新世紀エヴァンゲリオン〜もしセカンドチルドレンがマリだったら〜 作:神光の宣告者
ミサトの家を飛び出したシンジは家の近くのコンビニにいた。
古めかしい歌謡曲が永遠と流れる店内で、座り込む。
(やっぱり僕はダメな奴なんだ。たまたまエヴァに乗れたから戦ってるだけで、綾波や真希波みたいに才能があるわけでもない。たまたま今までは僕と綾波しか戦える人がいなかったからみんな僕を気にかけてくれてただけで、真希波が来た今もう僕は必要ないんだ。今回だって綾波と真希波が組んだ方が上手くいくし。ミサトさんだって真希波を家に呼んで、その内僕を捨てるつもりなのかもしれない。じゃあ僕の存在意義ってなんなんだろう。………)
「わんこくん?」
「……」
シンジは背後にいるマリに気付かないフリをして無視する。
「わーんーこくーん?」
「……」
マリはいつものニヤリとした笑顔を浮かべると、背後からシンジに抱きついた。
「やめてよっ!」
シンジは力任せにマリを突き飛ばした。
ガツンという無機質な音と、マリの呻き声が聞こえる。
「いったたー……意外と力あるにゃー。わんこくんもちゃんと男の子なんだね。」
シンジは我に帰り自分のしてしまったことに強烈な罪悪感を覚える。
(このまま真希波たちと一緒にいたら僕は自分を許せなくなっちゃう。僕はいない方がいいんだ。そうだ、エヴァのパイロットも見つかったんだし、父さんにお願いして辞めさせもらおう。)
再び思考の海に落ちようとしていたシンジの背中に温かい温もりを感じる。
温もりの主はマリだった。
シンジは咄嗟にまたマリを突き飛ばそうとしてしまう。
力を込めた腕から不意に力が抜けていく。
「時には誰かを頼る事も必要だにゃ。」
真希波の声は普段の底抜けに明るいものとは違う、暖かい温もりのある声だった。
自分の醜い部分、弱い部分、そういった全てを認めて、優しく受け入れてくれるようなそんな優しい声。
「か、母さん……。」
突然、シンジの脳裏に遥か記憶の彼方に消えた母親の面影を感じた。
「わんこくんは、どうしたいの?戦いから逃げ出したい?それとも私と一緒に戦いたい?」
シンジは黙り込む。
(本当に自分がどうしたいのか?
幾度となく生死を彷徨い、そのたびに何度も辞めたいと思ってきた。
それでも何で僕はまだエヴァのパイロットをしてるんだろう?)
「わからない。分からないんだ。でも……」
「でも?」
「その答えを見つけるまではまだエヴァのパイロットでいたいと思ってる。」
シンジの煮え切らない答えを聞いたマリは、一つ深く頷くと、コンビニの棚から二本のエナジードリンクを取り出した。
そしてその内の一本をシンジの頬につける。
冷たさに驚いたシンジが顔を上げる。
そこには、いつものマリの笑顔があった。
「そっか。じゃあ明日から大特訓大会の開催だにゃ!!」
✳︎
かくして大特訓大会が始まった。
使徒攻撃予定日までの3日間、マリとシンジは日常生活におけるありとあらゆるものをともに行った。
起床、就寝の時間はもちろん、食事の時間や食べ物などありとあらゆる事を一緒に行った。
果てはマリが入浴まで一緒にしようと提案したがミサトの保護者としての鋼の意志のおかげで、シンジの貞操の危機を救われた。
こうした男女の性差に起因する幾つかの問題を乗り越えながら二人は成長していき、ついに作戦前日を迎えた。
「いい湯だな、アハハン。」
いつもの古めかしい鼻歌を歌いながら、マリが浴室から出てくる。
シンプルな半袖のシャツに短パンという非常にラフな格好をしているマリを見て、シンジは毎日顔を赤くしていた。
「そ、そう言えばミサトさん今日は明日の作戦の準備で帰って来れないって。」
「へー。じゃあ、今夜はわんこくんと二人きりだね。」
マリは獲物を見るような視線でシンジを舐め回すように見る。
本能的に身の危険を感じたシンジは、手早い手付きで自分の布団をリビングの隣の和室へと移した。
「今日は、二人だから別々に眠れるね。そ、そういうことだからおやすみっ!」
シンジは逃げるように、和室の扉を閉めた。
本能的な危険からの逃走に成功したシンジは安堵のため息をつく。
そしてまたお気に入りのウォークマンの電源を入れようとした瞬間、ゆっくりと和室の扉が開かれる。
少し空いた隙間からマリがちょこんと顔を出す。
「いつでも来てくれていいよ。」
「そ、そんな事するわけないだろ!?」
「おやすみ〜」
シンジは悶々とした気持ちの中、眠りについた。
✳︎
深夜ーー
マリは物音で目を覚ました。
起きていることを悟られないよう、動かないまま耳を澄ましてその物音の正体を探る。
(誰だろうか、まさかエヴァのパイロットである我々を殺しに来たのだろうか?)
