国を出てから下山すること1時間。箒に乗って下りられれば楽なのでござろうが、一応は潜入という
そして無事、魔王村に辿り着いたでござるが……
「なんか普通の村でござるな」
“村”というよりは“街”という感じでござるが。だいぶ栄えてる。
魔王村というくらいだから、常に暗雲立ち込めて路上の至るところに死体が転がってるような殺伐とした場所を想像していたでござるが、全然普通の集落でござる。
一応チラチラと魔物らしき者たちも確認できるけど、パッと見たところ人間の方が多いし。
魔物と人間も種族の壁を越えて交流してる。
魔王村とは名ばかりの多種族国家でござるな。あ、一応村だっけ。
「バロルさん。本当にここが魔王村なんですか?」
「地図上では間違い無いかと。村の形も、僕が聞いていたものと合致しています」
流石にイレイナ殿も疑問に思ったらしく、バロル殿へと怪訝な顔を向けているでござる。
出会ってから今まで、特に感情らしい感情を見せなかったバロル殿も、少しだけ不安そうにしてる。
ふむ…。
「失敬、そちらのご婦人。拙者は旅人でござる。ここの村の名称を教えていただけるでござるか?」
「あら、可愛らしい旅人さん。ここは“魔王村”よ」
「えへへ〜可愛らしいなんて、かたじけない」
はい、ここが魔王村でござる。この名前って村人も普通に使ってるでござるか。
とりあえず目的地であることは確定したので、これからどうするかとバロル殿を振り向くと……おろ? なんかスタスタとどっかに歩いて行っちゃったでござるな。お手洗いでござろうか。
「ここからは別行動だそうです。バロルさんと私達で手分けして情報収集をしよう、と」
「……一応旅人として潜入したのだから、一緒に行動するべきなのでは?」
「たぶん彼、集団行動できないタイプですね」
「ふむ、拙者と同じでござるな。女の子なら親友になれたからしれないでござる」
友達作るのって難しいもんね。拙者も故郷ではできなかったもん。
とはいえ、
「ではイレイナ殿! 拙者と一緒に村を回るでござる!」
「いや、なんで腕組むんですか」
「女の子2人が並んで歩いていたら、腕を組んでいないほうが不自然でござろう?」
「どこの国の常識ですか」
「拙者の国!」
「嘘ですよね?」
「いや、これがあながち嘘でもないでござるよ。むしろ仲良し同士で双子コーデとか、姉妹コーデとかするのが流行ってたでござる」
街で見かけた時は、血を吐くほど羨ましかったでござる。拙者も! 女の子と! 手を繋いで歩きたい!
「……拙者とデート、イヤでござるか?」
「わりと」
「うぅ…イヤで、ござるか?」
「嘘泣きやめてくれません?」
「腕組んでくれないと、イレイナ殿の服で鼻かむでござる」
「脅迫じゃないですか……」
呆れた目をしながらも腕を振り解かないイレイナ殿好き! 元々ヤバいくらい好きだけど。
「ほら、あっちにポップコーンの露店があるでござるよ! せっかくだから、おやつにするでござる」
「あぁはいはい。わかりましたよ」
それにしても、ポップコーンの露店なんて珍しいでござるな。
お祭りならわりと見かけるけど、露店の雰囲気的に毎日ここで営業してるっぽいでござる。
店主はまだ年若い…なんならイレイナ殿と同い年くらいの青年でござるな。
「店主。1ついただけるでござるか?」
デートの定番と言えば食べさせ合いっこでござる。
ポップコーン1つ1つをあーんさせあえば…おぉ! めちゃくちゃ食べさせ合いっこできるでござるな! 拙者賢い!
イレイナ殿の美しい白魚の如き指が幾度となく拙者の唇に触れることを夢想しながらお財布を取り出して銅貨を数枚。
「おう! お嬢さん達、旅人さんかい?」
「然り。ポップコーンの露店とは、あまり見ないでござるが……」
「あぁそれはな、俺の魔眼がコーンをポップさせるのに向いてるからだ」
「「 ………… 」」
……え? この店主、今なんと?
