武士の旅々   作:技巧ナイフ。

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メリークリスマス( ゚д゚)、ペッ


愛悼の霊園 月

「シーラ殿〜。そろそろ降ろしてほしいでござるよ〜」

 

 今現在、拙者は魔法統括協会の窓口でシーラ殿のほうきに魔法で逆さ吊りにされているでござる。うぷっホットワイン出そう……。

 

「うるせー。檻にぶち込まれないだけ感謝しろ」

「拙者なにも悪いことしてないでござる」

「公然猥褻」

「してないでござる」

「自覚がないのか……」

 

 ちょっと拙者の乙女な妄想を口に出しただけでこの扱いとは。シーラ殿は狭量でござるな。

 

「事務員さん。助けてほしいでござる」

「42人ですか。結構な人数に聞き込みできたんですね」

「拙者頑張ったでござる」

「でも使える情報はありませんね」

「それは申し訳ない」

「では契約に則り、報酬は銅貨14枚ということになります。後で取りに来てください」

「承知したでござる。それはそうと、助けてほしいでござる」

「私はもう退勤の時間なので失礼します」

「おう。お疲れさん」

「事務員さ〜ん」

 

 協会の奥へ消えていく事務員さんに、シーラ殿はヒラヒラと手を振って見送ってしまった…。お主が助けなければ、誰が拙者を助けるでござるか。

 

「頭は冷えたか?」

「どちらかと言えば頭に血が昇ってきたでござる。…いや、逆さ吊りだから降りてきた?」

「お前実は結構余裕あるだろ?」

「バレちゃったでござるか」

 

 てへぺろ☆と舌を出したら、いきなり魔法を解かれたでござる。

 拙者は頭から落ちないよう身を翻し、着地。危ない危ない。

 

 シーラ殿は今の拙者の身のこなしにちょっぴり驚いているでござるな。旅人なので、これくらいは問題無く可能でござるよ。

 

「して、シーラ殿。拙者の集めた情報は使えそうでござるか?」

「まったくもって使えねーな」

「うっ…申し訳ない」

「別に謝ることじゃないさ。この国、結構でけーからな」

 

 しかし、それでも任された仕事を十全にこなしていないのは事実。報酬だけ貰って、はいさようならと行くのは流石に後味が悪いでござる。

 

「もしシーラ殿の邪魔にならないのであれば、事件解決のお手伝いをするでござるよ?」

「言っとくが報酬は出ねーぞ? ここからはお前への正規の仕事じゃないからな」

「乗りかかった船でござるよ」

 

 それに、この依頼は色々と不可解でござる。拙者の考え過ぎでなければ良いのだが、その辺りも直接共有するに越したことはなかろうて。

 

 そんな本心は横に置いてニコリと笑い掛けると、シーラ殿はまたも『こいつもかよ』と言いたげな目をしてきたでござる。

 しかしさっきとは違って、どこか温かみがあるでござるが。何故でござろう? 

 

 

 

 ちょうど良い時間でもあったので、拙者とシーラ殿は協会を出てから夕食の為にレストランへ来たでござる。

 どうやら報酬が出ない代わりに奢ってくれるとのこと。ひゃっふー! 

 

「ふぅ! ご馳走さまでした!」

「こいつ…容赦なく注文しやがって……」

「やっぱり人のお金で食べる食事は絶品でござるな」

 

 銅貨14枚貰ったとしても、未だ拙者が貧乏なことは代わりなし。なので明日明後日の栄養も補給しようとたくさん頼んだら、シーラ殿が涙目になっちゃったでござる。……ちょっぴり反省。

 

「そういえば、シーラ殿はイレイナ殿とどういった関係でござるか?」

「あいつとか? 初めて会ったのは事件の聞き込みをしてた時だな。女の髪ばかり狙う切り裂き魔にあいつもやられて、なんやかんや成り行きで一緒に捕まえたよ」

「ほう…イレイナ殿の髪を、ねぇ……」

 

