愛悼の霊園 雪
切りつけるような寒風の中、とある国の門前では衛士と旅人がこのようなやり取りをしていたでござる。
「お名前は?」
「モミジと申す」
「ご職業や役職などはありますか?」
「武士で旅人で魔法使いでござる」
「つまりマジカルニートトラベラー、と」
「一瞬カッコいいと思った自分を殴りたいでござる」
「どうぞ。それで入国の目的は?」
「観光と路銀調達でござる。てかどうぞって……」
「滞在日数は?」
「3日ほど予定してるでござるよ」
「3日も寄生するんですか」
「あれ? 喧嘩売ってる?」
「ようこそ。愛悼の霊園へ」
さてさて。長い黒髪のポニーテールを揺らし、黒のリブ生地ハイネックセーターと黒タイツの上から明るい着物と袴を纏い、冬の寒さを吹き飛ばすような大輪の向日葵を刺繍したローブを靡かせて編み上げブーツで1人のサムライガールが門の中へと踏み出していきます。
入国審査を担当してくれた衛士とメンチを切り合いつつ、腰の刀に手を掛けて威嚇しつつ、それでも足を止めないマジカルニートトラベラーとは一体誰でしょう?
そう、拙者でござる。
寒空の下、本日拙者が入国したのは敷地の半分以上がお墓というなんとも奇妙な国でござった。
この愛悼の霊園は、どの国からでも最低歩いて2日は掛かる陸の島国のような場所にあり、拙者もまた刀に乗ったら歩いたりを繰り返して辿り着いたでござる。その結果、お財布の中身は季節感溢れることに寒々しい。閑古鳥がぴーちくぱーちく鳴いているでござるよ……。とほほ。
「銀貨が1枚と銅貨が……えっ、6枚?」
ちなみに銅貨1枚が露店のパン一個相当。銀貨1枚で安宿一泊相当。金貨1枚で高級な装飾品一個相当でござる。
つまり拙者は今、安宿一泊分と露店のパン六個分しか持ち合わせがないという事でござる。これはやばい……。
「うぅ…マミ上のおしるこが飲みたいでござる」
そんな拙者を嘲笑うかのように吹いた風に身を震わせ、泣き言が漏れたでござる。
この時期は特に恋しくなるでござるなぁ。外で大量にある汗臭い道着の洗濯を終えたあと炬燵で食べたおしるこは絶品でござった。
兎にも角にも、先立つ物が無ければ拙者が先立つ者になっちゃうので、お仕事探しと行くでござる。この国は辺境にこそあれど、それなりに大きくもあるので魔法統括協会の支部があるでござるからな。
「ごめんくださ〜い。仕事ください!」
というわけで、拙者は窓口でニート丸出し発言。いや、働く意思がある時点でニートではござらぬな。ドヤ!
魔法統括協会とは、魔法というの名のついた事件や事故にやたらと首を突っ込みたがる組織の名称にござる。基本的には協会所属のエージェントが問題解決に動くでござるが、ちょくちょく一般の魔法使いにも簡単なお仕事をくれる
もちろん一般の魔法使いにくれる仕事は迷い猫探しや失せ物探しなどぶっちゃけ魔法いらなくね? と思うようなものがほとんど。まぁ協会としても所属してない人間に責任重大な仕事は渡せないので、その辺が落とし所でござろうな。
ちなみに仲介料としてそこそこ持ってくので、お財布事情によっては悪魔と思える時もあるでござる。そして、今がそうだ。
「何か特技などはございますか? 今まで経験したことのあるものでも構いません」
「特技は料理でござるな。あとは博物館へのカチコミや、パン屋で聖剣、魔槍、魔導書を持った強盗をシバき倒した経験もあるでござるよ」
「社会不適合者……」
「失敬な」
せっかくならインパクトあった方が窓口の事務員さんも助かると思ったのでござるが、余計なことをしたかも?
