新世紀エヴァンゲリオン〜もしセカンドチルドレンがマリだったら〜 作:神光の宣告者
呼び名をどうするかとても悩んでいます(笑)。
「おーい。ちょいと待ってくれー。」
ネルフ地下施設。
閉まりゆくエレベーターに向かって加持は駆けていた。
これだけ必死の形相で、呼び止められれば中にいる人は普通『開ける』ボタンを押すだろう。
しかし、中にいる人は普通ではなかった。
ミサトは真顔で加持を見つめながら、彼を見殺しにした。
「チッ」
間一髪でエレベーターに飛び乗った加持を見てミサトは小さく舌打ちをした。
「いやー、走った走った...こんちまたご機嫌斜めだねぇ。」
「来た早々アンタの顔見たからよ。」
ミサトは露骨に顔を歪めた。
もはやお決まりとなりつつあるやり取りを一通り終えた2人の話題は世間話へと移行する。
「それで、最近のマリの調子はどうだ?」
「アンタ、最近やたらとマリのことばかり聞くわね。キモイわよ。」
「なんだ嫉妬か?子供相手にみっともない。」
「だーれがアンタなんかに嫉妬すんのよ。バカも休み休み言いなさい。」
こうしてお互いに軽口を叩き合うものだから世間話は一向に進まない。
これも2人が付き合っていたころから何ひとつ変わっていないことだった。
「マリにお熱なとこ悪いけど、あの娘はシンジ君にゾッコンなのよ。アンタの入り込む隙間はなんてないわよ。」
「なるほどねー、シンジ君に惚の字か...それは本当にシンジ君に向けられてるのかい?」
「どういうことよ?」
「まっ、伊達男の勘だよ。忘れてくれ。」
「だからアンタはいっつもいっつも思わせぶりなことばっかり言って...ちっとはこっちの身にも...」
ぶつぶつとミサトの文句が始まった矢先、突如エレベーターが暗闇に包まれた。
停電である。
現代科学の結晶であるこのジオフロントが停電するなど並大抵のことではあり得ない。
ミサトと加持は、その原因を夢想して1人の人物を思い浮かべた。
「赤城が実験でもミスったのか?」
「リツコが実験でも失敗したのかしら?」
*
学校終わり、うだるような暑さの中、シンジ、マリ、レイの3人はネルフ本部へ向かって歩いていた。
今日も今日とて、訓練及び戦闘待機である。
汗だくのマリがいつものようにシンジに飛びつく。
しかし暑さで弱っていたのかマリにはいつものキレがなく、簡単にシンジに躱されてしまった。
「あつーい、ワンコくん抱きつかせて〜。」
「抱きつく方が余計暑くなるだろ!」
「いけず〜。」
マリは恨めしそうにシンジを見る。
「それにしても、今日は特別暑いね。」
「そうだにゃ〜。もーシャツがベトベトで気持ち悪い。」
マリのシャツは汗でまるで川に落ちた後のようにびしょびしょである。
シャツの第三ボタンまでを大胆に外して、胸元を仰ぐマリの姿は妙に扇情的だ。
健全な中学生であるシンジは、生唾を飲み込んで眼を逸らす。
「早く、冷房の効いたネルフ施設に行きたいよ〜。」
「そ、そうだね。」
「あれれぇ〜、またワンコくんエッチなこと考えてた?」
「か、考えてないよ。変な言いがかりつけないでくれよ!!」
「怪しいにゃ〜。」
マリの視線から逃げるようにシンジは歩く速度を上げて、前を歩くレイの隣に行った。
レイは、無言で2人の会話を聞きながら淡々と歩く。
もはや定例化しつつある3人の光景だった。
「父さんに進路相談の面談があることを話したんだけど、父さん全然聞いてくれなくて...」
「それで話の途中で電話を切られたことを気にしてるんだね。」
「うん。それもそうなんだけど、電話が切れたときなんだか壊れたような気がしたんだ。マリはどう思う?」
話題の中心はシンジとゲンドウの親子関係について移っていた。
