24歳、男性。Vtuberを始めるも、女性ファンより男性ファンが多い件について。   作:Rabbit Queen

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Vtuber祭 一日目 後

 

 半分くらいまで飲んだ温かい紅茶が入ったペットボトルを右手で持ちながら、奏さんのライブを聴き終えて感想会をしていたおっさんとはやて丸さんの所に戻って雑談をする。少ししてから会場内にアナウンスが入った。このアナウンスも凝っていて、Vtuberさんが時刻の読み上げと自分の宣伝が出来るというシステムだった。入り口と中央ステージの間にある通路の左右には事務所組と個人組で分けられたモニターが設置されている。個人組のモニターには抽選で出演権を得た個人Vtuberさん達全員が参加できるようになっている。

 

 ただしアナウンスに関しては事務所に応募するVtuberさんと同じように事前に用意された台本を読んで録音してイベントを開催している企業側に送る事になっている。後日企業から送られるメールで「OK」がくれば無事合格。本当はもっと細々と難しい事書いてるんだけど、あんま言っちゃダメだし正直よくわからんかった。

 

 事務所組も同じようにオーディションを受けるらしく、アナウンスに応募したサキさんが「久々に緊張したわ」と通話で言ってたのでそれとなくメールについて大事な部分とか聞いてみた。まぁ聞いてる時点でわかると思うけど勿論サキさんも合格してた。え?私?うん、何故か私も合格してた。ちょっとびっくり。いやかなりびっくりよ。

 

 ここまで運が良いとこの後何か悪い事でも起きるんじゃねぇかと思う私はきっと心配性なんだと思うけど、そりゃ心配になるでしょう。Vtuber祭に参加できるだけでも凄い事らしいのにそれに加えて企業側の審査も通ってアナウンスも出来る。うーん、絶対やばい。何か起きそう。

 

 まぁ大丈夫でしょう。うん。そう思いながら今流れている時刻を知らせてくれているアナウンスを聞きつつ念のため自分のスマホで時間を確認。よし間違いないな。

 

「んじゃ俺そろそろ行くから。二人供、また後でね。おっさん、はやて丸さんの事頼んだよ?」

「うむ。キミも気をつけての」

「せんぱい!後で皆で見に行きまスからね!」

「ういうい。んじゃねー」

 

 はやて丸さんとおっさんは一度サキさんやアカネちゃんと合流するらしい。いいなぁ。ちなみに少し離れて一緒にステージを見ていたクロエちゃん達は先に他の所に移動していった。軽く手を振って見送るとクロエちゃんが大きく手を振ってくれた。女子高生に手を振ってもらうというなかなか貴重な経験ができました。やったね。

 

 

 

 スタッフさんに案内されながら複数のドアがある通路を歩く。途中何人かの人、おそらく同じVtuberさんとすれ違った。下手に声をかけると身バレしそうなのとあんま喋っちゃ駄目な雰囲気を感じたので軽く会釈だけしてすれ違った。しばらく歩いて通路の端っこに近い所に着くとスタッフさんが一つのドアを開ける。中は真っ白な空間で真ん中にテーブルと椅子、モニターとPCが置かれていた。テーブルは私が使っているデスクよりちょっと大きい。

 

 「使い方を説明しますのでこちらにどうぞ」

 

 スタッフさんに言われてモニター前の椅子に座る。それからどこをどう操作すればいいかを教えてもらう。大体の操作は普段家でやってる操作と変わらないので大丈夫そうだが、2Dの自分のキャラが自分の家の環境よりヌルヌル動くのですげぇびっくりした。遅延も無いし表情をちゃんと読み取ってくれるから楽しい。流石に力を入れてるイベントだけあって環境が整ってるなぁ。いいなぁ楽しいなぁこれ。あとこのテーブル。私が使ってるデスクより広くて使いやすい。キーボードにマウスにスマホを置いても全然スペースがある。すげぇ。右手がこんなに大きく動かせるとは思わなかった。いいなぁ。新しいデスク買おうかなぁ。

