるか?」
「いやその……なんか
さすがイレイナ殿! 顔が広いでござる。
そういえば、以前アムネシア殿と再会した時にもイレイナ殿にお世話になったと言ってたでござるよ。ちょっと女の子を引っ掛けすぎでは?
「色々あったでござるよ。———本当に、色々」
「そうみたいですね」
ニコリと拙者に笑い掛け、イレイナ殿も自身の目の前に置かれたレアチーズブルーベリーバーガーを見て……あ、顔顰めたでござる。
「これは……あまりにも砂糖の暴力が過ぎますね」
「この国の主食でござるよ。ね、サヤ殿?」
「はい」
「そういえばサヤさん、少し顔が丸くなったような……」
「嘘っ⁉︎えっ、マジですか⁉︎」
言われてみれば、初めて会った時に比べて少しサヤ殿のお顔が丸みを帯びたような気がするでござる。ずっと一緒だったから気付かなかったでござるよ。
「じゃ、じゃあ! モミジさんはどうなんです⁉︎ほとんどぼくと同じ食事してましたよね!」
「モミジさんは変わらないですね」
「拙者、体質的に太らないでござるよ」
「そんなぁ〜……」
両手でほっぺを覆って肩を落とすサヤ殿。ちょっと気になったので手を伸ばして摘み、引っ張ると……おぉ! 伸びるでござる! 楽しい!
フニフニほっぺで遊んでいると、ぷくぅ。膨らましたでござるよ。
そして、自身が注文したチョコバナナバーガーをずいっと拙者の前へ。
「うぅ…モミジさん、良かったら半分食べてください」
「よろしいのでござるか? ここのお店、あんこ争奪祭りで2位だったお店でござるよ」
「だって太っちゃいますし……」
別に少し丸くなったというだけで、太ったという印象はないでござるが…。わりと生き恥を晒し尽くしていたサヤ殿も、やっぱり女の子でござるな。
「あらァ? あなた達、こんなところで何してんのよォ」
「おろろ?」
「あ、ママさん」
サヤ殿のバーガーをどうしようかと考えていると、拙者達に掛かるクセ強めのオネェ言葉。
振り返れば、そこには血管の浮きまくった逞しい両腕に食材が山ほど入った紙袋を抱えているママさんがいたでござる。相変わらずフリルだらけのウェイトレス服を着て。うわ、イレイナ殿ドン引き。
「もォ出国したと思ってたけど、もしかしてまだ滞在するつもりなのかしら?」
「いや、ちょっと想い人に再会したから観光案内中でござる」
「エッ⁉︎想い人‼︎確かモミジちゃんとサヤちゃんの好きな人って同じ人よね!」
ママさん、大興奮。平然とテラス席に残っていたもう一つの席に腰を下ろしたでござる。
「然り。紹介するでござる。こちら、イレイナ殿でござる」
「よろしくゥ〜! 2人にはこの間のお祭りでほんっっっとうにお世話になったよォ」
「……あ、はい。どうも」
「あらやだ! 2人に負けず劣らずバチクソ可愛いじゃないのもォ! もしかして緊張してるのかしらァ?」
見た目のインパクトがブチ上がってるママさんに、イレイナ殿は珍しくたじたじでござる。ちょっと困ってるイレイナ殿は貴重でござるな!
