第166話
....はぁ。一体、何がどう...いや、考えるのは後だ。そう言い聞かせて自分の手を動かしていく。山と積まれた書物を前にどんどん読み耽っているうちに日は傾き、やがて頭上には月が登る。月明かりは外界のそれとは比ぶべくもない程明るく、飯縄神社の境内を明瞭に目に映せる程だ。松明を近くに、宝物庫から引っ張り出してきた書物を手当たり次第に読む俺は、佐藤練也。幻想郷で神主となった男だ。
練也「...。瑞穂疾風か...。」
妖夢との立ち合いで初めて振るった、双頭の刃が据えられた槍。"瑞穂疾風(みずほのはやて)は、その歴史は古く室町の年間にまで遡るとされる。黒い鉄拵えの柄には稲妻が迸るような装飾がなされた、その見るからに業物の風体を呈した槍。書物を紐解けば、禍々しいことこの上なくその謂れは血に塗られていた。
練也「...この槍を初めて持ったヤツも...中々酷い想いしてきたんだろうな。」
松明の明かりに照らされながら読むその書物の内容にはこうある。この槍を振るっていたヤツは、俺が飲んだ秘薬を飲み自らに降りかかってきたあらゆる理不尽に対して容赦なく力を振るった。その過程で、あらゆる者の血を、生気を、あらゆる想念をその刃に受けた一本の直槍が形を変え、いつしか刃は十文字に変わりそれが石突にも及んだ。
練也「憎しみを憎しみで討ち倒す槍...。人間や妖怪の血を吸った槍...。そうして極め付けは...。」
"汝、日ノ本ニ新タナル疾風ヲ起ス武士ナリ"
伝記の最後には、こう綴られ締めくくられている。この瑞穂疾風を振るったヤツは死ぬ間際に、憎しみで染まってしまった人なりに、何かを託したかったのかもしれない。人の潜在能力を覚醒させる秘薬と、瑞穂疾風の存在は...まさに今の俺にはなくてはならない存在だった。カブトゼクターとの縁だけでもこれまでの局面に対応できたとは思えなくもないが、実際の所は秘薬の力なくして瑞穂疾風は振えなかった。そう考えながら、幻想郷に来るきっかけとなった宝物庫での出来事、妖夢と戦った時のこと、竹林での妹紅や輝夜との特訓、ダークカブトとの戦闘を思い返していた。
練也「...疲れてきた。」
月を見上げた。見上げた月は、綺麗なまん丸。煌々と輝く優しい光を放つ月は夜空に急に現れた1人の美女の姿も正確に映し出していた。スキマ妖怪の、八雲紫さんだ。ほんとに神出鬼没だな、この人。人?妖怪?もう気にする必要すらないと自分にツッコミ、紫さんの方へと歩んでいく。
紫「捗ってるみたいじゃない?どう?」
練也「気の利いた天然のライトに、暖かい松明があれば読書も捗って時間も忘れたよ。」
紫「あら、そう?でも、根を詰めすぎるのも良くないわ?貴方は擦り切れたりする前に休むべきよ?」
優しく諭す紫さんの口調は、まさに今頭上にある月そのものだ。続きはまた明日と、俺は書物を手から離し、優しい賢者との会話に花を咲かすのだった。
次回。東方 外来人物語。