 あのサラサラふんわりでめちゃくちゃいい匂いのする髪を切るとは……もしその下手人が目の前にいたら、是非とも生き地獄を味わってもらいたいものでござるな。

 

「そんな怖い顔すんなよ。ちゃんとあいつの髪は元に戻ったしな」

「でも拙者の未来の伴侶に手を出したことに変わりないでござる。ブッ殺ブッ殺!」

「お前見た目に反して物騒だな」

「人を見た目で判断するのは良くないでござる。シーラ殿見て学んだでござるよ」

「お前も見た目で判断してんじゃねぇか」

 

 ははっと白い歯を見せて笑う彼女には、どこか人懐っこさを感じるでござるな。

 というか、2人も弟子を取ってて魔女まで育て上げた御仁でござる。わりと人格者なのかもしれないでござるな。いい匂いするし。

 

「他にはイレイナ殿とのエピソードあるでござるか?」

「あるぜ。実はな、あたしの姉弟子がイレイナの師匠なんだよ」

「なんと⁉︎」

「すごい偶然だろ?」

「ふむ…そうしてシーラ殿の弟子はイレイナ殿に恋慕の情を寄せていると……。これ、近親婚では?」

「いやちげぇよ絶対」

「なんか親戚みたいでずるいでござる」

 

 むすっと膨れる拙者に笑い、シーラ殿はさらにイレイナ殿の話をしてくれるでござる。

 

 自由の街クノーツという港町でまだ仲の悪かった姉弟子と一緒に魔法に匹敵する道具を使って悪さをする骨董堂なる組織を潰したこと。

 その骨董堂が復活して、今度はイレイナ殿とシーラ殿の弟子が潰したこと。

 その場所でたまたま姉弟子と共に出くわし、5人でお茶をしたこと。

 

 はたまた、静寂の国バラードで狼の使い魔にされた少女を救う為に姉弟子、イレイナ殿、シーラ殿の3人で奔走したこと。

 

 合計で3回も一緒にイレイナ殿と事件解決をしているシーラ殿に、拙者は嫉妬の感情が抑えきれないでござるよ。

 

「ずるい……。ていうか、イレイナ殿って巻き込まれ体質でござるか?」

「それ思ったわ。あいつなんであんなに事件に巻き込まれてんだろうな」

「ちなみに拙者の場合は、お気に入りのパン屋さんにいた時に強盗が入ってきたでござる」

「間が悪過ぎんだろ……」

 

 いくら魔女とはいえ、ここまで事件に巻き込まれているといつか取り返しのつかないことになるかもと心配になるでござるよ。

 

 共通の知り合い(未来の嫁で旦那)について盛り上がっていると、いつの間にかだいぶ時間が経っていたでござる。

 そろそろ宿を探さないと。本格的に野宿確定になってしまうでござる。寒いの嫌でごじゃる。

 

「それでは、改めてご馳走さまでござる」

「あぁ。気を付けてな」

「明日は何時に何処集合にするでござるか?」

「あー……じゃあ9時に協会支部の前でどうだ?」

「承知したでござる」

 

 拙者はペコリと頭を下げて、まだレストランに居座るつもりのシーラ殿とその日は別れたでござる。

 

 

 

 

 安宿でなんとか一泊分の料金だけ払い、夜を明かした拙者。ついに銀貨が尽きたでござる……。

 今日マジでどうしようと顔を青くしながら協会支部まで行くと、既に入り口の前でシーラ殿が待っておった。

 

「おはようでござる」

「おう、おはよう。……おい、顔色悪いぞ?」

「拙者、今晩が命日になるかもしれないでござるよ」

 

 昨晩栄養を蓄えたのは良いでござるが、よくよく考えたら人間は寒いだけで死ぬ生き物でござる。つまり凍死したら水の泡。

 