「失礼しました。では、何か好きなことはありますか?」
「綺麗だったり可愛かったり、とにかく女の子に抱き着くのは大好きでござる」
「…………」
「そんな仕事ござらぬか?」
「ねーよ」
おや? 事務員さんのお口が大変悪くなったでござる。……よく見るとこの事務員さんも綺麗な方でござるな。こういった美人に冷たく睨まれると、拙者ゾクゾクするでござる。
「う〜ん…あっ! わりと肉体労働は得意でござるよ」
事務員さんをジッと見て涎が垂れ始めたあたりで、彼女が常駐している警備員さんっぽい人に目配せ。拙者は慌てて簡潔にそれだけ述べました。
「ふむ。ではこちらのお仕事などいかがでしょう?」
「……うん? これが仕事でござるか?」
「はい」
渡された紙束の表紙には、ちょっと目を疑う仕事内容が書かれていたでござる。
———幽霊退治、と。
協会の支部を出ながら紙束を読み進めていくと、拙者自身の仕事は幽霊退治のお手伝いということであった。実際に退治を行うのは協会所属の魔女さんで、今この国に向かっていると事務員さんが教えてくれたでござる。
魔女さんが到着するまで、拙者はこの国で出現している幽霊についての聞き込み調査をして、ある程度の情報を集めておいて欲しいとのことでござった。
報酬は聞き込み3人につき銅貨1枚。有益な情報であればその度合いによって報酬アップもアリ。足で稼ぐ完全歩合制でござるが、それは逆に言えばお金稼ぎ放題ということでござる。やったー。
「聞き込みといったら、やっぱり人の多いところでござるな」
拙者は食事がてら目の前にあった露店のパン屋さんで商売するマダムへと近付いていく。
「そちらのコロネを1個とクロワッサン2個をお願いするでござる」
「あいよ! お嬢ちゃん、旅人?」
「然り」
「へぇ! まだ若いのに。こっちのブリオッシュもおまけしといてあげなきゃね」
「かたじけない! ありがとうでござる」
「いやいや。こんなおばさんになってくるとね、頑張ってる若い子を応援したくなってくるもんなのよ。まさに老婆心だね」
なんかこの国に着いてから初めて人に優しくされた気がするでござる……。
瞳のうるうるを抑えて、拙者は銅貨3枚をマダムへ。せっかくなのでお仕事もこなしておくでござる。
「拙者、路銀調達の為に軽いお仕事を預かったのでござるが、マダムはこの国で幽霊が出ていることはご存知でござるか?」
「幽霊⁉︎う〜ん…あたしはまだ見たことないけど、それはありがたいねぇ」
「ありがたいでござるか?」
「あぁ!」
幽霊がありがたいとはこれ如何に。普通は怖がられるものなのでは?
そんな思いで首を傾げる拙者を見て、マダムはポンと手を叩いたでござる。
「不思議かい?」
「それはまぁ」
「生まれも育ちもこの国のあたしにとっては普通なんだけどねぇ。突然だけど、お嬢ちゃんにとって“死”ってのはどんなもんだい?」
「哲学でござるか?」
「そんな小難しいもんじゃないよ。思っていることをそのまま言ってちょうだい」
“死”でござるか……。改めて聞かれると説明が難しいでござる。
拙者はあまりよろしくない頭を回転させて、マダムへとなんとか言葉を紡いでいく。
「嬉しいものではないでござるな。親しい人、愛した人、愛してる人、そんな人達との永遠の別れでござる。一言で言うなら辛いものでござる」
「そうだねぇ。まぁ、辛いってのはあたしも同じさ」
マダムはさり気なく拙者にもう1個コロネを差し出しながら、話を続けるでござる。
「この国ではね、死はご褒美って認識なのさ。頑張って生きた証って言えば分かるかい?」
「理屈だけならばなんとか」
「それで充分。……確かに大切な人との永遠のお別れは辛いし悲しいものだけど、それだけだとやっぱり虚しいじゃない? だから死ぬ事を赤ん坊が生まれた時と同じくらい祝うってのが、この国の流儀ってわけさ」
「…………」
死を祝福する。拙者の価値観で言えばそれはとても不謹慎なことに思えるでござる。
でも根底にあるのはやっぱり死者への敬意と親愛で、ただその表現方法が真逆なだけでござるな。その考えでいけば幽霊がありがたい存在だと言うのも、なんとなく納得できるでござる。
「素敵な国でござる」
「お! そう言ってくれると嬉しいねぇ」
ポンと拙者の頭に温かい手を置かれたでござる。チビっちゃい拙者の頭は平均的な女性の身長からだとちょうど撫でやすい位置にあるのか、こういったことは珍しくない。
男からはお断りでござるが、女性に撫でられるのは心地良いでござる。
「えへへ。あっ、それと1つ伺いたいのでござるが、この国に観光スポットはあるでござるか?」
「あるよ。この国らしさ溢れる場所が」
「ほう!」
「あそこさ」
マダムが指差す先。そこは愛悼の霊園が誇る最大面積の施設。
「墓地……?」
えっ、まさかの……?
