新世紀エヴァンゲリオン〜もしセカンドチルドレンがマリだったら〜 作:神光の宣告者
「うわーすごい人混みだにゃ〜。さすが日本。」
「追いてかないでくれよ〜。」
とある休日、シンジはマリによってとあるショッピングモールへと連れ出されていた。
「もー遅いなあ。あっ……こうすればはぐれないで済むねぇ」
マリはいつものように口をへの字に曲げる。
これはマリが良からぬことを考えついた時にする癖だった。
マリの口元を見たシンジは嫌な予感がして慌ててマリから距離を取ろうとする。
しかしマリはそれを上回る速度でシンジの右腕に抱きついた。
右腕が感じる柔らかい感触にいつものようにシンジは赤面する。
「真希波!?恥ずかしいから離してよ。」
「わんこくんが遅いからいけないんだにゃ!!」
情けないことだがマリの力はシンジの数倍は強い。
シンジがどれだけジタバタしたところでマリから逃げ出すことは叶わない。
どうあがいてもマリから離れることは出来ないと悟ったのかシンジは大人しくなり、マリを受け入れた。
せめてもの抵抗として体は出来る限りマリから離して、あくまでも嫌がっている様子を装っている。
「それで今日はどこに行くんだよ?」
「ここだよ、ここ。」
マリが指差した先は水着ショップだった。
情熱的な赤から、大人の色香漂う黒まで様々な色の水着がズラリと並んでいる。
色には全く統一性の無い水着たちだがひとつだけ共通していることがあった。
それは全ての水着が一様に布面積が極端に小さいのである。
この余りにも刺激的な水着を目の当たりにしてシンジは、思春期の男子らしく咳き込みながら目を背ける。
そんな初心なシンジの様子を見てからかうようにマリは笑った。
「いやー、わんこくんは期待通りの反応をしてくれて楽しいね。」
「ど、どうして水着ショップなんかに……」
「どうしてって、もうすぐ修学旅行だよ!!しかも行き先は沖縄!!これは張り切って水着を新調するしかないにゃ!!」
いつもにも増して、テンションの高いマリの圧倒されてしまうシンジ。
「ナツナツナツナツ、ココナッツ、アイアイアイアイアイランド、ふーたーりー夢をかなえてる〜。」
マリはご機嫌で水着店の中に消えていった。
「僕が聞きたかったのはそういうことじゃなくて、なんで男の僕と一緒に来たのかっていう……」
シンジの小言など一つも耳に届いていないマリは、上機嫌で水着を選びに行った。
「わんこくーん、こんなのどお?」
マリは貝殻3つだけで女性の大事な部分を守ろうという無謀な水着をシンジに見せてくる。
「こんなのダメに決まってるだろー!!」
ついにシンジの我慢が限界に達したようだ。
✳︎
「まぁまぁ落ち着いて。ちょっとからかいすぎちゃったかもしれないね。」
「……」
いじけたシンジの機嫌を直すための場としてマリは駅前のカフェを選択した。
白い大きなテーブルに二人きり、マリとシンジは向かい合って座っている。
「なんで真希波はそんなに修学旅行が楽しみなんだよ?」
まだ完全には機嫌を直していないシンジだが目の前の特大をパフェを前にして、少し態度が軟化した。
「なんでってそりゃ……修学旅行は一生思い出に残るものだから。後の長く険しい人生の中であの修学旅行の思い出は、暖かいものとして私を支えてくれるんだよ。」
「後の人生って……何大人みたいな事言ってるんだよ。」
「大人……アハハそう言えば私子供だった!ほら今を楽しまないと青春は一度きりだよー。」
シンジはマリの訳の分からない言葉に頭を傾げるが、いつもの事なのでさして気にも止めなかった。
*
「え~!?修学旅行に行けない!?」
修学旅行前日の夜、葛城家にマリの絶叫がこだました。
ミサトはこともなげにそう言い放つと、美味しそうにビールを喉に流し込んだ。
なおも納得できないマリは、ミサトに詰め寄る。
「なんでだにゃ!?」
「戦闘待機だもの。」
「そんなの初耳だにゃ!」
「今言ったわ。」
「誰の決定だにゃ?責任者に会わせろってんだい!」
「作戦担当の私が決めたの。」
マリの抗議をミサトは飄々と交わしていく。
常日頃、頭の固い政府の役人やネルフの幹部と舌戦を繰り広げているミサトにとってこの程度の反発は無きに等しいものだった。
まるで親子喧嘩のような問答が繰り広げられている隣でシンジは静かにお茶をすする。
「わんこくんはショックじゃないの?一生に一度の大イベントなんだよ?」
「僕は多分こういうことになるんじゃないかと思って。」
シンジは達観した表情で再度お茶をすする。
「おー。さすがわんこくん。聞き分けがいいね~。」
「うん。」
「わんこくんは本当にいいの!?この機会を逃したら次に行ける機会は3年後なんだよ?」
「別にいいって言ってるじゃないか。3年後があるんだし。」
「わんこくんが良いっていうんだったら、まぁいいけど」
まるで母と子のような会話を繰り広げるマリとシンジにミサトは自然と笑みがこぼれる。
(ちょっと頼りないシンジくんと何かと世話を焼きたがるマリ、案外この二人はお似合いなのかもしれないわね)
ミサトは自分の心の中に久しく宿っていなかった『安らぎ』という感情に少し戸惑いながらもビールを喉に流し込んだ。
ビールを置いたミサトは『作戦本部長』としての顔を捨てて『保護者』として2人向き合う。
「気持ちは分かるけど、こればっかりは仕方ないわ。あなた達が修学旅行に行っている間に使徒からの攻撃があるかもしれないでしょ。」
「いつも奴らが来るのを待つばっかりで、暇だにゃ。たまには年賀状から敵のアジトを突き止めて、こっちから攻撃とかできないもんかねぇ?」
「それができたらしてるわよ。でも、もし本当に年賀状が来たら、それは罠だから無視するけどね。」
そんな会話を続けていると、ミサトは手元から2枚の紙きれを取り出した。
「まっ!2人ともこれをいい機会だと思わなきゃ。クラスのみんなが修学旅行に行ってる間少しは勉強ができるでしょ。私が知らないとでも思ってるの?」
差し出された通知表を見て露骨にシンジの顔が歪む。
ミサトはこの隙を逃すまいと一気に畳みかける。
「見せなきゃバレないと思ったら大間違いよ。あなた達がテストで何点取ったかくらいこっちには筒抜けなんだから。」
「にゃー、中学レベルのなんて簡単すぎてつまんないよ。それよりも世界中の本を読んでるほうがよっぽど面白いよ。目指せ!全世界の本読破!!だにゃ。」
「郷に入っては郷に従え。日本の学校に慣れるのも立派な仕事よ。お願い。」
「仕方ないなぁ...あぁっ!?いいこと考えたにゃ!」
マリの口がいつものようにへの字に曲がった。