新世紀エヴァンゲリオン〜もしセカンドチルドレンがマリだったら〜 作:神光の宣告者
ハーモニクステストが終わってから2時間後、葛城家ではケンスケ主催の『ミサトの昇進祝賀会』が開催されていた。
「昇進おめでとうございまーす!」
陽気な掛け声とともにグラスの重なり合う小気味いい音が聞こえて来る。
ビールを一杯あおり終えたミサトは上機嫌で参加者たちを見回した。
「みんなありがとう。」
ミサトは見事な笑顔でこの会の発案者であるトウジとケンスケに礼を言う。
この外面だけは完璧なミサトの笑顔に、ごく普通の健全な男子中学生であるトウジとケンスケはメロメロである。
「ちゃうちゃう、言い出しっぺはコイツですねん。」
「はい、企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケですっ!」
「ありがとう、相田くん。」
ミサトはケンスケの方を向くと、改めてお礼を言う。
先程と寸分も変わらない見事な笑顔で。
まるで貼り付けたような笑顔だった。
「せやけど、なんで委員長がここにおるんや?」
ケンスケは呼んだ覚えのない参加者にジト目を向ける。
ケンスケの視線に気付いたヒカリも負けじと、睨み返した。
風神と雷神、巨人と虎のごとく幾度と繰り返されたもはや伝統というべき二人の対峙である。
そんな二人の間に能天気な声が割って入る。
「はいはーい、私が誘いました〜!こんな胸のでかいいい女が1人で思春期男子中学生と飲み会してたら危険だからにゃ。」
「安心して、真希波さん。私の目が黒い内は、こいつらには絶対馬鹿な事はさせないわ。」
マリとヒカリが楽しそうに笑い合う。
マリはすっかり第壱中学校に馴染んで、独自の交友関係を築いているようだ。
「そういえば、レイは?」
ミサトはレイの姿が見えないことに気付く。
昔のレイならまだしも、今の心を開き始めているレイなら来てもおかしくないとミサトは思っていた。
「そろそろ来るはずだにゃ。一旦家に帰ってから来るって言ってたにゃ。」
「お!噂をすればなんとやらやな!」
タイミングよくインターホンが鳴り、シンジがドアを開けるとそこには見慣れた制服ではなく真っ白なワンピースに身を包んだレイがいた。
「こんばんわ、シンジくん。」
「こ、こんばんわ……レイ。」
シンジがレイに見惚れているとレイは視線に気付いたのかその場で小さく一回転する。
「この服、マリさんがくれたの。着るとなんだか心がポカポカする。」
「似合ってるよ、レイ。本当にすごく似合ってるよ。」
「シンジ君にそう言われると心がポカポカする。」
レイはそう言うと胸のあたりに手を添えて満足そうに眼を閉じた。
その表情は幸せを嚙み締めているようにシンジには見えてなんだかシンジまで嬉しくなる。
人の幸せそうな表情を見て嬉しく感じるなどシンジには初めての経験だった。
『できることならこんな毎日を過ごしていきたい』、元来他人が嫌いなシンジにとって始めて抱く感情だった。
中々戻ってこないシンジを心配したミサトが様子を見に来る。
「シンちゃーん、大丈夫?……あら、レイ可愛い服じゃない。」
「ありがとう。……つまらないモノですが。」
レイは機械的にそう言うとミサトに、包み紙を渡した。
ミサトは目を丸くしながらその中身を確認する。
そこには、かなり高級そうな日本酒が入っていた。
「あらどうも、お酒だなんて気が利くじゃない。」
「食事会に誘われたら手土産を渡す。碇司令が言ってた。」
「うげっ!?碇司令の贈り物!?レ、レイ~碇司令にはしっかりお礼を申し上げておいてね。」
ミサトは一気に酔いが醒めたのか冷や汗を垂らしている。
そんな様子を、ミサトの旧友たちが笑いながら茶化す。
「そんなにペコペコするなよ、葛城三佐。」
「そうよ。司令と副司令は今、南極にいるんだからそんなに気を張る必要はないわよ。」
玄関に現れたのは、仕事帰りのリツコと加持だった。
こうして『ミサトの昇進祝賀会』の参加者が全員揃い、祝賀会は楽しい雰囲気のまま騒がしく深夜まで続いた。
✳︎
「グー、ガー、グー、ガー」
祝賀会がお開きになり葛城家にはミサト、マリとシンジだけとなる。
シンジは、さっきまでの騒がしさのギャップで妙に寂しい気持ちになってしまった。
「ミサトさん、流石のおおイビキだにゃ。私もそろそろ寝ようかにゃ〜。」
マリは眼鏡を外して眠そうに目をこする。
そんな様子を横目で見ていたシンジは、少し緊張した面持ちでマリに呼びかけた。
シンジは確かめたかった。ハーモニクステストの終わり、いつものように抱きついてきた時に感じだ違和感を。
「マリ、大丈夫……?」
「ん、なんのことだにゃ?」
「ほら、最近さ。ハーモニクスの数値がちょっとさ……、なんか悩み事でもあるのかなって……。」
少し前の、他人との付き合いを拒絶していたシンジならこんなことは決して聞かなかっただろう。