そんな思考を頭の中で巡らせながらマリはミサトの持っているはずの拳銃の位置を思い返す。
物音はやがて近づいていきリビングに入ってきた。
(なんだ、わんこくんか……。)
物音の主が同居人である事を確認したマリは安心したように再び眠りに戻ろうとする。
眠りに入りかけたマリは、再び現実に引き戻された。
なんとシンジがマリの布団に入ってきたのである。
(まさかわんこくん、本当に入ってきたの!?)
シンジの性格上、夜這いは有り得ないと考えていたマリは予想外の展開に珍しく狼狽る。
そしてマリは意を決して、目を開けた。
そこにはーー
何か寝言を言いながら気持ち良さそうに寝ているシンジの幼い顔があった。
(なーんだ、やっぱり中学生ね。)
マリは心の中で安堵して、布団から出る。
(どうせ朝起きて私と同じ布団の中にいたら罪悪感がどうのこうのとか言い出しそうだし、ここは出ておくのが賢明にゃ。)
「母さん……。」
布団から出ようとしたマリはシンジから聞こえてくる寝言で動きを止める。
「お互いに大変ね。」
マリはシンジの目尻に溜まった涙を拭いてあげた。
その表情は母親が子供をあやすような母性に満ちていた。
✳︎
翌日ーー
『目標はーー防衛戦を突破』
『来たわね、今度は抜かりないわよ。音楽スタートと同時にATフィールドを展開。後は作戦通りに。二人とも、いいわね。』
「「了解」」
『目標は山間部に侵入』
「もうわんこくんに合わせたりしないからちゃんと、付いてきてね。」
「わかってるよ、62秒でケリをつける。」
『目標、ゼロ地点に到達します。』
『外電源、パージ』
『ーー発進』
クラシック音楽とともに二体の巨人が、使徒へ向かった飛び付いて行った。
✳︎
使徒を撃破したシンジは晴れやかな気持ちでエントリープラグから脱出した。
この成功を一刻も早くマリと共有したいシンジはマリの姿を探した。
マリは大きく手を振りながらシンジに向かって走ってくる。
「やったね!大成功だっ……ぐわっ!?」
シンジのセリフが言い終わる前に、マリはシンジに抱きついた。
そしていつものように首元を顔を埋めて、シンジの匂いを堪能し始めた。
「ご褒美だにゃ〜。」
「ちょっと真希波!?みんな見てるから、恥ずかしいよっ!!」
「良いではないか、良いではないか〜。」
「はーなーれーろー。」
「わんこくんだって昨日夜這いしてきたくせに冷たくないかにゃ?」
「ち、違うあれは寝ぼけてただけで!?」
「ひど〜い私とは遊びだったの?」
マリとシンジの痴話喧嘩にその場にいたNERV職員たちの間から笑い声が漏れてくる。
その中心で保護者であるミサトは頭を抱えていた。
「パイロット同士、仲良くなって欲しかったけど、こういうことじゃないのよ……。」
つづく
羽化直前の使徒が眠る浅間山火口
ネルフは初の捕獲を試みる
極地仕様のエヴァ弐号機が、灼熱の地獄へ挑む
次回、『マグマ・ダイバー』
この次も、サービス、サービスゥ!