「はぁ......」
いつもの時間、いつもの場所。最近では7〜8割くらいの確率で彼に会うことが出来るようになったのだが、前にも後ろにもそれらしき人は見当たらない。今日は不幸にも2、3割の方を引いてしまったようだ。
この時間にいないとき、彼は十中八九この場所よりも後ろにいるのでここで待っていれば会えるのだろう。だがこの道は他の生徒も通るのだ。もしも誰かを待っている姿を、そしてその後に彼と歩いている姿を見られたら......そう考えると彼女にできることは精々いつもより歩調を緩め、彼が追いついてきてくれることを祈るくらい。そんな自分が情け無い。周りの目を気にせずにいることが出来たらもう少しは恥ずかしがらずにいられるだろうか。ここ最近ゲームの中でなら少しはまともに会話できるようになってきている。もちろん慣れや現実でないからという気持ちの問題もあるだろうが、そこには人の目、特にリアルの知り合いに見られる心配がないというのもあるだろう。彼にもっと近づきたい、彼のことをもっと知りたいという理由で始めたゲーム。だがシャンフロに出会い、その中で彼に出会った今、彼女は純粋にそれを楽しんでいた。
私のしている表情は、あの時の彼の表情に、あの、本当に楽しみで仕方がないというような表情に、少しでも近づけたのでしょうか。少しでも目を離せば置いていかれてしまう。だから彼の背中からは目が離せない。でも私が本当に見たいのは背中ではなく横顔。彼の笑顔に憧れたからこそ、誰よりも近くでそれを見ていたいし、私がその笑顔を引き出せるようになりたい。でも私のいる場所は未だ遠く、遥か後ろで、目的地まではあとどのくらいかかるのだろうか。考えるだけで嫌になる。
「はぁ......」
「どうしたの玲さん?」
「ふひゃぇ⁉︎......えあ、ら、らくろうくん?」
「おはよう玲さん」
「あ、え、お、おはようございます!」
ごめんごめん驚かせちゃった?と謝るその顔は、つい先程まで思い浮かべていたものにも似ていた。それを見ただけでもいっぱいいっぱいなのだが、何せその表情が自分に向けられたものであるという事実が、彼女の顔をさらに染める。
「で、どうかしたの?」
「え?」
「いや溜息ついてたから、何か悩み事でも?」
「......」
彼のこういうところも、私はきっと........
「いえ、大丈夫です。......もう解決しましたから」
「そっか、なら良かった」
「はい、ありがとうございます。それよりも、少し急がないとギリギリになってしまいますよ?」
「え?....あ!今日家出るの遅れたんだった。てことは玲さんも?」
「ぁ....はい。す、少し寝過ぎてしまいまして」
「あはは、玲さんでもそんなことあるんだ」
いつもよりは遅いが、今のペースで歩けばチャイムの前に着くとこができるだろう。だから今は、もう少しだけ、彼の隣を歩いていよう。
TOKOTOKOさんのラヴ・リターンズから思い付いたやつ。
原曲はとても良い曲だし「みどりいぬ。」さんがカバーしたバージョンは神。