艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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作戦開始

 部屋の中の雰囲気は悪かった。原因は私たちの艦隊の指揮をするはずの白川司令官だ。

 

「こんな時に艦隊を待機させるってどういう事なの?」

「出るなら出る、はっきりしてほしいわ。意味わかんない」

 

 霞と満潮が苛立ってそう呟いた。正直に言うと私も同じ気持ちだ。

 

「意図はわかりません。しかし、きっと何か考えがあるのでしょう」

「ふん、どうかしらね。朝潮姉さんの言う通りならいいんだけど」

 

 私の言葉を霞はそう言って流した。

 

 白川司令官は元々私たちの司令官の補佐官で、彼の下で艦隊運用の勉強をしていたと聞いている。きっと何か意味があるのだろう。というか、そうでないと困る。

 私はチラリと他の妹を見る。大潮も荒潮もソワソワと落ち着かない様子だ。

 

「ま、ピリピリしててもしょうがないよ」

 

 私たちの様子に旗艦である川内さんが苦笑混じりにそう言った。

 

「私たちが出撃しないってことはそうする必要がない、つまり想定外が何もないってことだよ。心身共に休めておくのも仕事の内。それはここ最近でみんな理解してるでしょ」

 

 川内さんのいう最近とは司令官が着任してからのことを指している。

 以前は休息もなく補給や修理もままならない状態で出撃を繰り返していた。私たち駆逐艦は特にそうだ。

 司令官はそれを改善した。疲労が溜まりすぎないように哨戒任務のローテーションを組み、揃えられる範囲ではあるが、装備も万全にしてくれた。

 司令官の過去を知らなければ、彼を心から尊敬し信頼していたに違いない。

 

「…っと、そんなこと言ってる間に来たね。整列しようか」

 

 川内さんはそう言うと立ち上がった。

 どうやらこの部屋に近付いてくる気配を察知したようだ。本人曰く、夜戦で生き残る為に必要な技術らしい。そんな無茶な、とは思う。

 

 ドアを開けて白川司令官が部屋に入ってきた。私たちは敬礼で迎え入れた。

 

「おま…たせ。遅れてすまない」

 

 白川司令官は私たちの様子に戸惑った様子だった。彼の後ろに続く艦娘たちも面食らっている。

 瑞鶴さんが慌てた様子で川内さんに問いかけた。

 

「も、もしかして、ずっとそれで待ってたの?」

「まさか。気配を感じたから出迎えただけだよ」

「…気配?」

「うん、気配」

 

 瑞鶴さんを含めた北方鎮守府のみんなが驚いた顔で私たちを見た。規格外の察知能力はこの中では川内さんだけなのでそんな目で見ないでほしい。

 

「さて、今からみんなには出撃をしてもらう。今朝、近海哨戒部隊から敵艦隊の反応があると報告があった。恐らく本隊を強襲する艦隊だ」

「敵編成は?」

「戦艦と空母が主体の水上打撃艦隊だ」

 

 川内さんがふぅん、と北方鎮守府のメンバーを眺める。

 戦艦は金剛さん、空母は瑞鶴さんだ。他は大井さん、北上さん、陽炎さん、不知火さん。

 半分が先日の演習に来ていたメンバーだった。

 

「勝てるの?このメンツで」

「ちょっと川内、それどういう意味?」

「いやいや瑞鶴、この前の演習の結果を知ってたらそう思うでしょ?」

「…っ」

「夜戦なら私たちだけでも勝てるけど、そんなの待ってる時間は無いよね?」

「あ、ああ。俺はこのメンバーで十分勝てると考えているよ」

 

 白川司令官は吃りながらもそう答えた。そしてこう続ける。

 

「では作戦内容を言い渡す。ここにいる艦娘で連合艦隊を組み、敵艦隊を撃滅せよ」

 

 その言葉を聞いた瑞鶴さんたちは部屋から出ていこうとした。

 霞が慌てて声をかける。

 

「え、ちょっと待って」

「何か気になることが?」

 

