そう、私です(違う)
第一口頭弁論
ここは法廷内。満員の傍聴人。証言台を挟んで向かい合う形に2組の長机が配置されています。
被告側の
対して、原告側には余裕の表情を浮かべた男装の麗人とパン屋の店主。
そして、その全てを見下ろす位置に黒い法衣服を纏った裁判長。
「開廷します」
裁判長の声に、まず被告代理人の1人。長い黒髪をポニーテールに結んだ小柄な女の子が冒頭陳述の為に証言台に立ちます。
「拙者はモミジ。武士で旅人で魔法使いで———」
さてさて。今ちょうど始まったこの裁判。
大勢の聴衆が注目し、まるで国の命運を決めるが如く緊張感に溢れたこの法廷で、被告人席に座る知性と美貌と気品を兼ね備えた可憐ながらも哀れな魔女とは一体、誰でしょう?
「———被告人、灰の魔女イレイナの民間代理人でござる」
そう、私です。……訴えられました。
「拙者調べたでござるが、どうやら次の国では最近トンカツが名物になったらしいでござるよ?」
「なんですか、それ?」
「言ってしまえば豚肉のフライでござるな。拙者の国では、これをだし汁と溶き卵で煮込んでお米の上に乗せる“カツ丼”なる料理があるでござるよ」
炊き立てツヤツヤの白米の上に、昆布だしと溶き卵を纏ったトンカツ。
もちろん溶き卵はフワッと半熟に仕立て、だし汁を吸いながらも衣のサクサクを損なわせない最高のタイミングを見極めるのは料理人の腕の見せ所でござる。
ちなみに拙者、めちゃくちゃ得意! 実家の連中は基本的にガッツリ系が好きだったから、よく作っていたでござるよ。
「ほう…美味しそうですね」
「あと、意外にパンにも合うそうでござるよ。カツサンドというそうでござる。拙者は食べたこと無いでござるが」
並んで飛んでいたイレイナ殿の速度が心なしか上がったような…あっ、やっぱり上がってるでござるな。…って! 早い早い‼︎
いくらなんでも魔女の全力飛行に追いつけないでござるよぉ〜!
「待ってぇ〜〜〜っ‼︎」
飛行速度+前方への過重力でなんとか食らいつく拙者の叫び声が、やまびことなって反響してるでござる。
これから拙者たちが向かう国の名は“宣告のスノードロップ”。
トンカツが有名な国にして———拙者とイレイナ殿が共に旅をする中での終着点でござるよ。
「ぐすん。ひどいでこざるよぉ……」
つつがなく入国を済ませた拙者たちは、イレイナ殿の強い要望でパン屋さんを求めて街中を練り歩くでござる。
拙者はほっぺを膨らませて置いてかれたことを抗議するでござるが、好物を求める魔女さんはこちらに目もくれない。……むぅ。
「目に涙浮かべている暇があったらパン屋を探してください、モミジさん」
「むっ! 拙者とカツサンド、どっちが大事でござるか!」
「カツサンド」
「即答⁉︎」
悲報。拙者、カツサンドに負ける。ふ〜んだ!