「でも大丈夫でござる。マリーメイア殿が管理しているお墓で眠れるなら……」

「誰だそれ?」

「この国の墓地の管理人で、背徳的なえろさを携えたお姉さんでござる」

「お前そればっかりだな」

 

 呆れた目を拙者に向けるシーラ殿。それから、その視線は墓地の方向にスライドしていったでござる。

 

「お前、昨日あの墓地には行ったんだよな?」

「然り。幽霊といえばお墓でござるから」

「そんで管理人の魔女にも会った、と」

「はい」

 

 お仕事モードに入ったのか、ただでさえあまりよろしくない目つきをさらに鋭くしたシーラ殿は、拙者にそんな質問をしてくるでござる。質問というより尋問かと感じさせるほどで、ちょっと怖いでござるな。

 

「お前、こういった事件でまず最初にするべきことって何かわかるか?」

「こういった事件? 幽霊退治のことでござるか?」

「幽霊退治だけに限らず、だ。人の生き死にが関わってるもの全般だな」

「やはり被害者の人間関係とか……?」

 

 でも、そもそもこの事件に被害者はいないでござる。というかそもそも事件かどうかも怪しいほど。

 確かに生き死には関わってるでござるが、拙者達が探すべきは死人の方でござるし。

 

 なんとか頭を回して答えたでござるが、シーラ殿はふるふると首を横に振ってみせる。あっ、金髪からいい匂いが。

 

「20点。確かに必要だが、最初ではないな」

「いつの間にテストになったでござるか」

「おっと悪い。一応協会のひよっこ共に教える立場でもあるから、つい癖でな。———正解は、文化体系を調べるだ」

「この国のでござるか?」

 

 首肯を返されたでござる。

 でも、それなら昨日聞き込みしたおかげである程度は知ってるでござるよ。

 

「この国は死者を尊ぶでござる。祝福に始まり祝福に終わる人生こそ至高という考えでござった」

「そうだな。それはあたしも知ってる。じゃあ、この国の歴史に関してはどうだ?」

「歴史?」

「この国の成り立ち。文化ってのは歴史から生まれるものだろ?」

「それは……」

 

 思わず口籠ってしまったでござる。人に聞くことだけしか拙者の頭には無かったでござるからな。

 言葉に詰まった拙者を見て、シーラ殿は意外にも堂に入った説明を披露してくれる。

 

「まずこの国を知る上で押さえておかなきゃならねぇのは、あの墓地だ。この国の名前はさすがに分かるよな?」

「愛悼の霊園でござる」

「それは元々あの墓地の名前なんだよ」

「墓地の名前が国に奪われたでござるか?」

「奪われたって言うと語弊があるな。そもそもあの墓地は、この国の中に作られたわけじゃない」

「……どういうことでござるか?」

「最初に墓地があって、その後に国が出来たってことだ。もう千年近く前の話だがな」

 

 むむむ? それは常識的に考えてありえないような…。

 いまいち理解の追いついていない拙者を見て、シーラ殿はもう少し噛み砕いた方がいいかと呟き、続けるでござる。

 

「あの墓地はな、旅の途中で死んだ旅人の為に作られたのが起源なんだ」

「ほう」

「で、その旅人にも家族がいるわけだろ? 当然墓参りがしたくなる」

「道理でござるな」

「だけど旅の途中で死んだから、生家からだいぶ距離がある。墓参りするのも一苦労なわけだ。ここまで言えば分かるだろ?」

「つまりこの国は、道半ばで死んだ旅人の家族がお墓参りしやすいように引っ越してきたのが始まりと?」

「そういうこと」

 

 唇の端を上げ、シーラ殿は拙者の頭をポン。まるで弟子を褒めるように撫でてくるでござる。

 ……なるほど。だから死んだ者を尊ぶのでござるな。幽霊をありがたがるのも、死に目に会えなかった家族に再会できるから。

 

 うん? でもそれだと……

 