「どうした? やっぱ2つ買いたくなったかい?」
「魔眼……持ってるでござるか?」
「あん? 持ってるよ」
「えっと…店主はこの国の出身でござるか?」
「いや。そこの山を登ったところにある国で生まれた。“魔王村”には諸事情で降りてきたんだ」
「もしかして魔眼勇者?」
「なんだ。
あっけらかんと言う店主に対して、拙者とイレイナ殿は顔を寄せ合ってひそひそ。
「……いましたね。バロルさんの前任者」
「……わりと普通にいたでござるな」
いやまぁ、生きてたならめでたいでござるが……。この店主が何年前の魔眼勇者かは知らぬが、とりあえず合流でござる。
う〜ん……どう話そう。あまりにもあっさり見つかったことで、拙者の脳が状況に追いつかない。
「私達はあなたの出身国の王様から依頼を受けてここに来ました。魔眼勇者で生存しているのはあなただけですか?」
「いや? 魔王村に降りて来た魔眼勇者は全員生きてるよ。…あ、最初の1人は危篤中だっけ。それで、ポップコーンは何個いるんだい?」
「この村に着いてから一切連絡をしなかったのは何故なんでしょう?」
「連絡よりもポップコーンの方が大事だ」
「……そうですか」
「ポップコーンは2個でいいかい?」
「1個で」
「だが俺は2個作りたい! よって2個作る!」
あ、イレイナ殿がすごく拙者に助けを求めてる。なんというか……その庇護欲を沸き立たせるお顔、良いでござるな!
(……と、なんかこういう事考えてると、あの変態人形職人を思い出してしまうでござる)
拙者はあんな変態と違う。ただただ世界中の女の子に甘え、甘やかしたいだけの清廉潔白な武士で旅人で魔法使いござる。
「ほ〜らイレイナ殿〜。拙者の胸を貸してあげるでござるよ〜。思う存分バブバブするでござる」
「うわぁ…無理」
「では拙者がバブバブするでござる」
「なんで私の知り合いって話聞かない人が多いんでしょう……」
「類は友を呼ぶというやつでは?」
「……あ、ポップコーンが弾けてます」
誤魔化したでござるな。一応自覚はあったでござるか。
イレイナ殿に少しだけジト目を向けてから、ポンポン! と軽快な破裂音を上げる露店を見れば……おぉ! バター香る鉄板の上で弾けたポップコーンが店主の持つ容器へと流れるように入っていくでござる。これはお見事!
うん? というか、真剣でありながらもエンタメとして笑顔を浮かべる店主の眼差し———正確には瞳が、いつの間にか翡翠色に変わっているでござる。
どうやらイレイナ殿も気付いたらしく、拙者たちは揃ってポップコーンではなく店主の瞳に釘付けでござるよ。
これはもしや……魔眼? そういえば、ポップコーンと相性の良い魔眼的なことを言ってたでござるが。
「へいお待ち! ポップコーン2個な。お代は3個分でいいぜ」
「詐欺じゃないですか。まぁいいですけど」
「は? いや、冗談だよ。ちゃんと2個分でいいさ」
「構いません。私の気持ちですので、受け取ってください。その代わり、少し教えてほしいことが」
気持ちと言いつつ少し多めにお金を渡して情報をせびる。確かに、時に情報料というのはアホみたいにふっ掛けられる事もあるので、結果的にこれは上手いやり方なのかもしれない。
流石イレイナ殿! ケチれるところはどこまでもケチる
拙者の尊敬の眼差しに気分良さそうな様子で、イレイナ殿はお金を渡しながら店主へと問い掛ける。
「今は戻っていますが、ポップコーンを使っている時にあなたの瞳の色が変わっているように見えましたが、それが魔眼ですか?」
「あぁそうだよ。俺のは“分析の魔眼”って言うんだ。視界に映るあらゆるモノを分析できる」
「具体的にはどのように?」
「そうだなぁ……例えばそこのお嬢さんが腰の剣で俺に斬りかかろうとするだろ?」
「モミジさん。やめてくださいね」
「そんな辻斬りみたいなことしないでござるよ……」
失敬な。
「はは、例え話だよ。んで、その姿を魔眼で見るだけで、どんな軌道で斬りかかってくるか分かるってわけだ」
「ふむ。未来予知の
「少し違うな。お嬢さんの姿勢、視線、剣の握り具合……まぁその他諸々の要素を全て
「……おん?」
「モミジさんでも分かるように言い直すと、まな板の上にある材料を見てどんな料理が出来上がるか予測できる魔眼というわけです」
「おぉ! なるほど!」
あれ? 今サラッとイレイナ殿、拙者のことバカって言わなかった?