「ほら、へそ曲げてないで。昼食くらいは奢ってあげますから」
「……砂糖増し増しのカフェオレも付けていいでござるか?」
「……まぁ、いいですよ」
「……食べさせ合いっこしてくれるでござるか?」
「…………あまり人目につかないところなら、妥協しましょう」
「……拙者が赤ちゃん役をやるから、イレイナ殿がママ役でよろしく」
「お断りします」
「失敬。赤ちゃんをやりたかったでござるか」
「そこじゃありませんよ⁉︎」
「ではいつ拙者と赤ちゃんプレイをしてくれるでござるか!」
「なんでお昼奢る話からそんな業の深い遊びする話になってるんですか」
「長い灰色の髪をした魔女さんに食事を奢ってもらう時は赤ちゃんプレイで、と義務教育で習ったでござるよ」
「義務教育捻じ伏せないでもらっていいですか?」
残念ながら、拙者のこの上ない完成度を誇る作り話は信じてもらえなかったようでござるな。ちぇっ。
「おっ、ありました」
「カツサンドもあると良いでござるな」
まぁ、パン屋さんなんてどこの国でも大抵あるでござるからな。
意気揚々と入店するイレイナ殿に続いて、拙者もお店にイン。パン屋さん特有の小麦の香りを全身に受けにっこりでござる。
無類のパン好きであるイレイナ殿のことだから、てっきり一通り商品を物色すると思っていたでござるが……おろろ? イレイナ殿は、カウンター奥で営業スマイルを浮かべている店員さんの下に一直線。
「カツサンドください」
「かつさんど……?」
並べられたパンには一瞥もせず、パン屋さんにてまさかの口頭注文。どんだけ食べたいでござるか。いや、教えたの拙者だけど。
しかし、店員さんは首を傾げてヤバい客を見るような目をイレイナ殿に向けてるでござるな。
「トンカツをサンド
「はぁ……サンド
「カツサンドは無いようでござるな」
「そこに無ければ無いですね」
ちょうど拙者のすぐ近くが色彩も食彩も豊かなサンドイッチコーナーでござったが、残念ながらそれらしきものは見当たらず。
あ、見るからにイレイナ殿が落ち込んでる。
「ま、まぁ、別のお店を探すでござるよ! とりあえず拙者、こちらのハムチーズサンドをいただくでござる」
カツサンドが無いから何も買いませんさようならは流石に失礼と思い、拙者は手近にあったものを1つ購入。本来はイレイナ殿が奢ってくれる予定でござったが、彼女はカツサンドが無いと分かって早々に退店してしまったでござるよ。判断が早い。
「あうう…待って欲しいでござるよぉ!」
「すみません。1ついいですか?」
「おろ?」
脳内がカツサンドに満たされたであろうイレイナ殿を追いかけようと踵を返すと、店員さんに引き止められたでござる。お金足りなかったかな?
「お二人は旅人さんですか?」
「然り。先ほど着いたばかりでござるよ」
「じゃあ、今夜泊まる場所も決まっていないんですね」
「そうでござるな。まぁ、適当な安宿を探すつもりでござる」
「それなら、前の道を東にまっすぐ行ったところにお手頃価格の宿がありますよ。この国を訪れる旅人さんは、みんなそこに泊まるそうです」
「おぉ! それはご親切にありがとうでござる!」
これは良い事をきいたでござるな。
旅人をしていると、時折宿選びに手間取ることがあるでござる。
それは国それぞれの宿の相場が分からなかったり、部屋が空いてなかったり、そもそも宿がどこにあるか分からなかったり。
一応観光ついでに宿の目星はつけるようにしてるでござるが、こちらの店員さんには感謝感謝でござるな。
拙者の話を聞いてからイレイナ殿のお口はカツサンドの口になってしまったらしく、それからパン屋さん巡りに付き合わされること2時間。
衝撃の事実発覚でござる。
なんと、そもそもこの国にカツサンドは無いとのこと。なんという徒労……。
加えてなんと! 逆にカツ丼はあるらしいでござるよ!
どうも最近この国に訪れた拙者と同郷の旅人さんが伝えたとのこと。それが火付け役となり、トンカツも瞬く間に名物になったそうでござる。どうやらその旅人さんはまだこの国に滞在中らしいので、機会があれば一度会っておきたいでござるな。閑話休題。
「ま、まぁ! 食べて機嫌直すでござるよ。ほら、これとかまだ温かいでござるよ」
「……いただきます」
「美味しいでござるか?」
「美味しい」
両手でパンを持ちながらコクンと頷くイレイナ殿。なんか可愛い。
現在拙者とイレイナ殿は最初に立ち寄ったパン屋さんの店員さんが教えてくれた宿に部屋を取り、遅めのお昼タイム。拙者の奢り。
というのも、カツサンドを求めて止まなかったイレイナ殿は、それが無いと知るや即退店。お客としてあるまじき所業に内心ブチギレな店員さん。空気を読んで、拙者が一品だけパンを購入。
これを繰り返した結果、2時間で多種多様なパンが集まったでござる。
あ、オニオンブレット美味しい。
「カツサンドは拙者が作るでござるよ。話でしか聞いたこと無いでござるが、まぁそれに近いものならできるでござろう」
「……お願いします。私としたことが、少し冷静を欠いてしまったようですね。すみません」
「料理のレパートリーを増やすという意味では拙者にもメリットがあるでござるよ」
優しく微笑みフォローする拙者、マジ良い子。きっとイレイナ殿はプロポーズしたくなることでござろう。あ、パンに夢中で全然こっち見ないや。
と、イレイナ殿の顔面に一喜一憂する拙者の耳に、ドタドタと荒々しい足音が廊下から響いてきたでござる。
まだ明るいとはいえ、ここは宿。もう少し静かに歩くのがマナーでござろうに……さてはパーリィーピーポーでござるな?
