武士の旅々   作:技巧ナイフ。

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原作未読の方でも大丈夫的なことを言ったな。

あれは嘘だ。


私が拙者になった3日間
1日目


 とある街のベンチで、拙者は露店で買ったパンを齧りながら目の前の大通りをぼけ〜と眺めていたでござる。

 

「えへへ」

 

 傍らには、拙者の運命の相手であり、想い人である灰の魔女さんから贈られた日記帳が置かれているでござる。1ページめくると、まるでタイトルのように綺麗な文字で『武士の旅々』と記されてあった。

 拙者は、彼女からの贈り物を眺めるたびに頬を緩ませていたでござる。

 

(日記帳かぁ……。あの子、元気でござろうか)

 

 突然でござるが、拙者のこの一人称と語尾、実を言うと…………………キャラ付けでござる。いやまぁ、普通に考えたら分かると思うでござろうが、こんなしゃべり方をしてる人なんていないでござる。

 

 ……以前、あまりに特徴が無さすぎて無理にこのような口調を方言にしようとしていた村もあったほど。あの時はまさかこの口調が被るとはと驚き、その村とどちらがござる口調の正統な使い手かを決める勝負をしたでござるな。

 風の噂で聞いたところ、どうやらその村はもうござる口調に飽きて別の方言を模索中とのこと。方言を模索中ってなに? 

 

 そんな事をふと思い出したのは、全て目の前の大通りを行く人混みと傍らの日記帳がきっかけでござった。

 拙者が拙者を拙者と呼ぶようになったのは……そう。絶対に日記帳を手放せない、毎日眠るたびに記憶を失ってしまう不思議で優しい女子(おなご)と出会ったことが、そもそもの始まりでござった。

 

 

 

 

 潮風香る街道を、1人の少女が歩いていました。長い黒髪を揺らし、この夏の照りつける陽射しから肌を守るように羽織られたローブには雪の結晶が刺繍されています。

 薄手の生地を用いた着物と袴を纏い、足元は裸足に草履と涼しげでした。

 そのまま真っ直ぐ街道を進みます。彼女の目指す先には雄大な海と、そこへ通せんぼするように築かれた国の門がありました。

 さて。夏の陽射しに雪のような柔肌を輝かせ、調子外れの鼻歌を機嫌良く歌う腰に刀を佩いた女の子とは一体誰でしょう。

 そう、私なんだよ。

 

「あれが平安の国カイヤナイトかぁ」

 

 てくてくてくてく。歩を進める度に強くなる潮の香りが、私の心を弾ませます。ぴょんぴょん弾ませます。なにせ、この季節では海水浴の名所として多くの王族貴族がバカンスに訪れる観光名所なんだからね。

 

「……うん?」

 

 入国審査をするための門兵さんが見えるくらいまで来ると、なにやら国の前で一悶着起きているのが見えます。

 目を凝らすと、門兵が騎士のような格好をした女の子を通せんぼしているのです。

 

『ダメだ。何度も言うが、この国は武器の持ち込みは禁止である』

『そこをなんとかお願いします! わたし、これが無いと自衛もままならないの』

『ダメと言ったらダメだ。そもそも自衛をする必要が無いだろう。我が国は平安の国なのだぞ?』

『えー。でも、平和だからって自衛が必要無いってことないでしょー』

 

 不満げに頬を膨らます騎士のような女の子に、門兵さんは困ったように頭をかいています。

 さすがにこの炎天下の中で言い争うのは体を鍛え抜いた門兵でもきついみたいだね。

 すると、門兵さんはキョロキョロ周りを伺い始めました。何故か普通に歩いて来る私には気付いてないみたいだけど……その目の部分にはまってるものはガラクタなのかな? 