「しかし、その魔眼がどうしてポップコーンと相性が良いということになるでござるか?」
「ポップコーンってのはな、繊細なんだ。鉄板に溶かしたバターをどの割合で絡ませれば良いのか、熱した鉄板のどの位置に置けば弾けるのか。薪だってそうさ。その日の気温や湿度によって薪の燃えやすさが変わる———その全てを俺は“分析”する。敢えて言わせて貰おう! 俺に弾けないポップコーンは無い‼︎あぁそうさ……爆裂種なら、神様だって弾いてみせる‼︎」
とりあえず彼の魔眼とポップコーンの関係についてはよく分かったでござる。確実にもっと有意義な使い方がある気がするでござるが。
あと爆裂種の神様ってなに? いるの? ポップコーン担当の神様。
「あ、これ美味しいですよ」
「当然さ。俺のポップコーンをそこらのポップコーンと同じと思っちゃ困るぜ」
「イレイナ殿、拙者も欲しいでござる。あ〜ん」
「こっちがモミジさんの分です」
「むぅ……」
店主が独断で2個作るなんて余計なことしてくれたせいで、拙者の計画がおじゃんでござる。
せっかく食べさせて貰いながらイレイナ殿の指をちゅぱちゅぱしようと思ったのに……。
当のイレイナ殿は「彼と組めば賭けでボロ儲けなのでは……」とか呟いてるし。
拙者とお金、どっちが大事でござるか⁉︎ぷんぷん!
心の中で憤慨しながら買ってもらったポップコーンを口にポイ。あ、ほんとに美味しいでござる♪
「もぐもぐ……して店主。他の魔眼勇者たちもこの村にいるとのことでござるが、何処に?」
「あーどこだろう? わりとみんな日雇い労働者みたいな感じだからなぁ。『この時間にここにいる』って奴はそんなに知らないんだが」
「知ってるだけでいいでござるよ」
「OK。って言っても2人だけだけどな。“光の魔眼勇者”と“闇の魔眼勇者”だ。双子だぜ」
「おや? 私が聞いた話では、魔眼勇者は1年に1人しか生まれないとのことでしたが」
「俺はあまりその辺詳しく無いんだが、一卵性双生児だから1人ってカウントらしいぞ」
好奇心が顔を出したイレイナ殿の質問にも、店主は淀みなく答えてくれる。
しかしこのままでは話が脱線するので、ここは強引に。
「その2人は
「“闇”の奴は写真館で働いてる。“光”の方は夜勤だからたぶん今は寝てるな。日が沈んだら、あの灯台から目を光らせてるはずだから行ってみな」
と、店主が指差す先には村の中心辺りからニョキっと生えた高台。今行ったらこの村の景色が一望できそうでござるな。
「承知。情報提供、感謝でござるよ」
「おうよ! また来てくれな」
「あ、1つ私から聞いてもいいでしょうか?」
「あん?」
とりあえず言われた通り写真館にでも行こうかと思えば、イレイナ殿が声を上げたでござる。
「どうして故郷を裏切るようなことをしたんです?」
サラッと。言葉面に反してイレイナ殿はなんて事の無いような様子で店主に疑問を投げ掛けたでござるよ。
まぁ、本来なら“故郷を裏切る”というのはのっぴきならない事情が無ければやらないでござろう。
拙者たちは旅人だし、ぶっちゃけ他人事なので怒るなんてのもお門違いでござるが、確かにこの疑問は解消しておきたい。
現在魔王村でポップコーン屋を営む元魔眼勇者の店主は、イレイナ殿の質問に少しだけ困ったような笑みを浮かべ———
「———
ポップコーン片手に店主から教えて貰った場所に行けば、確かに小ぶりながらも綺麗な写真館があったでござる。
ふむ…写真を撮るなら衣装のレンタルは無料でござるか。値段も良心的でござるな。
写真館の前に置かれた看板には、この村で撮られてきたであろう写真が無作為にペタペタ貼られているでござる。
「魔物も写真って撮るんですね」