記憶を司る脳の部位、海馬に刻み込んでおくでござる。うへへ〜。
「あ、聞いてほしいでござるよママさん! サヤ殿が太るのを気にしてこのチョコバナナバーガーを半分食べてほしいって言ってきたでござる」
「そうなのォ! ダメじゃないサヤちゃん! その年でそんなの気にしちゃダ・メ!」
「うっ……」
「アタクシのようにナイスバディになれないわよ?」
「いや、ママさんのそれはナイスバディじゃなくて筋骨隆々だと…」
「エェ?」
「そ、そういえばママさん! お店が無くなってましたけど、もう引っ越したんですか?」
「再婚してあっちの店でカノーリ作る事にしたのよ。そんな事よりサヤちゃんのは・な・し!」
「……モミジさん。あの狂気の産物は一体?」
「見た目はアレでござるが、問題無く良い人でござるよ」
「……見た目はアレですけど」
「然り。見た目はアレでござるけど」
人を見た目で判断するのは良くないでござるよ。いやまぁ、見た目がこんなにヤバければ中身も大体ヤバいでござるが。
ママさんに問い詰められて気まずそうにしているサヤ殿を尻目に、イレイナ殿は拙者の耳元へ口を寄せてくるでござる。キスでござるか? ちゅーでござるか? 接吻でござるか! ヘイカモン‼︎
「モミジさん、どうしてこのお店知ってたんですか?」
「さっきも言ったでござろう? このお店、あんこ争奪祭りで2位だったでござる。ちなみに拙者とサヤ殿はあのママさんと一緒に出場して3位でござる」
「それはさっき日記で読みました。———でも、それだけじゃないでしょう?」
「……キスしてくれたら教えてあげるでござるよ?」
「イヤです」
「いけず」
ぷくっとほっぺを膨らまして抗議するでござるが、イレイナ殿は拙者を静かに見据えるだけ。
「あなた、意外と隠し事多いですよね」
「そうでござろうか?」
「えぇ。初めて会った時もそうでした」
「思い出すでござるな。あの熱い夜のこと」
「紛らわしい言い方しないでくれません?」
「ちょっと待ってください! なんですかその初めての熱い夜ってぇ‼︎」
「ほらこういう事になるからぁ……」
瞬時に疲れた顔になるイレイナ殿でござる。大丈夫? おっぱい揉む?
「別に隠してるわけではないでござるが……」
今度は拙者がイレイナ殿の耳に口を寄せるでござる。
うわ、イレイナ殿って耳の形まで綺麗でござるな。まぁあの夜に舐め舐めしたので知ってるでござるが。
「———サヤ殿と一緒に食べに来たかっただけでござるよ」
ちょっぴり、自分の顔が赤くなるのが分かるでござる。照れちゃうでござるな。こういう事を改めて言うのは。
流石に本人に伝えるのは恥ずかしいので、それだけ言ってイレイナ殿の耳元から顔を離す。一応、サヤ殿が筆舌に尽くし難い表情でこちらを見ているというのもあるでござる。その顔は年頃の女の子がして良いものではないでござるよ?
「だから、先ほどイレイナ殿に会えたのは色々な意味でラッキーでござったよ」
それだけはサヤ殿とママさんにも聞こえるように言って、サヤ殿にドヤァ。イレイナ殿との内緒話、羨ましいでござるか? 羨ましいでござるな。
ギリギリと歯軋りして睨んでくるサヤ殿を拙者も顔面で煽りつつ、イチゴあんこバーガーを一口。
おぉ! 中にヨーグルトソースが入ってるでござるな。意外にもあんことヨーグルトの相性は良いでござる。美味!
勝者の貫禄を演出しつつパクパクバーガーを食べていると、イレイナ殿がナイフでサヤ殿のチョコバナナバーガーをカット。さらにフォークで一口大に切ったものを彼女の口元にお届け。
……これはもしや?
「ほら、注文したものを食べないのは作ってくれた方にも失礼ですよ」
あ…あーん、でござるよ⁉︎イレイナ殿がサヤ殿にあーんしてるでござるよ‼︎拙者も妄想の中でしかやってもらったことないのに‼︎
「…………」
突然のことに目を丸くしているサヤ殿。
「…………」
めちゃくちゃ羨ましそうにその光景を指を咥えて凝視する拙者。
「…………ふっ」
勝ち誇った笑みをこれでもかと拙者に向けるサヤ殿。
「…………っ…」
刀の鯉口を切り、ついでに自身もキレる拙者。
サヤ殿……お主は生かしておけぬ。生かしておけぬでござるよ!
「モミジさん。着席」
「ずるいでござる! サヤ殿ばっかりずるいでござるよ‼︎」
「ぷっぷっぷ〜。羨ましいですか? 羨ましいですよね? だってイレイナさんからのあーんですもんね? 羨ましくないはずがないですよね?」
「……殺すか」
「煽り耐性低すぎません?」
先ほどとは逆に煽り返してくるサヤ殿に、拙者は顔真っ赤でござる。法律なかったら殺してるレベルでござるよ。
「もういいでござる! ママさんに言いつけてやるでござる‼︎」
「しかもキレ方が小さい子どもと同じ⁉︎」
「いや、アタクシここで全部見てたんだけどォ」
「ママえも〜ん! サヤ殿がいじめる〜!」
「あなた自分のこと棚上げにするの大得意ね」
なにやら拙者が悪いみたいな雰囲気が出来上がっているでござるが…。それでも楽しく賑やかに、武士と魔女2人とママ(おっさん)の濃いメンバーが織りなすお食事会は、2時間ほど続いたでござる。
夕方。陽も暮れかけた頃、拙者とサヤ殿はお菓子の国の門前で朝と同じようにイレイナ殿の腕へしがみついている。
「拙者、イレイナ殿と離れたくないでござる」
「ぼくも、イレイナさんと離れたくありません」
「私はさっさと2人に離れてほしいです」
「「 またまた〜 」」
「本心ですよ」
そんな…ありえないでござるよ……っ!
