24歳、男性。Vtuberを始めるも、女性ファンより男性ファンが多い件について。   作:Rabbit Queen

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あの人は、何も求めず、ただ、その手を伸ばしてくれた。




わたしの、大切な――。

 出たらだめだ。

 絶対に、それに出たらダメだ。

 このまま無視して、自然と終わるのが一番いいんだ。

 期待しちゃダメなんだ。だってずっと、そうだったじゃない。

 だから出ない。絶対に、出ない。

 今までそれでやってこれた。これからも、それをやっていけばいいんだ。

 わたしに友達なんて必要ないんだ。

 

 

 

 

 

 「……もしもし」

 「お久しぶりです、はやて丸さん」

 結局出てしまった。

 わたしは、何をやっているんだろう。

 期待、しているのかな。

 電話をしてくれた雹夜さんが、わたしを助けてくれるんじゃないかって。

 「……お久しぶりです」

 「身体の調子はどう?風邪引いたりしてない?」

 雹夜さんの優しい声が頭に響く。

 いつも寝る前に聞いている声。

 心がぽかぽかして、あったかくなる優しい声。

 それが、今のわたしにはとても辛くて。

 「最近寒いからね。ちゃんと身体温めて寝るんだよ?

  あと運動ね。まぁはやて丸さんは学生だし大丈夫だと思うけど、歳取るともうねぇ……

  あ、でもね、これでも最近はちゃんと外に出てるよ?朝は軽くランニングしたりしてるし」

 

 どうして、そんなに優しくしてくれるんですか?

 どうして、何も聞いてこないんですか?

 いろいろ言いたい事があるはずなのに、なんで、そんな優しい言葉を言ってくれるんですか。

 責めてくれたほうが、楽になるのに。

 「……どうして」

 「うん?」

 「……どうして、わたしに電話したんですか

  聞きたい事があるから電話したはずなのに、なんで、いつも通りに話すんですか……」

 「どうしてだと思う?」

 「……大人だから

  大人だから……大人として心配だから、ですよね……

  雹夜さんは大人で……わたしは子供だから……だから……可哀想だから……」

 雹夜さんは優しいから。大人だから。

 困ってる子供が居たら、きっと手を差し伸べる。

 だからわたしにも手を伸ばした。困っているから。

 わたしを、可哀想だと思ったから。

 

 「そうだね。心配はしたよ。何かあったんじゃないかなって」

 「……別に、何もないです」

 「そうなの?それなら、いいんだけど」

 「……ええ、何もないです。大丈夫です。だから、もういいですか……」

 「俺も心配したけどさ、アカネちゃんも、先輩方も、皆心配してたよ」

 「……迷惑でしたよね。ごめんなさい」

 「迷惑なんかじゃないさ。それで、どう?Vtuber、戻れそう?」

 「……戻っても、何も変わりませんよ

 「はやて丸さん?」

 「もう、いいですか?わたし、忙しいので」

 「……そっか。ごめんね、邪魔しちゃって」

 「…………それじゃ」

 「本当に、いいんだね?」

 「……え?」

 「本当に、このまま通話を切って、いいんだね?」

 「……」

 「休止してる理由は俺にはわからない

  家の事情なら俺から言えることはないし、1人で解決出来るなら、俺は何もしない

  このまま通話を切って、皆にはリアルが忙しいからって伝えておくよ」

 「……」

 「でも」

 「でも……もし、家の事情でもなく、1人で解決出来ないモノなら

  それがもしはやて丸を苦しませてるなら、助けてほしいのに、誰にも頼れない状況なら」

 

 「俺は黙っていられない」

 

 「……っ」

 「はやて丸。今抱えてる問題は、1人で解決出来るのか?

  本当に、俺はこのまま、この通話を切っていいのか?

  この通話に出たって事は、お前は、助けてほしかったんじゃないのか?」

 「……違います」

 「はやて丸」

 「違いますっ!!」

 「わたしはっ!!!……わたしは、大丈夫です。独りで、大丈夫なんです……」

 「……声が震えてるのに、大丈夫だって?」

 「……っ」

 「そんな感情をむき出しにして、大丈夫だって?」

 「……やめて……」

 「本当に、心の底から、大丈夫だと言えるのか?はやて丸」

 「……もうやめてよ……」

 「はやて丸」

 

 

 

 

 

 「友達でもなんでもないのに、わたしに関わらないで!!」

 

 

 

 

 

 「……」

 「……あっ……ち、ちがう……

 

 違う……違う!!!

 こんな事を言いたかったんじゃない!

 わたしは……わたしはただ……!!