「案外悪い者だけでは無いのかもしれぬな」
魔物=人間を襲うみたいな考えは普通に拙者たちの中にもあったでござるが、知性を持っているだけあって対話も可能なのでござろう。
看板に貼られた写真を見ながらこの村の事情をなんとなく話していると、ガチャ。写真館の扉が開いて、中から家族らしき4人組が出てくる。
(……っ⁉︎)
出てきた家族の顔面は、まさかのトカゲでござる! リザードマンでござるか! 初めて見た……。
「ありがとうございました。現像が済み次第お届けします」
そんな家族を見送る為に出てきたのは、エプロンをした若い女性。こちらは人間でござるな。流石は魔王村。
リザードマンの一家は良い写真が撮れたのか、楽しそうな様子で村の中へ歩き去っていく。顔面が爬虫類だから表情とかなかったけど。
あまりジロジロ見るのは失礼とはいえ、イレイナ殿と共にリザードマンファミリーを見つめていると、エプロンの女性が拙者たちに気付いたでござる。
「あらら。お客様ですか?」
「いや、拙者たちは人を探しに来たでござるよ。“闇の魔眼勇者”とやらはいるでござるか?」
「あ、それ私です」
早くも潜入してる体裁を保つのが面倒になっきたので単刀直入に聞くと、あっさり見つかったでござるな。いやまぁ、ここにいるのは知ってたから当たり前っちゃ当たり前でござるが。
エプロンの女性こと“闇の魔眼勇者”殿は、なんというか普通の女性って感じでござるな。
ポップコーン屋の店主はえらく変な人だったので、てっきり魔眼勇者って変人しかいないと思ってたでござる。
「私にお話があるようですね。中にどうぞ」
つい心を許してしまいそうになる笑顔で、彼女は拙者たちを写真館の中へ招いてくれる。
まぁ、立ち話もアレなのでお邪魔するでござるよ。
と、扉を保持して拙者とイレイナ殿を写真館へ招き入れた彼女は———カチャン。後手に扉の鍵を閉めたでござる。
「———見ーつけた♡」
俯いて表情が隠れた彼女の口元が、裂けるように笑みを浮かべたでござる。魔眼の使用を表す翡翠色の輝きを目に宿しながら。
これはもしや嵌められたでござるか。となれば…!
即座にイレイナ殿を守れる位置に立ち、ポップコーンを頭に乗せて抜刀。この狭い室内であれば、拙者は魔女すら打倒できるでござるよ。
と、内心余裕だった拙者。しかし突如、
「イレイナ殿……」
「これは彼女の魔眼でしょうか」
その言葉から、イレイナ殿も拙者と同じ状態だと分かる。とりあえず離れないように刀を持つ手と逆の手でイレイナ殿のお手々を繋ぐでござる。……あ、イレイナ殿の手温かい♪
「あーーー! いいわ! そうそうそのまんま動いちゃダメですよ!」
どうやら当の魔眼勇者は既に場所を移動したようで、先ほどとは打って変わって大層興奮した声音で何やらカシャカシャやってる。怖い。
一応拙者は暗闇の中でも敵意や害意というものを感じ取ってなんとなく相手の攻撃を予感することは可能でござるが、今はそれができない。相手には拙者たちを攻撃しようとする意思が無い……?
声の方向からイレイナ殿を庇うように位置取りを行うと、カシャカシャという音がさらに多くなる。
あと彼女の悲鳴とすら思えるような嬌声も。超怖いでござるよ。
「……おろ?」
内心ビビり散らかしながらも、イレイナ殿を庇って刀を構える今の拙者ってめちゃくちゃ格好良いと自画自賛していたら、唐突に視界が元に戻ったでござる。
「はいありがとう! 良い写真が撮れたわ」
いつの間にか被っていた布から顔を出して、グッとサムズアップをくれる闇の魔眼勇者殿。よく見ると、彼女が顔を出した布はカメラのレンズを覗く側にあるものでござった。
ということは、さっきのカシャカシャという音はシャッター音でござったか?