 

『……?』

『……ここだけの話だが、今この国では事件が起きていたな。しかも面倒なことに、武器を使った強盗なのだ。だから今、入国者の武器持ち込みには非常に敏感になっている』

『そんな事件、警察とかが簡単に解決できるんじゃないの? 別に珍しい事件じゃないんじゃない?』

『他の国ではそうだろうな。しかし、我が国では事情が異なる』

『というと?』

『この国は武器の持ち込みはもちろん、製造販売も禁止———武器など存在するはずがない国なのだからな』

 

 以上が、2人の声が届かない位置で交わされた会話のようです。

 え? 私がどうやって聞こえない距離の会話を理解できたのか? 読唇術だよ。

 

 さてさて困りましたね。郷に入りては郷に従えが信条のわたしだけど、この刀は、刀である前に魔法を行使する為の杖でもあるの。だから、これを取り上げられてしまうと万一の事態には素手で対応するしかなくなるね。

 というわけで私はいったんローブを脱ぎ、刀をショルダーバッグみたいに背中へと斜め掛けにします。この上からもう一度ローブを羽織れば……はい! 刀は見えません! すごいでしょー? 

 

「おい貴様! 背中に隠したものはなんだ! いや…隠したのか? わりと堂々としていたが……」

「…………」

 

 門兵さんの目はどうやらガラクタじゃなかったみたい。ちょっと涙出た。

 いきなり近くで大声を出された女の子もビックリして、私の方を向いています。

 

 女の子はボブカットって言うのかな? そんな感じの白髪を黒のカチューシャで飾り、瞳はちょうど今の季節の草花のような翡翠色。

 白のローブの下は黒のスカートにロングブーツ。あと腰にはサーベルだね。たぶん門兵さんが彼女を通さない理由はこれだね。

 魔法使いなのか剣士なのか、よく分からないなぁ。てか、私とキャラ被ってない? 

 

「こんにちは。旅の者です。この国に入りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「その前にまず背中の物をこちらに見せろ」

「はい。……ちっ」

「貴様ぁ! 今舌打ちしたか!」

「ちょっと歯茎が痒かったから舌でかいてただけですよ」

「それは女性としてどうなのだ?」

 

 ごもっとも。正直言ってすぐ後悔しました。騎士の女の子引いてますし。

 

「これは刀じゃないか! この少女といい貴様といい、今の旅人は刃物を持ち歩くのがトレンドなのか?」

「どうなんでしょう?」

「いやわたしに聞かれても……」

 

 質問を質問で返すのはマナー違反なので、女の子の方にきいてみました。ほら、3人集まるとそのうち2人だけで会話が盛り上がって、自分だけあぶれるって事よくあるよね。それを防ぐ為に話振ってみたんだけど、困らせちゃったみたい。困り眉可愛い。

 

 とはいえ、ここは門兵さんを言いくるめ……もといご理解頂かないとダメな場面だね。

 

「それ、刀じゃないんですよ」

「ふざけるな。この刃の反り具合。鍔と柄の造形。刃に映る見事な刃紋。鎬の深さ。どこからどう見ても刀だろうが!」

「門兵さん詳しいですね」

「これでも刀剣オタクとしてその界隈ではブイブイ言わせている」

 

 どうやって? だいぶ気になりましたが、とりあえず置いといて。

 

「これはね、調理器具です」

「調理器具?」

「はい。調理器具です」

「調理器具か……」

「うん」

「そうか…調理器具か」

「はい」

「…………」

「…………」

 

 お、イケるかな? 

 

「いやそれは無理があるだろう!」

「本当です。食材を切ってもよし、突いてもよし。銛としても使える優れものなんですよ」

「銛……? 銛とはなんだ?」

「魚を突いて取る狩猟器……じゃなくて調理器具です。知らない?」

「知らない」

「そうですか…。あ、ちなみにそちらの方が持ってるサーベルっぽいのも銛ですよ。文化が違うと、同じ用途の物でも形が変わるんですね」

「えっそうなの⁉︎」

 

 女の子、衝撃の事実だったようです。嘘を吐くのは大変心苦しいですが、背に腹は変えられないもんね。私自身この刀が無いと困るし。

 

「論より証拠です。これの使い方をお見せしますね」

 

 

 

 私は女の子と両手を拘束されて仲良く国の中へ連行されました。

 

 いや絵面だけ見れば連行なんだけど、正確には違うよ? 