 白川司令官は不思議そうにそう尋ねる。

 

「ちゃんと作戦を説明してくれないと困るわ」

「作戦?」

 

 私も堪らず口を挟む。

 

「せめて目標座標や敵艦隊との遭遇予測座標、攻撃目標の優先順位、撤退の条件と方法を教えてください」

「…それは瑞鶴に一任する。全員彼女の指示に従ってくれ。現場の判断は現場の者に任せるのが俺のやり方なんだ」

「今朝潮が言ったのは共有すべき必要最低限の情報だと思うよ」

 

 川内さんに睨まれた白川司令官は少し怯む。その様子を見た瑞鶴さんが間に入ってきた。

 

「座標は移動しながら私が説明するわ。攻撃目標は空母が最優先で次点が戦艦。撤退はその時になったら私が判断するから、被害報告は早く正確にお願いね」

「…会敵予測座標は?」

「それはわからないわ。横須賀の艦隊とは交戦せずにそのままどっか行っちゃったらしいから」

 

 川内さんや妹たちは瑞鶴さんの説明でとりあえず納得したようだ。

 しかし、納得と同時に不安感も湧いてくる。

 私たち姉妹と川内さんの考えていることは同じだろう。司令官ならある程度の敵の侵攻ルートを絞れただろうに。

 

 私たちの失望の眼差しに耐えきれなくなったのか、白川司令官はそそくさと部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「電探に反応。全艦、戦闘準備」

 

 旗艦の長門さんがそう告げる。いよいよ敵主力と相対することになるのだ。

 

「提督の読みは相変わらずだね。ほぼ事前の打ち合わせ通りの敵艦隊の位置と編成だ」

「気味が悪いっぽい」

 

 敵は戦艦棲姫と空母棲姫を含む機動部隊。僕たちと似たような編成だ。

 

「まずは制空権を取る。赤城、加賀、頼んだぞ」

「了解しました」

「お任せください」

 

 赤城さんと加賀さんは弓を引く。戦闘機が隊列を組んで飛んでいった。

 

「鈴谷と熊野もいつでも水戦を飛ばせるように準備しておけ」

「「了解」」

「まずは私と陸奥の弾着観測射撃と赤城と加賀の攻撃隊で先手を取る。その後は那智、足柄で砲撃だ。鈴谷と熊野はいつでも動けるようにして待機。神通、白露、時雨、夕立は潜水艦と敵艦載機を警戒しろ」

 

 長門さんの指示が飛んだ。艦隊に緊張感が走る。

 そこに赤城さんの声が通る。

 

「制空優勢。まもなく制空権を確保できます」

「攻撃隊も発艦準備完了しています。上々ね」

「わかった。陸奥、偵察機を飛ばせ。赤城、加賀は艦攻をあるだけ出して攻撃だ。他は指示を継続。この一手で勝負を決めるぞ!」

 

 陸奥さん、赤城さん、加賀さんが揃って了解、と口に出した。本当に頼もしい人たちだ。

 

「なんか私たちの出番なさそうだね」

「白露、油断は禁物だよ」

「でもつまんないっぽい」

「夕立まで…敵も強力なんだからこれで終わるなんてありえない。もっと気を引き締めてくれないかな」

「「はーい」」

 

 夕立はともかく、白露までそんなことを言う。

 僕の言ったセリフは姉である白露が言うべきものだ。戦艦や空母のみんなが頼りになりすぎるせいだろう。

 

 そんなことを考えていると、長門さんたちの砲撃が始まった。体の奥にまで響くその砲撃音は、少しだけ僕の心を興奮させる。

 那智さんと足柄さんの砲撃も続く。

 

「さあ、砲撃戦だ。見ててもらおうか!」

「勝利が私を呼んでいるわ!気合い入れていくわよ!」

 

 2人の砲撃は的確に深海棲艦を捉えていく。

 空母の先制攻撃と戦艦と重巡の砲撃で敵艦隊は既に半壊している。姫級の2体はほぼ損傷せずに残っているが、撃沈も時間の問題だろう。

 