といっても話しているのはシンジとマリの2人で、レイはそれをただ聞いているだけなのだが。
しかし、浅間山での使徒捕獲作戦以来レイにも変化があった。
今まではただ無言で無表情で2人といたレイだったが、最近は笑う機会が多くなった。
その変化をシンジは非常に嬉しく感じている。
変化したのはレイだけではない。
シンジもまた変化していた。
今までは、マリとレイに対してもどこか遠慮勝ちだったシンジが2人と打ち解け始めてきたのだ。
その証拠に今までは『真希波』と名字で呼んでいたシンジが『マリ』呼びに変化している。
シンジは自覚していないが、確実にシンジはマリに心を許し始めていた。
「うーん、考えすぎなんじゃない。あのゲン...碇司令なら急いでたら途中で電話切ってもおかしくないよ。」
「そうかな...」
尚も釈然としないシンジは、次にレイに質問する。
「綾波はどう思う?」
「......」
確かにレイは無口だ。
しかし、話しかけられればしっかりと受け答えをするという礼儀はしっかりしている。
呼びかけられても無言のレイをおかしく思い、シンジとマリは振り返る。
レイの顔は無表情だった。
以前のシンジたちであれば、いつも通りだと思い特段気に留めることはなかっただろう。
しかしレイと少なからず濃い時間を共有してきた、今のシンジたちにはその顔のちょっとした変化に気付けた。
シンジにはレイの表情がどこか怒っているように感じたのだった。
「なにかイライラしてるのかにゃ?」
マリもシンジと同じように感じたのか、レイの顔をマジマジとのぞき込む。
「ごめんなさい、何の話だったかしら。」
レイの表情の違和感はすぐに消えて、いつもの無表情に戻った。
無表情といっても今のシンジとマリにはその奥にある微かな笑顔も見えている。
いつものレイに戻ったことを確認したシンジとマリは今まで通りに会話を再開した。
「えっとね、父さんに電話をしたんだ。そしたら...」
そうこうしている間に、3人はネルフ施設のゲート前に到着した。
あとはいつものように職員カードを通せば、ゲートが上がるはずだった。
「あれ、おかしいなぁ...」
何度カードを通してもゲートはピクリとも動かない。
3人はネルフに何か異常事態が起きていることに気付いた。
*
ーーー府中総括総隊司令部にて
『索敵レーダーに正体不明の反応あり。』
予想上陸地点は旧熱海方面。
・・・確認のため熱海より哨戒機が上がります。
謎の未確認生命体の出現に、府中司令部はいつものように慌てるフリをする。
しかしここの職員は皆、この生命体に対して自分たちができることなど何もないことを知っていた。
彼らにとって怖いのは使徒よりも国民の目線だった。
だからこそ彼らは慌ただしく働いているフリをするのに躍起になっているのだ。
それは平の職員だろうが責任のある管理職の者でも変わらない。
府中司令部を統括する総司令とその秘書、そして副司令はこの非常事態においても、自身の保身のためにとれる施策について協議を交わす。
「おそらく、9番目の奴だ。」
「ああ、使徒だろう。どうする?」
「一応警報シフトにしておけ。決まりだからな。」
「どうせまた奴の目的地は、第三新東京市だ。」
「そうだろうな。ま、俺たちがすることは何もないさ。」
司令部は旧熱海を素通りする第9使徒『マトリエル』の姿をモニター越しにただ見ているだけであった。
『使徒上陸しました
依然進行中』
ここでようやく総司令が、何も動きのないネルフに違和感を抱く。
「第3新東京市は?」
『沈黙を守っています。』
総司令は眉をヒクつかせながら、腹立たし気に手に持っていたばこをもみ消した。
「一体ネルフの連中は何をしてるんだ。」