 

「ここでいいか?」

 

 場所は国の貿易の要、港です。周囲には船が多数停泊していますね。

 あと警察なのか警備員さんなのか、筋肉モリモリマッチョな男性が多いかな。武器の持ち込み禁止って言うくらいだし、たぶん交易品にそういうものが混ざってないかを厳しく監視しているのかも。

 

 港から海を見下ろすと、よく澄んでいます。小魚が多く、たまにそこそこ大きめの魚が通るので、まぁ問題ないでしょう。

 私はサラシと褌を残して服を脱ぎました。

 

「ちょっとなにしてるのあなた⁉︎」

「うん? 海に入る時って服脱がない?」

「脱ぐけど! ここ公共の場だから!」

「別に気にしないよ」

「気にしなさい!」

 

 女の子に怒られました。ぐすん。

 

「門兵さん。水着売ってるお店って近くにあります?」

「ふむ。この国は海水浴場の名所でもある。しかし購入するよりレンタルの方が良いのではないか?」

「安く済むのはどちらです?」

「レンタルだな」

「じゃあそのお店はどこにあります?」

「そこだ」

 

 私達が来た道を数歩戻ったところにある水着屋さん。どうやらレンタルもやっているようです。

 

「じゃあちょっと借りてきます。はい」

「……なんだこの手は?」

「レンタル料くださいな?」

「俺が払うのか?」

「経費で落とせばいいじゃないですか」

「落ちると思うか?」

「落ちないんですか?」

「…………」

 

 門兵さんは雄大な大海原へ振り向き、目を細めました。

 

「落ちない」

 

 彼の背中には、安月給の公務員が日々流す汗と涙の物語が滲み出ています。哀れな。

 

 ……なんか可哀想だから自分で払おうかな。

 

 そして———

 

「獲ったどーーー!!」

 

 私は初挑戦のビキニを身に纏い、刀での素潜り漁を完了しました。なんか見たことない魚だけど、まぁ食べられるでしょう。

 ついでに女の子のサーベルも同じものだと証明する為に使ってみたよ。刃が真っ直ぐな分、こっちの方が銛として使いやすいね。

 

 さてさて。そうして私達は、どこか釈然としない様子の門兵さんの詰所へと連行……ではなく、歩行して向かいます。これは私の提案でね。

 ちょうどお昼時だし、このお魚を使って何か作ろうと思うわけだよ。

 

 詰所に入るため扉を開けると、むわっと私の実家と同じような臭気が鼻をつきました。つまり、

 

「うわっ…最悪」

「男臭い……」

 

 というわけ。私と女の子は即座に鼻をつまみます。

 

あお(あの)いっいんおおえうか(キッチンどこですか)?」

「あちらだ。好きに使うといい」

おえんなあい(ごめんなさい)ああいおおえあっえる(わたし外で待ってる)……」

「テラス席も一応ある。案内しよう」

 

 どこか申し訳なさそうな門兵さんに連れられて女の子は入ったばかりの扉を潜って外に戻っていくのでした。私も外に戻りたいよ。

 でも、たぶん自由に使えるキッチンなんてこういうところしかないよね。その辺のおウチに「お邪魔しまーす。キッチン貸してくださーい」って言うわけにいかないもん。

 

「よし。久しぶりに頑張るか!」

 

 流石にキッチンは男臭くなくて一安心。男所帯の門兵さん達の中に料理する人もいないらしく、調理器具全般も新品同様だね。

 しかも、ほとんどの調味料も減ってない。若干期限が気になるけど、そういったものはここに来るついでに市場で買っておきました。私できる子。

 

 まずは鍋に食用油をタプタプと6分目くらいまで注ぎ入れ、火にかけます。

 油の温度が上がるまでに食材をカット。市場で買った野菜と、さっき獲ったどーしたお魚さん達だよ。包丁とか刃物の類は武器になるからなのか、見当たらなかったので刀を使いました。調理器具って言っちゃったしね。

