艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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鎮守府の未来

「…入室を許可した覚えはないが」

「そうね」

 

 現在、数人の艦娘が提督に会うために執務室に乗り込んでいる。私もそのうちの1人だ。

 

 提督は面倒くさそうに私に言った。

 

「俺はこれから演習任務についての報告書を纏めないといけない。加賀、他の連中を連れて今すぐこの部屋から出ていけ」

「では、例の件について貴方から話してくれると約束してください」

「くだらないな」

 

 提督は手元の紙束を掴み読み始めた。演習艦隊の旗艦だった霞さんからの報告書だろう。

 

「俺のことについて、俺から言うことは何もない。大淀や長門から俺のことが書いてある調査書は貰っているだろう」

「ええ」

「それならなおさらだ。何を聞きたいのかがわからない」

 

 私が何かを言う前に、那智さんと足柄さんが前に出た。

 

「私たちが聞きたいことは1つよ」

「あの西方哨戒任務の後、朝潮や霞に体罰などしていないだろうな?」

 

 あの出撃のことは私も覚えている。2人の心配は尤もなことだと思う。

 艤装を損傷してしまった朝潮さんと旗艦だった霞さん。前の提督なら酷い罰を受けていたことは間違いない。そして、今目の前にいる提督はその前任たちより素行が悪いと調査されているのだ。

 

「答えろ。場合によっては貴様を…」

「どうするつもりなんだ?」

「っ…!」

 

 提督が那智さんを睨み付ける。その瞬間、彼女の体は固まった。

 直接睨まれていない私ですら怖いと思うほどの視線だ。那智さんの感じる恐怖は計り知れない。

 

「こ、言葉の綾よ。本気にしないで、提督。ね?」

「…釘を刺しただけだ。別に本気にしていない」

 

 足柄さんが吃りながらも間に入った。提督にはその気がなかったようだが、効果は抜群のようだ。2人とも冷や汗をかいて口をつぐんでいる。

 

「心配なら直接その2人に確認すればいいだけだろう。わざわざ俺に聞く意味がない。俺が嘘を吐いていたらどうするんだ」

「誰かに言ったら姉妹に危害を加えるとでも脅せばあの2人は誰にも話さないわ」

「貴様はそうやって北方鎮守府でも悪行を隠蔽していたんだろう」

「…ああ、そういうことか」

 

 2人が何とか発した言葉に、提督は額に手をやって呟いた。

 

「罰は与えていない。安心するといい」

「…本当だな?」

「証明しようがないがな」

 

 那智さんの念押しに提督はそう答える。その顔はさっきまでとは違い、感情の見えない表情になっていた。

 

「皆さん、何をしているんですか!?」

 

 突然、大淀さんがそう言いながら部屋に飛び込んできた。私たちが執務室に詰めかけて提督を問い質していることを誰かから聞いたのだろう。

 まもなく長門さんも執務室にやってきた。険しい顔をしている。

 

「これは何の騒ぎだ?」

「提督の素行について聞いていただけです」

「その件は資料をすでに全員に公開したはずだ、加賀」

 

 私を非難するような言葉だが、表情にはそのような感情は見えない。焦っているような雰囲気だ。

 

「このような無礼な行為は提督がどうのこうのの前に私が見過ごせない。全員速やかに退室せよ」

「待てよ、長門。俺たちには提督にどうしても確認しなきゃいけないことがあるんだ」

 

 今まで黙って見ていた天龍さんが口を開いた。

 

「提督、今那智たちが言った朝潮と霞以外にも手は出してねえよな?」

「天龍!」

「長門、俺たちの心配をしてくれるのはありがたいが、これはもっと大事なことだ。わかるだろ?」

 

 天龍さんの言葉にハッとする。

 長門さんは不躾にも提督へ詰めかけた私たちの身を案じてくれていたようだ。自分たちが提督の過去を黙っていたせいで私たちが行動を起こし、そして何か酷い罰を受けるのではないかと。

 

「で、どうなんだ?」

「何もしていない」

「だろうな」

「わかっているなら聞くな」

「俺がわかってても他の艦娘は多分わかってねえからな。俺みたいに提督をずっと監視してるやつもそういねえし」

 

 天龍さんが周りを見渡してそう言った。

 

「2つ目だ。ここ3日ほど電を外に出さないようにしていた理由を教えてくれ」

 

 言われてみれば今日は電さんがいない。いや、昨日も見かけなかった。

 天龍さん曰く、提督の指示でそうしていたということだが、理由は皆目見当もつかない。

 

「トラブルを避けるためだ」

「どういうことだ?」

「これ以上詳しく説明するつもりはない」

 

 天龍さんの目が細まる。そして、何かを言おうとした。

 しかし、それは執務室の扉が勢いよく開く音に遮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は急いでいた。

 深刻な顔をした響ちゃんが話してくれた内容は、上手くいっていた艦隊運用に影響するかもしれないものだったからだ。

 暁ちゃんと雷ちゃんの動揺した様子を見ても、鎮守府全体が混乱することは目に見えている。

 

 執務室へ到着した。私はノックもせずに扉を勢いよく開けた。

 

「…今日はノックがされない日か」

「あ…ご、ごめんなさい」

 

 司令官さんの言葉に私は頭を下げた。

 しかし、そんなことをしている場合ではない。みんなを落ち着かせて司令官を責めるのを止めさせないと。

 

 私がそう考えて顔を上げた瞬間、私の横を誰かが通りすぎていった。

 

「みんな、司令官を責めるのは止めて!」

 