墓石の花畑。そう表現するのがしっくりくるような場所でござった。
匠の技巧が凝らされた墓石の数々は、一色であるにも関わらずこの場所を華やかに彩っているでござる。
咲き誇る花。躍動感溢れる羽ばたく鳥。慈愛に満ちた聖母。一定の間隔で置かれた墓石は、一つ一つが極上の芸術品が如く拙者の目を楽しませてくれるでござる。
しかし、それより気になるのが……
「ママ〜あれ欲しい〜!」「あらあら。そんなに走ったら転んじゃうわよ」「ねぇ? 私のことどれくらい好き?」「このくらいだよ?」「それってどのくらい?」「これくらい♡」「このくらい?」「もっともっと♡」「次どこ行く〜?」「あーしロランさんのところ行ってみるわ」
愛悼の霊園が誇る墓地は大変な賑わいを見せているでござる。マジか……。
「ここ…本当にお墓でござるか?」
ニコニコ手を繋ぎながらお菓子の露店へと歩く親子、イチャイチャ手を繋ぎながらいちゃつくカップル、キャッキャ仲良くはしゃぐ女学生。
周囲を見回せば、それ以外にも休日を満喫するたくさんの人と多くの露店が溢れてるでござる。お墓なのに。
「ロランさんのお墓どこだっけ?」
「あっちじゃね?」
「お供え物買っといたよ」
「何買ったの?」
「ショートケーキ」
ショートケーキ……お供え物にショートケーキ?
ちょっと拙者の頭はパンク寸前。お墓とは?
「ま、まぁ! 人は多いし、聞き込みには最適でござるな!」
ちょっと受け止めきれない現実から逃避する為、拙者はお仕事をするでござる。お金必要だし。
さぁ! 張り切って行くでござるよ!
「有益な情報が…全然ない!」
ないでござる! 全然ないでござるよ! 30人以上も聞いたのになんで⁉︎
「うぅ……今日寝る場所どうしよぉ……」
流石にこの寒さの中で野宿などしようものなら、文字通り冷たくなってしまうでござるよ。まだ死にたくないでござる。イレイナ殿と結婚してないので! イレイナ殿と結婚したい!
「あのう、何かお困りですか?」
「イレイナ殿と結婚したいでござる」
「イレイナ殿……?」
「灰色の髪に瑠璃色の瞳で女神と天使が子ども作ったらたぶんこんなのだろうな、という女性でござるよ」
「そうなのですね」
イレイナ殿との結婚生活を妄想して心だけでも温めていたら、なにやら誰かに話しかけられているようであった。おっとっと、お恥ずかしい。
「失礼。ちょっとトリップしてたでござる」
「あら、そうでしたか。てっきり持病でもお持ちなのかと」
「見た目に反して毒を吐く御仁でござるな」
拙者に優しく毒を吐くのは、しゃべり方同様優しそうな女性でござった。
黒と白の一般的な修道服をスタイル抜群の体に纏わせているおっとりお姉さん系でござる。しかし…修道服という厳かな服装が作る体のラインがえろい! えろいでござる! 背徳でござるよ!
