ノックもなく執務室の扉が勢いよく開いた。普通なら礼節を弁えない行為だが、頭に血が上っている当人にとってはどうでもいいことだ。
「白川提督に聞きたいことがありマス!」
「ノックぐらいしてください、金剛さん。提督なら今日はいませんよ。どうしたんですか?」
不機嫌であることを隠そうともしない金剛に大淀はそう声をかける。
「どうもこうもないデス。提督の所へ演習に行ったようデスネ?比叡と不知火が話しているのを聞きマシタ」
「…黒田提督のことですか?」
「他に誰がいるんデスカ?」
「今の私たちの提督は白川提督なので、彼のことをそう呼ぶのは止めてください」
「そんなことはどうだっていいデス!どうして提督のいる鎮守府との演習を私に隠していたんデスカ!?」
「私は知りません。提督にも何か考えがあるんだと思いますよ」
「…
金剛はしかめっ面のまま大淀に詰め寄った。しかし、彼女は動じない。
「それで、今日は誰とどこに遊びに行っていて何時に帰ってくるscheduleなんデスカ?」
「高雄さんたちと本土の映画館で映画を観るそうです。なので、帰りは夜になるかと」
「…そうデスカ。それじゃ出直すことにシマス」
金剛はそう呟き、ため息をついた。そして、ドアへと踵を返す。
大淀は何も言わずにそんな彼女の背中を見つめながら見送った。
提督に会いたい。会って、彼の身に何が起こったのかを知りたい。何故何も言わずに
そんな金剛の想いは黒田が北方鎮守府を去った日からどんどんと膨れ上がっている。
「…またみんなで紅茶が飲みたいネ」
残念ながら、それは叶わない願いだ。金剛はわかっていた。それでも願わずにはいられない。楽しかったあの時間をまた過ごしたい、と。
トボトボと廊下を歩いている金剛は、曲がり角でバッタリとある艦娘に出会った。
「元気がなさそうですね、金剛さん。提督絡みで何かあったんですか?」
「大井デスカ。まあそんな所デース」
「北上様もいるよー」
大井と北上。夜戦火力において、北方鎮守府では彼女たちの右に出る者はいない。
そして、金剛と共に黒田の下への転属願を出し続けている仲間でもある。
「そういえば、この前瑞鶴たちが演習した相手を知ってマスカ?」
「いいえ。それがどうかしたんですか?」
「…提督がdemotionされた鎮守府デス」
「…っ!?」
大井の目が見開かれる。全く知らない情報に驚きを隠せない様子だ。彼女ほどではないにしても、北上も目を僅かに細めていた。
「この前の演習って言うとさ、編成に比叡がいたよね。何も聞いてなかったの?」
「Nothing」
「ありゃりゃ」
北上の問いに金剛は肩を竦めて答えた。
比叡が金剛に隠し事をする。つまりそれは、白川が彼女に口止めをしていたということだ。でなければ、比叡が金剛の知りたがっているであろうことを話さないわけがない。
「私が提督と会うと都合の悪い、そういうことネ」
「そう考えるのが自然ですね」
「やっぱり提督は…」
「2人の頭にはないと思うけどさ」
金剛の言葉を北上が遮る。
「本当に提督が裏で色々やってた可能性もあるんじゃない?」
「…考えていないわけじゃ…」
「いや、考えてない」
北上はそう言い切った。その様子に大井と金剛は思わず黙り込む。
「大井っちも金剛も提督の冤罪を信じてるよね。だから、直接会って確かめようとしている。でもね、客観的に見るとそれは危ないことだよ」
2人を守る為に黒田と会わせないように仕向けている。転属願や演習の件はそれで説明されてしまうのだ。
「…北上は本当に提督が虐待や横領をしていたと思ってるんデスカ?」
「半々って所かな」
「ならどうして私と一緒に転属願を…?」
「大井っちがそうしたからだよ」
北上は心の中で2人に謝った。
決して傷付けたかったわけではない。ただ、彼女の目には大井と金剛の様子が危うく映っていた。本当に提督が悪人であったならば、簡単に騙されて利用されてしまうだろう、と。
「ま、そんなに落ち込まないでよ。きっと次の作戦では提督に会うチャンスがあるだろうしさ」
北上の言葉に2人はハッとする。
次の作戦とはハワイへの航路を確保する為の大規模作戦のことだ。強力な敵艦隊の出現が予想されるため、黒田たちの参加は確実とされている。
「なるほどネ。提督と同じbattlefieldに派遣されれば…」
「主力の私たちは主戦場に出撃するはずです。きっと会えますよ」
「白川提督の妨害がなければだけどねー」
3人と黒田の再会は近い…かもしれない。
全然更新してないのでヤバいなと思い、急いで書きました。短くてごめんなさい。