ウィンプの日常   作:Almin

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本編見て落ち込んで一時執筆中断してましたが、気合いで書ききりました。


ある月曜日のお客様

「んぁ」

 

早朝、アルビノの少女が起きる。いや、()()()()()

 

「サミーちゃぁん……まだ4時よぉ」

 

寝ぼけ眼の少女、ウィンプ(ゴルドゥニーネ)が大蛇たるサミーちゃん(眷属)にもう少し寝させてと懇願するが、サミーちゃんは否応なしにウィンプをベッドから引き摺り下ろす。

 

「もう、分かったわよ。仕込みの時間なんでしょ!」

 

少女が寝間着を脱ぎ、仕事着(メイド服)に着替えたあと向かう先は、同建物の厨房。

 

「ふぁああぁ……」

 

一つ欠伸をして気が晴れたのか、少女は黙々と野菜を切り始めた。

 

◇◇◇

 

煮込み料理のため野菜を鍋に入れたところで、少女は雇い主(マスター)()()していることに気がついた。

 

「ぴゃぅ」

 

驚きを示す小さな叫び声は、マスターにとっては日常の一つと成り代わっていた。

 

「仕込み、終わりですか?」

 

「えと、あ、あとこれを煮始めたら終わり……ょ」

 

「もう少しで開店ですね」

 

マスターがちらと時計を見上げる。

海蛇の林檎の開店時間は他の飲食店と比べても遅い方だ。

 

「えっ!?もうそんな時間なの!?サミーちゃん!」

 

カランカラン

 

急ぎ早にウィンプがサミーちゃんと厨房の奥底へ向かうとほぼ同時、開店時間を迎えた海蛇の林檎の扉が開く。

 

カランカランカランカラン

 

カランカランカランカランカランカラン

 

カランカランカランカランカランカランカランカラン

 

開店からものの5分で、店内ロビー席が埋まる。

 

「マスター、コーヒー1つ」

「マスター、コーヒー7つ追加で」

「こっちは紅茶……あと誰か飲むか?……マスター、4つで」

「ホットミルクをひとつ」

 

矢継ぎ早に注文をしていく常連、もといティーアスちゃんを見守り隊の声に、少女は更に厨房の奥へと身を潜める。

 

「そう言えばサバさんは?」

 

「あー。今日は朝から来るって言ってたけど」

 

カランカラン

 

「お、噂をすれば」

 

「サバさん、おはようございまーす」

 

「おう。……ウィンプちゃん、モーニング1セット」

 

サバイバルの声にウィンプがビクン、と震える。

 

「あ、いいっすね。俺もモーニング1つ」

 

「まてまて。俺も頼むわ。他に食べるやついるかー?」

 

「サバさん、ドリンクはどうします?」

 

「ん?そうだな。ならコーヒーを1つ」

 

カランカラン……

 

◇◇◇

 

蹲る少女を不可視の大蛇が衝き起こす。

 

料理を注文された以上、作らないわけにはいかない。仮にも彼女は()()()として雇用されている(匿われている)立場だ。

 

 

「わかったわよ、もうぅ」

 

モーニング自体はそう難しい料理ではない。

が、とにかく数が多い。サバイバアルに追随して半数以上の着せ替え隊が注文した結果だ。

 

モーニングはトーストにスクランブルエッグとソーセージを添えたものだ。

 

余熱済みの釜に網をかけ、パンを数枚同時に焼いていく。その間にソーセージをフライパンで温めつつ、ボウルに卵を割り入れる。卵に塩コショウで軽く味付けしてからフライパンに入れて炒る。

 

モーニングはほぼ毎朝注文されるので、頭で考えるより先に手が動いていく。

 

「今日はまた一段と多いじゃないのよぅ……一体何人来てるのよぅ」

 

うっすら焼き目の付いたトーストを皿に移し、ソーセージとスクランブルエッグ、それに今朝下ごしらえしたレタスとプチトマトを添えてれば、モーニングセットが完成する。

 

「モ、モーニングできたわよぉ!!」

 

「あ、ウィンプちゃんおはよう~。今日も可愛いね」

「日に日に髪質が良くなってるな」

「血行も前とは段違いだ」

 

思い思いの賛辞に威嚇の意を込めて睨み付ける。それが火に油を注ぐ行為だとは少女は理解しているが、()()()()()威嚇できる相手は彼ら程度しかいないこともまた、理解してしまっている。

