序盤の序盤 出会いの話
私が読みたいものを私が書いているのです
草木が生い茂る山の中腹 のどかな村は昔から農業を生業とし、みんなで助け合って生きてきた 「彩紫村《アヤシムラ》」朝、日が昇ると共に起きて田を耕し日が沈むと共に家に帰る 氷川莉子は母が生まれ育ったこの村に小さい頃から遊びに来ていた
村にある母の実家はとても大きい 母屋と離れが別れており、祖母であるトキ子は母屋で母の佳奈美と莉子を出迎える
「いらっしゃい、町の方は暑いでしょう?こっちは涼しいからくつろいでね」笑うとえくぼができる可愛らしい祖母は、どう見ても今年で70になるとは思えない 莉子は実家である巳都和邸でゆっくり羽を休めるのであった
彩紫村には古いお寺がある 彩紫寺と呼ばれるその寺は村の中でも高いところにあり、莉子でさえお寺に着く頃には息が切れている お寺の脇には細い道があるが「神様の通り道」として村人の間では決して通っては行けない場所になっていた
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「莉子〜?こっち来ておばぁちゃん手伝って〜!」台所からおばぁちゃんの声がした はぁいと返事をして台所にかけて行く
今日は夏休みの初日 夏休みの間中私はこの巳都和邸に泊まることになった お母さんが仕事で忙しいらしい おばぁちゃんは優しいしネット環境が悪いことを除けばこの村はいい所である
鍋の中の煮物を菜箸でかき混ぜながら遠くでなく蝉の声に耳を傾けていた
彩紫の夜は早い みんなお日様が沈むと家に帰ってご飯を食べる そしてすぐにお風呂に入って寝る その分朝も早いのだ
私もお風呂に入ってすぐに布団に潜り込んだ
泊まるのが久々だったから久しぶりに出した布団には昼間干しておいた時のお日様の温もりが残っているような気がして数分と経たないうちに眠りについた
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「こ……りこ……」呼びかける声に目を覚ました まだ暗い…午前1時くらいだろうか 辺りを見ると閉めたはずの障子が開いている そしてその開いた隙間から小さな白いふわふわしたものがちょこんと座ってこちらを見ていた 月明かりに照らされて神々しくも見えるそのふわふわは莉子と目が合うと笑うように目を細めた「あぁ、やっと起きた りこったら何回呼んでも起きないんだもの」不思議と怖いとは思わなかった 語りかけてくる声が優しく、どこか懐かしかったからかもしれない 猫のように見えたふわふわは視界がはっきりしてくるにつれてよく見えるようになった どうやら猫というより狐のようだ
「りこ、僕の後に着いてきて」白い狐はそういうとしっぽを揺らしながら外へ向かう 外は寒いだろうな…この非現実的な出来事を目の前にしながらそんな現実的なことを考えた私は上着を羽織ると玄関に向かった 玄関まで来て裸足だったことに気づいた 裸足で靴を履くとゴワゴワして気持ち悪い おばぁちゃんのサンダルを借りることにしよう 外に出て鍵をかける 月明かりに照らされた夜道を狐の後に続く 気がつくと彩紫寺に来ていた いつもなら疲れるはずなのに疲れなかった 「りこ、こっち」そう言って狐は『神様の通り道』に入っていく 「でも、ここは…」ここは人は入ってはいけないそう祖母に言い聞かされていた私は躊躇うように狐に答える 「大丈夫、りこは大丈夫なんだよ」また目を細めて狐が笑う その声を聴くと何故か迷いがなくなり、気づけば1歩、また1歩と神様の通り道を歩んで行った
道を抜けると開けた場所に出た 丸く開けた林の真ん中に小さな小屋がある 狐は小屋に近づくと前足で器用に戸を開けた「さぁ、入って 今日から君はここの主人なんだよ」小屋の中は空っぽで物置みたいそう思いながら小屋に足を踏み入れる
その瞬間だった
暗くて何も無かった小屋の中に灯りが点った 地面が剥き出しだった床が玄関と座敷に別れる 座敷には机が置かれてまるで来客を迎えるかのようにふかふかの座布団が用意されている
「なに…これ…」絞り出すように声を出すと足元で狐が目を細めた「りこが主人ってここが認めたんだよ だからあるべき姿になったんだ」ここは君の場所だよ そう言って狐は初めて声に出して笑った 青年のような、まだ子供の男の子のような笑い声 「私、何が何だか…」りこ 狐が優しく笑う「今日はもう寝よう 明日、ここにおいで」おやすみなさい そう聞こえた気がしたけどその時にはもう私の意識は深い深い眠りの底に落ちていた
ここまで読んでいただきありがとうございます
本編まではまだまだ先ですが少しづつお話にしていきたいと思います
ここまで読んでいただきありがとうございます
ここから先、きっと莉子はてくてくと物語を歩んでくれるでしょう 私の読みたいもの 私の趣味ですが
もしも気に入っていただけるようならば
最後までお付き合い下さい
凍月 氷雨