「おかしいでござるよ」

「———気付いたか?」

 

 昨日感じた違和感がさらに浮き彫りになってきたでござる。

 

「幽霊をありがたがる国民性なら、幽霊退治なんて依頼は尚更ありえないでござる」

「あぁ。だが今の話は千年前の話だ。千年経った今、見ての通りここは国になってる。人が大勢集まる国にな」

 

 まるで教え導くように、シーラ殿は人差し指を立てた。

 

「突然だが、人が死ぬ時ってのはどんな時だ?」

「本当に突然でござるな……」

「いいから答えてみ?」

「えっと……天寿を全うした大往生。家族に囲まれて惜しまれながら逝くのが一般的には幸せでござるな。そこから連想されるのだと病死もでござるか。あとはまぁ、この国の始まりのように事故死もあるでござる」

 

 人の死因を指折り数えていると、なんだか鬱になりそうでござるな…。気分が沈むでござる。

 しかしそんな拙者に、シーラ殿はさらに沈むようなことを一言。

 

「じゃあ第三者が関わるものは?」

「……っ…⁉︎」

 

 ここまで言われれば、頭の悪い拙者にもようやく理解できたでござる。そして理解すると同時に、ゾワリと背筋が凍る。

 

 第三者が関わる死因。事故死でも病死でもなく、さらに幽霊が関わりそうな死因など1つしかないでござる。

 拙者の国では、幽霊が発する常套句にこんなものがあるでござるよ。

 

 ———恨めしや。

 

 ならば導き出される結論は……

 

「———殺人」

 

 この事件は、人殺しが関わっているでござるか……? 

 

 拙者が不安げに上目遣いで見上げると、シーラ殿はどこからともなく新聞紙を取り出し、広げて渡してきたでござる。この見出しを読めという意味でござろう。

 

「『一家殺害。穏やかに暮らす3人の家族を襲った惨劇』……この事件が関わっていると?」

「十中八九な。それとこれも見てみな」

 

 さらにもう一枚。別の新聞紙を渡されたでござる。そこには1人の男性の写真付きで大きな見出しがあったでござる。

 

「『惨劇の犯人逮捕。疑いの余地無く、すぐさま極刑へ』。おろ? 犯人捕まってるでござるよ。極刑ってことは死刑でござるか?」

「意外か?」

「それはまぁ」

 

 死者を尊ぶ国でござる。わざわざ殺して極悪人を尊い存在に祭り上げるのも変な話だな、と思うのは当然でござるよ。

 しかしシーラ殿は首をふりふり。

 

「悪人も死んで償うことで同じ人となる、ってのが死刑の理由だそうだ。簡単に言えば、刑罰の死じゃなくて贖罪の死ってことだな」

「それって同じなのでは?」

「この国にとっては違うんだろうよ」

 

 長話で口が疲れたのか、シーラ殿は煙管を取り出して吹かし始めたでござる。くさい……。

 

「んでんで、どうしてこの事件が幽霊と関係があると?」

「依頼書の日付とその事件の日付を見比べてみな」

「ふむ……あっ。ほぼ同じ頃でござる」

 

 依頼書の紙束に記された日付は、この依頼が出された日。極刑に処したと報じられている新聞紙の3日後でござった。

 

「それ以外でここ最近この国では大きな事件は起きてない。まぁ確定だな」

「…………」

「なんだよ。急に黙って」

 

 ここまで理路整然とした推理を聞かされ、拙者はポカンと口を開けてシーラ殿の端正な顔を見上げるしかないでござる。

 

「……すごいでござる」

 

 もうそれしか感想が浮かばぬ。

 

 幽霊だけに囚われていた拙者と違い、シーラ殿はこの国の歴史まで視野を広げ、あらゆる視点と観点からこの事件の全容を推理していたでござる。しかもたった一晩のうちに。

 逆立ちしても真似できないでござるよ。拙者のお目目は彼女への尊敬でキラキラでござる。

 すると、シーラ殿は目を逸らして解説してくれる。もしかして照れてる? 

