アークナイツRPG 実績【生命の向こう側】取得RTA 作:凍洞
本当に申し訳ない
私は、ロドスに来てからオーバーを避け続けていた。
怖かったのだ、彼女と会うのが。もしも彼女が、私の知っているオーバーじゃなかったら?
誰も知らない何かが、彼女の皮を被っていたら?私は、それがどうしようもなく怖かった。
きっかけは、ヘラグから聞いた話。オーバーとの会話の内容を話してくれた彼は、オーバーが私とイフリータに会いたがっているということを教えてくれた。
「彼女はチョコレートが好きらしい。持っていってあげたらどうだ」
チョコレート。ライン生命にいた時に、研究者たちの目を盗んでオーバーやイフリータにあげていた。実験の苦痛に比べれば、気休めにもならない様な私の自己満足の代物だったが、彼女たちはとても喜んでくれていたのを今でも鮮明に覚えている。
シャイニングから聞いた話では、今のオーバーは非常に不安定な状態らしい。オーバーの中にいる"何か"と、オーバー自身が何らかの影響で混ざり合って主導権が行ったり来たりしていると。そして、日に日に"何か"がオーバーを侵食していると。このままでは、彼女はオーバーですら無くなると。
それをどうにか出来るのは、彼女との繋がりが深い私か、イフリータだけだと。
イフリータはダメだ。彼女は今のオーバーをオーバーと認識していない。引き合わせてしまったら、恐らく繋がりを否定されたことでオーバーは一気に負の方向に進んでしまうだろう。それだけはダメだ。
「いいかサイレンス。少しでも異常を感じたら、その時点で中断する」
「わかっています、ケルシー医師」
私は今、ロドス最深部の集中治療室―――オーバーの隔離室の前にいる。とはいえ治療の為の隔離とは名ばかりで、実質監禁している様なものだ。恐ろしい化け物を、決して外に出さない様にしているかの如く。
「…違う。彼女は、化け物なんかじゃない」
妹思いで、お人好しで、チョコレートが好きな女の子。それがオーバーだ。
「行きます、ケルシー医師」
「…10分が限界だ。忘れるなよ」
そう言って、扉が開かれる。中にいるのは、あの研究所にいた時から姿の変わらない―――いや、右目の源石がより深い漆黒に染まったオーバーがいた。
『…サイ、レンス?』
「…ええ、私よ。サイレンスよ。あの研究所で、あなたの主治医だった。」
『サイレンス、サイレンス…無事だったのね、サイレンス…』
「ええ、私は大丈夫よ。貴女は?」
『大丈夫、大丈夫…私たちは…違う!私よ!ここにいるのは私!サイレンスの話を聞いてるのは私なの!』
突然彼女が頭を振る。まるで何かを頭の中から追い出すかの様に。
「…」
『大丈夫よサイレンス。アーミヤに言われたの、私が話を聞かなきゃいけないって。ここにいるのは私なの、私たちじゃないの…』
オーバーが見えない何かと会話をすることがあるのは、知っていた。私はそれを感染型解離性同一性障害の一種と思っていた。でもこれは、何か違う様な…
「…今から私が話すことを、しっかりと聞いて。そして、私の質問に答えて欲しいの。あなたが、こんなことになった経緯が知りたいの」
『…大丈夫。ここにいるのは私。私だから…』
「…あの日。私とイフリータが抜け出した後、何があったの?」
『黄色い人たちがいっぱい来て…少し遠いところまで連れて行かれたわ』
恐らく、特別実験棟だろう。
研究者の中でもより上位の者しか入れない場所だ、私も入ったことはない。
「その後は?」
『部屋に、大きな球があって…『誰かさん』が言うには、そこが向こう側の入口だって。それで球の上まで連れて行かれて、落とされて、向こう側に行って…』
「…それから、何が?」
『あの時に『誰かさん』はただいま、って言って私から離れて…あれ?』
オーバーはきょとん、とした顔で。今まで気づかなかったことに気づいた様な顔で、言った。
『じゃあ、今いる『誰かさん』は誰?』
ばきり、と音が聞こえた。
「…え?」
オーバーの右目に生えている源石が、割れていた。
その中から―――
『家族がいる』
何かが、こちらを見ていた。
「伏せろサイレンス!!!」
ケルシー医師の叫びで、咄嗟に身体が動いた。
瞬間、先程まで私の頭があった位置に、何かが飛び出していた。
「な…」
「Mon3tr!」
[―――!!!]
ケルシー医師から何かが飛び出す。同時に、隔離室の強化ガラスがバラバラに砕け散る。オーバーは、必死に右目の源石を抑えていた。その右目からは、真っ黒な液体が溢れ出していた。
「違う!違う!あなた誰!?私はあなたを知らない!!あなたは『誰かさん』じゃない!!!」
真っ黒な液体は、次第に形を変えてオーバーを飲み込んでいく。
あの液体が何かはわからないが、あれにオーバーを飲み込ませてはいけないと直感が警鐘を鳴らしている。
オーバーに向かって、全力で走り出す。
「違う!違う!たすけてサイレ―――」
「オーバー!!」
私に手を伸ばすオーバー。もう少しでその手を掴める―――
『家族がいる』
「あぐっ!!…ぁ」
オーバーを飲み込んでいた液体が、形状を変えた。鋭く、槍の様になって私の腕を貫いた。
それに怯んで、後ずさってしまう。…オーバーが、完全に飲み込まれた。
「Mon3tr、抑え込め!」
ケルシー医師から出た何かが、オーバーを飲み込んだ液体に飛びかかる。
瞬間、液体がまた形状を変える。まるで網の様に。
[―――!!?]
「なんだと!?」
Mon3trと呼ばれたそれが絡みつかれた。液体がまた形状を変える。
今度は杭の様に。鋼鉄で出来た床に、それは深く食い込んだ。
Mon3trは、床に縫い付けられた。
『家族がいる』
どこから出しているのか、男とも女とも、子供とも老人とも取れない声が液体から響く。
液体は這うように、しかしその動きからは考えられない速さで動き出す。
出口へと、外へと向かって。
「最深部の隔壁を全て閉じろ!」
ケルシー医師がどこかに通信をすると、隔離室外の廊下にいくつもの隔壁が降りてくる。
こんなものも用意していたのか――と思うと同時に、液体が飛び出す。
まるで紙に穴を空けるかの様に、一瞬で隔壁を貫いた液体は、また這うように動き出す。
『家族がいる』
『家族は一緒』
『一緒になろう』
「緊急事態だ!ロドス内部の警戒レベルを最大に引き上げろ!サイレンス、無事か!?」
「大丈夫です、それよりも早く追いかけなければ…」
腕に簡易的な処置をしてから液体を追いかける。オーバーの中にいた何かは、家族がいると言っていた。だとすれば、向かう場所は…
「…イフリータ」
次こそ終わります(鋼の意思)