 

 「次にマイクテストをしたいのでこちらの台本を読んでもらってもいいですか?」

 

 新しいデスクはどんな色にしてどういうサイズのやつにしようか頭の中で妄想しているとスタッフさんがそう言って台本を渡してきた。「わかりました」と答えて受け取り、置いてあったスタンドマイクに向けて喋る。ちょっと緊張したけど言葉に詰まることなく無事読み終えた私はスタッフさんの反応を待った。

 

 「……あ、はい大丈夫です」

 

 少しの間があってからスタッフさんが答える。

 その間が凄く気になるんだけど何だろうか。

 

 「はい、それではお時間になりますのでモニターに映しますね。後ろで待機してるので何かあったら声をかけてください」

 「ありがとうございます。……よし、やるか」

 

 気合を入れようとして、やめた。なんか下手に気合入れてミスったら恥ずかしいし。いつも通りマイペースでやっていこう。多分緊張して力入っちゃうけど。ふぅー……よし、よし。やるぞー。

 

 

「こんにちはー!」

「えー!遠くから来てくれたんですか!?」

 

 始まって5分。モニターの向こう側から歩く人々のざわざわとした声と、私のモニターの左右から可愛らしい声と楽しそうな声が聞こえてくる。私の前には誰も居なくて、左右のモニターの前に少しだけ人だかりが出来ていた。誰とも喋ることなくただ左右で楽しそうにファンと話しているVtuberさんの声だけを拾う部屋の空気がちょっと重い。あと後ろのスタッフさんの視線が気になる。笑ってないだろうか。

 

 うーん、一人か二人くらいは立ち止まってくれると思ったんだけど全然だなぁ。甘かった。ここまで順調にきてたからその反動で人が来ないんだろうか。早くおっさん達来ないかなぁ。寂しいよ俺。あと辛い。

 

 「あの、雹夜さんですか?」

 「お?はい、そうですよー」

 「自分雹夜さんのファンです!いつも配信見てます!」

 「え、本当?ありがとうございます。凄い嬉しいです」

 「本当いい声してますよね。あ、寝落ち配信いつもお世話になってます!」

 「ありがとうー。目の前で言われると照れますねこれ。こちらこそいつも聞いてくれてありがとうございます」

 「いえいえ!これからも応援してますので頑張ってください!」

 「うん。ありがとう。また配信で会おうね。ありがとうーばいばい」

 

 短い時間だったけど私のファンの人が来てくれた。めっちゃ嬉しい。

 ……お、また一人来てくれた。

 

 「こんにちはー。雹夜さんですか?」

 「はい、そうです。こんにちは」

 「いつも配信見てますー。イベント参加するつもりなかったんですけど、雹夜さん来るって配信で聞いて来ちゃいました」

 「あれま、そうだったの?ありがとうね。会えて嬉しいよ」

 「いやーでもほんといい声っすよね。羨ましいです」

 「そう?結構怖がられる事多いよ―?お兄さんの声もなかなかいい声してるぜ?」

 「マジっすか?なんか雹夜さんに言われると嬉しいですね。ありがとうございます。来てよかったです」

 「いやいや、こちらこそありがとうね。僕も会えて嬉しかったよ。また配信で会おうねー。ばいばーいありがとうー」

 

 ふぅ。緊張は解れてきたけどちょっと疲れてきたな。最初の方で力入れすぎたかも。次はゆっくり喋ってペースを……あれ?なんか複数人こっちに来てるような……

 