 

「ただの慣れだよ。この仕事やってりゃ誰でもできるようになるし、そもそも事前に渡された情報量がお前とは違うんだ」

「いやでも、それにしたってここまで辿り着くのにたったの一晩でござるよ?」

「この国に来るまでに推論をいくつか立ててたからな。あとは協会にある資料やら軽い聞き込みやらで組み立てていくだけ。パズルみたいなもんだよ」

「聞き込みなんていつしたでござるか?」

「昨晩のレストラン。お前と別れた後でな。レストランは聞き込みに最適なんだよ。待ってれば勝手に人が出入りするし、情報を渋られても酒奢って酔わせちまえば大体口を滑らすからな」

 

 なるほど。そういう意図もあってあの時は居座ったのでござるな。てっきり1人酒に溺れる為かと思ったでござる。

 

「んま、今回の件でポイントになるのはあの墓地だ。あそこの管理人と顔見知りなんだよな? 顔繋ぎ頼むわ」

「承知したでござる」

 

 というわけで拙者はシーラ殿と共に墓地へ。今日も今日とて、この墓地は大変な賑わいを見せているでござる。

 

「噂には聞いてたが、実際見ると凄まじい光景だな」

「墓地で普通に露店が商売してる様は度肝ぶち抜かれたでござるよ」

 

 昨日の拙者と同じようにドン引きするシーラ殿。

 ていうか煙管は吹かしたままで良いのでござろうか…とも思ったでござるが、よくよく考えたら露店の食品の匂いが充満してるので問題なかろうて。

 

 拙者はポタージュを販売している露店に熱い視線を送りつつ、頭上で旋回してる鳥さんに手をふりふり。

 

「何やってんだ?」

「あの鳥さん、マリーメイア殿の使い魔でござるよ。20匹くらいの使い魔でこの墓地を見張ってるそうでござる」

「ふーん」

 

 何か考え事をするように一瞬目を細めたシーラ殿は、拙者がポタージュ屋さんを物欲しそうな目で見ていることに気付き、チャリン。銅貨を取り出して握らせてきたでござる。

 これはもしや…? 

 

「寒いからな。そのマリーメイアっていう魔女の分も合わせて3人分買ってきてくれ」

「よろしいのでござるか!」

「聞き込みは人の善意が頼りなんだよ。……相手にもよるが」

 

 最後にボソリと呟かられた一言は聞かなかったことにして、拙者はウキウキでポタージュ屋さんへと走って行くでござる。

 おっ! ちょうど3種類あるでござるよ。カボチャ、ジャガイモ、コーン。ちょっとはしたないけど、1つずつ買って3人で回し飲みすれば全種類楽しめるでござる! 

 

 腕に蓋付きの紙コップを3つ抱えて戻ると、既にマリーメイア殿が来ていたでござる。

 

「おはようございます、モミジさん」

「おはようでござる! マリーメイア殿、カボチャとジャガイモとコーン、どれがいいでござるか?」

「あら、よろしいのですか? ではカボチャを」

「はい! シーラ殿が奢ってくれたでござるよ」

 

 両手が塞がってるので視線でシーラ殿をご紹介すると、彼女は一歩前へ。

 

「魔法統括協会所属で夜闇の魔女、シーラです。ちょっと話を聞かせてもらえますか?」

「おや? 髪型がモミジさんと一緒……もしやお母様ですか?」

「いや違うわ」

「ふふ。冗談です」

 

 口元に手を当ててお上品に笑う姿はまさに聖女。実際は魔女だけど、でも聖女! 

