新世紀エヴァンゲリオン〜もしセカンドチルドレンがマリだったら〜 作:神光の宣告者
痴話喧嘩に置いていかれた子供たちは、空母内へと入って行き、食堂で休憩していた。
「ところで誰がサードチルドレンなんだにゃ?」
マリはシンジをじっと見ながら質問を投げかける。
まるでシンジがサードチルドレンであることを知っているかのように。
「あ、えと、僕がエヴァンゲリオンのパイロットの碇シンジです。」
「君が碇……シンジくん。碇……。」
マリはシンジの目をジッと静かに見る。その表情はさっきまでの笑顔から一変して、懐かしさを噛み締めているような、悲しそうな、恨んでいるような、様々な感情が入り混じった表情をしている。
何も言葉を発さないまま数十秒が経過した。3人の間に気まずい空気が流れる。突然マリは口元をニヤリと歪めてシンジの首筋に鼻を近づける。
「クンクン……いい匂い。L.C.Lの香り……それに先輩の……。」
「あ、あ、あの……真希波……さん!?」
「おまっ!?いきなりセンセに何しとるんや!?」
シンジの顔がみるみるうちに真っ赤になり、小刻みに痙攣している。
一通りシンジの匂いを堪能するとマリはさっとシンジから離れて顔を真っ赤にして固まっているシンジにウィンクをする。
「同じエヴァのパイロット同士よろしくにゃ。わんこくん。」
「え、あ、えと……その、よろしくお願いします。」
「ん!よろしくよろしく。じゃあ早速ついてきて欲しいにゃ!」
マリはそう言うと、シンジを強引に引っ張って食堂から出ていってしまった。
「ちょ!?おい、センセ。ワシを一人にせんといてくれ〜」
✳︎
加持を連れてミサトは鼻息荒く、オーバー・ザ・レインボーのブリッジへと向かっていた。
「あんたね、なんでそんなに機密事項をペラペラと喋るのよ!?」
「女の子と話すと楽しくなっちゃってツイね!」
「『ツイね!』じゃないわよ!?もし盗聴されてたらどうするつもりなのよ!?」
「別に葛城たちが来ることがバレても大して問題ではないだろ。」
「そうかもしれないけど……そういう問題じゃなくて……。」
加持はミサトの背後から強引にミサトを抱きしめようする。
ミサトは体をピクリと強張らせて、乱暴に加持の手を振りほどく。
「ちょっと、止めて!まだ説教は終わってないの。」
「久しぶりの再会だってのに釣れないな、君は。」
「大体あんたとはもう……」
ミサトはぶつぶつと何やら独り言を呟きながら先程よりも早足でブリッジへ向かう。
加持はそのミサトの様子を見て怪しげな笑みを浮かべると、少し遅れてミサトの後をついていく。
再びミサトに近づいて、耳元で囁く。
「んで、わざわざ大っ嫌いな俺と二人きりになってまで聞きたいことはなんだ?」
「やっぱり気づいてたんじゃない、バカ。」
ミサトも小声で加持の言葉に応じる。
すれ違う兵士たちは皆ギロリと密談を交わす加持とミサトを見ている。その視線には勤務中にイチャつくなという非難の意味の他に、嫉妬も混ざっていることを加持は悟った。
(この船にいる女性二人とも俺の連れだからな。)
加持がどうでもいい事を考えていると、ミサトが小声で質問してくる。
「あの子は一体何者?」
「マリかい?あの子はセカンドチルドレンさ。」
「そういう事を聞いてるんじゃないの。……あの子についてデータベースで色々調べたわ。そしたら過去の経歴は全て削除済み。レイと同じパターンよ。あの子は一体何者?」
ミサトは再び同じ質問を投げかけてくる。
加持はしばし沈黙してから返答する。
「あの子はマルドゥック機関から選ばれたセカンドチルドレン、俺にわかることもそれだけさ。」
「大体レイといいマリといいなんでエヴァのパイロットはこんな簡単に過去の経歴が消されてるのよ。」
「上にも色々と都合があるんだろ……知られたくない何かがね。」
加持は頭の中である記憶を思い出す。ネルフのユーロ支部で始めて真希波に出会った日のこと、そしてセカンドチルドレンの情報を碇司令に報告した日のこと。
(彼女が敵か味方か今はまだわからない。彼女の情報は人類補完計画とともに今俺が最も欲しいものだ。)
「加持くん、君をブリッジに招待した覚えはないぞ!」
話に夢中になっていた二人は知らぬ間に、ブリッジへと到達していた。
そこには国連軍海軍の白い制服に身を包んだ大柄の男が椅子に座っていた。
