新世紀エヴァンゲリオン〜もしセカンドチルドレンがマリだったら〜   作:神光の宣告者

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静止した闇の中で【後編】

「現在使徒接近中。直ちにエヴァ発進の用意を求ム。」

 

 

選挙カーを乗っ取った日向は目を回すほどの困難なドライブの末、ついに作戦指令室へたどり着いた。

電力を失い、外部からの情報が一斉入ってこなかった作戦司令部は突然の使徒襲撃情報に蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

そうな阿鼻叫喚の状況の中、この場所の最高責任者である男が静かに立ち上がった。

 

 

「冬月、後を頼む。」

 

「碇?」

 

「私はケージでエヴァの発進準備を進めておく。」

 

 

エヴァ格納庫へと向かおうとするゲンドウの背中に冬月が問う。

 

 

「まさか、手動でか?」

 

「緊急用のディーゼルがある。」

 

 

ゲンドウは自嘲気味に笑うと、タロットを下って行った。

ゲンドウが去った後で、冬月は一番の懸案事項を独り言のように呟いた。

 

 

「しかし、パイロットがいないぞ。」

 

 

 

 

「うんしょ。うんしょ。うんしょ。うんしょ.....」

 

 

かくして格納庫では、史上初の人力によるエヴァ起動準備が進められていた。

総指揮を務めるのは、特務機関NERV総司令の碇ゲンドウだ。

総司令自らが、現場に立って起動準備を行っている。

総司令がここまでしていて、他の職員たちがサボるわけにはいかない。

現場にいる全員が、持てる力のすべてを振り絞って準備に当たっていた。

 

 

「プラグ、固定準備完了。」

 

 

伊吹マヤがモニターが使えないので、双眼鏡越しに状況を把握して指示を出す。

何から何まで異例尽くしの起動準備ではあったがなんとか舞台は整った。

大人にできることはここまでだ。

あと彼らにできることはパイロット、すなわち子供たちが来ることを信じて待つことだけであった。

 

 

「わんこくん、今前見たら私のセクシーなパンツが見放題だよ~。」

 

「そ、そんなもの見るわけないだろ!」

 

「そんなものって...うら若き乙女のセクシーパンツをなんじゃと思っとるんじゃあ!!!ほら見なさい!!!」

 

「ちょっと、こんな狭いところで暴れないでよ。板が抜けちゃうって...うわぁ!?」

 

 

上空の排気ダクトが外れて、中からマリ、シンジ、レイの3人が落下してきた。

ついに最後のラストピースが揃った。

その様子を無言で見ていたゲンドウは、すかさず次の指示を出す。

 

 

「各機、エントリー準備。」

 

 

ゲンドウの指示で大人たちがまたせわしなく動き始める。

シンジたちは既にエヴァの発進準備ができていることに気付く。

しかし、電気のないなかでどうやって準備を進めたのか。

子供たちの問いに答えたのはリツコだった。

 

 

「何も動かない中で、人の手でね。司令のアイデアよ。」

 

「父さんの...?」

 

 

シンジの視線の先には汗にまみれて険しい表情で、力仕事に勤しむゲンドウの姿があった。

 

 

「碇司令はあなた達が来ることを信じて、準備してたのよ。」

 

 

シンジの瞳に、頑張る父の姿が焼き付いた瞬間だった。

 

 

 

 

停電により自動射出装置が使えない、エヴァ3機は射出口を自力で登っていくしかなかった。

上から、マリ、レイ、シンジの順番で上がっていく。

 

 

「まさしく、ス〇イ〇ダーマンだね。」

 

 

2号機の色味とも相まって、某蜘蛛人間を彷彿とさせる姿でマリたちは地上を目指す。

しかし、そう簡単に事は進まないのが使徒との戦いである。

上空から謎のオレンジ色の液体が降ってくる。

見たことのない色の液体に当然マリは警戒するが、今の通路に張り付いている状態では回避のしようもなかった。

液体が2号機の手足に付着する。

液体に触れた部分が急速に溶けていく。

謎の液体の正体は、使徒の発する強力な酸性液だった。

 

足場を溶かされて踏ん張りを失ったマリは、重力に引き寄せられて下へと真っ逆さま。

レイの零号機に激突した。

咄嗟のことにレイも対応できずに、マリと一緒に落下する。

 

 

「わんこくん、受け止めて~。」

 

 

マリの悲鳴で、いち早く状況を察せたシンジは空から落ちてきた2人のお姫様を背中で受け止める。

エヴァ2体分の重量に押されて落下する体をシンジは必死の形相で何とか持ち答えた。

 

 

一難去ったシンジは、安堵のため息をつくととんでもない失言をポロリと零してしまった。

 

 

「お、重い...」

 

「あー!?重いって言った!!それは禁句なんだよ、わんこくん。というかねぇ、このおっぱいでこの重さは十分軽い方なんだよ!そんなことも知らないのワンコくんは!?っていうかいつもいつも...」

 

「一端作戦を考え直しましょ。2人とも。」

 

 

いつもの痴話喧嘩が始まりそうになったところでレイが冷静に止めに入った。

 

