武士の旅々   作:技巧ナイフ。

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いっけな〜い!遅刻遅刻〜(๑˃̵ᴗ˂̵)


幕後語り
拙者がママになるでござる!


「そういえば、今日はイレイナ殿のお誕生日でござるな」

「え、えぇ…そうですが」

 

 “健やかなるポモドーロ”の周辺国をイレイナ殿と共に漫遊している道中、箒の後ろに乗せてもらっていた拙者はふと口にしたでござる。

 

「私、あなたに誕生日教えましたっけ?」

「顔を見れば分かるでござるよ」

「頬が緩んでいたとかですか?」

「いや、フィーリングでござる。イレイナ殿の顔を見ていたら、『あ、今日誕生日だな』て」

「なんですかその謎特技」

「武士の嗜みでござるな」

 

 武士ならばこれくらい出来なければ務まらないでござる。美少女相手ならば尚更。

 

「というわけで、何か欲しい物とかあるでござるか?」

「お金ですかね」

「なるほど。拙者の愛でござるか」

「お金です」

「じゃあ宿に着いたら拙者の手料理を振る舞うでござるよ」

「お金……」

「おろろ? 拙者の唇もでござるか? イレイナ殿はえっちでござるな!」

「…………」

「あわわわわ⁉︎急に逆さまにならないでぇ‼︎」

 

 急に上下逆さまにされ、ほっぺに手を当ててくねくねしていた拙者は箒から落とされたでござるよ。

 空中で刀の柄に手を当て、上から下の過重力でイレイナ殿の後ろにぴょんと戻る。そしてもう一度落とされないように、ぎゅう。えへへ〜イレイナ殿いい匂い。

 

「まぁ冗談はこのくらいにして、何が欲しいでござるか?」

「おか…」

「お金以外で」

「むぅ…では、さっき言ってたあなたの手料理をお願いします」

「承知したでござる! 腕によりを掛けて仕上げるでござるよ」

「えぇ。楽しみにしています」

 

 さてさて。ニコッと微笑むイレイナ殿に胸をキュンキュンさせながら彼女の灰色の髪をクンクンしている、武士で旅人で魔法使いは一体誰でしょう? 

 

 そう、拙者でござる! 

 はいご無沙汰しております。モミジでござる! 

 

 

 

 国に辿り着いた拙者達は、さっそく安宿探し……ではなく、ちょっとお値段が張りながらもキッチンの付いた宿を探すでござる。

 

「ふむ…やっぱり(かま)が付属してるお部屋は見つかりにくいでござるな」

「まぁ、普通はないですよね」

「最悪パン屋さんの近場に泊まって、窯を借りるというのも手でござるが」

「というか、手料理はパンで決定なんですか?」

「然り。…あ、もちろんパン以外が良ければ言ってくれて構わないでござるよ。リクエストはばんばん募集中でござる」

 

 イレイナ殿はパン好きだし、焼き立てなら喜んで貰えると思ったでござるが。

 

「パンもいいですが、せっかくならあなたの国のお料理を食べたいですね」

「おろろ? 和食、食べたことないでござるか?」

「ありますよ。ですが、それはどれもお店のものです」

「うん? つまり、拙者の国の家庭料理が食べたいと」

「そういうことです」

 

 それであれば、キッチン付きのお部屋を探すだけだから、すぐに見つかるでござるが……

 

「拙者の家庭料理は、基本手抜き料理でござるよ?」

 

 自分たち家族の分+内弟子50人以上の量を作るとなると、自然とそうなるでござる。

 

「美味しくないんですか?」

「味は保証するでござる。美味しさを保ちつつどこまで手を抜けるかが家庭料理の極意でござるよ」

「であれば構いませんよ。旅をしていると、時折家庭の味というのが恋しくなるものですから」

「そうでござるな。あ! せっかくだから、“あーん”もしてあげるでござるよ? 拙者がイレイナ殿のママになるでござる!」

「いりません」

「いやしかし……」

「いりません」

 

 むぅ……。ほっぺを膨らまして抗議するでござるが、イレイナ殿はどこ吹く風。髪とローブを優雅に揺らしながら、スタスタと歩いて行ってしまうでござる。

 

「待って欲しいでござるよぉ〜」

 

 拙者も自慢のポニーテールをぴょんぴょん跳ねさせながら、その背中を追う。

 

 

 

 キッチン付きの部屋を見つけたので早速借り、本日の主役であるイレイナ殿にはゆっくり待っていてもらうでござる。

 市場で調味料やら食材やらを買い込んで戻ってきた拙者はすぐさまキッチンに立ち、抜刀。Let's,クッキング! 

