アークナイツRPG 実績【生命の向こう側】取得RTA 作:凍洞
「サイレンス、アレについて知っていることはあるか?」
「…可能性としては、あります」
「それは?」
「オーバーが生まれた経緯についてはご存知ですね」
「ああ。数々の冒涜的な実験の果てに生まれた、本来この世に存在するはずのないモノだろう」
「っ…その過程で、ライン生命では源石の
「…待て、それは」
「処理された実験体からの、源石の抽出。そして、それは彼女の中に…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『イフリータ、私はこれからオーバーのところに行くわ』
『…貴女は連れていけない。今の彼女は、とても不安定なの』
『大丈夫。きっと、また三人で会える』
「なんだよ、サイレンス…」
朝あったやりとりを思い出す。
気に入らなかったのは、オレサマが今のアネサマを否定すると思われてることだ。
確かにここに連れてこられたアネサマを見た時、違うと思った。
あれはアネサマじゃない、アネサマの見た目をした何かだって。
でも後から気づいた。アネサマは、あの中にいる。クソ白衣たちのせいで、あんな風になったんだって。
なんとかしてアネサマを引っ張り上げないといけない。だってのに、ここの奴らは皆オレサマとアネサマを会わせない様にしてる。サイレンスすらも。
それが気に入らなかった。オレサマが我を忘れるとでも思ってんのか?ふざけやがって…
《緊急事態発生。ロドス内の患者は職員の指示に従い、直ちに避難を開始してください。繰り返します、緊急事態発生―――》
「…なんだ?うるせえな」
部屋の外が喧しい、妙な警報も鳴ってる。何が起きてんだ?
部屋から出て周りを見回す。とは言っても、オレサマがいるところはロドスの深部にある重症患者用の特別棟だ。人の通りもあまりない。
あるのは喧しく鳴る警報と、ピカピカ光りながら回転する警告灯くらいで…
ずるり、べちゃん。ずるり、べちゃん。
「あん?」
変な音が聞こえた。何かが引きずられている様な、それでいて水が地面に落ちた様な音だ。
ずるり、べちゃん。ずるり、べちゃん。
音が次第に近づいてくる。…何かわからんがヤバそうだ、取り敢えずここを離れて―――
『家族』
ずるるるるる!!!
音が急速に近づいてくる。何だ、何が近づいてきてる!?
こうなったらその面拝んでやる、最近は力をコントロール出来るようになってきたんだ。出会い頭にぶちかましてやる!
音は廊下の曲がり角の先から聞こえてくる。待ち伏せして、いつでも力を放てる様に構える。
そして、ソレは現れた。
『家族がいた』
ソレは真っ黒なデカいオリジムシみたいで、変な足みたいなのが生えていた。
おまけに何か、言葉みたいなのを発してる。
『家族は一緒、一緒に―――』
「クソッ、なんだテメェ!?オラッ!!」
ソレに向かって火をぶん投げる。
アーツロッドが無くても、これくらいはコントロール出来るようになった。
狙い通り、ソレに火がぶつかって勢い良く燃え上がる。
水みたいな質感してるくせに、よく燃える。
『痛い、熱い、痛い―――』
「へっ、なんだよ。とんだ見掛け倒し―――」
「―――痛いよ、イフリータ」
「―――」
息が、止まった。
今の声は、今の声は。
「アネ、サマ?」
『一緒に』
「っ、しまっ!」
その巨体から信じられない速さでソレが飛びかかってくる。まるでオレサマを食うみたいにソレが左右に割れて―――
「…ぁ」
その中に、アネサマがいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何も見えない、何も聞こえない。辺り一面真っ暗だ。
私は何をしていたのだろう。とても大切な人と話していた気がする。
『―――!―――!!』
何かが聞こえる。誰かが呼んでいるような気がする。
『―ネ――!ア――マ―!!』
この声は、誰だっただろう。考えている内に、声は聞こえなくなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ごぼっ…!!」
飲み込まれた!喉の奥までコイツの液体が入ってきて呼吸が出来ない!
チクショウ、チクショウ、チクショウ―――!!!