 ただ……たすけてほしくて……なのに……

 

 「友達じゃない、か」

 

 離れていく。

 手を伸ばしてくれた雹夜さんが、わたしを見捨てて、離れていく。

 ここまで来てくれたのに。

 ここまでしてくれたのに。

 わたしが、わたしが……自らその手を振りほどいてしまった。

 自分がここまでバカだとは思わなかった。

 本当に、救いようのないバカだ。

 

 ただ、ただ……友達がほしかっただけだった。

 一緒に遊んでくれる友達がほしかっただけだった。

 一緒に泣いてくれる友達がほしかっただけだった。

 一緒に笑ってくれる友達がほしかっただけだった。

 

 ただ、欲しかっただけなのに。

 それを知らないから、わたしは振りほどいてしまった。

 もう二度と来ないチャンスを。もう作れない友達を。

 ずっと欲しかったモノを、自分の手で、壊してしまった。

 

 

 

 やだよ……たすけてよ……

 

 もうひとりは……やだよぉ……

 

 

 

 「それで?」

 「…………え……」

 「友達じゃないから……それで?」

 「…………」

 「まぁ、はやて丸さんがそう言うなら、そうなんだと思うよ。うん」

 「確かに出会ってまだ数ヶ月だし、そんなに遊んでもないから、友達じゃないと言われればそうかもしれんね

  ……そうだな。俺も、今は友達は2人しか居ないし、親友は1人しかいない」

 「その友達の中に、はやて丸、お前はいないよ」

 「……っ」

 「悪いな、はやて丸」

 「俺は、いい大人じゃないから

  お前の求めてる言葉も言えないし、大人としての優しさも与えれない

  お前の抱えてるモノも俺はわからん。お前にとっては、頼りない大人だと思う」

 「情けなくて、かっこ悪くて、頼りにもならない大人だ」

 

 「……だから、大人として、何か言うのはやめた

  大人としてのプライドも、大人としてあるべき姿も、全部捨ててやる

  ただシンプルに、俺は、お前に聞くぞ」

 

 

 「……なぁはやて丸。俺に、教えてくれないか」

 

 

 「何を抱えてるんだ?何が、お前の重みになってるんだ?

  怖いのか?辛いのか?ずっと抱えてて、お前は大丈夫なのか?

  誰にも言えなかったのか?誰にも、頼れなかったのか?」

 「もしそうならな、はやて丸」

 

 

 「何も気にせず俺に全部ぶちまけろ」

 

 

 「……っ」

 

 

 「俺じゃ、頼りないかもしれない」

 

 ちがう。

 

 「俺じゃ、お前を救えないかもしれない」

 

 ちがう。

 

 「俺じゃ、何にも出来ないかもしれない」

 

 ちがう。

 

 「それでも、俺が全部受け止めてやる」

 

 

 

 「確かに、今は友達じゃないかもしれない。お前がそう言うなら、そうかもしれない」

 「友達じゃなければ関わっちゃいけない問題だと言うのなら」

 

 

 

 「なら、今から友達になってやる

  そんで、友達として、お前の問題に関わってやる

  お前が嫌がっても、お前がそうやって泣いてる限り、俺は友達として関わり続けるぞ」

 

 

 

 

 

 ― ごめんね、友達とだけだから ―

 

 ― ○○ちゃんは友達じゃないから ―

 

 ― 友達にしか話せないから、ごめん ―

 

 

 

 「俺はいつだって覚悟できてる。お前はどうなんだ?はやて丸」

 

 

 「……うぅ……ぁぁあ……

 

 

 言っていいのかな。

 ぶつかっても、いいのかな。

 泣いて、叫んで、バカみたいな情けない顔をして、求めてもいいのかな。

 友達が欲しいって、言って良いのかな。

 

 ……やだよぉ……

 もう……ひとりは……やだよぉ…………やだよぉ……

 「…………たすけてよぉ……たすけてよ……せんぱい……」

 「ああ。助けてやる」

 ……ぁぁあああ……ぅぁぁぁああぁぁ……

 

 

 「…………うぁぁぁああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 「……ぐすっ……えぅ……」

 「そうか。そういう事があったのか」

 「……わたし……違うと思ったけど……でも……」

 「不安だったんだね」

 「……ほんとうにそうだったら……どうしようって……こわくて……」

 「そうだよな。……うん。辛かったね」

 「ずっと……ずっと…………ともだちがほしかったんです……」

 「ひとりがこわくて……だれかと話したくて……インタビューをはじめて……」

 「ごめんなさい……だまして、ごめんなさい……」

 「……まぁ、そうだな。理由はどうあれ、俺達は騙されたわけだ」

 「……うぅ……」

 「だからな、はやて丸。今度はちゃんと、向き合って言ってこい

 「……え……?」

 「向き合って、言いたい事言ってしまえ。……んじゃ、また後でな」

 「せんぱい……?」

 