 

「いや、なんで刀抜くんですか」

「それはもちろん食材を切るために」

「包丁があるでしょう」

「ここ最近ずっと刀でお料理してたから包丁の使い方忘れちゃったでござる」

「……あなた、初めて会った時に刀を“武士の魂”とか言ってませんでした?」

 

 ……言ったっけ? 

 

「まぁいいです。手伝いますよ」

「心配ご無用。イレイナ殿は本でも読んで待ってるでござるよ」

 

 刀に度数80%のお酒をジャバジャバかけてアルコール消毒しながら答えるでござるが、イレイナ殿は拙者の買ってきた食材をじっと見据えて動かない。

 

「何か気になる物でもあるでござるか?」

「いえ……」

 

 ちなみに拙者が買ってきた物は野菜中心。種類も豊富。少量多品目が和食の基本でござるからな。

 イレイナ殿には家庭料理が食べたいと言われたでござるが、お誕生日なので豪勢さは必要。お魚も買ってきたので、焼き魚と煮付けの両方をつけてあげるでござるよ。

 あとはもちろん天ぷら! どんな嫌われ物なお野菜も、天ぷらにすればなんでも美味しくいただけるでござる。アムネシア殿にも大好評だったなぁ。懐かしい。

 

「あの」

「おろ?」

「その———きのこも使うんですか?」

「然り。きのこは和食の可能性を無限に広げるでござるよ」

「そう…ですか」

「嫌いでござるか?」

 

 聞くまでもなく、イレイナ殿は拙者が水洗いするきのこを見て顔を青くしている。

 ふむ。これはこれは……。

 

「大丈夫! 拙者が口移しで食べさせてあげるでござるよ」

「それはきのこ云々関係無く衛生的に嫌です」

「しかし、赤ちゃんには口移しで食べさせてあげるものでござる」

「いつから私は赤ちゃんになったんですか」

「人は赤ちゃんとして産まれ、赤ちゃんになって死んでいくものでござろう?」

「それはただの耄碌です」

 

 そんな戯言を並べながら、拙者は手早く調理していくでござる。

 煮物は時間を掛けた方が美味しいから、この時間から煮れば食べる頃には程良く味が染みてるでござろう。

 

「心配しなくても、イレイナ殿の膳にはきのこを入れぬよ。わざわざお誕生日に嫌いな物を食べる必要は無いでござる」

「……ありがとうございます」

「ふふっ。イレイナ殿の弱点、見つけちゃった♡」

「……できればサヤさんには内緒にしておいてくれると助かります」

「え〜〜〜どうしよっかなぁ〜?」

「最近気付いたんですが、“時間逆転の魔法”を脳に掛けたら短期的な記憶消去が可能なんじゃないかと思うんですよね」

「イレイナ殿のきのこ嫌いは墓場まで持っていくでござる‼︎」

「よろしい」

 

 わりと平然と脅しにくるイレイナ殿…好き。これが惚れた弱味でござるか。

 

 ……というか、こうやって雑談しながらお料理してると新婚さんみたいでござるな。

 えへへ。バックハグとかしてこないかなぁ! そうしたら拙者は回された腕に手を添えて……うへへ〜。

 

「だ、ダメでござるよイレイナ殿ぉ…。そんなところに手を入れたら…買ってきたお魚さんが見てるでござるよぉ……」

「…………」

 

 温められていく煮汁とは対照的に、イレイナ殿の視線はどんどん冷たくなっていくでござる。

 

 

 

 

「ふぅ…ご馳走さまでした。大変美味しかったです」

「お粗末様でした。少し多かったでござるか?」

「え、えぇ…まぁ。ちょっと横になりたい気分です」

「食べてすぐ横になると牛になるでござるよ?」

「……? 人が牛になるわけないでしょう」

「イレイナ殿が牛になったら、拙者が美味しく食べてあげるでござるよ。生で」

「……薄々思っていたのですが、モミジさんって頭おかしいんですか?」

「好きな人と一つになりたいと思うのは普通のことでは?」

「その一つのなり方が猟奇的なんですよ」

 

 白い目を向けてくるイレイナ殿を尻目に、拙者はベッドに移動して正座。そして袴越しの太ももをぺちぺちと叩いてにっこり微笑む。

 

「こちらへどうぞ、イレイナ殿」

「は、はぁ?」

 

 拙者の意図を正確に読み取ったイレイナ殿は、ちょっとだけ顔を赤くしてる。照れてるでござるか⁉︎ベリベリキュートでござるな! 