 

先に出来上がった数皿がカウンターへ置かれると、着せ替え隊が自ら各席に配っていく。もはや半分ロビースタッフのような状態だ。

 

カランカラン

 

「「「いらっしゃいませー!」」」

 

「え?あ?」

 

来たのは着せ替え隊()()()()二人組の開拓者。調子に乗って挨拶まで始めた着せ替え隊の声に驚くも、先に足を踏み入れた1人は店内を見回して納得する。

 

「ん?あれ、満席ですか?」

 

後から来た1人がそう言うと同時、入り口そばに座っていた着せ替え隊が立ち上がる。

 

彼らの素性を知ってか身構える開拓者。それに対して着せ替え隊は部屋の奥を指差し、一言。

 

「奥に個室があるんでどうぞ。マスター!」

 

「……どうぞ。お使い下さい」

 

 

◇◇◇

 

部屋に入ると、緊張から解放された開拓者の1人が大きく息を吐く。

 

「はぁ~」

 

もう1人、先に海蛇の林檎へ入店した開拓者は、さほど緊張していなかった。

 

「初回で個室は運が良かったな」

 

「え?何の話ですか?」

 

「個室。追加料金がかかったりするんだよ。でも今日みたいに()()()()()がロビー貸し切ってる日は個室代立て替えてくれんだ」

 

「そうなんですね」

 

「まあ、海蛇の林檎は公共飲食店なのに、半分着せ替え隊の拠点みたいになっちまってるからな。迷惑料みたいなもんなんだろうよ」

 

実際はロビーにいないと厨房のウィンプちゃんを見れないため個室に追いやっているだけなのだが、彼らにそれを知る由はない。

 

 

◇◇◇

 

それから少しして、漸く最後のモーニングが出来上がる。

ここまでくれば少女(ウィンプ)も直接テーブルへと料理を運ぶ余裕が出てくる。

 

そう。

 

「どうぞ。モーニングよ」

 

この時のためにサバイバアルは最初に頼んだ注文を最後まで待っていた。

 

「ありがとう。ウィンプちゃん。前よりも作るの速くなったな?」

 

そう言いながら給仕姿の少女をパシャリ。

 

「そうっすよー」

 

「日に日に速くなってるんで、最高速度(スピードホルダー)も夢じゃないっすね」

 

「味覚制限があるのが本当に妬ましいな」

 

「【美食舌】でも完全には味わえないのが惜しいよな」

 

「そこは想像でカバーするもんだろ」

 

「「わかる」」

 

「いいこと言った」

 

「一品奢ってやるよ。ウィンプちゃん、食後にチョコレートパフェ追加で」

 

「わ、わかったわ……」

 

少女がおどおどと回りを見渡すも、保護者(サミーちゃん)の気配はない。隠密(ステルス)ではない。そもそも()()()()()()

 

 

込み入った店内に通る隙はなく、また常連客(着せ替え隊)が危害を加えないことは百も承知のため、無理に押し開けることもしない。

サミーちゃんはステルス状態で厨房に待機しているのだと、少女も理解した。

 

 

◇◇◇

 

「疲れだぁー!!!」

 

数刻して、着せ替え隊の殆どは森へと駆けていき、店内は朝の光景が嘘のように、閑散と……

 

「ウィンプちゃん、素敵なオッドアイが台無しだぜ?」

 

「馴染みに無理言って作って貰った衣装(防具)があるんだけど着てみないか?」

 

……現在時刻11時。お昼近くなっても朝から着せ替え隊は絶えず、というより入れかわりで入店するため、常に一定数が常駐していた。

 

「なんだそれ初耳なんだが。モチーフは?」

 

「シンプルに大きめシャツにハーフパンツを合わせてみた」

 

「いまは、仕事中なのー!」

 

「おっ!ちょっと嫌そうな顔も中々……」

 

カランカラン

 

「いらっしゃいま……ティーアス先生!?」

 

扉の開く音がした次の瞬間、見た目の幼い少女がカウンターに出現し、どこから持ってきたのか、カフェラテを飲んでいた。

 

「それ、俺のカフェラテ……かか、関節キ……」

 

「よしわかった。後でしばく」

 

「で、今朝はおられませんでしたが、どうされてたので?」

 

「……別件」

 