 ブチンと通話が切れる。

 それから少し経って、画面に通話の文字が浮かぶ

 わたしは、恐る恐る、それに出た。

 

 

 「……はやて丸ちゃん!!聞こえてる……っ!?」

 

 

 「あ……アカネ、ちゃん……?」

 「……バカっ!!」

 「えっ……」

 「なんで……なんで言ってくれないのさ!!ボクは!!……ボクは、あの時から、友達だと思ってたのに……」

 「……アカネちゃん……」

 「嬉しかったのに……!友達が出来て、嬉しかったのに……っ!!勝手に1人で抱え込んで……消えようとしないでよ……!!」

 「……アカネちゃんは……わたしのこと……友達だって……ほんきで……」

 「……当たり前だよ……!!そうじゃないなら……一緒に遊んだり、通話したりなんて、しないよ……友達だから……っ!!……友達だから、こんなに心配したんだよ……」

 「……だましてたんだよ……?ずっと、わたしはアカネちゃんもだまして……」

 「だからなんなのさ……っ!!」

 「……っ」

 「騙されたとしても……それでもいいよ……はやて丸ちゃんが何もなかったのなら、それでもいいよ……でも……でも泣いてるじゃないか……助けてって……叫んでるじゃないか……だから……例え騙されてたとしても!!……ボクは助けるよ……友達だもん……」

 「……ごめんね……ほんとに、ごめんね……」

 「許さないからね……はやて丸ちゃんが……友達だって言ってくれるまで、絶対、許さないから……!!」

 「……いいのかな……わたしで、ほんとうに、いいのかな……」

 「いいんだよ……もう、我慢しなくて、いいんだよ……」

 「……うぅぅぅぅぅ……」

 

 「……アカネちゃん……わたしと、もういちど……友達に、なってくれる……?」

 「……うんっ!!……うん!!!」

 

 

 

 「本当は、本当は……もっとはやく、はやて丸ちゃんに声をかけたかった……」

  でも……マネージャーさんが、絶対、ダメだって……」

 「ボク……ずっと、ずっと……心配で……」

 「……そうだったんだ。あれ、でもそれなら……だ、大丈夫なの?」

 「……うん」

 「あのね……ボクもよくわからないんだけど、少しだけなら、話してもいいって……

  それで……雹夜さんから連絡くるまで、待ってた……」

 「……ありがとう。アカネちゃん」

 「もう、1人で抱え込まないでね……?」

 「……うん。何かあったら、相談するね……?」

 「絶対だよ……っ!?ボク達、友達なんだから……っ!!」

 「……うんっ!!」

 

 

 

 わたしには、もう一つの夢がある。

 それは、アカネちゃんにも言ってない夢。

 恥ずかしくて、誰にも言えない夢。

 

 

 昔お母さんが読んでくれた絵本。

 その絵本には、王子様が居て。

 ピンチになったお姫様のところに現れる、そんなお話。

 ありきたりで、でも、ずっと夢見てて。

 いつか、自分のところにも、そんな王子様が現れるんじゃないかって――。

   

 

 アカネちゃんは、わたしの友達になってくれた。

 雹夜さんも、わたしの友達になってくれると言ってくれた。

 2人が友達になってくれた事は本当に嬉しくて。……それなのに。

 どうしてだろう。

 

 アカネちゃんを想う気持ちと。

 雹夜さんを想う気持ちが。

 

 少しだけ、違う気がするのは、なんでだろう。

 

 

 

