さて。私はこれからお兄さんが許してくれた13歳になるまでの5年間を死ぬ気で鍛え、知識を蓄え、準備を整え、お兄さんが教えてくれた育手のいる山に向かい鬼を殺すための剣を学ぶわけなのだが、ここで勘違いしないでほしいことが一つだけ。それは私が最終的には隊士になる気がないということだ。
いや、正確には私ではなれない、だろうか。
私は自分が平凡な人間であることを知っている。
間違っても私には善逸や炭治郎のような才能なんてないし、かといって伊之助やカナヲみたいに特別秀でた能力があるわけでも、玄哉みたいな特殊体質であるとも思えない。
私の運動神経は所詮人並みで、前世でも精々“素人が大半の体育でなら大抵の種目でそこそこ活躍できる”レベルだ。当然経験者に敵うレベルではあり得ないし、分かりやすくいうと短距離走は昔から得意で運動会ではリレーの選手に選ばれていたがそれでも陸上部には敵わないくらいの運動神経。
つまり、良くて平均以上。それでも平凡。それが私の前世であり、それは例え記憶を持って生まれ変わった今も変わったりはしない。まぁ前世の記憶がある分、体の動かし方とかコツが分かるから現時点では普通の子供よりは勝るのだろうが、それも才能がある者による決死の努力には追い付けない。私なんて所詮、ちょっとした手違いでスタート地点が普通の人より手前にあっただけだ。本物の天才は私の遥か前にいるし、才能なくとも努力で私を追い抜く凡人はこの先嫌と言うほど現れるだろう。
そんな私が剣を握って数年かそこらで彼らの領域にまで辿り着き、死ぬ運命にある人達を救えるか?
当然その答えは、否。
そりゃ少しでも戦力になれればとは思うよ。だけど少しの戦力なんて正直たかが知れている。鬼滅隊に入れる時点でそもそも一般人よりもずっと優れた能力と戦闘力を持っているはずなんだ。そんな彼らがそれでも柱の域にでもならなければ下弦の鬼にだって手も足も出ずに死んでいく。例え私が前世の記憶をフル活用してその一般隊士より強くなれたとて、私程度では柱や彼ら主人公組のレベルには死んでも至らない。
そもそも大前提として、まず救わなくてはならない初めの一人、炎柱の煉獄さんを救うためには柱単騎では勝てないレベルの上限の参を倒さなければいけないのだ。無理ゲー過ぎて泣けてくる。それ何回命の危機に面して生き返らなきゃいけないの? 野菜人の遺伝子でもなければ無理なレベル。
それじゃあどうするのか。……まぁそれはこれからも課題として色々考えていかなければならないのだが、少なくとも単体の戦闘力では私なんかの限界を超えたところでいてもいなくても同じなのだ。
しかし彼らのサポートに徹する一般人では駄目だ。それだと刀鍛冶の里にいけないし、そもそも最終決戦の場に行けない。ていうか、お館様の場所が分からないまま詰みだ。いくらなんでもそれは馬鹿過ぎる。
それなら私に残された手段は? 剣士として刀を振るうのではなく。かといって刀匠のように剣士に刀という力を与えるわけでもなく。藤の家紋を背に彼らを助ける一般人よりも彼らに貢献できる立場……。原作を読みこんでいた私には、当然その答えが分かっていた。
そう。それが、隠である。
あまりスポットライトが当てられることはなかったが、最終決戦における勝利も彼らが暗躍したことが大きかった。勿論、鬼である癒史郎の助けがあったことが最も大きいが、それでも彼だけでは全ての人に血清を渡したり治療を施すことは不可能。
そして彼らが暗躍したのは当然、何も最終決戦の時だけではない。薬、物資、時には人だって運んだりする。そうやって、例え鬼と直接は戦えなくても鬼滅隊を支えてきた。そう。そんな彼らに、私もなる。
つまりこれからの計画はこうだ。
まずはお兄さんの案内通り川乗山に行って修行をつけてもらう。隠といえど多少は戦える方が何かと都合がいいだろうし、例え微々たるものであろうと確実に生存率は上がるだろう。
だが私なんぞが数年鍛えたところで呼吸なんて取得出来る気もしなければ、刀の色も変えられるとは思わない。そこで、挫折して諦めた風にして……隠になればいいのだ。彼らは確か隊士になれなかった者たちの集まりの筈……体力なら自信があるし、大事な時に任務で動けなくなる可能性を考えると隊士よりはずっと動きやすいに違いない。
そうと決まればやることは自ずと決まってくる。とりあえず13歳になるまでの5年間。この島を出る前に、今の私に出来ることは全てやっておく。
まずは体力。とにかく走って、海に潜って、肺を大きくする。炭次郎もやってたな、空気の薄い山の中を走って……まぁこの島の宮塚山は標高低いんだけど、平面を走るよりは効果あるだろう。炭次郎みたいに空気の薄いところでの修行とかは出来なさそうだけど。
それでも、少しでも修行に着いて行けるように……とりあえず間違っても序盤で死ぬことのないように、最低限の体力はつけておかなければ。
それから知識だ。私なんかが胡蝶さんや珠世さんのようになれるとは到底思えないが、何かあった時のために医療の知識は欠かせない。それに……私には現代医療の知識がある。そりゃ前世医者だったとかそういうわけじゃないけど、お姉ちゃんの国家試験の勉強に付き合って教科書読んだり問題出したりしてたから基礎知識程度ならある。一般人に毛が生えた程度ではあるが、少なくともこの時代の医療しか知らないよりはプラスになるはずだ。