こんなやつに、こんなやつに!!
こいつだ、こいつがアネサマの中にいた何かだ!!
火を出そうにも、息が苦しくて集中出来ない。クソっ、コイツだけは、コイツだけは絶対に…!!
意識が遠のく、視界が狭まっていく。
…ごめん、アネサマ…オレサマ、結局何も出来なかった…
目の前が、真っ暗になって―――
光が、瞬いた。
「ごほっ、がはっ!!」
一気に視界がクリアになる。
喉の奥まで入っていた液体を吐き出そうとむせていると、誰かに抱きしめられた。
「イフリータ、大丈夫!?」
「サイ、レンス?」
抱きしめていたのはサイレンスだ。なら、さっきの光は…?
「無事ですか、イフリータ」
「事情はサイレンスとケルシーから聞いた。あの中にオーバーがいるというのは…事実の様だな」
「シャイニング、ヘラグのおっさん…」
シャイニングとは検査だの何だので何度か会ったことがある。ヘラグのおっさんは会うたびにチョコをくれる変なおっさんだ。どっちも黒いのを警戒しながら話しかけてくる。
「…あの中に、アネサマがいるのを見た。間違いねえ、あの変な黒いのがアネサマの中にいたやつだ。…クソッ、ふざけたことしやがって!ぜってぇ許さねえ…!」
さっきのことを思い出して腸が煮えくり返る。よりにもよってアネサマの声で…!
「落ち着いてイフリータ。あの黒い液体が私の予想通りの物だったら、あれとオーバーを引き離すことが出来れば…」
「アネサマは元に戻るのか!?本当かサイレンス!?」
「…確証は無いわ、でも可能性はある。シャイニング、ヘラグ、頼める?」
「勿論です。この力が役に立つのであれば」
「私もだ。協力は惜しまない」
「…オレサマも行く」
「駄目よ」
ぴしゃりとサイレンスに言われる。何があっても行かせないという目だ。でも、サイレンスの言うことでもこれだけは譲れない。
「さっき飲み込まれかけた時にわかったんだ。あの中にいるアネサマに触るのは、オレサマじゃないとダメだ。なんて言うか、上手く説明できないけど…アネサマの家族のオレサマじゃないと。だから!」
「…駄目よ。シャイニングとヘラグが守ってくれていても、あなた一人で行かせることは出来ない」
…こうなったサイレンスはとんでもなく頑固だ。オレサマを心配してくれているのはわかるけど、今回ばっかりは言うことは聞けない。強引にでも…「だから」
「私も一緒に行く」
「え?」
呆けたオレサマの手をサイレンスが取る。
「私とあなたの二人で、オーバーを取り戻すの。…私だって、あなた達の家族だもの」
「サイレンス…」
サイレンスと手を握って並び立つ。あの黒いのは、シャイニングとヘラグのおっさんが抑えてくれていた。
「オーバーのところまで、一直線に走る。妨害はあの二人がなんとかしてくれる。…行こう」
「…おう!」
…あの日を思い出す。研究所から逃げ出したあの日、アネサマを置いてきちまったあの日。
今度は違う。アイツらが遺したものに立ち向かう為に、アネサマを助ける為に。
オレサマとサインレスは、一緒に走り出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『アネ――!!―ネサマ!!』
『オーバー!どこにいるの!?』
また声が響く。今度ははっきりと。
聞いた覚えがある…いや、どうして忘れていたんだろう。
「イフリータ?サイレンス?ここにいるわ、私はここに―――
『ずるい』
真っ暗な中で、誰かの声が響く。
子供とも老人とも、男とも女とも取れる声。
…この声も、聞き覚えがあった。
『ずるい』
私に向かって言っているのだろうか。
恨んでいるような…でも、羨ましがっている様な声。
…あの日から、私の中にいた声だ。
「あなたは誰?」
『ずるい』
「ここはどこ?」
『ずるい』
「…何がずるいの?」
真っ暗な空間に、少しだけ光が差し込んだ。私を呼ぶ声が、そこから聞こえる。そっちに向かおうとして…腕を掴まれた。
『どうして、一緒に―――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
剣の様に、槍の様に、矢の様に。
幾度となく飛んでくる黒い液体を、シャイニングとヘラグが切り払っていく。
私とイフリータは手をつないで、とにかく真っ直ぐオーバーへと走る。
オーバーは、もうすぐそこまで近づいていた。
「もう少しだ!」
「このまま…ッ!?」
突然壁が迫ってきた。
違う、黒い。あの液体が壁の様に姿を変えて、私たちを押しつぶそうとしてきた。
「ぬん!」
「フッ!」
シャイニングとヘラグが壁を抑える。しかしかなりの力がかかっているのか、その場から動けない様だった。液体の方も今の攻撃で力をかなり使ったのか、動きが止まっている。…今しかない!