年齢は明らかにミサトや加持よりも上で見るからに昔気質の軍人といった様子のこの男こそ、国連軍正規空母『オーバー・ザ・レインボー』の艦長である。
深くかぶった帽子から鋭い視線をミサトと加持に向けている。
その視線からもミサトたちが歓迎されていないことがよくわかる。
「ま!そう言うことだから、後は頼みますね葛城作戦部長さん。」
加持はそう言うと踵を返して、ブリッジから離れていく。
「え、ちょっと……アイツ……!」
ミサトは厄介ごとを押し付けてそそくさと帰ろうとしている加持を恨めしそうに見ながらブリッジへと入る。
今からこの気難しそうな艦長から受け渡し書類のサインをしてもらわなければならない。ミサトは心の中で深くため息をついた。
✳︎
「これが弐号機?」
「そうにゃ!」
赤いL.C.Lで満たされたコンテナの中にシンジとマリはいた。
マリはそのコンテナを覆う大きなローブを少しめくりシンジにその中身を見せている。
「赤いんだ、弐号機って。」
「そうにゃ!本当はピンクにしてってお願いしたんだけどネルフの人たちに却下されちゃったんだ。」
「へ、へぇ、残念だったね。」
(ピンク色のエヴァはなんとなく僕もダサい気がする……)
「一応これが実戦用に作られた世界最初のエヴァンゲリオンらしいにゃ。」
マリは興味なさそうにエヴァンゲリオン弐号機の周辺知識について説明する。
「いいにゃ〜、わんこくんはもう3体も使徒を倒してるんでしょ。私も早く戦いたいなぁ。この弐号機で華麗に使徒の懐に入り込んでコアをひと突きぃ!ってね。」
マリは大げさにナイフをコアに突き立てる真似をした。
シンジはそんなマリの様子を黙って見ながら不機嫌そうに顔を背けた。
「使徒と戦うのはそんないいもんじゃないよ……。」
「にゃ……?どうしたのわんこく……うわぁ!?」
マリの言葉が終わり切る前に船が大きく揺れた。突然のことにマリとシンジは体勢を崩して倒れる。
「イタタタ……」
「いきなり揺れて驚いたにゃ……それはそうとわんこくん、意外とエッチだね。」
シンジはマリに言われてふと自分の状態を確認する。
シンジは今マリの上に覆いかぶさり、右手はコンテナに、そして左手はマリの胸を鷲掴みしていた。
(これじゃ、綾波の時と同じだ……)
綾波の時よりも強い弾力を感じている手を慌てて離す。
「真希波さん!?ごめんなさいそんなつもりは……。」
「あははは。いいよいいよ〜。思春期の男子はみんな私のこの胸に釘付けなのは仕方ないことだしね〜。」
マリは妙に達観した様子で話す。
身振り、手振りに合わせて揺れる胸と、手の中の感触を思い出してまた顔を赤くする。
(これから命を預ける仲間を性的な目で見るなんて、僕は最低だ……)
「あっ!見て見てなんか水中を移動してるよ。」
シンジが自己嫌悪に陥っていることなど全く気づいていないマリはいつの間にかコンテナの外へと飛び出して外の様子を見ていた。
マリの声で現実に戻ってきたシンジも外を見てみるとちょうど戦艦が水中を動く巨大な影に激突して爆散していた。
「あんな大きな体で水中をスイスイ動けるのは……。」
「使徒しかいない。」
「思わぬ形でチャンス到来!」
「え!?真希波さんどこ行くの?」
マリはそう言うとシンジの手を引いてコンテナの中へと入っていった。
マリはコンテナの中に戻ると、ピンク色のプラグスーツを二つ持ってきてそのうち一つをシンジに渡した。
「何これ?」
「何これって、一緒に出撃するに決まってるにゃ!またとないチャンスだよ!!」
「ミサトさんの許可もらってないよ。」
「許可なら勝った後に貰えばいいにゃ!」
マリはそう言うとシンジの前で着ていた水着を脱ぎ出した。
「真希波さん、なんでこんなところで着替えてるの!?」
「え?そんなこと気にしてるの?ごめんごめんじゃあ私はここで着替えるからわんこくんはあそこの階段で着替えてくるといいよ。」
「普通逆じゃないかな……。」
シンジはそう言いながらもなお衣ずれの音がし続けるこの場所に居続けるわけにもいかず慌てて階段へと向かった。
✳︎
「L.C.L 満水。
起動開始。
神経接続開始。
圧着ロック解除。
行くよ、わんこくん…シンクロ開始」
「本当に大丈夫かな……。」
「なんとかなるっしょ!エヴァンゲリオン弐号機、起動!」
赤い巨人が戦艦の上に降臨する。