 「こんにちは。雹夜さんに会いにきましたー」

 「雹さんこんにちはー!」

 「いたいた。雹夜さーん」

 「こんにちはー」

 「お、おうこんにちは。友達同士で来たの?」

 「あ、違います」

 「たまたまですね」

 「マジか。普通に団体さんかと思っちゃった。どうもどうもーこんにちはー」

 「あ、雹夜さん、ハイタッチしてもらっていいですか?」

 「お、いいよー。あ、画面には触れないようにね」

 「わかりました」

 「んじゃせーの……たーっち。ありがとうー」

 「ありがとうございます!」

 「僕もいいですか?」

 「いいよいいよー。どんどんおいでー」

 「じゃあ自分もお願いします!」

 「俺もお願いしますー」

 「はいよー。一人づつ並んでね~」

 

 

 「来てくれてありがとうねー。Vtuber祭楽しんでいってねー。ばいばーいありがとうーばいばーい」

 

 その後更にファンを名乗る人が増えていって合計で30人のリスナーさんが私に会いに来てくれた。嬉しい。並びすぎると他の人の迷惑になるかもって事で各自の判断で一人ひとりが短い時間で回してくれていた。民度たけぇよ。あったけぇ。良いリスナーさんに恵まれたなぁ。大事にしよう。人が来なさそうだったので部屋にかけられていた時計を確認。あと10分は喋れるのか。おっさん達間に合うかな?メッセージとか来てないか確認したいけど流石に見るのは駄目だろうし、早く来ないかなぁ。

 

 

 「お、いたいた。あそこじゃのぅ」

 「せんぱい!来ました!」

 「お、お疲れ様です、雹夜さん」

 「ごめんなさいね、少しやることが出来て遅れてしまったわ」

 「おー、皆きたー」

 

 内心ガッツポーズしてるけど恥ずかしいので流石にやらない。

 でも嬉しいなぁ。

 

 「サ……やべ、名前言っちゃまずいか」

 「大丈夫じゃないでスか?」

 「普通に実名じゃ駄目なのかの?」

 「そういえばサ……二人の名前知らないや」

 「マジかキミ」

 「私も教えてなかったわね……えっと」

 「じゃあさっちゃんで」

 「え!?」

 「あとあーちゃん」

 「あ、あーちゃんですか……」

 「うん。これなら違和感ないし。だめ?」

 「いいわよ」

 「即答じゃのぅ」

 「ぼ、ボクも大丈夫です……!」

 「おっけー。んじゃさっちゃんとあーちゃん、イベントお疲れ様です」

 「ふふ、ありがとう」

 「あ、ありがとうございます……!」

 

 本当はステージが終わって真っ先に言いたかったけど、まぁでもようやく二人にお疲れ様と言えてよかった。それから私達は私の出番が終わるまで楽しく雑談をしていた。スタッフさんに声をかけられ終了時刻に気づいた私はスタッフさんにお礼を言いつつ、おっさん達に一度別れを言う。

 

 「んじゃまた後で。あ、良いこと思いついた。ハイタッチしようぜ」

 「あ、やりたいッス!」

 「あとでやればいいんじゃないかの?」

 「ばっかやろう。この姿だから意味があるんじゃい」

 「そうかのぅ。よくわからんが」

 「はいまずはやて丸ー。かもーん」

 「いきまス!たーっち!」

 「次アカネちゃんかもん!」

 「は、はい!たっち、です!

 「いいねぇいいねぇ。はいおっさん」

 「む、わしもか。ほい」

 「うい。んじゃ最後にサキさん。はい」

 「恥ずかしいわね……はい」

 「ありがとうございます」

 「ふふ、いいえ」

 「んじゃ皆また後でねーばいばーい」

 

 おっさん達がモニターの前から離れていくのを確認し、私も椅子から立ち上がりモニターの前から離れる。スタッフさんが少しだけ画面を弄り、問題が無いことを確認して私を見る。

 「大丈夫ですね。お疲れ様でした」

 「ありがとうございました。楽しかったです」

 「楽しんでもらえてよかったです。……あの」

 「はい?」

 「とても素敵な声でした。チャンネル登録したので、後でアーカイブとか見てみますね」

 「え、本当ですか?ありがとうございます。あの、よかったら生配信にも遊びにきてみてください。配信で会えるの楽しみにしてますので」

 「そうですね。時間が合えば見に行きますね」

 「やった。楽しみにしてます。今日はお世話になりました」

 