 あと笑うたびにお胸がポヨンポヨンでござる。好き。

 

「ポタージュご馳走さまです。お話というのは、昨日モミジさんが言っていた幽霊のことで?」

「はい」

「とは言われましても、あいにくと昨日彼女に話した以上のことはわたくしも知らないのですわ」

「まぁそうでしょうね。おい、さっきの新聞貸してくれ」

 

 マリーメイア殿のお胸とちょっとやさぐれながらも敬語を使うシーラ殿に驚いている拙者は、慌てて袖の中から新聞紙を取り出して渡す。

 

「こちらの事件についてはどうです?」

「これは……痛ましい事件でしたね。多くの人の心に傷が残りましたわ。ですが、この事件は解決済みですよ?」

「まーそうなんですがね。ちょっと捜査したところ、この事件と今探してる幽霊はどうにも関係があるようなんですよ」

「……なるほど。そういったことであれば、微力ながらお力添えをさせていただきますわ」

 

 マリーメイア殿は胸に手を当てて、一度深呼吸。

 見出しだけでも凄惨と分かる事件の詳細を語るのでござる。いくら他人事とはいえ、この国を愛していると言う彼女からすれば辛いものでござろうな。

 それはシーラ殿にも察せられているようで、拙者達は急かすことなく語り出すのを静かに待つでござる。

 

「あの事件の被害者…3名は仲の良い理想的な家族でした。特にお金に不自由があったわけでなく、かと言って毎日遊んで暮らせるほどでは無い、とても普通の誰もが羨むようなご家庭ですわ。その3名のご遺体もこちらの墓地に埋葬させていただきました。どうやら息子さんには交際されていた女性がいたようで、ほぼ毎日夕方頃に墓前へと足を運んでおられるのを目にします」

 

 3人家族……拙者と同じでござるな。内弟子もたくさん居たから、あまりそのようには感じなかったでござるが。

 

「わたくし個人との交流があったわけでは無いので、被害者の方達で知っていることはこのくらいしかありません」

「なるほど。加害者の方は?」

「加害者……ですか?」

「えぇ」

 

 怪訝な表情を浮かべつつも、マリーメイア殿は求められた通りに口を動かす。

 

「殺人を犯したのはそちらの新聞にも記載されている男性です。動機は金銭類で、強盗目的で被害者宅に押し入ったそうですわ。確か父親が幼い頃に事故で亡くなっていて、お母様との2人暮らしでしたね。あっ、今は極刑に処されましたので、1人ということになります。男性のご遺体もこちらの墓地に埋葬されていますわ」

「被害者と同じ墓地に…でござるか?」

「この国はここしか墓地がありませんから。墓石はできるだけ離すようにしましたが」

 

 確かにこれだけ広大な墓地であれば、その処置で十分なのでござろう。

 そもそも、この事件の詳細を聞く限り文句を言う存在がいなのでござるな。

 

「なるほど、ありがとうございます。ちなみにそのお墓ってのはどこにあります?」

「被害者の方ですか?」

「いや———両方です」

 

 シーラ殿は煙管を口から離し、すっかり冷めたポタージュを一口飲んだでござる。

 

 

 

 

 一旦昼食を挟み、まず最初に拙者達が向かったのは加害者側のお墓でござった。

 

「まさかとは思うでござるが、墓を暴くわけではないでござるよな?」

「あたりまえだろ。そんな非常識なことするように見えるか?」

「まぁわりと」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 見た目で判断するのは良くないと昨晩学んだでござるが、意外なほど職務に忠実なシーラ殿を見てるとやりかねないと思ってしまうでござるよ。

 しかし、相変わらず煙を吸って吐いてしている彼女の目はどこか憂鬱そうでござる。ポタージュが冷めてたからでござろうか。話しに夢中で渡し忘れていたでござるよ。ごめんね。

 

「……もしあたしの推測が正しければ、あのマリーメイアっつー魔女は幽霊の件に一枚噛んでる」

「……っ…どういうことでござる⁉︎」

「その証拠を今から確認するんだよ」

 

 確証を得るまでは教えない、ということでござるか。

 