そんな憶測を立てていると、バーン! 拙者たちのいる部屋の扉が乱暴に開けられる。はぁ⁉︎
「いたぞ! 汚れた白髪の魔女だ!」
ノックもせず乙女の部屋に入ってきたのは、男性3人。お役所仕事っぽい格好をしているでござる。
そんな3人の視線は、まっすぐパンをもぐもぐしているイレイナ殿へ注がれてるでござるよ。
「な、なんでござるかお主ら! 真面目系パーリィーピーポーでござるか⁉︎」
「それ以上一歩でもこちらへ近付いたらぶっ飛ばします。あと、『汚れた白髪の魔女』とほざいた方は一歩前へ。私の髪は灰色です!」
髪は女の命。それを罵倒されたイレイナ殿の怒りはもっともでござるな。既に
拙者たちはそれぞれ自身の得物を構え、3人を牽制。この安宿らしく狭い部屋ならば、拙者の独壇場でござる。
しかし、3人のうち先頭に立っていた1番年配らしき者が懐をごぞごそ。1枚の紙を取り出したでござる。
そして、その紙を見せながらこちらへ衝撃の発言。
「我々は裁判所の者だ。そこの魔女に訴状が出た。よって同行してもらう」
訴状には細かい文字でビッシリと書き込まれてるでござるが、警戒の為に距離が離れているので読めない。対して偉そうに言うわりには律儀に一歩もこちらへ近付いてこないので、さてどうしたものか……。
こちらから下手に近付けば、危害を加えられる可能性もまだ捨て切れないでござる。だからといって、
すると、イレイナ殿が目配せしてきた。恐らく相手への警戒を拙者に任せるということでござろう。
頷きを返すと、イレイナ殿は自身の片目の前に小さな丸を描く軌道で杖をくるん。その場所に透明なレンズみたいなものが現れたでござる。遠見の魔法でござるな。
「ふむふむ……なるほど」
「なるほど、とは?」
「正真正銘、見事に告訴されてます」
「……なにやったでござるか?」
「どうやら名誉毀損で訴えられたようです」
名誉毀損———ざっくり言うと悪口などで社会的評価を貶める行為でござるな。
「…………」
「なんですかその目は」
……どうしよう。イレイナ殿って毒舌だし、なんだかんだであり得そうでござるよ。
「えっと……どなたに訴えられたでござるか?」
「パン屋の店主だそうです」
先ほどまでイレイナ殿は国中のパン屋を巡っていたでござる。売っているはずの無いカツサンドを求めて。
「あー……言っちゃったでござるか? 『カツサンド売ってないなら潰れちまえ‼︎』的なこと言っちまったでござるか?」
「そんなこと言いませんよ」
「身に覚えは無いと?」
「……………………ありません」
「なんでござるかその長い間はぁ⁉︎」
ホントに言ってないんだよね⁉︎拙者心配になってきたでござるよ‼︎
「完全に濡れ衣です。同行は拒否します」
「であれば、国で貴様を指名手配する。先に言っておくが、魔女だからと言って力づくで逃亡しようとは考えないことだ。現在我が国の留置所には魔女が
正直相手が魔女———女性ならイレイナ殿がたらし込んで仲良く逃亡しそうでござるが、それは拙者が嫌だ。
加えて、たらし込めなかった場合のデメリットがかなり大きい。いくらイレイナ殿がそれ相応の実力を持つ魔女でも、相手の能力が現段階で未知数なら下手な手は打たないほうが良いでござろう。
どうやら彼女も同じ結論に辿り着いたらしく、杖をしまって抵抗しませんのポーズ。
「まったく……ろくに調べもせずに訴状まで作ってしまうなんて、この国の司法は終わってますね」
抵抗はしないけど反抗はするイレイナ殿は、憎まれ口を叩きながら連行されていったでござる。
イレイナ殿と共に旅をする上での終着点で、拙者たちは離れ離れに引き裂かれてしまったでござるよ……っ!