そんな彼女の胸元には星を模ったブローチ。頭には服装にミスマッチな三角帽子を被ってるでござる。
「おや? 魔女さんでござったか」
「申し遅れました。お墓の魔女、マリーメイアです。ここの管理人を務めております」
「これはどうもご丁寧に。旅の魔法使いでモミジと申す」
「何か困っている様子だったのでお声がけしたのですが、必要ありませんでした?」
人差し指を唇に当ててコテン。おっとりお姉さんでお墓の魔女ことマリーメイア殿は、そんなあざとい仕草で首を傾げたでござる。
「実を言うと困ってるのでござるよ」
「それは大変。何か力になれることはございますか?」
「かたじけない。拙者、魔法統括協会からちょっとした仕事を預かったのでござるが、最近出現している幽霊について何か知っていることがあれば教えてほしいでござる」
「幽霊……ですか」
マリーメイア殿は指の位置をそのままに首を逆方向へコテン。さらにその振動でお胸がポヨン。好き。
「幽霊でしたらよく見ますわ」
「おぉ! そうでござったか。それはどちらに?」
「そこかしこにいるではありませんか。ほら、あなたの後ろにも……」
「ひゃう⁉︎い、いいいいるでござるか⁉︎」
「うふふ。冗談ですわ」
クスクスとお上品に口元を隠して笑う彼女は、どうやらお茶目さんなようでござる。
それはそれとして、実はホラーとか苦手な拙者は自分が発した恥ずかしい悲鳴に赤面してしまうでござる。
「うぅ…穴があったら入りたい」
「あら。必要であればすぐにご用意できますわ。文字通りの墓穴を」
「結構なブラックジョークでござるな」
「お墓の魔女ですから」
「ちょっと気になったのでござるが、お墓の魔女って魔女名でござるか?」
魔女名とは、魔女の証の1つでござる。
魔女の称号は主に2つ。星を模ったブローチ。そしてもう1つが魔女名。
どちらも魔女となった時に師匠から貰うもので、魔女名はその魔女の二つ名のようなものでござるな。ちなみにこれはわりとどんな名前でも良いらしいでござる。
とはいえ……、
「随分とストレートな魔女名でござるな」
「この墓地を管理する魔女には代々お墓に因んだ魔女名が授けられるのですよ。『霊園の魔女』だったり、『墓守の魔女』だったり」
「急になんの捻りもなくなったのはなにゆえ?」
「もうお墓ネタが尽きたからですわ」
「なんとまぁ……」
ちょっとそれはどうなんだろう? いやまぁ、部外者の拙者が気にすることでもないのでござろうが。本人は気にしてないみたいだし。
おっと、話がだいぶ脱線してしまったでござるな。どうもこのおっとりペースに乗せられてしまうでござる。
拙者は咳払いを1つ挟み、話を戻すことに。
「それで、幽霊について何か知ってることはあるでござるか?」
「う〜ん……幽霊ですか。この国ならありそうな話ですが、あいにくと存じてはおりませんねぇ」
「むぅ……。そうでござるか」
「差し支えなければ、どのようなお仕事を預かったか聞いても?」
「幽霊退治でござるよ」
「まぁ! なんて不謹慎な!」
マリーメイア殿は腰に手を当ててぷりぷり。なにやら怒り出したでござる。
「いいですかモミジさん。他の国ではどうか知りませんが、この国でそんな事をしてはいけませんよ。死者は敬遠するものではなく、尊ぶものです」
「それは他の方々からも聞いたでござる」
「でしたら間違ってもそのような事を口に出してはいけません」
めっ! と、人差し指を拙者の唇に当てられたでござる。……ちゅぱちゅぱしたらダメかな?
「わたくしも魔女の端くれとして魔法統括協会のシステムはある程度存じております。そのお仕事の依頼者はこの国の方なのですか?」
「どうやらそうみたいでござる」
「となると奇妙ですね……」
「というと?」
「繰り返すようですが、この国では死者を尊ぶのです。なんなら幽霊が出るという触れ込みの家は普通の家より高く売れるくらいですから」
急に俗っぽい話が出てきたでござるな。
「ちなみにアパートメントでも、事故物件であれば他の部屋の3倍の値段が付きますわ」
「ふむ。正気を疑うでござる」
「死者とのシェアルームですよ? 夢のようではありませんか」
「夢ならばどれほど良かったでしょうと戦々恐々でござるよ」
改めてかなり奇特な国民性であることを再認識したでござる。
しかし、ここまで言われればマリーメイア殿の言いたいことは頭の悪い拙者でも察しが付いたでござる。
「つまりこの国では、幽霊を退治するなんてことはありえないと?」
「はい。まずメリットがありませんもの」
メリットだらけでは? と思ったでござるが、ここは自分の常識を捨てる時でござるな。
「むぅ……。となると、この依頼は少し変でござるな」
魔法統括協会の支部で事務員をやっているということは当然あの事務員さんもこの国の者。他の国から飛ばされてきたとかでなければ、この国の価値観で物事を見るはずでござる。
(もしかして拙者の相手が面倒くさくて架空の仕事を渡した……とか?)
