流れ着くは鬼殺の世界   作:Plant origin

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 一応設定は原作準拠で書いてるつもりですが、もし間違いや矛盾があったら優しく指摘してもらえるとありがたいです。

 それとタグもこれ追加しといた方がいいよというのがあれば教えてくだされば助かります。

 それではどうぞ。


鬼の棲む世界

 その『事故』が起きたのは、いつも通りの昼下がりだった。

 

 時空犯罪者によって過去の改ざんが行われていると通報が入り、それを阻止すべく歴史保護特殊部隊に出動要請がかかる。

 そして俺はその一員として時空転送装置で過去に飛ぶ……はずだった。

 

 時を超えるためのエネルギーの充填中、突如として計器が異常な値を示し始めたのだ。

 すぐさま緊急停止のボタンを押すが効かず、計器の針は振り切れんばかりの勢いで回り続ける。そして異常に気付いた隊長がこちらに駆け寄ろうとしたその刹那───

 

 

 

 ───俺の意識は深い闇に沈んだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「………っ…」

 

 まず入ってきた情報は、頬を撫でる生ぬるい風。次に様々な虫の鳴き声だった。

 背中や腰に当たる感触が固い。どうやら俺は野外で横になっているらしい。

 

 そこまで理解し俺は跳ね起きた。

 

「ここは…!?一体何が起こって……いや、そうだ俺は確か…」

 

 装置が異常を起こしたところまでは覚えている、結局あれは止まらず俺は過去へと飛ばされたのだろう。

 

 立ち上がり軽く身体を動かしてみるが、特に異常は見られない。

 不完全な状態でタイムスリップをしたというのに、五体満足とはかなり運がいい。下手すれば死んでいてもおかしくないというのに。

 

 

「とにかく、隊の皆と連絡を取らないと」

 

 救難信号を送るため、腕に装着した端末を起動する。

 

 少しの間をおいて画面が点くが、そこにはある文章が表示されていた。

 

『通信圏外デス。親機ガ停止シテイルカ同時空ニ存在シテイナイ可能性ガアリマス』

 

「!!…馬鹿な、そんな訳が…!」

 

 親機が停止はまずありえない。これから任務だって時に時空転送の要である通信親機を止める理由がないし、厳重に保護されているアレが故障するとも思えないからだ。

 となると、考えられるのはもう一つの理由だ。

 

 背中に冷や汗が伝い、血の気が引いていくのを感じる。

 

 …同時空に存在しないというのは、つまり俺が平行世界に居ることを示している。

 

 平行世界とは、今自分が存在している世界とはまた別の時間に生きる世界のことだ。理論上は無限に存在しているとされ、しっかり整備された転送路を通らねば平行世界に飛んだ人や物を追跡することは限りなく不可能であるといわれている。

 

 そんな場所に俺は『事故』で飛んでしまった。当然通ったのは整備されていない未開の転送路のはず、俺は恐らく…元の世界には二度と…

 

「いや、まだだ…可能性はゼロじゃない」

 

 過去に事故で平行世界に飛ばされ生還した者はいないが、通った経路が観測されたことはある。望みは薄いが本当に運が良ければ助かる、悪い方にばかり思考を傾けていても何も始まらないしそう考えることにしよう。

 

 ならば目下の最優先事項は生き延びることだ。生えている植物や虫の鳴き声からみても、環境は俺がもといた世界とそう変わらない。水と食料、それから寝床の確保まで行けたらいいんだが。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

 と思っていた矢先、現地の女性に声をかけられた。山の中のようだが、この辺りに住んでいるのだろうか。

 

「ここらで大きな物音が聞こえまして、なにかあったのかと様子を見に来たのですけれども」

 

 振り返って姿を確認したが、見たことのない服装をしていた。

 

 写真で見たことのある着物…のように見えるが、作りがかなり簡素で生地が粗悪だ。手作りだと思われる。

 

 歴史は得意でないので詳細な時代は分からないが、少なくとも百年は昔だろう。

 

「あ~いや、実は俺もよく分からなくて…さっきまでその辺で道に迷ってたんです」

 