そう短く返答して、幼女(賞金狩人)少女(無尽の蛇)を見つめる。

 

「きょ、今日はなに……?」

 

「……おまかせ。フルコース」

 

その一言で少女は大急ぎで大蛇と厨房へ駆けて行く。

 

残った幼女はといえば、より一層騒がしくなった店内(着せ替え隊)への反応もほどほどに、ただお腹を空かせていた。

 

 

◇◇◇

 

厨房に戻ったウィンプは料理に取り掛かる。

 

「ふるこーす、ね」

 

ここで言う「フルコース」とは「料理人の力をフルに発揮した料理」という意味であり、意訳するならば「とにかく美味しいものを私が満足するまで作りなさい」となる。

 

 

「サミーちゃん、()()()出して」

 

大蛇が保冷庫から取り出したのは、少女の両腕はあろうかという大きさの蟹の脚(ミミクリィ・スコルピアクラブ)。それを器用に調理台に乗せ、そのまま頭を使ってプレスし、殻を割った。

 

「ありがとう」

 

手早く身を取り出したら、残った殻を鍋にいれ、火にかけ、出汁を取る。

 

出汁を取る間に1品目の調理を行う。

鶏肉(ドラクルス・ディノコアトルの汚染前種)を大きめの一口大に切り、フライパンで焼いていく。

 

「皮面パリパリになるまで焼くわよ」

 

焼いた鶏肉に調味料を絡め、火の通りを確認したところで、切った各種野菜の上に盛り付けていけば……

 

 

 

「お、おまちどうさま。『コアトルとマンドラゴラのサラダ』よ……です」

 

「……いただく」

 

不安を隠そうともしないウィンプを気にも留めず、ティーアスはフォークを取る。

 

「おお。また旨そうなのが出てきたな」

 

「……パリパリ。美味しい」

 

少女の顔に笑顔が灯る。

 

「俺も同じの頼んでいいか?!」

 

「シュルルル」

「『ふるこーす』が終わった後なら……」

 

しばらく後になることを悟り、一瞬落ち込む着せ替え隊だったが、目の前で繰り広げられる食事の光景を見て、それは本当に一瞬の悩みでしかなかったことに気付いた。

 

「相変わらずいい食べっぷりだよなぁティーアスちゃん」

 

「口いっぱいに頬張るティーアスちゃん最高……」

 

「奢りたいけど金が……」

 

「割り勘する?」

 

……

 

 

◇◇◇

 

厨房に戻った少女(ウィンプ)は2品目のために釜を開けた。

 

そこにあったのは少女と同じ純白の世界。

超農民から仕入れているそれは、味や粘り気の多さから、神代以前の地球の一部地域(日本)で食べられていた米に近いとされる。

釜にあるのはそれを炊いたものだが、()()()開拓者に絶大な人気を誇っている。

 

「おぉお……いい炊き上がりね」

 

まず卵を油を敷いた鍋に入れ、続けて白米を投入する。全体を煽りながら手早く炒め、パラパラになったら器に盛っていく。

 

「最後に餡をかけて……」

 

 

 

「『ミミクリィ・スコルピアクラブの餡掛けチャーハン』よ」

 

「カニ餡掛け炒飯だと?!」

 

「ウィンプちゃん中華も憶えたの?すごいね!」

 

「え、ちょ、ちょっと?!」

 

慌てふためく少女と、それを囲む男達を尻目に、幼女はスプーンを取る。

 

「……ごはん、パラパラ」

 

一瞬でティーアスへと移った視線の山を確認し、ウィンプは厨房へと隠密移動する。

 

 

「これまた美味そうだな」

 

「ちょっと空腹度稼ぎに森に……やめた」

 

「おう、やめとけ」

 

「ティーアスちゃんの食事シーンの方が優先だわ」

 

「……餡も出汁、きいてる」

 

 

◇◇◇

 

ウィンプは3品目のためにスロットルボアの肉にウィンプは手を添えていた。

 

「ふふふ……かんぺきだわ!」

 

手から滲み出る溶解毒が猪肉(スロットルボア)の筋繊維を柔らかく溶かす。人体に害無く、肉を溶かしすぎない絶妙な調整に少女は笑みを浮かべた。

 

そこへ朝から仕込んでいた特製スープを加えて煮込めば、ホロホロの一品が完成する。

 