もしそうだったら拙者泣いちゃう。
でもちゃんとエージェントが来るって言ってたし、それはないか。
「どうしよう……」
「力及ばず申し訳ありません」
「あっ、いや! マリーメイア殿が謝ることではないでござるよ! こちらこそ時間を取らせてしまい申し訳ない」
「ふふっ、礼儀正しい方ですわね。もしよろしければこれからお茶でもいかがです?」
「嬉しいお誘いでござるが、よろしいのでござるか?」
「ちょうど休憩しようと思ってたところですから。それに、モミジさんの旅のお話も……あら?」
突然マリーメイア殿は何かに気付いたかのように辺りをキョロキョロ。そうして空に目を向け、頭上で旋回してる鳥さんを見つめ始めたでござる。
「申し訳ありません、モミジさん。お茶はまた今度でもよろしいでしょうか?」
「それは構わぬが、何かあったでござるか?」
「来客のようです。毎日来る方なのですが、今日は少し早いですね」
この人混みの中からどうやって見つけ出したのござろうか? 拙者も常に意識を周囲へと広げているでござるが、特に変わった気配はなかったはず。
怪訝な表情を浮かべる拙者へ、マリーメイア殿は優しく微笑んで教えてくれる。
「使い魔です。流石にこの広大な墓地を1人で見張るのは難しいので、わたくしは20匹ほどの使い魔と常に視界を共有していますわ」
「20匹……」
さすがは魔女。魔導士の拙者には到底真似できぬ芸当を易々とやってのけるでござる。
ということは頭上で旋回している鳥さんも彼女の使い魔ということでござるか。
「それはかなり疲れるのではないでござるか?」
「まぁ疲れると言えば疲れますね。でも、それ以上にこのお仕事が好きですから」
マリーメイア殿は周囲の人々———墓石に花を手向けたり、お供え物をしたり、黙祷を捧げる人々を見回してふんわりと微笑み、ただ一言。
「———わたくしはこの場所を愛していますから」
おっとり美人と話せたことで拙者の心は羽のように軽くなったが、羽のように軽いのはお財布も同様でござった。
聞き込みのメモを見返しても、有益な情報は皆無。なんならどこで幽霊が出るのか逆に聞かれる始末でござったよ。ぴえん。
日が暮れ始め、さらに気温が下がってきたでござる。あっ、ホットワイン売ってる。飲みたい……。
「ぐぬぬぬ……致し方なし」
濃い葡萄の香りと温かい湯気を上げる露店は繁盛しているらしく、そこかしこでホットワインを口にする人達が散見しているでござる。
それも手伝ってか、拙者は残り少ない銅貨をお財布から取り出し購入。
ワインとは名乗っているでござるが、これは熱してアルコールを飛ばしたもの。苦いくらいの濃さがクセになる一品でござるな。
「ポカポカでござる〜」
貧乏な拙者はお行儀悪くちびちび飲みながら協会へ。しょーもない情報ばかりでござるが、それなりの人数に聞いたおかげで銅貨の枚数は期待できそうでござる。
協会の扉を潜ると、昼間拙者の相手をしてくれた事務員さんと白い三角帽子を被った女性が話し合ってるのを見つけたでござる。
事務員さんがこちらに気付き、それに合わせて女性も拙者を見やる。
「あちらの方です」
「おぉ、お前か。……随分とちんちくりんだな」
「初対面でいきなり失敬でござるな」
むすっと頬を膨らませつつも事実なので気にしないことに。案外この身長のおかげで得をすることもあるでござる。たまにお店でおまけして貰える。
「えっと…お主が幽霊退治を担当する協会のエージェントでござるか?」
拙者をちんちくりん呼ばわりするだけあってすらり背が高いその女性は、白い三角帽子を金髪の長いポニーテールの上に乗せ、胸には魔女の証である星を模ったブローチと協会所属の証である月を模ったブローチ。
どこかやさぐれた目つきと口元の煙管から、恐らく元ヤンであると推測できるでござる。やんきー怖い。
「あぁ。夜闇の魔女、シーラだ。よろしくな」
「武士兼旅人兼魔法使いのモミジでござる。よろしく」
差し出された手を握り、とりあえずご挨拶。ついでに拙者は彼女をくんかくんか。くさっ……。
……いや、待つでござる。確かに煙管のせいでその匂いが染み付いてるでござるが、その奥! その奥には確かにこのスタイル抜群金髪美人の大人スメルがあるでござるよ!