それから30分後。留置所のアクリル板越しにあっさり再会。やったね。
「この宣告のスノードロップでは、裁判が国民の娯楽だそうです」
「娯楽とな?」
「休日は一家仲良く裁判所へ傍聴に赴き、学生の青春は傍聴に捧げられ、デートでは特等席の傍聴券を取得することが交際への第一歩だと言うことですね」
「この国の住人は病んでるでござるか?」
「そういう国民性なんでしょう」
巻き込まれる旅人からすれば、たまったものじゃ無いでござるな。
「そういう背景があるせいか、この国では訴えられることも大して珍しく無いそうです。成人する頃には平均20回は告訴されているとか」
「ふむ……理解し難いでござるが、この国での裁判は
「大方その認識で間違いないでしょう。留置所内はそれぞれ個室。空調管理もされていて、食事も自分が食べたい物を注文できます。しかも留置期間中は全額無料。ぶっちゃけ、私たちが泊まろうとしていた安宿よりも断然快適です」
「まぁ、郷に入りては郷に従えの精神でなんとか納得するでござるよ。それで……」
一旦話を区切り、拙者はイレイナ殿にベッタリ密着している人物へ視線を向ける。
「……こんなところで何をしてるでござるか———
拙者とイレイナ殿の共通のお友達にして、東国のやべー女代表(拙者調べ)サヤ殿へ問い掛ける。イレイナ殿が30分足らずでこの国の実態を詳しく知れたのは、恐らく彼女から聞いたのでござろう。
天真爛漫で表情がコロコロ変わるところが可愛い彼女でござるが、今はなにやら真面目くさった顔をしてるでござるな。はっきり言って似合わないでござる。
「……はっ、すみませんモミジさん。今、イレイナさんが無性生殖で無限に増えたら純度100%のイレイナさんハーレムが出来上がるんじゃないかと思いついてしまったもので」
「天才でござるか⁉︎」
「うわぁ……」
相も変わらず、イレイナ殿への愛も変わらず。元気そうでなによりでござる。
「で、何故このような場所に?」
「訴えられました!」
「見ればわかるでござる」
「いや〜話せば長くなるんですけどね? 仕事でこの近辺の国のとある王様から、悪い魔女を捕らえて欲しいと魔法統括協会に依頼がありまして。なんでもその魔女、王様から依頼されて了承したにも関わらず最終的には失踪したそうなんですよ」
「……ほ、ほう。ちなみにその悪い魔女に王様が依頼した内容とはどういったものでござるか?」
「ほえ? 魔女のほうじゃなくて、そっちが気になるんですか?」
「……久々の再会でござる。サヤ殿の声がもっと聞きたいでござるよ」
「うん…? まぁいいですけど。ざっくりいえば、魔眼勇者? って人と一緒に山の麓にある魔王村まで偵察に行ったんだけど、結局行方が分からなくなっちゃったそうなんです。……まったく、そんな責任感の無い人が魔女だと、同じ魔女であるぼく達もそういう目で見られちゃうっていうのに。いい迷惑ですよね、イレイナさん?」
「……え、えぇ。そうですね。まったくいい迷惑だと思いますがその魔女も何か止むに止まれぬ事情があったかもしれないのであまり責めるのはどうかと思いますよ。ね! モミジさん?」
「そうで…ござるなぁ……」
……言えない。その失踪した悪い魔女とは一体誰でしょう。そう、イレイナ殿でござる! とか絶対言えない。
加えて、前金が雀の涙程度だったからバックレたとか言えないでござるよ……!