 シーラ殿には、この事件の何が見えているのでござろう……? 先ほどから軽口こそ叩けど、拙者と目を合わせてくれないでござる。

 

「……シーラ殿、もしかして怒ってるでござる?」

「あ? 別にこのくらいでいちいち怒らねぇよ」

「いや、今のではなく」

「じゃあなんでだよ」

「もしかしたら、拙者の調査力がゴミ過ぎて愛想尽かしちゃったのかな…って」

 

 目を合わせるのは怖いでござるが、でもそれも失礼な気がして、結果上目遣いで横に並ぶ彼女をチラチラと見る拙者。

 どうやら拙者自身、シーラ殿に対してかなり信頼を寄せているようでござるな。

 彼女の答えにビクビク身構えていると、ポンと頭に冷たい手を乗せられたでござる。

 

「別にそんなんじゃねぇよ。ちょっと考える事が多くてな」

「本当でござるか…?」

「本当でござるよ」

 

 ちょっと戯けた答えに、一安心でござる。ニカッとヤニ汚れ1つない綺麗な歯を見せて笑いかけられ、拙者は乗せられた手を温めるように包みこむ。

 

「これはフラグ立ったでござるか?」

「お前はほんっとにそればっかりだな!」

「えへへ」

 

 これはまぁ、なんというか……拙者なりの照れ隠しでござる。

 それが伝わっているらしく、わしゃわしゃと髪をかき乱されたでござる。おいマジか。

 

「もう! ポニーテール…じゃなくてちょんまげでそれやられると毛根が痛いでござるよ」

「だからやったんだよ」

「もう!」

 

 むすっと抗議の目で見上げながら一度解き、結び直す。長いせいで結び直すの結構手間でござるよ。

 女子として携帯している櫛を駆使して直していると、シーラ殿が立ち止まったでござる。それにつられて拙者も足を止める。

 

「あれだな。加害者の墓は」

「えらく侘しいところでござるな。心なしか他よりも墓石の間隔が広いように見えるでござるよ」

「なんだかんだで殺人犯の墓だからな。それくらいの配慮はするんだろ。ちょっと待つぞ」

「何をでござる?」

「この時間に来るであろう人さ。昨日お前がここに来た時もちょうど今くらいの時間だろ?」

 

 確かにお昼時を少し過ぎたあたりでござるが…。

 あっ、そういえばこのくらいの時間に毎日来客があるってマリーメイア殿が言ってたでござるな。そのせいであの背徳お姉さんとお茶ができなかったでござる。ぐぬぬ……。

 

 拙者はシーラ殿に髪を直してもらいながら雑談をしつつ、その時を待つでござる。

 そして、待ち人来たり。どこか憔悴したような、生気を感じられない中年のご婦人がヨタヨタと現れたでござる。

 一瞬あの方が幽霊かとも思ったで、どうも違うようでござるな。猫背でフードを目深に被っていて、周囲からの視線に怯えているよう。

 

 その女性は、加害者のお墓の前で立ち止まったでござる。

 

「加害者の母親でござろうか」

「だろうな」

「あの方に話を聞くでござるか?」

「いや。まぁ見てろよ」

 

 シーラ殿の意味深な言葉に頷き、お墓に黙祷を捧げるご婦人を眺めること数分。

 墓石の後ろから、まるでずっとそこに居たかのように青年が現れたでござる。

 

「……っ…⁉︎」

「ビンゴ」

 

 その青年は———極刑に処されたはずの事件の犯人。あのご婦人の息子であり、一家3人を殺した殺人犯でござる。

 拙者はマジモンの幽霊にビビりながらもシーラ殿の袖を引き、新聞紙を出してもらう。

 ……間違いないでござる。新聞の写真とまったく同じ顔。

 

 ご婦人は涙を流しながら青年を抱きしめ、青年もご婦人の背中へと手を回す。そこには確かな親子愛を感じるが、それは同時に死人と生者の交流というあってはならない光景でござる。

 

 驚きと恐怖に言葉を失う拙者の頭を、シーラ殿はペシっと軽く叩かれたでござる。ちょっと痛い。

 

「よし。帰るぞ」

「えっ……あのまま放置でござるか? 退治しないでござるか?」

「あれは幽霊じゃねーよ」

「おろろ?」

 

 意味が分からないでござる。幽霊は別にいるってことでござるか? 