「イフリータ!」
「わかってる!このまま一気に詰める!」
動きの止まった液体に向かって一気に走る。
もうすぐ、もうすぐ手が届く…!
オーバーに向かって、イフリータと共に手を伸ばす。
そして、手が届く―――
寸前で、私たちの目の前に突如として黒い槍が現れた。
「―――ッ!!」
誘い込まれた。そう気づいた時にはもうどうしようもなかった。
槍は私たちを貫こうと飛び出して、
ガキン、と。
突然現れた、黒い十字型の盾がそれを防いだ。
―――見たことがある。何度も見た。この、盾は。
「ッ、届いた!!」
「お、おおおおあああああ!!!!」
考えるのは後回し、私たちの手はついに液体に届いた。
伸ばした手は抵抗無く液体の中に入り、そして何か柔らかいものに触れた。
それを確認した瞬間掴む。
「掴んだ!!!」
「アネサマを、返せえええええええ!!!!」
全力をそれを引っ張り出す。それが液体の中から抜け出ると同時に、ばしゃりと。
今まで形を保っていた液体が、まるでただの水だったかの様に辺りに散らばった。
引っ張り出したもの…オーバーは、隔離室といた時と変わらない姿で眠っていた。
イフリータはオーバーに抱きついて泣いている。
「アネサマ…アネサマぁ…!やっと、やっと会えた…また会えた…!」
「イフリータ…」
その姿を見て、緊張の糸が解ける。シャイニングとヘラグもこちらに向かってきている。
ああ、これで終わったんだ…
ずるり
音が、聞こえた。
「…え?」
イフリータが困惑した声を上げる。
オーバーの右目。ひび割れた源石から―――また、あの黒い液体が溢れ出していた。
「………よ」
黒い液体は徐々に広がって、形を作っていく。
まだ、まだ終わらないのか。あの研究が遺した呪いは、一体どこまで…
「…ざけんなよ」
近くにいたイフリータすらも飲み込もうと、黒い液体が大きくなっていく。
「ふざけんなよ!!!いい加減にしやがれクソが!!」
イフリータが、オーバーの右目の源石を掴んだ。
その瞬間、黒い液体は痛みを感じるかの如く大きく波打った。
「出ていけ!アネサマの中から!そこはお前みたいなやつのいていいところじゃねえんだよ!!そこはアネサマだけのもんだ!!!」
イフリータが掴んだ源石を徐々に引き抜いていく。
黒い液体は更に大きく波打ち、端の方から形を失っていく。
「やっと会えたのに、やっと一緒に暮らせるのに!!やっと皆、あそこから抜け出せたのに!!それを…訳わかんねえやつが、邪魔してんじゃねええええ!!!!!」
イフリータの咆哮と共に、源石が引き抜かれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『…どうして』
『どうして、一緒に来てくれないの?』
『僕たちは家族なのに』
『私たちは家族なのに』
『…家族だったのに』
「…私、勘違いしてたのね。あなた達は、最初からずっと私の中にいた。後から入ってきたのは『誰かさん』の方だった。ごめんなさい、気づけなくて」
「それともう一度、ごめんなさい。私はあなた達と一緒には行けない」
『どうして』
「私を待ってくれてる人がいるから。私を助けようとしてくれている人たちがいるから。
…私の家族が、会いたがっているから」
『家族なら、一緒』
「皆が一緒になったら、それは私じゃないわ。あの娘たちは、私が帰るのを待っているの」
『…私たちを、置いていく?』
「うーん…思ったのだけれど、あなた達はそもそも私の中にいるべきじゃなかったの。ああ、悪い意味じゃないのよ?あなた達は、行くべき所があるの。それがちょっとした間違いで、私の中に来ちゃったのね」
『…僕たち、どこに行けばいいの?』
