第74話
平和な日々が流れていく、幻想郷...。その光景には誰もが疑うことがない、穏やかな日常が溢れている。朝には小鳥が囀り朝日を迎え、人々の営みによる音が活気を起こす。川のせせらぎは心を潤し、近くには木の葉が風に揺られ心地よい葉擦れの音を鳴らす。
練也「....かけまくもかしこき、いざなぎのおおかみ...。」
そんな中ある社殿では、1人の男が狩衣に身を包みゆったりとした様子で神前にて祝詞を読んでいた。外来人の、佐藤練也である。二礼二拍手一礼を終えた彼の表情は、地上を照らす陽光の下に澄み切っていた。
そこへ飛びくるのは、カブトゼクター。赤い外殻を纏ったその甲虫は、彼の掌へ収まる。
練也「よしっ....。」
片手で頬をパンッと叩き、軽く息を吸い込む。ゆっくりと歩き出す、その歩調はゆったりと、無理に急かさないように境内から神社の外へと歩み出る。そこから彼は、ゆっくりと人里へ向けて歩き出すのだった。
???「やっほー、神主さん。お出かけ?」
木立の上から飛んできた、蛍の妖怪。緑の頭髪、ボーイッシュな印象を受ける髪型に可愛らしい服装。リグル・ナイトバグがゆったりと飛んでくる。
練也「やあ、こんにちはリグル。人里へ行くとこだけど、リグルは?」
リグル「僕はこれから虫達と遊びに行くんだ。ホラ、見てよ足下。」
練也「うん?...うおっ。」
ちょっとだけびびってしまった。足下には蠢くムカデやゲジゲジ、クモなんかの類の虫が列を成して一定の方向目指して進んでいっているようだ。
練也「だけどなんだってこんな大移動してるんだ?その場で何かしらするんじゃないの?」
リグル「あーはは...。それがね、私もそうしようって思ってたんだけど...,.。」
練也「だけど?」
リグル「まあ、行ってみたら分かると思うよ。僕はこれから虫達と遊ばなきゃ。またねー!」
空を飛んでいくリグル、そのマントをはためかせる姿を見送りながら人里へ向けて歩く。すぐ近くにあった木立はいつのまにか住宅街になり、古き良き日本の街並みがあった。
チルノ「はいっ!...はいっ!」
その頃、氷の妖精チルノは、とある戯れに精を出していた。なんとも楽しそうな様子で彼女が手を翳した先にあったのは...。
凍ったカエルの、置物...。いや、置物というにはリアルだ。生きたまま氷漬けにされたカエルが、石の上に佇んでいた。
大妖精「ちょっと、チルノちゃん?!カエルさんがかわいそうだよ...?」
チルノ「大丈夫!アタイが加減してるから問題ないよ!なんせ天才だからね!死なないから!」
そう言い大妖精の忠告を聞き流すチルノ。馬の耳に念仏とはこのことかと、側から見守るのは黒いスーツに赤いシャツを着込んだ青年。レプトーフィスワームが擬態した佐藤練也が、影から静かに様子を見ていた。
擬態練也「.....。」
シャンハイ「シャンハーイ。」
天然パーマの頭の影からヒョコッと顔を出して同じく観察するシャンハイ人形。彼等は今、アリスに頼まれたお使いを済ませた帰りで偶然この現場に遭遇したのである。観察をしたいと言ったのはシャンハイ人形、練也はその保護者というわけである。
忠告を言っても聞かないチルノに大妖精こと大ちゃんが、ある一点を凝視したまま動きを止めて硬直した。その先にはデカい、"がま"がいた。