24歳、男性。Vtuberを始めるも、女性ファンより男性ファンが多い件について。   作:Rabbit Queen

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VTuber祭 二日目 友の声

 

午前中にどうしても見たかったステージを観終えたわたしは、心の余韻を残しつつ会場の片隅でスマホを取り出した。通知の中に一件、雹夜さんからのメッセージを見つける。

 

《ステージ終わった? 今ちょっと空いてるから、合流しない?》

 

 即答だった。

 

《したいッス!今どこにいまスか!?》

 

《フードエリアの手前、青い柱の前あたり。人通り少ないから目立つよ》

 

 すぐに人混みをかき分けるように歩き出す。目印の柱が見えた瞬間、小さく手を振ってくれる長身の姿が見えて、わたしも自然と笑顔になった。

 

「せんぱい!お待たせしましたッ!」

 

「全然大丈夫だよー」

 

 穏やかな声と、柔らかな笑み。それだけで、何だか安心する。

 

 しばらくのあいだ立ち話で近況を交わしながら、私たちは今日の本命――アカネちゃんのステージに向かって歩き出した。

 

「さっき、少しだけ不思議な子と話したんだよ」

 

「不思議な子?」

 

 歩きながら、雹夜さんがぽつぽつと語りはじめた。朝、ふらっと立ち寄った休憩スペースで出会ったという少女――その人は、事務所に所属しているVTuberで、小柄で、ふわふわした口調で、どこか夢の中にいるみたいな子だったらしい。

 

「名前は……ようじょ先輩って言ってた」

 

 その言葉を聞いた瞬間、思わずわたしは足を止めてしまった。

 

「せんぱい……あのようじょ先輩に会ったんでスか!?」

 

「ん? お、おぉ。やっぱ有名な人なの?」

 

「有名どころじゃないッスよ!羨ましいッスー!!」

 

 わたしの反応に、雹夜さんはちょっと目を丸くしたあと、肩をすくめた。

 

「正直、僕は全然知らなかったんだけど……そこまで?」

 

「事務所の名前だけ聞いてもピンと来ない人も多いと思うんでスけど、ようじょ先輩だけは別格ッス」

 

「へぇ……どのへんが?」

 

「まず声! 一度聞いたら忘れられないし、有名どころのVTuberともコラボしてまスし、それが全部、相手からのお誘いなんでスよ」

 

「相手から?」

 

「ですでス!コラボの申し出が向こうから来るって、それだけで凄いことなんでスよ。誰でもできることじゃないッス」

 

「人を引き寄せる何かがあるんだろうねぇ」

 

「まさにそれッス!わたしも欲しいッス……その引力!!」

 

「はやて丸さんにも魅力はあるし、僕はちゃんと惹かれてるよ」

 

「へ……?」

 

 不意に告げられたその言葉に、わたしの思考は一瞬止まった。

 

「お、ここじゃない?予想通り、三階席は空いてるな」

 

 ……やっぱりこの人は、時々不意打ちみたいに心に刺さることを言ってくるから、怖いッス……! むぅ……!!

 

 

 モニターの向こうに見える光景を見て、僕は深く深呼吸をした。

 

 ボク――アカネは、ステージの上に立っていた。

 

 まばゆい照明の中、ステージの右側に置かれた数台のモニターの中に、ボクはいた。周囲を見渡せば、人気VTuberたちがずらりと並んでいて、その誰もがファンにとっては憧れの存在だ。

 

(はぁ……緊張する)

 

 ここに至るまで、長い時間をかけて準備してきた。でも今日のバトル形式のイベントは、正真正銘、実力が試される場所。FPSの対抗戦。しかも、爆破ルールという、一撃が命取りになるスリリングなジャンル。

 

 本来なら得意分野なはず。……なのに、足がすくむ。

 

(サキさんがいてくれたらな……)

 

 昨日は、事務所の仲間たちとわいわい参加できた。安心感があった。でも今日は違う。名だたる猛者たちの中に、ボクは混ざって立っている。

 

 不安が心を支配しようとした、そのとき。

 