「えっイレイナ殿は離れてほしい…でも拙者は離れたくない……この感情はどうすればいいでござるか⁉︎」
「胸にしまっておいてください」
「うぅ…あー…うー……あーーー…はっ! イレイナ殿の左腕を斬り落とせば良いのでは!」
「いや絶対ダメなのでは」
「でもそうすれば拙者はイレイナ殿と一緒にいられるし、イレイナ殿も拙者に離れてもらえるでござるよ?」
「私の左腕が無くなってるじゃないですか」
「安心するでござる。ちゃんとサイズぴったしの指輪を薬指に着けてあげるでござるよ」
「サイコですか」
「そんな
「あなたの聴覚ご臨終してます?」
やっぱりイレイナ殿は拙者のこと大好きでござったか。まぁ知っていたでござるが‼︎
「こーら、モミジさん。あまりイレイナさんを困らせちゃダメですよ」
「イレイナ殿、困ってるでござるか?」
「むしろ困ってないと思ってんですか?」
「拙者イレイナ殿がお困りであれば、いつでも駆けつけるでござるよ! たとえ火の中 水の中 草の中 森の中 土の中 雲の中 あのコのスカートの中であろうとも」
ちょうど入国してきた可愛らしいフレアスカートの女性旅人さんを指差して拙者は力強く告げるでござる。
「ちなみにあのコのスカートの中で困ってくれるの希望でござる」
「……は? キモ」
女性旅人さんから冷ややかな一言。こうかはばつぐんでござる。
「うわぁぁぁん! キモいって言われたでござるぅぅぅ!」
「安心してくださいモミジさん。あなたはキモいです」
「そのフォローはなんか違うでござるよ⁉︎」
えっ、拙者ってキモいの? 泣くでござるよ。もう泣いてるけど。
「甘いですねモミジさん。あなたのイレイナさんへの愛はその程度ですか?」
「むっ…というと?」
「ぼくはイレイナさんのスカート中が良いです!」
「サヤさんも負けず劣らずキモいですね」
「負けないでござるよ! だったら拙者はイレイナ殿のパン痛い⁉︎」
「どうやらパンチがご所望のようで」
「あぁっ! ぼくのイレイナさんの右腕がぁ‼︎」
「もうやだこの2人……」
イレイナ殿が本日何度目か分からない疲れた表情になるでござる。旅って疲れるよね。
ま、おふざけはこれくらいにして……。拙者はサヤ殿と頷き合い、同時にイレイナ殿から離れるでござる。これぞ平和的解決。
そして、2人揃ってイレイナ殿の前に並び、拙者は左手、サヤ殿は右手の小指をそれぞれ差し出すでござる。
「…………」
拙者達の意図を察したのでござろう。イレイナ殿は躊躇いがちにゆっくりと絡めてくれるでござる。
「……お別れの言葉は、必要ですか?」
「いえ」
「必要ないでござる」
拙者達は旅人。風の向くまま気の向くまま、どこからともなく流れる花びらのようなものござる。
だから、再会できなければそれまで。再会できればヒャッハーでござる。
ただそれでも、また会いたいと願うこの気持ちも本物だから。
折衷案として、この小指のおまじないに託すでござるよ。次の可能性を。
拙者達は無言で。しかし笑顔で。きっとこの時、同じ想いを心の中で呟いた。
———また会えるときまで、さようなら。
はい、いかがでしたか?やべー奴とやべー奴の板挟みになったイレイナさんでした。この話を3話続けると、たぶん過労死するので1話完結です。
小指のまじないをイレイナさんに教えたサヤさん。
それをモミジちゃんと交わしたイレイナさん。
複雑でありながら、それでも確かな縁がこの3人にはありました。食ってばかりだったわけではありませんよ(汗)
ps.魔女の旅々、ブルーレイ上巻買いました!特典小説の表紙が可愛すぎてやばい(語彙力)