 しかし、シーラ殿は追及を躱すように出口へと歩き出してしまい、慌てて小走りで横に並ぶ。

 

「あれが幽霊じゃないとはどういう事でござる?」

「あれはマリーメイアの使い魔だな」

「何故彼女のものだと?」

「あいつは使い魔の使役が得意なんだろ?」

「それだけで⁉︎」

 

 あまりにも薄い根拠なのでは? そんな視線をぶつけると、シーラ殿は煙管を一吸い。そうして人差し指を空に向けたでござる。

 

「お空が何か?」

「違う。あの鳥だ」

「あれはマリーメイア殿の使い魔でござるよ」

「あとはそこの蝶と時々うろちょろしてる猫も使い魔だな」

「……それがどうかしたでござるか?」

 

 要領を得ない説明にむすっと頬を膨らますと、彼女は煙を吐き出して続ける。

 

「お前、昨日マリーメイアに幽霊のことを聞いて、なんて答えられたのか思い出してみろ」

「ふむ……」

 

 ——— う〜ん……幽霊ですか。この国ならありそうな話ですが、あいにくと存じてはおりませんねぇ。

 

「———っ⁉︎」

「仮にあれが本物の幽霊だとして、なんで24時間この墓を使い魔で監視してる魔女が知らないんだ? 事件の概要をあれだけスラスラ言えたのに、加害者の顔を知らなかったなんてありえないだろ?」

「……でも、あれは人間の姿でござった」

「昨晩、レストランでイレイナと一緒に解決した事件の話をしただろ? その中に、狼の使い魔に変えられた女の子の話もしたはずだぜ」

「使い魔はどんな姿にでも変えられると」

「そういうこと。20匹以上も同時に使い魔を使役できる魔女なら朝飯前だろうな」

 

 首を締められているような気持ちでござる。この国を愛していると言ったマリーメイア殿が、そんな……。

 

「……これから彼女を捕まえるでござるか?」

「いや、それは明日にしようかと考えてる。急にマリーメイアしょっ引いたら、今日ここにいる人達が困るだろ」

「…………」

「それに、ちょっとばかし用事ができちまったからな。あたしは一旦協会に戻るが、お前はどうする?」

「拙者は…ちょっと気持ちの整理をつけるでござるよ」

「そうか。じゃあ今日は解散だな」

 

 言葉すら発するのが難しいほど胸が締めつけられている拙者を、シーラ殿は気遣うように覗き込んでくるでござる。

 

「大丈夫か?」

「……うん」

 

 目を合わせることができず、唇を噛んで頷くことしかできない。

 

「明日、協会の前で9時まで待ってる。来たいなら来い」

「……承知」

 

 パシッと。シーラ殿は拙者の手に3枚ほど銀貨を握らせてきたでござる。少し良い宿に泊まって冷静に考えろってことでござるか。

 しかし、感謝を告げる精神状態にないので首肯を返すだけで精一杯。

 

 そんな拙者に、シーラ殿は一言。

 

「この依頼、もしかしたらあたし達が思っている以上に複雑かもしれないぜ」

 

 それだけ言い残し、協会へと歩いて行ったでござる。







はい、いかがでしたか?敏腕エージェントのシーラさんでした。なんだかんだで面倒見が良いので、弟子と同じ年頃のモミジちゃんには甘いかなと思いポンポン奢って貰いました。

ちなみに、今回の話はシリアスです(今更)

ps.アムネシアさん、わりとガッツリ出たよやったー(≧∀≦)
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