 さらに市場で買った卵も茹でます。

 そして目の粗い小麦粉、水、卵を溶いて混ぜ合わせ、最初に捌いた魚の切り身をビチャビチャ。混ぜ合わせたやつを油に入れてちゃんと温度が上がっていることを確認して投入しました。ジュワアァァァと、揚げ物特有の音と共に衣が固まっていきました。

 そんな感じで、私はテキパキと調理していきます。やっぱり食べてくれる人がいると、気合も入るってもんだよ。

 

 

 

 

「お待たせ〜」

 

 私はテラス席で談笑していた女の子と門兵さんの前に作った料理の盛られたお皿を置きます。

 きつね色の衣を纏い、濃いながらも食欲をそそる油の香り。盛り付けにもこだわり、さらに野菜の鮮やかさを加えて目にも楽しい! さて、これは一体なんでしょう。

 そう、天ぷらです! 

 

「おぉ!」

「これは……フライの類か? 自分が知っているものと大分違うが」

「天ぷらです」

「てんぷら……?」

「私の国の伝統的な揚げ物料理だよ。あったかいウチに召し上がれ」

 

 そう言いながら、私はフォークで魚の天ぷらを刺して女の子に差し出します。

 

「はい、あーん」

「あーん」

 

 どうやらお腹が空いていたらしく、私が差し出した天ぷらを素直に口に入れてくれました。ちょっと熱かったらしく、はふはふ言いながらサクサク咀嚼する様子はちょっと面白い。

 

「ん〜〜〜! 美味しい!」

「でしょでしょ?」

「うん! 外はサクサク、中はホロホロだよ! あ、そっちの鳥の巣みたいなやつも欲しいなー」

「これは野菜かき揚げって言うんだよ」

 

 最初に食べてもらう部分には塩を付け、一口。その後は何も付けずにもう一口食べてもらいます。

 なんか小鳥に餌を上げる母鳥になった気分だなぁ。私、妹属性のはずなんだけど。

 でも、妹がママでも問題ないよね! 

 

 それから私は女の子に天ぷらを与え続けます。

 そこで気付きました。私、この白髪の騎士さんのお名前まだ聞いてないや。

 

「そういえば、あなたのお名前はなんていうの?」

「はぐはぐ。ん? わたし? アムネシアっていうらしいわ。あなたは?」

「うん? ……あ、モミジだよ」

 

 自分の名前に対してどうして推量が付くんだろう? まぁいいや。

 

「……あの?」

「はい?」

「自分のは…その……ないのか?」

「食べたいですか?」

「食べたい」

 

 門兵さん。切実だね。

 でもこれはチャンスだと私の勘が教えてくれてるよ。

 

「私達〜まだ正式に入国してないんだよね〜」

「ね〜」

「はい、あーん」

「あーん」

「あぁ……っ」

 

 女の子改めアムネシアさんに天ぷらを食べさせて、さらにお皿の盛り付けを減らします。

 それを見て、門兵さんは悲しげな声をあげました。私の言いたいこと、わかるよね? 

 

「だって〜門兵さんが〜私の調理器具を武器って言うから〜」

「ね〜」

「はい、あーん」

「あーん」

「あ…あぁ……っ」

 

 アムネシアさんの小さいお口に消えていく天ぷら。それをただ何も抵抗できず見ていることしかできない門兵さん。

 

「もし私達のを〜武器じゃないって証明してくれたら〜天ぷらあげてもいいよ?」

「ね〜」

「はい、あーん」

「あーん」

「わ、わかった!」

 

 門兵さん、ついに観念したようです。食べ物の力は偉大なり。

 門兵さんは腰の雑嚢から古ぼけた紙を2枚取り出し、私達の前に置きました。

 そこにはサラッと短い文章と既に門兵さんの捺印が押されています。その文章を要約すると———

 

『この人の持ってる物は武器に見えるけど武器じゃないよ』

 

 とのことでした。つまり、これに私達の名前を記入すれば刀もサーベルも腰に引っ提げたまま正式に入国できるらしいね。やった! 

