花帆とお父さん   作:都月飴

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恐怖する幼女と恐怖する父親の歪な親子関係。


お父さんの笑顔は私以外のもの。3

 目を覚ますと、キッチンにお父さんがいた。

 食卓にはオムライスとコーンスープが並んでいて、――お父さんって私の好物を知っていたんだね。家政婦さんから聞いたのかな。それとも、先週ファミレスに連れて行ってくれた風見さん?

 風見さんかなあ。そういえば、風見さんと一緒にファミレスに行くたびにオムライスとコーンスープを頼んでいるような気がする。

 

「お、はよう、ございます」

「嗚呼、おはよう。花帆」

 

 キッチンに立つお父さんは、顔色が悪い。昨日、ポアロの前で見かけた時より疲れている顔をしているし、目の下はまっくろくろすけ。どれだけ寝ていないんだろう。風見さんも顔色が悪かったり、目の白が真っ黒だったりするけれど、お父さんはそれよりも酷い。

 お父さんの目の下が黒くない日なんて、見たことあっただろうか。帰ってきた時と寝ている時で濃さが違うこともあるけれど、それは確かコンシーラーとかいうもので隠せるってテレビで言っていたような……? 化粧というものはよく分からないけれど、家政婦さんはもっと大きくなるまで必要ないって言っていた。

 いつもの定位置に座って、反対側にはお父さんが座る。お父さんの前に並ぶのは厚焼き玉子と白米にコーンスープ。なんだ、一緒にオムライスを食べられると思ったのに……。でも、お父さんは和食が好きだって聞いたから、オムライスは好きじゃないのかもしれない。

 

「いただきます」

「いただき、ます」

 

 ケチャップで犬が描かれたオムライスを一口。ふわとろの玉子とケチャップライスがとてもおいしい。コーンスープは少し冷めていて、火傷がしない温度になっている。――おいしい。

 家政婦さんの作る料理よりも、学校で食べる給食よりも、お店で頼む料理よりも。お父さんの作る料理が一番おいしい。お母さんの作る料理は全く記憶にないけれど、最初の家政婦さんから、お母さんはできるだけ離乳食を手作りして私に食べさせてくれていたんだって。離乳食ってスーパーとかに瓶詰めやパックに入って売られているものだけだと思っていたから、手作りできるって知った時は驚いたなあ。

 ……うん、おいしい。

 前回食べた、お父さんの作ってくれたオムライスは和風オムライスというものだった。お出汁の味がする餡とふわとろの玉子がのった、バターライスのオムライス。あれも、おいしかったなあ。和風オムライスって給食には出てこないし、いつも風見さんと行くファミレスや家政婦さんと行くレストランのメニューにはのっていないから、お父さんが作る時しかそれは食べられないんだ。

 何度かファミレスとかで和風オムライスを見つけた時に食べたことはあるけれど、やっぱりお父さんが作るのが一番だと思う。

 

「おいし、いです」

「っ……。そうか、それは良かった」

 

 珍しい。お父さんはいつも、私とお話をしない。挨拶はするけれど、それ以外の会話。つまり家族団欒というものは全くといってないのだ。それなのに、お父さんが私に返事を返してくれた。なんだか心がムズムズするなあ。なんでだろう。

 ふと、見上げた先にあるお父さんは、苦しそうな、悲しそうな、よく分からない顔をしていた。視線は合わない。合わせない。

 そういえば、テレビで自分が作ってくれたものをおいしそうに食べてくれる人がいたり、「おいしい」って言ってくれると嬉しくなるって聞いたことがある。けれど、でも、お父さんの顔は嬉しそうじゃない。なんでかな。私が「おいしい」って言ったら、嬉しくないのかな。ダメなのかな?

 分からない。

 その後は私もお父さんも、無言でご飯を食べ続けた。何を話したらいいのか、全く分からない。クラスの子たちにお父さんやお母さんと、どんな話をしているのか聞いたことはあるけれど……。なんだかどれも、お父さんとするには難しいことばかりだった。だって、お父さんは滅多に帰ってこないから。だから、そう。どれも参考になるようで、実践することはできなかった。

 うらやましいと、思ったことは正直ある。でももし、クラスの子たちのようにお父さんに話しかけて、お父さんの迷惑になってしまったら? そう考えると、何も聞けなかった。お父さんは忙しい警察官だから、言ってはいけない秘密のお仕事をしている人だから。

 私と同じようにお父さんや、それともお母さんが警察官の子はいるけれど、お父さんと同じような警察官ではなかった。

 お父さんはどんな警察官なんだろう。なんて、考えたことはあるけれど、テレビや図書館の本で調べたりしたことはあるけれど、さっぱり分からなかった。ドラマやアニメに出てくる警察官とも違うし、答えは見つからなくて……。でも、お父さんは立派な警察官なんだって知ってる。

 

「あ、……ご飯粒が」

「っあ、ぅ」

 

 パチンと、リビングに小さな音が鳴り響いた。

 それは私がお父さんの手を叩いた音で、音……で。

 

「ご、ごめんなさっ」

 

 どうしよう。お父さんの手、叩いちゃった。お父さんに触れちゃった。――怒られてしまう。

 

「い、いや。すまない」

「ごめ、なさい。ごめんなさいっ」

「あ、謝らなくていいからっ。顔をあげてくれ、花帆っ」

 

 お父さんが何か言っているような気がする。きっと、怒ってるんだ。私が、私がお父さんに触っちゃったから。ごめんなさいって、何回謝ったら許してくれるだろう。もしかしたら許してくれないかもしれない。

 お父さんは悪くないのに。私が悪いのに。お父さんの手を叩いた私が悪くて、私に向かって手を伸ばしたお父さんは何も悪くなくてっ。だから、だから――。叩かないで、殴らないで。ごめんなさい。

 

「ごめんなさいっ。お父さんに触っちゃって、ごめ、なさっ」

「花帆! いいから、お父さんが悪かったから。謝らないで、顔をあげてくれっ」

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 もう、お父さんに触れないから。絶対、触れないから。お父さんが嫌なこと、しないようにもっと努力するから。

 殴らないで。

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