 大きな音というのは恐らく俺が転送されてきたときのものだ。時代を考えれば説明しても理解は得られないだろうし適当に誤魔化しておこう。

 

「あらまぁ、道に…。それならもう日も落ちますし、今日はうちに泊まりに来られてはいかがですか?」

 

「え?いいんですか?」

 

 願ってもない話だ。お礼は後で考えるとして遠慮なく甘えさせていただこう。

 

「えぇ、お客さんなんて久しぶりだから主人もきっと喜んでくれますよ。それに…」

 

「それに…?」

 

「…夜になると、人食い鬼がでますからね」

 

「人食い鬼?」

 

 こっちの世界特有の生物なのか、それとも単純に人を襲うようになった野生動物のことを指すのか。どのみち不穏だな、覚えておこう。

 

「ささ、私の家はすぐそこです」

 

 そう言って女性は来た道を戻っていくので、やや疑問は残るものの俺はその後を追うことにした。

 

 

 

 ***

 

 

 

「私は神室芳一(かむろほういち)、こっちは妻の氷雨(ひさめ)という。よろしくたのむよ」

 

「甕速焔(みかはやほむら)といいます。一晩お世話になります」

 

 案内されたのは木造の平屋だった。入ってみると中では足を怪我した男性が横になっており、俺を見て少し驚いたようだがすぐに朗らかに笑いながら出迎えてくれた。

 

「しかしこんな山に客とは珍しいこともあるもんだねぇ」

 

「えぇ、この辺りで迷ったらしくて。鬼のことも知らないみたいだし、危ないと思ってお連れしたんですよ」

 

「おお、それは運が良かったねぇ旅のお方。鬼を知らないってことは街の方からここまで来たのかい?」

 

「えぇまぁ、そんなとこです」

 

「そうかぁ、街の人は随分と変わった服を召されるんだねぇ」

 

 あぁなるほど、時代にそぐわない俺の服装がなんで触れられないのかと思ったら「見たことのない街の人」って認識だからか。どう言い訳したものかと思っていたが好都合だな。

 よし、このまま鬼についても聞いてしまおう。

 

「先ほどから何度か話に挙がる鬼ってなんなんでしょうか?」

 

「ん?あぁ…鬼ってのは、この辺りに古くから伝わる伝承でねぇ。『夜の山には人食い鬼が出る。決して立ち入るべからず』ってあるんだよ」

 

「そんな話があるんですね…」

 

「嘘みたいな話だが嘘じゃあないんだ。私が知る限りでも六人、夜の山で失踪している。それに二度、仕事中に山奥で大量の血痕を見たことがあるんだ」

 

 それは確かに異常だ。やはりこの世界には俺の知らない何かが居るらしい。

 

「そして鬼は藤の花を酷く嫌うらしいんだ。だから私たちは夜になると必ず藤の花の香を焚いて寝ることにしている」

 

「なるほど、この匂いは藤の花だったのですね」

 

 この家に入った時からいい匂いがするなとは思っていたがそんな理由があったのか。

 

 しかし本当に危ないところだったんだな俺、氷雨さんと会わなかったらって考えたらゾッとするよ。

 

「まぁ、夜間しか出没しないから明日日が昇ったら日中の内に山を越えてしまうのが無難だねぇ。万一日が沈んでしまったときのために、乾燥させた藤の花を持たせてあげるよ」

 

「いや、何から何まで本当にありがとうございます。私にできることがあればなんでもしますので、ぜひお礼させてください」

 

 初めて会ったのがこの人達で本当に良かった。渡せるようなものが何もないので、せめて労働で恩を返したいところだ。

 

「いえいえ、そんなお気になさらなくてもいいんですよ。ですが…そうですね、じゃあ夕飯の支度を手伝ってもらえますか?」

 

「分かりました!」

 

 

 こうして俺は神室家で一晩泊めてもらえることになり、氷雨さんと共に夕飯の支度と片付けを済ませた。

 三人で食卓を囲んだ後は、いろんな話をした。元の世界での俺の私生活のことを(色々ぼかして)話したり、逆に夫婦の普段の生活について聞いたりした。

 

