新世紀エヴァンゲリオン〜もしセカンドチルドレンがマリだったら〜 作:神光の宣告者
「にゃー!?手で受け止める……?」
作戦室にマリの驚愕する声が響き渡る。
作戦室では今まさに第10使徒『サハクィエル』の作戦会議が行われていた。
「そう。落下予測地点にエヴァを配置。ATフィールド最大であなたたちが直接、使徒を受け止めるのよ。」
ミサトの建てた使徒破壊作戦はこうだ。
まず、使徒の反応がロストした地点を元にMAGIに落下予測地点を計算させる。
その落下予測地点は第三新東京市を中心とした半径50キロの円である。
この円の全域をカバーするために、3機のエヴァを等間隔で円周上に配置する。
そして、使徒落下地点にエヴァを先回りさせてATフィールド全開で受け止めるというものだった。
「使徒がコースを大きく外れたら?」
「その時はアウト。」
「機体が衝撃に耐えられにゃかったら?」
「その時もアウト。」
「勝算は?」
「……神のみぞ知るところね。」
作戦というにはあまりにもお粗末な計画に、シンジ、マリ、レイは閉口してしまう。
作戦室に重苦しい沈黙が流れるなか、3人の子供を代表してマリが3人の思いを代弁する。
「これが作戦なんて笑っちゃうにゃ。」
「ホント……こんなの作戦と言えないわよね。だから嫌なら辞退することもできるわ。……どうする?
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みんな、いいのね?」
大人からの残酷な問いに、子供たちは小さく頷くだけだった。
「規則だと、遺書を書くことになってるけどどうする?」
「いらないにゃ。まだ死ぬつもりはないしぃ。」
「私もいらないわ。必要ないもの。」
「ぼくもいいです。」
険しい表情でシンジたちに作戦の説明をしていた葛城三佐の表情が少し和らいで、保護者のミサトとしての顔になる。
「すまないわね……。終わったらみんなにステーキ奢るから。」
「やったにゃ!」
「わ、わーい……。」
「ふふ、期待してて。」
そう言うと、ミサトは作戦室をあとにした。
貼り付けたような笑顔を剥がして、真顔へと戻るシンジ。
そんなシンジの様子にマリは小さく笑う。
「なかなか迫真の演技だったにゃ。」
「それでミサトさんが気持ちよく指揮できるならいいじゃないか。」
「偉いぞ偉いぞ。その場を上手くやり過ごすためには時には自分も偽る。これも大人の必須スキルだにゃ。」
「また大人みたいなこと言って……。」
「にゃにゃ!?またおばさん臭いって言ったにゃ!?」
「うわっ!?言ってないってば、だから抱きついてくるなって!?」
✳︎
落下予測時間まで120分です。
整備班は機体最終チェックを行って下さい。
繰り返します。
落下予測時間まで120分です。
整備班は機体最終チェックを行って下さい。
繰り返します。
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大人たちが騒がしく行ったり来たりする姿を眺めながら、プラグスーツに着替えたシンジたちは出撃するその時を静かに待っていた。
3人はポツポツと短く言葉を交わしていく。
「ねぇ、マリはなぜエヴァに乗ってるの?」
「生きるためだにゃ。」
「そっか……。」
「レイはどうなの?」
「3人でいると心がポカポカする。シンジ君とマリさんが乗るなら私も乗る。」
「そっか……。」
「ワンコくんどうなのかにゃ。エヴァに乗る理由は見つかった?自分がどうしたいのか。」
シンジは過去の自分を思い返す。
シンクロ訓練で家を飛び出した日、コンビニで聞かれたこの質問。
あれから月日が経ってシンジは多くの経験を積んできた。
あの時の自分から少しは成長できているのだろうか。今、自分の手の中には何があるのだろうか。
見えかけたその答えは、はっきりと口に出すにはまだその勇気は持てなかった。
「まだ……分からないかな。」
「分からない……ね。いつかは決める時が来るんだよ。自分がどうしたいかを。」
✳︎
目標を最大望遠で確認
距離およそ25000
「エヴァ全機スタート位置。目標は光学観測による弾道計算しかできないわ。よってMAGIが距離一万までは誘導します。その後は各自の判断で行動して。……あなた達に全て任せるわ。」
使徒接近、距離およそ20000
「作戦開始!」
ミサトの声と共にエヴァが3機が勢いよく走り出す。
距離12000
出力を最大にまで上げる。
自身の体とエヴァとの繋がりがより強くなっていくのをシンジは感じた。
雲を掻き分けて現れた使徒は、己の目を疑うほどに巨大な存在である。
落下地点に最初に到達したのはマリの弐号機だった。
「ATフィールド全開!!」
弐号機を中心に強力なATフィールドが発生する。
巨大な爆弾と化した使徒は待ち構える弐号機の頭上に覆い被さるように降ってきた。
「うりゃああぁぁぁぁぁああああ!!」
マリの獣のごとき咆哮とともに弐号機が使徒を受け止めた。
「零号機ATフィールド全開!!」
弐号機の到着から遅れること18秒、レイの零号機が落下地点へと到着する。
弐号機と零号機、2機のエヴァにより使徒の受け止めに成功した。
残すは使徒の破壊。
初号機が到着してコアを破壊すれば完了だ。
まず最初の関門を突破し、作戦室に安堵のため息が漏れる。
一瞬、緊張が和らいだその瞬間だった。
作戦室に忌々しいアラート音が鳴り響く。