「……説明を、していただけますよね?」
おろろ。イレイナ殿、大変ブチギレている様子。そりゃまぁ、写真館入ったらいきなり視界奪われて勝手に撮影されてたんだから当然でござるか。
しかし、見た目に反して図太い神経をしている“闇の魔眼勇者”殿は、にっこりとご満悦な様子でいつの間にか拙者たちを照らしていた照明の位置を弄ってる。
「うふふ〜ごめんなさい。私が探し求めていた美少女2人がいきなり来たものだから、つい勢い余って撮っちゃっいました。あ、刀のお嬢さん格好良かったですよ。100点です」
「おぉ! やったぁ!」
「ただ、そちらの灰色の髪の方が凄い目つきしてたわね。私としては、少し怯えた表情が欲しかったところですね。30点」
「……なんで勝手に撮られて低得点付けられなきゃならんのでしょう?」
にこにこと総評をくれる彼女に、イレイナ殿は凄まじい目つきでガン垂れてるでござる。美人の怒り顔って迫力やばやばでござるな…。
とりあえず、これ以上イレイナ殿を刺激されると魔法で写真館吹っ飛ばしかねないので、ここは穏やか大和撫子こと拙者が話を進めるでござるよ。
「結局お主は、拙者たちの写真を撮りたかっただけでござるか?」
「はい。できればこの写真館の宣伝写真として使いたいのですが、ダメでしょうか?」
「肖像権はご存知ですよね? 私の写真を使いたいのであれば、相応の額を要求しますが」
どんな小さなビジネスチャンスも見逃さないイレイナ殿。彼女の肩に手を回し、空いた手でお金のマークを作って迫る。お金が入る可能性を目敏く見つけ、すぐに機嫌を直して商談を開始したでござるな。
「……いやいや。さすがに金貨20枚は…」
「……では、これも付けてあげます」
「……これは?」
「……招きポップコーンと呼ばれる、お客さんを呼び寄せるポップコーンです」
「……これを、どうするんですか?」
「……このポップコーンを食べて、私たちの写真を飾れば普段の1.15倍のお客さんがこの写真館に押し寄せるでしょう」
「……1.15倍」
「……どうです? 長い目で見れば、金貨20枚なんてすぐに取り戻せる額ですよ」
なにやら食べ飽きたポップコーンを押し付けながら交渉してるでござるな。
そのまましばらく見守っていると、イレイナ殿は即金で貰ったらしい金貨をお財布に入れながら戻ってきたでござる。
闇の魔眼勇者殿は、イレイナ殿の食べ飽きたポップコーンを宝物かのように目を輝かせて掲げてるし。
何はともあれ交渉成立。イレイナ殿はお金を貰って頬を緩め、そんなイレイナ殿が見れて拙者もハッピー。ついでに“闇の魔眼勇者”殿もハッピー。たぶん騙されたんだろうけど。
みんなが幸せになったところで、本題に入るでござるよ。
「して、“闇の魔眼勇者”殿。拙者たちの話を聞いてもらってもよろしいでござるか?」
「その前に、そちらの灰色の髪の方。権利関係の話も済ませたし、あなたのお写真をもう少し撮りたいんだけどいいですよね?」
「……まぁ、仕方ないですね」
「あの…拙者の話を……」
「撮りながら聞くわ。あと、良かったらアリベルと呼んでくださいな。“闇の魔眼勇者”なんて呼びにくいでしょう?」
“闇の魔眼勇者”改めアリベル殿は、テキパキと撮影準備を始める。
どうやらイレイナ殿の肖像権に関する出費の分だけ元を取ろうという魂胆のようでござるな。イレイナ殿撮り放題でござるか。……いいなぁ。
「ちょうど良いから、あなた助手をやってください」
「ほえ? 拙者が?」
「ほら! 早くレフ板持って!」
「おろろ! レフ板ってどれでござるか?」
了承した覚えはまったく無いのに、既にアリベル殿の中で拙者は助手に就任されてるようでござるな。
撮影機材らしき山を指してレフ板を持てとのことでござるが、そもそもレフ板ってなんぞや?