「そ、それで何故この国に来たでござるか?」
「このあたりに灰色の髪をした魔女の目撃情報があったので、もしやイレイナさんかと思って探してたんです。ついでに何やら刀を腰に差したヘンテコな女の子もいると聞きましたが、まさか抜け駆けしているとは思いませんでしたよモミジさん」
「羨ましいでござるか?」
「ふん! あなたがなんと言おうと、今夜ぼくはイレイナさんと同じ屋根の下で眠るんですからね! 最終的に勝つのはやっぱりぼくです!」
留置所を『同じ屋根の下』と形容するところに、そこはかとない狂気を感じるでござるが……まぁサヤ殿だし。
「で、何故訴えられたでござるか?」
「イレイナさんを探していたらつい気持ちが暴発してしまいまして、国の中心で愛を叫んだら訴えられました」
「つまり騒音ですか。この国の実態を聞いた限り、あり得そうな話ですね」
「いえ、どうやらぼくの言葉が公序良俗に反していたそうです」
「…………」
ロックンロールなことこの上ないでござるが、どうやらこの国の司法は拙者たちが思っていたよりマトモに機能しているようでござる。
「でも、この国にイレイナさんが来たらまず確実に訴えられると思ってましたし、実際こうして留置所内で再会できたわけですから、やっぱりぼくの運命の赤い糸はイレイナさんと繋がっていたんですね!」
謎の信頼感と共にサヤ殿のこれまでの身の上話は終了したでござる。
ちなみにイレイナ殿。今のサヤ殿の言葉にとてつもなく物申したそうでござるが、運命云々は別として現状彼女の言ってることは何も間違っていないので、なんとも味のある表情をしているでござる。
「そういえば、イレイナさんは何で告られたんですか?」
「
「あ、この国では告訴されることを『告られる』って言うそうです。ロマンチックですよね」
「どこにロマンチックを見出したかは甚だ疑問が残りますが……。言ってしまえば名誉毀損です」
「あらら。ついにやっちゃったんですね」
「サヤさんと言いモミジさんと言い、どうして私がやらかした前提で話を進めるんですか」
「違うでござるか?」
そういえば、拙者もイレイナ殿のやらかした名誉毀損の詳細は知らないままでござった。
どんな暴言をぶちかましたでこざる?
「サンド“ウィッチ”をサンド“イッチ”と言っただけです」
「…………」
「…………」
「……え、それだけでござるか?」
「はい。私を訴えたパン屋の店主曰く、『売り物の名前を間違えるのは、不買運動と同じだぁ!』とのことです」
言い掛かりじゃん。本当にこれで訴状が出ちゃうでござるか。
この調子だと、拙者もいつ訴られるか分かったもんじゃないでござる。
……いや、これを機にサヤ殿がイレイナ殿にアピールしまくるのは目に見えているでござる。妨害する為にも、拙者もあっちに行ったほうがいいかな……。
と、少々冷静さを欠いた思考を巡らせていると———コンコン。拙者側の扉がノックされる音。
おろろ? 面会時間が終わりでござろうか?
(確か、面会時間は原則無制限だったはず……)
面会相手に相席者がいるというのが原則外だからでござろうか?
見当がつかず返事を渋っていると、こちらを急かすようにもう一度コンコン。
ふむ。あまり待たせるのも良くないでござるな。というわけで、一度席を立って扉を開けてあげると、バーン!
「———
長い黒髪の女の子が勢い良く扉を開け放ったせいで、拙者吹っ飛ばされたでござる。うぅ痛いよぉ…ぐすん。あ、でも女の子の髪からいい香り♪
「あ、ミナ! どうしたの?」
「どうしたじゃないわよ! ていうか、なんで捕まってるの!」
「あぁ……それはまぁ、この国のお国柄って言うか……」
珍しく敬語が崩れたサヤ殿が、実に言いにくそうにお口をもごもごさせてるでござるな。拙者には元気良く「訴えられました!」って言ったのに。
ていうか、入ってくる時に『姉さん』って……まさか!