「おい」
「……くんくん」
「おいって」
「くんかくんか」
「おいこら」
「すーはーすーはーすーはーすーはー」
「やめろ馬鹿!」
「痛いっ⁉︎」
ゴツン! つい匂いの探索に夢中になってシーラ殿に抱き着いてしまっていたら、頭頂部にゲンコツを貰ったでござる。痛いよぉ……。
拙者は殴られた箇所をホットワインを持つ手で抑えて抗議の目。
「暴力は良くないでござる」
「セクハラは良いのかよ」
「セクハラじゃないもん。スメハラに対抗しただけでござる」
「なんであたしの匂いを嗅ぐことが対抗になるんだよ」
「シーラ殿の匂いを用いてその煙管からの不快感から逃れようかと」
「やっぱりセクハラじゃねーか」
グリグリグリ。拙者の頭をシーラ殿は両拳で挟んでグリグリしてきたでござる。
「あっ! 痛いでござる。いたっいたたた! 離してほしいでござる! ホットワイン溢れちゃう‼︎」
「この期に及んでそっちの心配するのか⁉︎」
なんとか根性で耐え抜き、一滴たりとも溢さなかった自分に拍手喝采でござる。拙者えらい!
「……おい、本当にこいつに情報収集任せちまったのか?」
「一応……」
「こんな社会不適合者に?」
「残念ながら」
「ひどい……」
何故かひどく諦めたような目で拙者を見るシーラ殿と事務員さん。これでも任された仕事はちゃんとこなす真面目ちゃんでござるよ。ぷんぷん!
「まったく……東の国の連中はこんなのしかいねーのかよ」
「おや? 拙者の国に知り合いでも?」
「あたしの弟子2人がそこの出でな。姉妹なんだが……ぶっちゃけ両方やばい」
「なんと」
「姉は灰の魔女っつー旅人にぞっこんで聞くに堪えない妄想を会うたんびにぶちまけてくるし、妹は隠してるつもりだが姉にえげつない執着を見せてるな」
それはもはや世間に放ってはいけないレベルの狂人姉妹なのでは?
そんな感想が頭を過ったでござるが、それよりなにより気になる発言が。
「灰の魔女と言ったでござるか?」
「あ? あぁ、イレイナのことか。なんだ、お前もあいつの知り合いなのか?」
「知り合いなんて軽い関係じゃないでござる‼︎」
突然大声を出した拙者に驚くシーラ殿。しかし拙者の熱く燃えたぎるイレイナ殿への想いは既にバックドラフト現象並みの爆発を起こしているでござるよ!
「拙者、イレイナ殿とは2回も同じベッドで朝を迎えた仲でござる! もはや2回も同衾したとなれば、それはもう結婚したも同然! まだ夫婦の契りこそ交わしていないものの、次会った時がその時になるのは必然でござる! ちなみに拙者は上でも下でも構わぬが、もし上になったらイレイナ殿の
なにやらシーラ殿が『こいつもかよ』とでも言いたげな目で拙者を見つめてるでござる。
おやおや事務員さん?それは人間を見る目では無く家に出現した害虫を見る目では?
もしやお2人は外で寒い中仕事をしてきた拙者を温めてくれてるでござるか? 確かに美人2人にそんな目で見られてる興奮で体が温まってきたでござるよ。優しい。
「ねー。本当にこいつに情報収集任せちゃったの?」
「残念ながら」
むむむ……何か変なこと言ったでござるか?
はい、いかがでしたか?シーラさん登場です。あとモミジちゃん暴走回です。
信じてますよ。アニメのCパートで白髪の子の口元だけ映して、「結構なところまで来たわね」って言って終わることを!