 

 スタッフさんにお礼を言って部屋を出た私は廊下を一人歩く。嬉しいことに新しいファンが増えた。配信上でしかファンは増えないと思ってたけど、そうじゃなかった。こういうイベントのおかげで配信を見てない人でもファンになってくれるんだ。来てよかったと改めて思う。

 

 しばらく歩いていると通路の出口が見えてその先をお客さん達が歩いていた。出口の近くでは一人の女性が立っていた。見覚えのあるその女性に私は近づいて声をかけた

 

「さっちゃんお疲れ様です」

「お疲れ様雹くん。あの、その呼び方続けるのね」

「あ、ダメでした?まだ会場内ですし名前呼ぶのもあれかなーと思ったんですけど」

「珍しい名前でも無いから大丈夫だと思うのだけど……でも雹くんが呼びたいならそれで」

「じゃあサキさんに戻しますか」

「むー」

 

わかりやすく頬を膨らませるサキさんを見て和む。お互いまだどこかぎこちなさがあったけど、初日の最後にこういうやり取りが出来てよかった。他の三人はグッズコーナーに行ったらしい。皆で一緒に行きませんかとサキさんは言ったらしいけどおっさんが「あの子は多分行かないと思うからわしらだけで行くよ」と言ったらしい。流石おっさんわかってらっしゃる。今からグッズコーナーなんて行ったら激混みしてるだろうし、正直欲しい物も無いから行っても退屈になりそう。

 

「サキさんは行かなくてよかったんですか?」

「私は特に欲しいものはなかったから」

「なるほど」

「でも雹くんのボイスは欲しいわ」

「まだ時間かかりますねー」

「せめてアクスタだけでも」

「何で難易度上げるんですか」

「タペストリーって何時出るのかしら?」

「うーんおっさんに聞いてみてください」

「わかったわ」

「本気で聞きそうだから怖いっすわ……」

 

そんな冗談(?)混じりの会話をしつつとりあえずここから移動してどこか二人で休憩しようと歩き出そうとした時だった。

 

あの~、その声、ひょっとして雹夜くんですか?

 

 

 

雹夜くんの名前を呼ぶ女性の声がして、私と雹くんは声がした方に振り向く。

少し……いえ、結構露出の高い服を着た女性が立っていて、雹くんの事をじっと見ていた。

知り合いだろうか。それとも彼のファンだろうか?

 

「……そういう事ね」

「あー、やっぱり雹夜くんだ。私ファンなんです~!」

 

雹くんの呟きを聞いて彼女は喜びながら彼のファンと名乗る。

私は雹くんの呟きに疑問を感じた。

そういう事?どういう事なのかしら?

 

「私~本当はVtuber祭に出ようと思ってたんですけど~」

 

彼女の言葉に私は思わず声を出した。

 

「出ようと思ってた……?Vtuberをやっていたのかしら?」

「え?えぇまぁ……貴方もファンなんですかぁ?」

「えっと、ええ、そうよ。彼のファンなの」

「そうなんですか~。あ、それでね雹夜くん」

 

彼女はそう言って私の隣に居た雹くんに近づく。

彼の目の前まで来た彼女からは甘ったるい香水の匂いがした。

胸元を大きく開けていて、見せつけるように彼の顔を覗き込む。

ちょっと、嫌な女性だと私は感じた。

 

「私雹夜くんとコラボとかいろいろしたかったのに辞める事になっちゃって~」

はやて丸とか言う女のせいで~あ、私Vtuberやってた時はって呼ばれてたんですよ~」

 

 

 





 こいつをどう片付けるかが問題。

 次回投稿遅れるかもなのでよろしくお願いします。
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