「あぁー……お、お久しぶりです、ミナさん」
「げっ……なんでイレイナさんがここに…」
「主にサヤさんと同じ理由です」
「くっ…!」
「うっ……モ、モミジさん? 大丈夫ですか?」
何故か女の子に睨まれたイレイナ殿は、話を逸らすように拙者に矢印を向ける。
これ、別に拙者のこと心配してるわけじゃないでござるな。
「ひっくり返っただけでござるよ。ご心配なく」
「ほ、ほらミナ! モミジさんに謝って」
「モミジって……あら?」
「謝罪は不要でござる。それより、初めましてでござるな」
降って湧いた美少女に無様なところは見せられぬ。
拙者は素早く着物の襟元と髪を整え、1番カッコよく見える角度で女の子に向き直る。
「拙者はモミジ。武士で旅人で魔法使いでござる」
「あ、す、すみません。ミナです。魔法統括協会所属の魔女をしています」
「サヤ殿に姉さんと言っていたところを見るに、やはり?」
「はい。炭の魔女サヤの妹です。よろしくお願いします」
ほうほう。この子が噂に聞くサヤ殿の妹でシーラ殿のもう1人のお弟子さんでござるか。
なんというか……大人っぽいでござるな。拙者もサヤ殿もちんちくりんでござるが、この子はすらっと背も高く体の凹凸もはっきりしてる。
薄い桃色の唇は妙に色っぽいし、長い髪も相まって失礼ながら彼女の方がお姉さんに見えるでござるな。
握手を求めれば素直に応じてくれるところを見るに、悪い子では無いのでござろう。サヤ殿の妹さんだし当たり前か。少し気が強そうだけど。
挨拶を終えたところで、ミナ殿はサヤ殿へ振り返る。
「とりあえず、さっき姉さんの民間代理人の申請しておいたから。さっさと判決まで漕ぎ着けてそこから出してあげるから、すぐに出られるように荷物をまとめておくこと。いいわね?」
「ぼくとしてはイレイナさんと一緒にいられるからもう少しこのままでも……」
「———い・い・わ・ね?」
「あ、はい」
サヤ殿、意外にも妹さんには弱いでござるな。ある意味良いお姉ちゃんなんだろうけど。
それからミナ殿はイレイナ殿を一瞥……ていうかひと睨みしてから面会室を出て行ってしまったでござる。
なんか駄弁る空気でも無いし、拙者も帰ろうかな。サヤ殿と違って正統派美少女って感じのミナ殿とおしゃべりしたいし。いや、サヤ殿も見た目だけなら美少女なんだけど、いかんせん中身がアレでござるからな。
「んじゃ、また明日来るでござる。サヤ殿は、あまりイレイナ殿にベタベタしないこと」
「また明日。あ、本の差し入れとかあると嬉しいです」
「承知したでござる。適当に見繕っておくでござるよ。サヤ殿も何か必要でござるか?」
「う〜ん……じゃあ2人分のウェディングドレスをお願いします!」
「『理性の取り戻し方』みたいな本を探しておくでござる」
きっとサヤ殿にはそれが1番必要でござろう。
てなわけで、拙者も面会室を後にしたでござる。
「ミナ殿!」
先に歩いていたミナ殿の背中へ、拙者は声をかける。
良かった。追いつけたようでござるな。
「少し聞きたいことがあるでござるが、時間をいただいても?」
「えぇ、大丈夫です」
了承を得られたので、隣に並ぶと……ふむ。スタイル抜群でござるな。あと、サヤ殿に比べて大人っぽい香りでござる。
あちらがレモンなら、ミナ殿はハニーレモンみたいな?