「私に任せて。今だけなら向こう側への道が開けそうなの。ここが向こう側に似てるからかしら。…さあ、行ってらっしゃい。もう迷っちゃダメだからね」
『…うん』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
引き抜かれた源石はヒビが全体に走り、そして砕けた。
ぱしゃん、という音と共に全身を飲み込みつつあった液体が辺りに散らばる。
はっとして、オーバーに近づく。
「アネサマ!アネサマ!しっかりしてくれ!」
「イフリータ、あまり揺らさないで。オーバー、私の声が聞こえる?」
オーバーの顔を見る。そして気づいた。源石を引き抜いた部分が、何も無かったかの様に元に戻っている。源石に潰されていた筈の右目もそこにあった。
オーバーがゆっくりと目を開ける。少し眩しそうだった。
辺りを少し見渡した後、今にも泣き出しそうなイフリータの頭を撫でる。
「久しぶり、イフリータ」
「う゛、う゛う゛う゛!!!ア゛ネ゛サ゛マ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
「わわっ、ちょっとイフリータ!泣きすぎ泣きすぎ!ああもう、鼻水まで出しちゃって…」
とても他の誰かに見せられない様な顔になったイフリータを撫でながら、オーバーは優しい笑みを浮かべる。…ひとまず、ハンカチを渡そう。
「はいオーバー、ハンカチ」
「ああ、ありがとうサイレンス。ほらイフリータ、顔拭いて」
「…やだ。ずっとこうする」
「ちょっと、もう。この娘ったら…」
オーバーと顔を見合わせて、クスっと笑う。その笑顔は、紛れもなくオーバーのものだった。
…終わったんだ、本当に。オーバーは、帰ってきた。
「オーバー」
「?どうかしたの、サイレンス…って、あら」
顔を隠すようにして、オーバーに抱きつく。こんな顔を見られるのは、少し恥ずかしかった。
涙でオーバーを濡らしながら、私は言った。
「おかえりなさい」
オーバーは、そんな私を優しく撫でながら答えた。
「…ただいま」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…これは何かの冗談か?だとしたら笑えない冗談だ」
「まさか!本気も本気よ。ほら、サイレンスとシャイニング、それにヘラグの許可だって貰ってるし、ワルファリンも限定条件下であれば問題なしって言ってたわ」
「書類には何度も印を押し直した跡があるがな」
「あら、あの人たちああ見えてハンコを押すのが苦手なのね」
「ワルファリンは苦虫を千匹は噛み潰した顔をしていたが」
「ちょうど飲んでた血がとんでもなく渋かったんじゃないかしら」
「………」
「………ちなみにドクターの許可も貰ったわ」
「理性回復剤をいくら積んだ?」
「~♪」
「…オーバー。お前の再検査結果は知っている。一体何がどうなってあんな結果になったのか、未だに不明のままだ。あれから半年、異常が見られないからと言っても不安でしか無い。何よりお前を戦わせたくない」
「もしかして心配してくれてる?」
「当然だ。私も医者だぞ」
「あんなところに閉じ込めてたのに?」
「…貴様、性格が悪くなったか?クソッ、いいか?限定条件下でのみの許可だ。もしも条件を破った場合、以後永久的に許可を出すことは無い」
「わかっているわ。全て覚悟の上よ。…家族が戦っていて、私だけここで何もせずに過ごしているなんて嫌なの。お願い、ケルシー」
「私としては、それが一番良いのだがな…全く、プロファイルも書き直しだ」
ポフンと、一枚の書類に判子が押される。
書類にはこう書かれていた。
限定条件下でのみ、下記の者の作戦行動への参加を認める
特殊オペレーター オーバー
三人は幸せな再開をして終了