「弐号機パイロットのバイタルに異常あり。プラグ深度に異常。汚染区域に近付いていきます。」
「弐号機のシンクロ率が下がって行きます。このままでは停止します。」
「マズイわ……マリ聞こえる!?」
「弐号機内部レコーダーロスト。パイロットの状況不明。」
「パイロットの生死を最優先で確認しろ。」
「零号機、機体損傷率5%、7%……13%零号機1機だけじゃ長くは持ちませんよ!?」
「初号機落下地点到着まで50秒。」
「弐号機活動停止。暴走の兆候は今のところ見られません。」
混乱の広がる作戦室を、切り裂くようにマリの悲鳴がこだました。
「死ねっ!!オマエは先輩じゃないっ!消えろぉぉぉぉぉ!!」
✳︎
『死ねっ!!オマエは先輩じゃないっ!消えろぉぉぉぉぉ!!』
「マリ!?大丈夫なの!?マリ!マリ!!」
マリの泣き叫ぶような悲鳴を聞いたシンジは、必死にマリに呼びかける。
しかし、シンジの声は届いていないのかマリからの反応はない。
落下地点までは最速でもあと48秒。
マリの元へ行けない時間がとてももどかしく感じてしまう。
焦るシンジにミサトから通信が入る。
「落ち着いて聞いてシンジ君。問題発生よ。弐号機が動作不良。いまはレイが1人で持ち堪えている状況よ。」
「動作不良って……マリは大丈夫なんですか!?」
「今のところは不明よ。でもこれだけは言えるわ、シンジ君。この作戦が失敗すれば元も子もないの。だからシンジ君はとにかくこの作戦を成功させることだけを考えて。今から代替案を説明するわ。」
「不明って……それで納得できるわけないじゃないですかっ!」
「あっ、シンジ君!?」
シンジはミサトとの通信を半ば強制的に切断する。
「僕はなんでこんなに腹が立ってるんだ……。」
シンジは自分の手から血が出るほど強くレバーを握っていることに気がついた。
自分は何に怒っているのだろうか。
マリを少しも気にしていないミサトの態度に?
目的もわからずに自分たちを襲う使徒に?
訳もわからずこんなものに乗せられている今の自分に?
自分とちっとも向き合ってくれない父親に?
違う、僕はマリとレイが危険な目に遭っているから怒っているんだ。
ミサトを、トウジを、ケンスケを、僕が守りたい人たちが危険な目に会っていることに怒っているんだ。
僕は守りたい。僕が守りたいと思っている人たちを。
『本当にそれでいいの?』
「か、母さん……?」
シンジの耳に母親の声が聞こえた気がした。
次の瞬間、シンジの意識は闇へと消えた。
✳︎
目が覚めると、そこは知らない天井だった。
シンジはまだ上手く回っていない頭を必死に動かして状況を整理しようとする。
マリの悲鳴が聞こえて来て、ミサトさんから連絡がきて、そして母さんの声が聞こえて……
「わんこくん、大丈夫?」
生きているのかどうかも定かではない中で、どこからか聞き馴染みのある声が聞こえる。
マリの声の出どころを探して顔を上げる。
マリの姿はとても痛々しかった。
全身を包帯でぐるぐる巻きにされており、トレードマークの眼鏡はレンズがバキバキに割れて使い物になっていない。
マリの生きている姿を見てシンジは安堵の声を漏らす。
「よかった……無事だったんだ。」
「わんこくんのおかげだにゃ。」
「え?」
「凄かったにゃー、あの動き。ばーんって飛び出したかと思ったらビャーンとやってビリィぃぃっといってブシューだもんにゃー。」
マリの微妙にわかり辛い説明を聞くところによれば、どうやら使徒はシンジが自分で倒したらしい。
使徒を倒した実感がないシンジは不思議な気持ちでマリの話を聞いていた。
「シンジくん、目が覚めたって!?」
シンジの病室に慌ただしく入って来たのは、ミサトとレイだ。
ミサトは相当急いで来たのかゼーゼーと肩で息をしている。
レイもマリほど重傷ではないもののところどころ包帯を巻いていた。
レイの目元が泣き腫らしたように赤くなっているのは気のせいだろうか。
「シンジ君もう平気?」
「う、うん。体は特にどこも痛くないかな。」
「よかったわ……初号機があの損傷だったから、もうダメなんじゃないかと……。」
ミサトに強く抱きしめられたシンジはようやく自分が生きているのだということを実感する。
「それじゃあミサトさん、わんこ君も無事生還したということで約束通り高級寿司屋へレッツゴー!」
「げげっ!?寿司屋になったの!?」
「先輩が肉苦手らしいから、寿司屋に行くことになったにゃ。」
「回らない寿司は駄目よ。ぜったいにぜーったいに駄目だからね!?」
「にゃんでもご馳走してくれるって言ってはずだにゃ!!」
「言ってた。」
「レイまで……。」
マリとミサトとレイが楽しそうに会話している後ろ姿を、シンジは微笑ましそうに眺める。
シンジも後を追うように勢いよくベットから飛び出すと、マリを呼び止めた。
シンジはマリを瞳を真っ直ぐと見つめる、今回は途中で逃げたりはしない。
強い意志を持ってマリと向き合った。
「あのさ……僕わかったんだエヴァに乗る理由が。僕は、僕の守りたい人を守るためにエヴァに乗るよ。ミサトさんやレイ、トウジやケンスケ、委員長とかさ……そしてマリも。まださマリの全部を知る覚悟はできないけど、ちょっとずつでもマリのことを知って行きたいと思ってる。だから……これからもよろしくね。」
「う、うん。こちらこそよろしく……。」
この日シンジは始めて、マリの頬が赤く染まった姿を目撃した。
母親の命日、邂逅する過去と現在
愛する人の前で彼らは何を思う
次回、『嘘と沈黙』