 「……そう。それで、私に頼みに来たのね?」

 「無理を承知で言います。少しだけでいいんです」

 「……難しいと思うわ」

 「そのアカネちゃんが、もしはやて丸ちゃんの問題に深く関わってしまったら……」

 「わかってます。だから、はやて丸の問題は俺が解決します」

 「アカネちゃんには、ただ彼女に、声をかけてあげてほしいんです」

 「……」

 「友達を」

 「……雹くん?」

 「友達を、心配して声を掛けるのはダメなことですか」

 「……正直ね。私は今も、Vtuberを仕事として見ているわ」

 「その仕事に、私情を持ち出すのはどうかと思ってる」

 「でも……彼女達は違う。Vtuberを、違うものとして見ている」

 「そんな彼女達に、私は自分の考えを押し付けるつもりはないわ」

 「むしろ、私個人としては応援する。……それに……

 「サキさん?」

 「……わかったわ。話だけはしてみるけど、期待はしないでね?私も、こういう頼みごとは初めてだから」

 「お願いします」

 「ふふ。きっと大丈夫よ。これでも、事務所の中では一番人気なんだもの」

 「いざとなればそれを切り札に使わせてもらおうかしら」

 「えーと……頼んでおいてあれですけど、無理しないように……」

 「何かあったら事務所辞めて雹くんとコンビでも組もうかしら?」

 「それはそれで嬉しいですけど、自分の生活は大事にしてください……」

 「ふふふ」

 

 

 (……それに、友達を想う気持ちは、今の私なら、少しだけわかる気がするから

 

 

 

 「……なるほどのぅ」

 「多分だけど、そのインタビュー配信に何かあったんじゃねぇかなって」

 「コメントもさ、はやて丸を心配するコメントが多くてな

  流石に俺の配信だから、触れないようにしたけど」

 「……DMにさ、頼るのは癪だけどっていう前書きを書いてさ、メッセージが来たんだよ」

 「助けてあげてくれって

 「ふむ」

 「……俺は、どうしたらいいんだろうか」

 「助けたくないのかい?」

 「助けたいさ。でも、わかるだろ?俺は……俺は、大人だから

  大人だから、あの子に優しい言葉を掛けてあげないといけないんだよ

  ……でも、正直わからない。なんて言っていいのか、全然わからない」

 「大人として、どんな事を言えばいいのかなって」

 「……」

 

 

 「……ぶふふふ、ぶははははははは!!」

 

 「……おっさん?」

 「いやぁ……キミがそんな事で悩んでるとは思わなかったよ」

 「そんなことって」

 「ふふふ……なぁ雹夜」

 

 

 「お前、いつからそんな偉くなった?生意気言ってんじゃねぇぞクソガキが」

 

 「……」

 「大人だぁ?お前がいつから大人になったよ。俺からしたら、まだクソガキだわ

  カッコいい言い訳考えてる暇があったら、クソガキらしく感情で動いてみろよ

  大人なんてのは、いつだってなれるんだよ」

 「でもな、感情で動くことなんて、大人になったら簡単に出来ねぇぞ

  お前はまだまだ未熟なクソガキだ。クソガキはクソガキらしく、思うままに言ってみろ」

 「大人なんて言葉に甘えてんじゃねぇぞ」

 

 

 「…………悪いな、おっさん」

 「……それで?どうするんじゃい」

 「もう決めたよ。行ってくる」

 「手を貸すかい?」

 「いや……助けてくれそうな人を知ってるから、大丈夫」

 「そうか。……なぁ雹夜」

 「ん?」

 「その子を助けるのは、大人としてかい?それとも――」

 「決まってんだろ」

 

 

 「クソガキらしく、友達として、アイツを助けに行ってくる」

 

 

 




 これにて、はやて丸編終了。

 
 叩かれないために一応書いておきます。(理解してる人は多いだろうけど一応)

 クソガキ=感情的な奴 ではないです。
 おっさんと雹夜の関係だから言える言葉って感じです。

 
 ただ雹夜がはやて丸を助けるだけの話もシンプルでよかったかなと思います。
 でも、実際1人の人間を救うなんてめちゃくちゃ大変です。
 雹夜でも悩みます。だからこそ、今までの関係が繋がるわけですね。
 誰かを救おうとする人の裏では、また誰かがその人を支えようと動いてくれてる。
 そういう人と人との繋がりが、この作品の一つのテーマだったり。
 まぁVtuberのジャンルでやる意味なくね?と言われればそうだけど……まぁいいか!


 次回は一話挟んで、アカネ編に突入します。
 先に伝えておきますと、はやて丸のようなクソ重いシリアスはしばらくありません。やったね。

 あと少しだけ執筆休憩しようかなと思います。
 はやて丸編終わったので丁度いいかなと。


 あとは、書くの悩みましたけど、やっぱり高評価とか頂けるとモチベは上がりますね。最初は自分の書きたいもの書けばいいやー!でやってたけど、話進むと「うーむ……」って気になるようになりました。一度気になりだすとダメですね……。

 貰えるなら素直に貰いたいなぁという気持ちはありますけど、無理にとは言いません。話の方向性変わって面白くねぇ!!って思ってる方もいると思います。今回の話も含めて再度評価していただけたら嬉しいです。強欲でごめんね。ではまた次回。長文失礼しました。


 

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