もし、定命の命が、その命を少しでも長くその天寿を全うできるものであるとしたならば、その者は、新たに欲するものを見出そうとするだろう....。
あるいは...。今欲しているモノに対して、今まで以上の欲求と執念を以てそれを手に入れんとするのだ....。
練也「.....。」
永遠亭には、蓬莱の薬をその身に飲み入れた2人の御仁、そして迷いの竹林の案内人の1人の少女。
彼女等は、定命の人間の、それは倍以上の生を過ごしてきており、様々なものを経験し、そして様々な者達との出会いと別れを繰り返してきた。
その中で何を手に入れたのかを、気にするものもいる。
永遠亭に滞在してから修行に勤しむ(病床に伏せるというのはもはやどうでもいいぐらい元気。)日々を続けて、1週間。練也はその都度、傷を負っては妹紅や輝夜などからのアドバイスを受けては思考する日々を送っていた。
練也「(.....負け慣れ....、してんのかな....。)」
弾幕に対して有効な手を打てずに、輝夜の成すがままに弾幕に翻弄され、そして炸裂に巻き込まれ負傷。
この道程の中で俺が見いだせたものは、今だ無い。
ただ、綺麗な御仁に修行を付けてもらうのは大変ありがたいが...。
.....月を見た。まん丸い、綺麗な満月が....。まるで俺の顔を、優しく照らすようにそこにあった。
気のせいか、月の形が思いのほか歪んで見える、ぼやけてんのか、水面に浮かぶ月に小石を投げ入れたような形になり、俺はようやく理解した。
こんな姿見せらんね...、こんな、.....みっともない姿.....。
頬を伝う、1つの熱い水滴....。
それは自分の袴に、一滴、また一滴と滴り落ちる。
俺は泣いていた....。
月がぼやけて歪んでいるように見えたのもそれで納得した。
拳ではワームに敵わず、そして弾幕は満足に放つことなどできず、それだけではなく自らに備わっている筈の能力も、まるで使えないと来た。
縁側にてうなだれる俺の姿を、誰が見ているのだろうか...。
誰も見ていやしない.....、泣けるときに泣いちまえばいい......。
グスッ.......。......ああっ.....なっさけねえ......。
改めて自らの弱さをかみしめる練也...。
縁側から月を眺めるその姿、なにも見ている者がいないわけがなかった....。
妹紅「.....。」
夜空をのんびりと眺めながら、そのすすり泣く男の情けない声を耳に入れつつ、私もそれを黙って聞き届けた...。
幻想郷に来てほんの数週間で、弾幕や能力が使いこなせるほどの秀才など、私は生きている間は見たことが....。
いや、博麗やその先代はまた別格だから置いておくとして....。
初めっからうまくできる奴なんていないのさ、いくら蓬莱人だとしてもな...。
やっぱり、佐藤練也....。アイツは、上手くなって敵を倒すことに固執しすぎている。
楽しくやらせることも、まあ覚えさせないと。
下手をすれば永遠にすすり泣く声をこっちが聞かされる羽目になるのは御免だ...。
てゐ「ばあぁっ!!!!」
練也「ぅおおおぉっ!!??」
あちらの方からなにやらけたたましい声が聞こえてきた...。
この声はあのいたずら好きの玉兎だろう、まったく空気を読まない兎なことだ。
......だが、そこから一変。涙は消え、楽しげな声が聞こえたことに私は安堵というか、安らかな気持ちになった。
....涙を拭いて、また明日から仕切り直しだ。
お前にだってちゃんと力があることは、隠さずともわかっている。
なんせ私の傍らには、お前の”赤い相棒”が飛んでいるんだからな。
妹紅「.....。」
カブトゼクター「.......。」
妹紅の傍らでゆっくりと滞空しつつ、泣き顔から笑顔へ変わった彼の表情を見たカブトゼクターは、また虚空へと飛び去って行く。
それを黙って妹紅は見届けたのであった。