 私とアムネシアさんは素早く名前を書き、取り上げられないよう仕舞い込みました。

 

「じゃあ今から門兵さんの作ってくるから、少しだけ待っててね?」

「今からか?」

「揚げたての方が美味しいもん」

「なるほど、ありがたい。それはそうと、敬語が消えているようだが?」

「天ぷら欲しくないの?」

「欲しいです」

 

 食べ物は時に立場を逆転させる力を持っています。食べ物の力は偉大なり。

 

「あ、わたしもおかわりほしい」

 

 アムネシアさん、まだ食べますか。

 

 

 

 アムネシアさんと同じメニューに加え、味の染みた茹で卵をさらに天ぷらにしたもの———温玉揚げを2人に追加で出しました。これがめっちゃ美味いんだよね〜。私これ大好き。

 

 さすがに門兵さんにあーんをしてあげる気にはならなかったので、彼には自分で食べてもらいます。

 そのついでに、私とアムネシアさんはこの国の観光地などを尋ねます。

 

「うむ。この国ならやはり『武器博物館』だろうな」

「武器博物館?」

「あぁ」

「この国って武器はあっちゃダメなんじゃないの?」

「だからだ。国に武器がないからこそ、博物館として使えるのだよ」

「ふーん。あ、この温玉揚げって言うの? わたし好きだわ」

「良かった。コツはね、卵を半熟に茹でるとこなんだよ」

「話聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」

 

 正直、武器博物館よりアムネシアさんが温玉揚げを気に入ってくれたほうが私としては大きな収穫なんだけど。

 武器博物館について何があるのか考えていると、ふと私の中で1つの疑問が浮かびました。

 

「ていうか、武器博物館の職員の誰かがさっき言ってた強盗なんじゃないの?」

「……っ…」

「門兵さん?」

 

 私が疑問を述べると、門兵さんは青い顔になってしまいました。なんでだろうとアムネシアさんと一緒に首を傾げると、今度は挙動不審に周囲をキョロキョロ。

 どうしたの? 

 

「……これは食事中に単なる噂話を雑談として語るものだが」

 

 意識を周囲に拡大して、私達の会話に注意を向けていないかを確認した時、門兵さんは声を潜めて顔を寄せてきました。

 自ずと私達も顔を寄せます。あ、アムネシアさんまつ毛長い可愛い。

 

「実を言うと、その推論でほぼ確定なのだ」

「……つまり、博物館の職員さんの誰かが犯人ってこと?」

「あぁ。まず間違いない」

「だったら早く捕まえればいいんじゃない?」

「事はそう単純ではない」

「というと?」

 

 門兵さんの話はこうです。

 ———武器博物館の職員の大半は魔法使いなんだそうです。理由は、犯罪をする時わざわざ武器を使わなくてもいい存在だから。

 つまり博物館の職員は魔法も使えて、さらに武装までしてる。完全にこの国で最強の組織が出来あがっちゃったわけだね。

 さらに、『必要ないから展示している』というのがこの博物館の売りであり、国の象徴としても機能しています。

 そこの職員が武器を使って罪を犯したとあれば、外交問題的にも取り壊しは確実。門兵さんは口を滑らせて私達には話したけど、そもそもこの事件自体が緘口令を敷かれたものらしいので一般の方は知らないんだってさ。

 確かにこんなのバレたら、バカンスに来てる王族貴族の人たちは寄り付かなくなっちゃうしね。

 まぁ、そんな感じで色々と面倒な大人の事情が重なって国内だけでは対処できない状況らしい。

 

 と、ここまで聞いて私はジト目を門兵さんに向けます。

 

「……そんな危険な場所を観光名所として教えるのはどうかと思うよ?」

「昼間のうちは安全なのだ。実際、博物館に来た客を襲ったという事例はない。奴らも犯人であることを喧伝してるわけではないのだよ」

「ちなみにあなた達は犯罪者にどう立ち向かってるのかしら?」

「これだ」

 