「サミーちゃん、スープ見てくれてありがとうね」

 

「シュルルル」

 

 

 

 

「おまちどうさま。『スロットルボアの煮込み』よ」

 

「スロットルボアってーと、あれか、猪か」

 

「樹海でたまに見かける恐竜じゃないやつな」

 

「猪肉ってあれだろ、ジベラ「ジビエだ」

 

「そう。それ。ジビエな」

 

着せ替え隊(衆人環視)の中、幼女の持つスプーンが猪肉を捕らえる。

 

「ん。……やわらか」

 

「見たか?今、スプーンで肉が切れたよな?」

 

「わるくない……これあと……2皿」

 

「おっ、これは高評価じゃねえか?」

 

「みろよ、ウィンプちゃんドヤ顔してるぜ。可愛いなぁ……あ、ティーアスちゃんに睨まれて引っ込んでった」

 

「あの目は『……はやくつぎ……つくる』だな。間違いない」

 

 

◇◇◇

 

元々大盛大皿の『スロットルボアの煮込み』を3皿平らげた幼女は、4品目の『タイダルシーサーペントのハーブ焼き』を数皿平らげ、最後のデザートを待機していた頃……

 

 

「なんでだめなのよぅ……」

 

少女は落ち込んでいた。

 

「シュー……シュルル」

 

サミーちゃんは調理に溶解毒を使うのには反対だった。以前似たようなこと(毒で皮剥き)をして、海蛇の林檎のマスターに怒られていたのを知っていたから。

 

ことを知ったマスターは、ティーアスへの食事出しが優先として怒らなかったが、それは食事の後で怒られることが確定しているという事で。

 

「うー……でも料理はしないと……」

 

……使う食材もまた、気乗りしない理由の一つだった。

 

 

◇◇◇

 

「おまたせしました」

 

静かに皿が置かれる。

 

「なあ、あれ」

 

「ああ、()()()だよな?」

 

「……いただく」

 

幼女がスプーンで巨大なゼリーに向かう光景に、着せ替え隊は視線を奪われ続ける。

 

 

「ウィンプちゃん」

 

黙々とゼリーが消費される中、着せ替え隊の1人が料理人たる少女に話しかける。

 

「なによ」

 

ちょっとぶっきらぼうな物言いも可愛いと思いながらも、着せ替え隊(彼女)は単刀直入に疑問を投げ掛ける。

 

「あれの料理名ってなに?」

 

「……リーよ」

 

「え?なんて?」

 

「ガルガンチュラゼリーよ!」

 

「ガルガ……なんだって?」

 

「そんなモンスターいたっけ?」

 

「そもそもあれ、モンスター由来なの?!」

 

サンラクが素材を提供するアーミレット・ガルガンチュラのゼリー質は、ウィンプが体感した通り、そのまま()では食用に適さない。

しかし、砂糖をはじめとした調味料や果物を合わせれば、料理として提供可能なレベルまで味を昇華させることができる。

 

そして、アーミレット・ガルガンチュラのゼリー質最大の利点は、()()に多量のマナが含まれていること。

 

気付けばティーアスの眼前にあった大量のゼリーは消え失せており、それは同時にそれだけマナを取り込んだ(より強くなった)ことを示す。

 

 

 

「……ごちそうさま」

 

それから、もう一皿ゼリーを平らげた幼女は手を合わせると、次の仕事があると言わんばかりに海蛇の林檎を出ていった。

 

「……やっと終わったわ……」

「シュルルル……」

 

大量の(数えたくない)料理を作り上げ、疲労困憊と言った様子の少女に虚空から白蛇が語りかける。

 

「サミーちゃぁあん……」

 

少女の体が虚空へと()()()

 

もはや見慣れた光景に着せ替え隊は驚かない。

 

「落ち着いたらでいいから、『スロットルボアの煮込み』一つ!」

 

「あ、それ俺も食いたい……他に頼むやつはいるか?」

 

「それなら……」

 

………………

 

…………

 

……

 

一休みして白蛇から這い出た少女が目にしたのは大量の注文書。

 

「なんでこうなるのよぉおおおおお!!!!」

 

少女の叫びと共に、今日も平和な一日が過ぎていく……

 




なおこの後、連絡を受けて急いで戻ってくるも、ティーアスちゃんと入れ違ってしまったサバイバアルがフルコースを通常サイズで頼んだ。
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