「おーい!アカネって子!あたしと勝負だにゃ!!」

 

 唐突に飛んできた叫び声。肩がびくんと跳ねた。

 

 ステージの対岸、猫耳と元気いっぱいの笑顔をトレードマークにした人気VTuberの1人――ユートピア所属のニャンコさんがこちらを指差していた。

 

「え、えっと……が、頑張ります……!」

 

 しどろもどろな返答に、彼女は満足そうに笑った。

 

「ふふん、燃えてきたにゃー!!」

 

 ああ、火に油を注いじゃったかもしれない……。

 

 

 試合が始まると、最初の三戦は惨敗だった。

 

 緊張で手が震える。連携も取れず、作戦も読まれて、気づけば3点ビハインド。会場のざわめきが遠く聞こえる。

 

(ボク……なにもできてない)

 

 そんなとき、チームリーダーが静かに提案してくれた。

 

「ここからは、各自得意な動きで行こう」

 

 その言葉に、ふっと心が軽くなった。

 

 ボクは、自分の得意なポジションへ動いた。慎重に索敵し、敵の意表を突く動き。少しずつ連携も取れはじめ、四戦目から点が入るようになった。

 

 そして――六戦目。逆転に成功した。

 

 会場がどよめいた。震えが、歓声にかき消された。

 

(いける……!)

 

 でも、最終戦。簡単には勝たせてもらえない。

 

 開始早々、ニャンコさんが三人を一気に倒し、人数差は圧倒的。残ったのはボクとリーダーだけ。

 

(まだ……終わらせない)

 

 連携して、一人、また一人と敵を削っていく。でも、拠点前でリーダーが倒れてしまった。

 

 残るはボク一人。相手は二人。しかも、ニャンコさんとそのチームのリーダー。

 

(普通なら、ニャンコさんを狙う……けど)

 

 ボクは、体力の多いリーダーのほうに向かった。奇襲。反応が一瞬遅れた敵を、撃ち抜く。

 

 ――1対1。ニャンコさんとの最終決戦。

 

「にゃ……!? そっち来るとは思わなかったにゃ……!」

 

 弾薬はこっちに分がある。でも彼女の体力はまだ残ってる。少しの判断ミスが命取り。

 

(どうする……どう動く?)

 

 そのとき、頭の中に響いた声があった。

 

「がんばれ!!」

 

(はーちゃん……!?)

 

 信じられない。でも、不思議と胸に火が灯った。

 

 ボクは走った。一直線に。撃たれる。でも止まらない。

 

 弾を避け、詰め寄り、トリガーを引いた――

 

 

 

「……勝った」

 

 勝利の文字が画面に現れた瞬間、会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。

 

「うそ……勝った、の……?」

 

 しばらく、ボクは天井を見上げて動けなかった。胸の鼓動がうるさくて、手が震えていた。

 

 やがて我に返り、観客席を見上げる。

 

 そこにはいないはずの姿――はーちゃんが、3階通路で手を振っていた。

 

 ボクは、そっと、モニター越しに手を振り返す。

 

 ――ありがとう。届いたよ、その声。

 

 

 

「おお、すごい、勝った」

 

「っやったあああああああああああああ!!!」

 

「お、おぉ……びっくりした……」

 

「せんぱい!あーちゃんがやりましたよ!やったッス!!」

 

「うん、本当に凄かったね。流石アカネちゃんだったよ」

 

 わたしの胸は、感動と興奮でいっぱいだった。まるで自分が勝ったように嬉しい。

 

 あんな風に、ステージの上で輝く姿を見てしまったら――

 

 もう、戻れない。

 

 わたしは今、心の底から、こう思っていた。

 

 

 【あの場所に、立ちたい】

 

 

 個人勢として、ステージに立つのは難しいかもしれない。でも、夢を見ることは自由だ。

 

 大きな目標ができた。そして今――ものすごく、配信がしたい。リスナーと話したい。

 

 ――伝えたい、この気持ちを。 

 

 





今日は二回投稿します。多分19時くらいです。

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