 アムネシアさんの質問に、門兵さんはワンツーと拳を前に突き出します。まさかの素手……っ⁉︎

 いやまぁ、相手が武器を持ってないって前提なのかもしれないけどさ。実際他の警備員さんや警察の方々も屈強な男性ばっかりだし。でも素手って。

 

「国の名誉の為に言っておくが、博物館自体は大変素晴らしい場所だ。国の宝とも言える」

「問題は職員だ、って?」

「あぁ」

 

 そこに住む人もひっくるめて、『場所』だと思うけどなぁ。私は。

 

 

 

 門兵さんと別れた私は、なんとなく流れでアムネシアさんと一緒に武器博物館に向かいました。

 ただまぁ、この博物館さ……くっそつまんねぇんだよね。

 

「この国の人にとっては珍しくても、旅人には面白みがないね」

「そう? わたしは結構面白いわよ?」

「マジで?」

「うん。ほら、あんな輪っかも武器なんだって思うと不思議じゃない?」

 

 アムネシアさんが指差しているのは、チャクラムと呼ばれる輪っかの外側が刃になってるものです。説明文を読むと、どうやら投擲武器らしい。

 

「絶対指でクルクルして遊びそう」

「スリル満点ね」

「ミスったらだいぶ危ないけど…あ、刀だ」

「おぉ。モミジちゃんが持ってるやつ?」

「そうそう」

 

 そんな感じのゆる〜い会話が繰り返され、見終わる頃には、

 

「天ぷらってさっき食べたもの以外でも作れるの?」

「わりとなんでもできるよ。キノコ類の天ぷらは結構美味しい。特に舞茸」

 

 天ぷらの話に花を咲かせる黒髪の武士と白髪の騎士ができあがりました。

 もう展示品の銃とか刃物とかどうでもいいや。職員さんも出てきたけど、一緒に天ぷらトークで盛り上がったし。

 なんならアムネシアさんは天ぷらトークの内容を立ちながら日記帳に書いてるし。

 

 

 

 めちゃくちゃ意気投合したアムネシアさんと私は、同じ宿に泊まることになりました。

 節約のため、部屋も同じでいいやということになり同室に。

 ベッドは2個あるのか……残念。

 

「明日はどうしようか。モミジちゃん、何か予定ある?」

「特にないかなー。食べ歩きでもしようかと」

 

 やっぱり港に来たなら海産物が食べたいよね。今日は魚食べたし、貝類がいい。

 

「おぉ。それはアリかも」

「一緒に回る?」

「うん」

 

 なんかもう今日出会ったとは思えないほどの以心伝心ぶり。明日も楽しみだなぁ。

 そんな事を思いながら私はベッドに潜り込むと……あれ? アムネシアさんも入ってきた。

 

「んふー」

 

 むぎゅ! 私、アムネシアさんの腕の中に収まりました。

 

「どうしたの?」

「せっかくだから一緒に寝たいなーって。ダメ?」

「全然」

 

 私もそう思ってたし。あ、アムネシアさんいい匂いする。

 くんかくんか。くんかくんか。昼間は門兵さんの詰所で鼻腔を汚染されたからね。この機会にアムネシアさんの匂いで清浄しないと。

 

「すーはーすーはー……幸せぇ…」

「モミジちゃんわたしの匂い嗅いでない?」

「腹式呼吸だよ〜。リラックス効果があってよく眠れるの」

「そうなんだ!」

 

 適当な言い訳でも信じちゃうアムネシアさん可愛い。そのまま匂いを堪能すること数分。唐突に頭を撫で撫でされました。

 

「ん?」

「嫌じゃない?」

「もっと撫でて〜」

「は〜い」

 

 ここが天国かな? 可愛い女の子に抱き寄せられて、さらに撫で撫でまでされて眠ることのできる今この瞬間、間違いなく私は世界の誰よりも幸福の最絶頂だと確信しています。

 羨ましい? 羨ましいでしょう? 