1度、近くのダクトに逃げ込んだ3人は使徒を撃破する作戦について話し合う。

 

 

「使徒は強力な溶解液で、直接本部への侵入を図るつもりね。」

 

「やっつけるしかないにゃ。」

 

「でもどうやってだよ?ライフルは落としちゃったし、予備電源のバッテリーは後3分しか持たないし。」

 

「ダイジョーブ!作戦はもう考えてあるにゃ!」

 

 

マリの作戦は以下の通りだ。

ライフルで使徒を直接射撃する『オフェンス』

下降して落ちたライフルを回収してオフェンスに渡す『バックアップ』

オフェンスを溶解液から守りながらATフィールドを中和する『ディフェンス』

3人がそれぞれこの3つの役割を担うというものだ。

この3つの役割の中で最も危険が伴うのは当然肉壁とな『ディフェンス』である。

 

「ディフェンスは僕がやるよ。」

 

「だめー!ディフェンスは私がやるにゃ!浅間山の時のお返し。わんこ君を痛い目にはあわさないからねっ。」

 

 

ディフェンスを勝ち取り、勢いよく飛び出そうとするマリをレイが止めた。

 

 

「だめ。私がやるわ。シンジ君は...私が守る。」

 

「レイ...」

 

「おー!大胆な告白だにゃ。こりゃ私もウカウカしてられないね。」

 

「私がディフェンス。シンジ君がオフェンス、マリさんがバックアップ。...これがいい。」

 

「今日は先輩がリーダーの日だから大目に見てあげるかにゃ。わんこ君へのお返しはその内するから楽しみに待ってて。」

 

「...うん。ありがとう。レイ、マリ。」

 

 

3人はモニター越しに目線を合わせると同時に頷いた。

お互いを信頼して背中を預ける、これがチームになるということなのだとシンジは心の中で思った。

 

「それじゃあ,,,作戦開始。」

 

「「了解!」」

 

 

レイの合図で3体のエヴァが勢いよく飛び出す。

零号機が、初号機を覆いかぶさるように両手を広げた。

零号機の無防備な背中に、容赦なく酸性液が降り注ぐ。

零号機の装甲が溶解液で溶かされる。

 

 

「くっ...」

 

 

レイは背中が火傷したように痛みに襲われる。

時を同じくして、マリがスラスターで爆速で射出口を下降する。

ものの10数秒で最下層に到達した、2号機は地面スレスレで急速ブレーキをかける。

あの速度で下降して地面に激突していないのはマリの卓越した操縦スキルのなせる業だった。

 

 

「ブラスター一丁、どうぞー!」

 

 

2号機によって投げられたブラスターは、寸分違わぬ正確さで、初号機の元へ渡る。

 

 

「レイ、避けてっ!」

 

 

シンジの合図で零号機が離れる。

シンジは、使徒を正確に照準の中に捕えてその引き金を引いた。

ライフル弾は正確に使徒を撃ち抜き、激しい爆発音とともに使徒が破裂した。

 

 

 

 

見事に第9使徒『マトリエル』を撃破したシンジたちは、第3新東京市を一望できる丘の上から依然電力の復旧していない街を見下ろしていた。

3人は仲良く川の字に寝転がり、星を眺める。

 

「電気、人口の光が無いと星がこんなに綺麗に見えるなんて皮肉だね。」

 

「昔はこの光景が当たり前だったのに...」

 

「またおばさんみたいなこと言ってるよ。」

 

「おやおやわんこくん、だれがおばさんだって...?」

 

「な、なんでもないよ。はは...」

 

 

レイはシンジとレイのやり取りを無言で聞く。

その表情の中に確かな幸福感を滲ませながら。

 

 

「マリさん。」

 

「お、なにかにゃ?」

 

「マリさんは、私たちのことを名前で呼ばない。なぜ?」

 

「確かにそうだね。僕なんか始めて会ったときからずっと、わんこ君って呼ばれてるよ。」

 

「マリさんにも呼んでほしい。」

 

 

レイとマリはお互いに見つめ合う。

永遠にも感じるような一瞬の時間が流れて、マリは視線を逸らした。

マリは眼鏡を外すと、どこか憂いを含んだ笑みを浮かべる。

ただシンジが見慣れていなかったからなのか、はたまたほかの理由があったのか。

シンジにはそんなマリの姿が別人のように感じてしまった。

自分たちよりも何倍も多くの経験をして、人生の酸いも甘いも知り尽くした『大人』特有の憂いを帯びた表情。

 

 

「やだかにゃ。私にとっては、頼れるエヴァゲリオン零号機パイロットの『先輩』と、可愛い可愛い初号機パイロットの『わんこくん』だからね。」

 

 

眼鏡をかけ直したマリはいつの間にかいつもの明るい少女の顔に戻っていた。

 

 

 




使徒殲滅に己の業をぶつけるミサト
語られる過去
だが、成層圏より飛来する最大の使徒は、人々に希望を捨てさせた

次回、『奇蹟の価値は』

み~んなで見てね
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