 みんなの前に出て司令官を庇ったのは暁ちゃんだった。

 

「司令官が私たちに何をしたの?何もしてないでしょ?むしろ、環境をよくしてくれてるわ。それなのに過去のことで私たちが司令官を責めるのは間違ってる!」

 

 その場にいた全員が唖然としていた。私ならまだしも暁ちゃんが司令官さんを庇う理由がわからない。そんな顔をしている。

 

「みんなはもっと冷静になるべきよ!」

「暁」

「ぴぃ!?」

 

 司令官さんが名を呼ぶと、暁ちゃんは変な声を出して固まった。そして、目尻に涙を浮かべながら、壊れたロボットのように振り返る。

 

「…俺が怖いなら出てこなくてもよかったと思うが」

「だ、だって…」

「そもそも、こいつらは俺を責めに来たわけではない。冷静になるのはお前の方だ」

「…へ?」

 

 どういうことだろうか。恐らく私も暁ちゃんと同じような顔になっているだろう。

 

「聞かれたことには答えた。仕事の邪魔だ。電以外は退室しろ」

 

 司令官さんの言葉でみんなは執務室を出ていった。天龍さんは不満そうにしていたが。

 残ったのは私と司令官さんだけだ。私を残したということは、秘書艦に復帰して仕事を手伝えということなのだろう。

 私は机に向かい、書類の整理から始めた。

 

 しばらく作業を続けていると、司令官さんが私に話しかけてきた。

 

「電、哨戒任務ではいい経験はできたか?」

「は、はい。敵の強さも体験できましたし、暁ちゃんたちとの連携も上手くてきるようになったのです」

「いずれはお前も戦場に出る。いつまでも机仕事とはいかない。その時に備えてこれからも励め」

 

 司令官さんから話しかけてくれることは滅多にないので少し戸惑ったが、何とか受け答えすることができた。

 

 せっかく会話が生まれたので気になっていることを聞いてみることにした。

 

「司令官さん、どうして電を秘書艦から外したりしたのですか?それに、帰投後も部屋から電を出さないようにしていましたよね」

「…まあ気付くか」

「…暁ちゃんの様子を見ればなんとなく」

 

 司令官さんはため息をついた。そして、衝撃的なことを口にした。

 

「今回の演習任務の相手は北方鎮守府だった」

「っ!?」

「お前が奴らと会った時にどう行動するか考えていた。で、どう転んでも悪いようにしかならないという結論に至ったわけだ」

 

 ギクリとした。

 するなとキツく言われているので、普段は司令官さんのことを詳しく誰かに話したりはしない。せいぜい司令官さんはいい人なのだと吹聴する程度だ。

 しかし、元同僚の艦娘たちと対面してしまえば、きっとその命令を破ってしまう。()()()()()()()()()だろう。

 

「わかっているとは思うが、ここの艦娘に俺のことは話すな。これ以上の混乱は艦隊指揮に支障が出る可能性がある」

「…了解、なのです」

 

 色々な感情を抑え込み、私はなんとかその言葉を絞り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、済まなかった」

 

 執務室から出た直後、私はその場にいた全員に頭を下げた。

 みんな驚いたようで目を丸くしている。

 

「長門さんが謝ることはないでしょう?」

「加賀の言う通りだ。お前は悪くねえよ」

 

 加賀と天龍がそう言うが、鎮守府全体がここまで動揺している原因は私と大淀だ。

 

「いや、提督のことを何も伝えないと決めたのは私と大淀だ。最初から隠さずに話していれば、みんながまた不安になることもなかっただろう」

「艦隊運用も改善されて精神的にも安定してきた皆さんを、私たちの間違った行動でまた…」

 

 提督が来てから鎮守府は立て直されつつあった。妖精が増えたことで施設や装備がきちんと整備され、艦娘の心と体の調子も本来のものへと近付いている。

 

 しかし、提督の過去が知れ渡った。

 提督への不信感はきっと戦果にも影響を及ぼす。もちろん悪い意味だ。

 

「間違ってなんかいないわ」

 

 下を向く私たちに誰かがそう声をかけた。

 顔を上げると、そこに立っていたのは暁だった。

 

「あの時のみんなは限界だったわ。もし司令官のことを知らせていたら、大変なことになってたと思うの」

「大変なこと?」

「…誰かが自沈していたかもしれないってことよ」

「なっ…!?」

 

 暁は真剣な眼差しでそう言いきった。確信しているのだ。彼女は私が気付かないことでも気付く。いつの間にか頼りになる艦娘になっていたようだ。

 

 重い雰囲気の中、天龍が口を開いた。

 

「まあ、過ぎたことはそれほど重要じゃねえ。大事なのはこれからのことだ」

 

 その言葉に加賀たちも頷く。

 

「心配なのはメンタル面ですね。赤城さんや私はまだ平気ですが、他の子たちはどうでしょう?」

「1番心配なのは駆逐艦だな。俺と龍田で目光らせておくよ」

「巡洋艦はどうだろうな。足柄は心当たりあるか?」

「強いて言えば鈴谷だけど、熊野もいるしきっと大丈夫よ」

 

 どうやらここにいる艦娘は大丈夫そうだ。前向きに今後のことを話し合っている。

 

 しかし、憂慮すべきことはある。

 提督の過去を知ることによって自暴自棄になり、予想外の行動を起こす艦娘もいるかもしれない。そう、例えば、暁が言ったように。

 私はぎゅっと拳を握り、自分に活を入れる。私がしっかりしなければ、この鎮守府はダメになってしまうのだから。




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