 

 そんなこんなで、私は幸せ鬼増しな状態で眠りにつくことができました。にっこり。 

 

 

 

 

「ぐへっ⁉︎」

 

 突如、顔面への強烈な一撃で私は目を覚ました。鼻が痛い……。

 

「ひぐ…痛いよぉ……」

 

 鉄臭い…。鼻の中が鉄臭いよ。うわ血出てきた⁉︎

 

 真夜中の突然の鼻血に泣き出す私をよそに、アムネシアさんは白い頭頂部をこちらに向けてすやすや眠っています。……うん? なんか髪の一部が赤黒く変色してる……? 

 いや血だね。私の血だ。アムネシアさんに頭突きされたっぽい。

 

 ティッシュペーパーで鼻を抑えながらカーテンを開けると、朝日が部屋に飛び込んでベッドで寝ているアムネシアさんの顔を照らしました。

 

「ん…む……」 

「起きて、アムネシアさん」

 

 ———ブンッ! 

 

 突如顔面目掛けて放たれる裏拳を避けます。

 何事⁉︎

 

「アムネシアさん?」

 

 その流れのまま小さくて柔らかそうな足裏がまたも私のお顔に飛んできました。踏むのは構わないしむしろちょっと踏まれたい気持ちはあるけど、これは完全に蹴りだね。

 パシッと片手のひらで受け止めてホールド。逆の手で足裏をこちょこちょしてやります。

 仕返しだー! 

 

「うひゃっ! えっ? えっ⁉︎なになにくすぐったい⁉︎」

 

 突然の感触に飛び起きたアムネシアさんですが、顔面へ頭突きするという斬新なモーニングコールに若干イラッとしていた私は構わずくすぐり続けます。

 

「あはははっ! ちょっ、くすぐったい! ていうかあなた誰っ⁉︎ここどこ⁉︎それより何よりわたしは誰⁉︎」

 

 どうやら寝ぼけてるみたいだね。昨日あんなに仲良くなったのにそんな事を言われちゃうと傷ついちゃうなぁ! ねぇ! 

 

「あはははははっ! 待って! お願いだから待って! もう止めてぇ! あはははははっ!」

「…………」

 

 こちょこちょこちょこちょ。私のくすぐり攻撃は、アムネシアさんの声がうるさくてブチギレた隣室の宿泊客が怒鳴り込んでくるまで続きました。

 

 

 

「「 すみませんでした 」」

 

 私とアムネシアさんは並んで頭を下げました。いやホントすみませんマジで。

 

「次同じことしたら殺すわよ、小娘ども」

 

 私、怖くて泣いた。扉を閉めてアムネシアさんにしがみつきます。

 

「おーよしよし怖かったねぇ。ほぼほぼあなたが原因だけどねぇ?」

「あれちょっと怒ってる?」

「んー? だいぶ怒ってる」

「ごめんなさい」

 

 怖い……。あ、でも寝起きのアムネシアさんもいい匂い。ぐへへ〜。

 

 ビビって顔を合わせられないと見せかけて鼻腔に幸福を送り込む私を、アムネシアさんは引き剥がします。あれれ? 昨日みたいに撫で撫でしてくれないの? 

 

「アムネシアさん?」

「えっと……」

 

 私は自分で言うのもアレだけど、庇護欲を掻き立てる涙目で彼女を眺めます。なにやら困り事があるみたいだね。

 でも、一晩一緒にいてアムネシアさんが困る事なんてあったかな? むしろ寝相の悪さで困らされたの私なんだけど。

 

「まず最初に聞きたいんだけど———」

 

 

 

 

「———あなた、誰?」

 

 

 

「は?」

 

 ……は?







はい、いかがでしたか?ござる口調のないモミジちゃんと、たぶんアニメじゃ登場しないであろうアムネシアさんの回でした。
イレイナさんから日記を貰っちゃったので、出すならここかな、と思った次第です。アムネシアさん可愛い。

彼女が気になったアニメ勢の方。原作4巻買いましょう!打ち切り前から原作者の先生が温めていただけあって、完成度エグいです。泣けます。
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