しかし、マリと出会いシンジも少なからず変化し始めている。
マリやレイと過ごす時間を心地よく感じ始めている自分。
それと同時にこの3人の関係性が変わってしまうことがどうしようもなく怖くなり始めている自分。
以前なら絶対に存在しえなかったであろう新たな自分の存在を、シンジは戸惑いながらも受け入れ始めていた。
自分にとって変わってほしくないものを守るため、意を決してマリに質問を投げかけた。
「……」
マリは答えずにじっとシンジを見つめる。
「それを知ってどうするの?君はそれを知る勇気があるの?」
「え?」
いつもの明るい親しみやすいマリとは似ても似つかない、落ち着いた知的な声音で問いかける。
シンジはまるで、大人に詰められているような錯覚に襲われて体が強張った。
マリの真っ直ぐな瞳から逃げるようにシンジは視線を逸らす。
その様子を見てマリは小さくため息をついた。
「自分がどうしたいかも分かってないような子供が私を救えるわけないじゃない。君のその優しさは、みんなを不幸にするだけだよ。」
震えるほど冷たい声音で吐き捨てるように言ったマリは、静かに立ち上がると自室へと行ってしまった。
1人取り残されたシンジはただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
「僕は、意気地なしだ……。」
✳︎
「いかなる生命の存在も許さない死の世界、南極。……いや地獄というべきかな。」
南極。
15年前のセカンドインパクトにより真っ赤な海へと姿を変えた、全ての始まりの地である。
とある極秘の任務でゲンドウと冬月はこの地を訪れていた。
「だが我々人類はここに立っている。生物として生きたままだ。」
「科学の力で守られているからな。」
「科学は人の力だよ。」
あまりにも傲慢なゲンドウの態度に冬月は、忠告する。
これは、もと教授である冬月の一種の職業病のようなものであった。
「その傲慢が15年前の悲劇、セカンドインパクトを引き起こしたのだ。結果、この有り様だ。与えられた罰にしてはあまりに大きすぎる。まさに死界そのものだ。」
「だが、科学は時に我々の想像を超えた成果を示す時もある。」
「
冬月は手元にある古い一枚のスナップ写真を見る。
そこには少し若いゲンドウと冬月、そして今は亡き碇ユイがいた。
そしてその彼女の隣で快活な笑顔を浮かべる今現在と全く見た目の変わらないマリの姿もあった。
「ああ。人類補完計画、その鍵とするにはあれはいささか頼りない。……彼女にはせいぜい頑張ってもらおう。」
「今の彼女はまるで○%×$☆♭#▲!※にそっくりだがな……。」
冬月の最後の言葉はけたたましく鳴るアラートによってかき消された。
✳︎
NERV本部のモニターに使徒の姿が映し出される。
その場にいた職員誰もがその規格外の大きさに言葉を失った。
「目標に接触します。……サーチスタート。受信開始。解析開始。……データ送信します。」
突如、使徒の眼光が鋭く光り、次の瞬間映像が途切れた。
衛星解析機が破壊されたのだ。
「ATフィールド!?」
「新しい使い方ね。」
「リツコ、解析お願い。」
NERV科学班による使徒の解析が始まる。
人類トップクラスの叡智が集結したNERV科学班による使徒解析に要した時間はわずか、3時間と13分24秒であった。
解析を終え作戦室にやってきたリツコとマヤが、作戦部に使徒の説明を始める。
「ATフィールドと落下による位置エネルギーを利用した攻撃。まるで使徒そのものが爆弾みたいなものね。」
「とりあえず、初弾は太平洋に大外れ。ニ時間後の第二射がここ。そこからは、確実に誤差修正してるわ。」
「学習してるってことか……。」
「N2航空爆雷も効果ありません。以後使徒の消息は不明です。」
「来るわね、多分。」
「ええ、次はここに本体ごとね。」
説明を聞き終えたミサトは真剣な表情で次なる一手を考える。
「碇司令とは連絡取れた?」
「使徒の放つ強力なジャミングのため連絡不能です。」
「MAGIの判断は?」
「全会一致で撤退を推奨しています。」
ミサトは下を向いて考え込む。
今、地球の未来はミサトの相肩にかかっている。
普通の人間ならこの余りにも重い重圧に押し潰されてしまうだろう。
しかしミサトはその強靭な精神力で冷静に状況を分析する。
人類の最後の砦として我々がとるべき行動とは何なのかを。
「どうするの?今の責任者はあなたよ。」
親友に促されたミサトは意を決したように顔を上げると、矢継ぎ早に指示を出していく。
そこに迷いは一切なかった。
「日本政府各省に通達。NERV権限における特別宣言D17。半径50キロ以内の全市民は直ちに非難。松代にはMAGIのバックアップを頼んで。」
「ここを放棄するんですか?」
「いいえ。……ただみんなで危ない橋を渡る必要はないわ。」