 そうして談笑しているうちに、日が完全に落ち外は真っ暗になってしまった。そこでお開きにして寝床の準備が始まる。

 

 異変が起きたのはその時だった。

 

「うわあああああああああああ!!!!」

 

 遠くから微かに、だがしっかりと聞こえた。

 三人で顔を見合わせる。声は発しないが考えていることは同じだろう。

 

「俺が様子を見てきます」

 

「だ、だめですよ!危険すぎます!」

 

「そうだねぇ、危険すぎるよ。鬼の話はしただろう」

 

「しかし…」

 

 俺はもとより軍に所属している身。特殊部隊に志願したのも歴史改竄の脅威から人々を守るためだった。

 危険は百も承知。装備だって最低限しかない。でも、俺はここであの悲鳴を聞かなかったことにはできない!

 

 そんな俺の意思を読み取ったのか、芳一さんが悲しげに顔を伏せた。

 

「…分かった、君は優しい人なんだねぇ。氷雨、せめて藤の花を持たせてあげてくれ」

 

「…はい。こちらが藤の花です、火をつけると鬼の嫌う香りを発します。…どうかお気をつけて」

 

「ありがとうございます」

 

 小さな麻の袋を受け取り、家を後にする。

 

 悲鳴が聞こえたのは山の上の方からだった。早くいかないと手遅れになるかもしれない。

 逸る気持ちを抑え、山道を駆け上がる。

 少し進んだところで、山道脇の木にもたれかかって倒れている人影を発見した。

 

「大丈夫か!何があった!?」

 

 返事はない。

 手を取るとまだ暖かく脈もあった、まだ生きている。

 地面に寝かせ服を脱がせると、腹部と肩部から大量に出血していることが確認できたので応急措置を施す。

 

「死ぬなよ…!」

 

 俺にできるのはここまでだ。あとは本人の生命力に賭けるしかない。

 念のために藤の花を少し焚いてその場を離れる。

 

 推測だが多分被害者はこいつ一人じゃない。もしあいつが一人で鬼と遭遇し襲われたなら、気絶したあいつは食われていた筈だ。

 そうじゃないならもう何人か一緒に来ていて、鬼は今そいつの方に行っていると考えるのが自然だろう。

 

 その推測を裏付けるように、山道を進むと次第に物音がするようになってきた。

 

「はははは!いいぞ、もっと悲鳴を上げろ!」

 

「ひっ…!く、来るなぁ!」

 

 そこには二つの人影があった。一つは刀を振り回す男性で、もう一つは男性より二回りは大きい人物だった。背を向けていて顔は見えない。

 

「待て!」

 

 大柄な人物の動きが止まった。ゆっくりと顔をこちらに向け、目が合う。

 

「ん~?また新しいのが来たのか?今日は運がいいなぁ、三匹も獲物にありつけるなんて」

 

「っ…!」

 

 それは、人に似ている何(・)か(・)だった。

 するどい牙、長い爪、縦に長い猫のような瞳孔。そのいずれもが人ではないことを示している。

 

「まさか…鬼、か?」

 

「ああそうだ、こいつを仕留めたらお前も食ってやろう」

 

 そうか、こいつが…

 近くに立っているだけで嫌な感じがする。体が逃げるべきだと訴えかけてくる。

 

「い、一般人か?だ、だめ、駄目だ!こいつは普通の人間が敵う相手じゃない!」

 

「俺が逃げたらあなたはどうなるんですか。俺にも多少戦闘の心得はあります、二対一でも厳しいですか?」

 

 サバイバル用の大型ナイフを抜き、構える。

 こいつ相手に対人格闘術がどれほど役に立つのか分からないが、彼一人で戦うよりは勝機があるだろう。

 

「わ、分かった!なら隙を作ってくれ、俺が頸を斬る!」

 

 味方が増えて安堵したのか、男性の恐怖がほぐれてきている。いい兆候だ。

 

「がはははは!人間が組んだところで鬼に勝てるわけないだろう!二人まとめて食ってやる!」

 

 初めて相対する存在、人食い鬼。

 それを狩る長い夜が始まった。




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