 

「眠ってしまわないように見張りも兼ねて、でござるよ。それとも年下には膝枕されたくないでござるか?」

「いえ、そういうこだわりはありませんが……」

「ちなみに拙者は美幼女から美老女まで、女性の膝枕なら誰でも大歓迎でござる!」

「別に聞いてません」

 

 ぴしゃりと言い切ったイレイナ殿は、少し迷ってからベッドに上がってくる。

 そして、躊躇いがちに拙者の太ももへ頭を預けたでござる……って、おろろ? イレイナ殿の顔がおっぱいで隠れちゃったでござるな。

 

「これは新手の煽りか何かですか?」

 

 なんとなく、おっぱい越しにイレイナ殿から敵意を孕んだ視線を感じるでござる。おっぱいに親でも殺されたかのような凄まじさでござるな。

 

「……ちょっと失敬」

 

 イレイナ殿の後頭部に手を入れて持ち上げ、足を崩して人魚座りへ。

 ……よし。これなら顔が隠れることも無いでござる。

 

「サラシ…でしたっけ? 胸を潰してる包帯みたいなの。今は巻いてないんですか?」

「イレイナ殿といると、刀を振る必要もないでござるからな。胸を潰す理由が無いでござる」

 

 旅人である以上、自衛の為に刀を振るうこともあるでござる。そんな時胸が揺れて痛いから潰しているだけで、魔女であるイレイナ殿といるならば守ってもらえるのでその必要性が無い。

 

「あなたは私が守ってあげなくても十分強いでしょう」

「拙者だって女の子でござるよ? 好きな人に守ってもらいたい願望はあるでござる」

 

 そう言いながら、イレイナ殿の頭を撫で撫で。すると、彼女の体がカチンと強張る。

 しかし撫で続けると徐々に力も抜けていく。そういえば、イレイナ殿ってどちらかと言うと相手を甘やかす側っぽいでござるな。

 人に甘えるのとか苦手そう。

 

 言ってることとやってる事が微妙にズレてるけど、イレイナ殿は気にせずリラックスしている様子でござる。良かった。

 

「そういえば、一応プレゼントも用意したでござるよ」

「貰える物は貰います」

「そう言ってもらえると助かるでござる。はい」

 

 袂———袖にあるポケット———から、特に包装もされていない物を取り出してイレイナ殿の眼前へ翳す。

 

「これは……レターセット、ですか?」

「然り。ご両親へお手紙を書くでござるよ」

「……何故?」

「だって今日はイレイナ殿にとって大事な日で、そしてイレイナ殿を産んでくれた人達にとっても大切な日でござろう?」

 

 大事な1人娘が一人旅をしている。それだけで親からすれば心配は積もり積もっていることだろう。

 家出同然に飛び出した拙者と違い、旅に出ると言って旅に出たイレイナ殿ならば尚のこと。

 

「別に改めて感謝の意を示せとか偉そうな事を言うつもりはござらん。生存報告程度でいいでござるよ」

「……そうですね。しばらく手紙も出していませんでしたし、助かります」

 

 受け取ったレターセットを、ぎゅっと優しく胸に抱くイレイナ殿。そんな彼女の頭をさらに優しく撫でてあげながら、ゆったりと拙者も言葉を紡ぐ。

 

「もし照れくさいようなら、拙者も1人の友人として一筆添えるでござるよ」

「どのように?」

「『イレイナ殿を産んでくれてありがとう。イレイナ殿と出会わせてくれてありがとう。あなた達の娘さんは拙者の恩人です』と」

「そんな大層なことはしてませんよ」

「そして———『娘さんを拙者にください』と」

「明らかに友人としての範疇をぶち抜いているのですが」

「『もしくれないのであれば、拙者が貰われます』と」

「クーリングオフで」

「『それすら拒否するならば、略奪します』と」

「手紙は私1人で書きますので、余計なことしないでください」

 

 にべもなくイレイナ殿にはキッパリと拒絶されたでござるよ。…くすん。

 いつものようなやり取りを交わして拙者達は笑い合う。

 

 

 

 ———生まれてきてくれてありがとね、()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「あ、お手紙出す時はこの封筒に入れて欲しいでござるよ」

「……なんか既に1枚変な紙入ってません?」

「婚姻届でござる。ちゃんと拙者とイレイナ殿の血判が捺してある正式な物でござる」

「私捺した覚えないんですけど⁉︎」

「もちろん偽造でござるよ。指紋すら偽造できない者に結婚する資格は無いでござる!」





はい、いかがでしたか?ボリュームは普段の半分くらいでしたが、せっかくなので書いてみました。

魔女旅の東の国の女は、イレイナさんと結婚する為なら指紋くらい偽造します(偏見)
ちなみにモミジちゃんの誕生日は10月25日です。詳しくは“椛”とググってください。特に何も書きませんが(´ω`)

ps.もうちょっとで“武士の旅々”1周年!
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