「リフレクターのことでしょう? 素人じゃないんだから、さっさとしてください」
……いや、素人でござるよ?
身内には強く当たるタイプなのか、アリベル殿はきつい口調でレフ板なる光を反射させるボードみたいなのを持たせてくる。
あ、これがレフ板でござるか。
そして怒涛の流れでイレイナ殿撮影会が開始でござる。
「はいいいですよーその目つき〜。もう少し笑えますか?」
「無理です」
「では少しだけ顎を上げてくださ〜い。そうそう。……助手ぅ‼︎光の反射が甘い!」
「ひえぇ! し、失礼したでござる!」
「セクシーなポーズくださ〜い。椅子に座って足組んで〜」
「嫌です」
「じゃあ人差し指を唇に当てて…いいですね‼︎助手ぅ! 何度言ったら分かるんですか! もっと顔を照らして!」
「こ、これ以上やったらイレイナ殿が眩しいでござろう?」
「構いません! 私が魔眼を使ってますから」
「モミジさん。不思議なことにまったく眩しくないので、アリベルさんの指示通りにして貰って大丈夫ですよ」
ちょいちょい逆らう
どうやら彼女の魔眼は、光に関する効果があるようでござるな。
最初の無断撮影の時も、拙者たちは気付かぬうちに照明で照らされていたみたいだし。
と、かれこれ1時間。撮影会終了。
満足気にホクホク顔のアリベル殿と、グッタリ疲れ果てているイレイナ殿が対照的でござるな…。
「お疲れ様でござる。はいお水」
「ど、どうも……」
どうやらこの場で現像するらしく、なにやら刺激臭のする液体やら何やら、とにかく専門器具らしき物をまとめてワゴンに載せてきたアリベル殿。
その背中を見ながら、拙者は椅子を並べて簡易的なベッドを作成。イレイナ殿を寝かせ、頭の位置に拙者が座れば……はい完成! 膝枕‼︎
実は最近、膝枕が拙者のマイブームでござるよ! イレイナ殿きゃわわ!
疲れのせいか大人しく膝枕されてるイレイナ殿の頭を撫で撫でしながら、拙者はふとした疑問をアリベル殿へ尋ねてみる。
「素人質問で申し訳ないでござるが、写真の現像というのは真っ暗な部屋で行うものでは?」
「それはフィルムが感光しない為ですね。普通はそうですが、私に限って言えば問題ないのです」
「ふむ。それもやはり魔眼の能力でござるか?」
「はい」
振り向いてこちらを見つめるアリベル殿の瞳は、やはり翡翠色。魔眼使用中ということでござるな。
「私の魔眼は、見た場所に闇を生み出すことができます。有機物も無機物も関係無く、反射率0のベールを掛けるイメージです」
「だから拙者たちが入ってきた時も、いきなり視界が真っ暗になったでござるか」
「そういうことです。これを応用すれば照明を当てても、当てられてる本人はまったく眩しくなかったり、カメラのフラッシュで目を瞑ってしまうということも無いわけですよ」
「なるほど。だからさっきのイレイナ殿も」
「えぇ。まぁ、プロにもなると光の当たり具合から自分でポーズや表情を決めるので、これは完全に一般人向けの使い方ですがね」
「有機物も無機物も関係無く、ということはその現像も?」
「感光…えっと、詳しいことは省きますが、取り出したフィルムに光が当たると、写真が真っ白になっちゃうんです。それを防ぐ為に本来は暗室という真っ暗な部屋でやるんですけど、私の魔眼を使えば例えぽっかぽかの日向でも現像作業ができます」
ふむ。日常生活を送る上ではさほど微妙な能力でも、こと写真という分野に於いてはこの上なく便利なものでござるな。
そんな感じで素直に感心しながらさり気なくイレイナ殿の髪をくんかくんかしていると、興が乗ってきたアリベル殿は言葉を続ける。
「森羅万象の全ては光と闇で表現できます。光があるから闇が生まれ、闇があるから光が際立つ。その光と闇が生み出すコントラストを、人は“世界”と呼ぶのでしょう。だったら私は世界を切り取ります。世界はいつも決定的瞬間に満ちている。———ああ、そうです! そこに写すべきモノがあるなら、私は闇で光を照らし出す! そこにあるなら、神様だって写してみせる‼︎」
……なんかさっきも聞いたような口上でござるが、魔眼勇者ってこういうの言わないと死ぬでござるか?