「先ほど言っていた『民間代理人』ってなんでござるか? 確か裁判において代理人とは、弁護士を指す言葉であったはずでござったが」
もしかして、ミナ殿に密着しながらストレートティーを飲んだら勝手にハニーレモンティー出来上がるじゃね?と世紀の大発見を遂げながら、拙者は先ほどミナ殿が言っていたもので気になった部分を尋ねてみることに。
「民間代理人というのはこの国特有の制度で、簡単に言ってしまえば有志で集まった人が被告人の
「それって拙者でも?」
「たぶん問題ないと思います。私も姉さんのに申請したらあっさり通りましたし」
なるほど。さすが成人までに平均20回
「何処で申請できるでござる?」
「
「ふむ……」
仕事が早い。どうもミナ殿は頭の回転が早いタイプのようでござるな。イレイナ殿と同じでござる。
そして拙者、良い事を思いついたでござるよ。
「ミナ殿。1つ、拙者のお願いを聞いていただけぬか?」
「内容に寄ります」
そこで安請け合いしないところ、素晴らしい!
いや、そもそも姉の知り合いとはいえ先ほどの会ったばかりの相手からお願いされたらそんな返しになるか。
まぁいいや。
「———イレイナ殿の民間代理人を、拙者と共にやってほしいでござる」
「嫌です」
まさかの即答。
「何故でござる? さっきの様子からして、イレイナ殿とも知り合いでござろう?」
「知り合いですけど、嫌なものは嫌です」
おろろ……イレイナ殿、嫌われてるでござるか。女性から嫌われるとは珍しい。
……って、そうだ思い出した。そういえばシーラ殿が言ってたでござるが、ミナ殿は表に出さないだけで実はサヤ殿のこと倫理的にアウトな方向で大好きだったでござるな。
であれば、攻め方を変えるでござる。
「やはりサヤ殿の方が大事でござるか?」
「……み、身内の恥を晒したくないだけです」
「しかし、考えてみるでござるよ。イレイナ殿が勾留されたままだと、せっかく一旦出てきても自分から訴えられにいくかもしれないでござるよ?」
「そんな馬鹿なこと…姉さ…ん…が…………するかもしれません……」
信用ないでござるなぁ……サヤ殿。いや、ある意味これも信用か。
なんだか友達をダシにしてその妹を利用するようで心苦しいでござるが、ここは拙者も
「反対にイレイナ殿が先に出れば、むしろ脱走まで企てるのがサヤ殿でござろう?」
「……遺憾ながらその通りだと思います」
遠い目で頷くミナ殿。うん……言っててあれだけど、サヤ殿って周囲からどんだけやべー奴だと思われてるでござるか。一応イレイナ殿が関わらなければ普通に良い子だったはずでござるが。
「だったら、先にイレイナ殿を助け出してしまうでござるよ」
「ぐぬぬぬぬっ…でも……」
どうもミナ殿の中でイレイナ殿を助けるのは抵抗があるらしく、どうしても最後の一歩を渋ってる様子。一体何したでござるか、イレイナ殿は。
でも、恐らくあともう一押し。なので、ここで最後の手段でござる。
「サヤ殿にとって、イレイナ殿は意中の相手でござる」
「そうっ…ですね……っ」
うわぁ……めちゃくちゃ悔しそう。
「でも、想像してみるでござるよ。自分の想い人の為に頑張るミナ殿の姿を! サヤ殿の目にはどう映るでござろう」
「それは……」
「めちゃくちゃかっこいいでござるよ! もはやミナ殿の株価上昇は天井知らず! 好感度はカンスト間違いなし‼︎」
「で…も……」
お、迷ってる迷ってる♪ では、これでトドメでござるな。
「その状態で、今度は自分自身の弁護までしちゃう! こんなの、女の子ならメロメロのデレデレになっちゃうでござる! むしろならない方がおかしい‼︎」
「メロメロのデレデレに……っ!」
「さぁ! サヤ殿をメロメロのデレデレにする為に、拙者と共にイレイナ殿の民間代理人になるでござるよ!」
「はい!」
よし。勝った。
はい、いかがでしたか?(今のところマトモな)ミナさん登場です。
サブタイ通り第一口頭弁論まで書きたかったのですが、長くなったので次回になってしまいました。サヤさん出るとどうしてもね……。
今年の投稿は今回で最後になります。お付き合いいただきありがとうございました!
皆さん、良いお年を(๑>◡<๑)
ps.調子に波があるの、なんとかしたい(切実)