問題なのはこの島の秘密及び“椿の花が鬼に本当に効くのか”の研究。ただ、これについては本当、実際に鬼に試してみる他に検証の仕方がない。
そう考えると、胡蝶さんは一体どうやって研究してあんなにも沢山の毒を作り上げたのだろう……。……冷静に考えると鬼を生け捕りにして拷問もしくはマウスよろしく実験に使ったとしか思えないのだがあの胡蝶さんに限ってそんな鬼畜なことは……あ、いや、彼女そういえば鬼を目の前にして私が貴方を拷問しますとか言ってたわ。普通に公式だった。そう考えるともしかしたら塁くんのいた山で彼女に殺されたあの鬼はあの場で殺されておいて逆によかったのかもしれないな……。
当然私はそんなこと出来ないから、修行の片手間にとりあえず椿から高濃度のエキスを抽出して保存しておくくらいしかできない。それについては前世の夏休み自由研究で作ったことあるから多分作れるはず。それがいつか役に立ってくれればいいんだけど……もしただ良い香りの花で終わりだったらその時は髪や肌に使うことにするわ。出来が良かったらどこかに売って資金の足しにする……。
いやそもそも、前に作ったときは道端や公園とかに落ちてる椿の種を使ったんけど、いくら花ではないとはいえ、この島に落ちてる種って勝手に拾って使っていいものなんだろうか。もし買い取らないと駄目ってなったらいよいよ厳しいぞ。アルバイトとかお手伝いでなんとかなる金額じゃなさそうだし。
そもそも、仮に種が手に入ったとしても、その種乾かして潰した後は確かミキサーで……も当然そんなのないわけで、ってことはあれ手作業でミキサーレベルに砕かなきゃ駄目ということ……? あ、駄目、想像だけでめげそう。何がめげるかって、そこまでしても全く鬼に効かないただの椿油だったという可能性の方が高いと分かっているうえでそこまでする気力が果たして今の私に残っているだろうか……やっぱりこれは片手間にやることにしよう……。
あとは……射撃、かなぁ……。
ぶっちゃけ刀で戦える自信がないので、せめてサバゲーをかじった腕を生かしたい。剣道も昔かじっていたが、スポーツに特化し武具をつけることを想定された剣道と真剣での戦闘は素人目に似て見えるだけで実際は囲碁とオセロくらい違うので話にならないと思う。相手が鬼であることを考えると尚更ね。場外や判定勝ちが適応されるのなら別だけど。
私は原作をばっちり読みこんでいたので覚えている。いや、多分初見のみの人も覚えていると思うけど……。
不死川玄夜。彼は呼吸が使えない隊士だった。故に刀の色を変えられず、武器には恐らく刀と同じ材料で出来ている銃を使っていた。
私が欲しいのは正にその銃である。出来れば射程距離のあるライフルタイプがあれば尚良い。それなら、前線に出ずに味方をサポートすることが出来る。
つまりは最終決戦における茶々丸に私はなりたい。合間をぬって皆に薬を打ち込んだり出来ればあの時のように皆を助けられるし、運がよければ無惨にも一矢報いれるかもしれない。勿論あの決戦の中でそれを見極められる動体視力と射撃の腕が必須になるから、そこは今から必死で鍛える。……とりあえず近所のおじさんから狩猟習おう。普通の銃で鳥が落とせないのならお話にならないからね。
「さーて、これから5年間は気を抜く暇もないぞ……!」
私は決意を持ってまだまだ小さなこの手を握りしめた。この手で一体私はこれから先どれだけのものを守れるようになろうだろう。それは誰にも分からない。だけど、せめてこの手が届く限りは取りこぼしたりしないで済むようになりたいから。私のオリジンは、ここから始まるのだ。
「よし、やるぞ……!」
例え何万人が最高だったと過去の私のように泣いたって、それでもあれが最高で最上のハッピーエンドだなんて認めない。私は、断じて。
漫画としての最高の最終回とその世界における最高のハッピーエンドが、必ずしも同じになるとは限らないのだから。
「全ては、悲劇の未来を変える為に」
これは、ファンでありながらも結末に納得がいかず涙した者が何故か鬼滅の世界に生まれ変わり、死の運命にあるものを救い、結末を変えようと奮闘する。
そんな、とあるモブの物語である。
√あとがき
とまぁ、こんなお話です。つまるところ救済話。名前変換のない夢小説ともオリジナル主人公の小説ともいえる感じになっていますが、真実はいつも一つではないので答えはいつでも読み手の心の中にありますと逃げます。それにしても最終回をジャンプ本誌で読んですぐに思いついて執筆し始めたのに形になって日の目を見るの遅すぎワロタ。
原作沿いのはずですが原作に沿うのが遥か後な上、オリジナルにオリキャラと原作におけるモブが絡んだりと初見の方に大変優しくない構成となっておりますが、人魚姫がハッピーエンドだなんて認めねぇぞロミジュリはただの悲劇だぞという我が同志が一人でも多く楽しんでいただけたら幸いでございます。
尚、一話一話が長いこととは恐らく関係がなく亀の方が残像残して抜き去るほど更新が遅いですが石も発泡スチロールも投げないでください。週に一度書きあげてきた神のような公式には心の底からお詫び申し上げますが、あくまでも趣味で書いているだけの二次創作であることご理解いただき、忘れた頃にまたお越しいただければと思います。
※この小説はpixivにも投稿しており、そちらの方が更新が少し早いですが、投稿者は同一人物です。