ま、いいや。どうでも。
「そういえば2人は私に用があってここに来たんですよね?」
「……その通りです。いきなりあなたの撮影会に巻き込まれましたが」
「お金は払いましたよ。請求額ピッタリに」
「うっ……」
拙者のお膝から棘のある言葉を吐いたイレイナ殿は、作業しながらのアリベル殿の正論による反撃で顔を顰めちゃったでござる。
基本的に性根が腐っているイレイナ殿は正論を言われるのが嫌いなのか、ちょっと敵意が溢れてる。
今回に関してはアリベル殿が1枚上手でござったな。強欲魔女vs強欲魔眼勇者の戦いは魔眼勇者の勝利でござる。肖像権を売ったのは失策でござるよ、イレイナ殿。
拙者は苦虫を噛み潰したような顔のイレイナ殿を撫で撫でしてくんかくんかしてチュッチュ……は拒否られた! なにゆえ⁉︎
「それで、どうして貴女は故郷を裏切って
「正解です。もしかして、そんな事をこの村にいる魔眼勇者に聞いて回ってるんですか?」
「厳密には違いますが、そう考えてもらって結構です」
「少し引っかかる言い方ですね」
「貴女が気にすることではありませんので」
なにやら剣呑な雰囲気が漂い始め、拙者ビビる。喧嘩はダメでござるよぉ……。
「ぽ、ポップコーン屋の店主も言ってたでござるが、それは故郷を裏切る程のことなのでござるか?」
険悪な雰囲気を霧散させる為にも、拙者はこの根本的な疑問を聞いてみた。
そもそも、拙者とイレイナ殿がここに来たのは1人目の魔眼勇者殿が裏切ったのが発端でござる。
ブギーマン———将来の不安に駆られることは普通にあるでござろうが、あの国で蝶よ花よと崇められている魔眼勇者にもそれは適応されるのでござろうか?
「ただ、未来が欲しい。思い描くそれは各々違うかもしれませんが、きっと
アリベル殿はどこか寂しげに微笑んでみせる。その笑みは、長く苦しい葛藤を乗り越えたであろうことが伺えるでござる。
「たぶんこの村にいる魔眼勇者は、誰もが私と同じように答えると思いますよ」
どうせ他の魔眼勇者を探す充も無かったので、日が暮れるまでアリベル殿の写真館で時間を潰したでござる。
そしてこれから、“光の魔眼勇者”でアリベル殿のお姉さんがいるであろう灯台へ向かう予定でござるよ。
どうやらアリベル殿のお姉さんは夜間警備のお仕事をしているらしく、仕事内容は灯台から一晩中この村を見張ること。
魔物は大半が人よりも夜目が効くので、この村に街灯は少ない。暗いというのは、それだけで悪事をしやすいでござるからな。
それを防ぐ為に、灯台から目を光らせているというわけでござるな! 立派でござる!
と、イレイナ殿の腕に抱き着きながら感心していると、
「うぅ、眩しい…」
突然強い光を浴びせられたでござる。どうやら光源は拙者たちの頭上のようでござるな。
イレイナ殿のローブを庇代わりにして…あっ、すごくいい匂いする……ではなく、上を見上げれば、2本の光がこちらを照らしているようでござる。
「あ、目を光らせるって文字通りの意味だったんですね……」
イレイナ殿の呟きに、拙者も光源へ目を凝らすと……なんと、光は灯台の上で仁王立ちしてる女性の目から発せられていたでござるよ⁉︎
なんかちょっと間抜けでござるな。
……だけど、とりあえず1つ言いたい。
「こっち見ないで欲しいでござる」
はい、いかがでしたか? モミジちゃん視点でのイレイナさんはだいぶ書くの難しいです。