 僕は勝利を確信した。

 ダメ押しの長門さんの指示が聞こえる。

 

「戦艦と空母で姫の相手をする。残りのメンバーで手負いの深海棲艦を仕留めろ。それから神通は…」

「作戦本部より通信です!」

 

 長門さんの指示を遮ったのは、今まさに名前を呼ばれた神通さんだった。

 

「どうした?」

「敵強襲部隊が接近中!他味方部隊は突破されたようです!」

「なんだと!?」

 

 神通さんからの知らせを聞いた長門さんは驚愕の声をあげた。

 それと同時に遠くから砲撃音が聞こえた。

 

 そして、突然目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空母棲姫も戦艦棲姫も油断ならない相手だ。片手間で相手取ることは不可能なのは誰もが知っている。

 敵の別動隊に後ろから攻撃された形になった私たちは、撤退を余儀なくされた。

 もちろん出来る限りの応戦はした。しかし、強襲してきた敵艦隊にも()()がいたのだ。

 

「…っ。制空権、取られました…!」

 

 赤城さんの悔しそうな声が隣から聞こえる。

 

「まずいな、敵の観測射撃が来るぞ」

「時雨を狙われたら終わりよ。長門、どうするの?」

「くっ…!那智、足柄、済まないが時雨を庇ってくれ!白露と夕立は時雨を連れて全速力で撤退だ!他はその援護!殿はこの長門が就く!」

 

 長門さんの怒号のような指示が飛ぶ。

 私はありったけの艦載機を発艦させた。制空権はもはや取れないが、少しでも敵の航空戦力を削らなければいけない。

 

 ふと、時雨さんの声が聞こえた。さっきまで朦朧としていた意識が少し回復したようだ。

 

「みんな、僕を置いていってくれ」

「何言ってるの!?」

 

 白露さんの声が響く。

 それでも時雨さんは続けた。

 

「敵は大破してる僕を狙うはず。そうすればみんなは比較的安全に撤退できると思う。足手まといは嫌なんだ」

「ダメ!絶対連れて帰るから!」

「少し前までは普通にやっていたこと。僕の番が回ってきただけだよ」

 

 確かに時雨さんを囮にすれば損害も少なく撤退できるだろう。彼女自身の言う通り、いつもやっていた戦法だ。

 つい長門さんを見る。決めあぐねているようで渋い顔している。

 

 時雨さんの提案した通りにしようとする空気が漂い始める。

 しかし、それを意外な艦娘が壊した。

 

「却下だよ、時雨」

「鈴谷さん?」

「ほら、変なこと言ってないで足動かして」

「鈴谷…」

「長門、駆逐艦を囮にするのは提督に言われた作戦?」

 

 鈴谷さんのその言葉に長門さんは首を横に振った。

 

「それじゃ時雨を残して撤退するのはナシでしょ」

「しかし…」

「確かに前は誰かを盾にしたり囮にしたりしてた。でも、それって提督の指示だから仕方なくしてただけじゃん」

 

 全員がハッとする。鈴谷さんの言いたいことがわかってきた。

 

「鈴谷たちは絶対に仲間を見捨てない。ここでそれをしたら、大嫌いな前の提督と同じになっちゃう。だから、どれだけ損害が出ようとも、全員揃って帰るべきだよ」

「しかし、それでは提督が…」

「そうね。あんな過去があるわけだし、何をされるか…」

 

 赤城さんと陸奥さんが心配そうに言う。

 それでも鈴谷の声色は変わらない。

 

「時雨を見捨てて罰則を免れるか、罰則がないことに賭けて全員で帰るか。鈴谷は後者を選ぶべきだと思う」

「少なくとも、着任してから今までの提督を見る限りでは鈴谷と同意見ですわ」

 

 熊野さんもそう続く。

 どちらを選ぶべきか。私は…ダメだ、決められない。どちらも怖いのだ。

 

 しかし、長門さんは覚悟を決めたようだ。

 

「よし…!全員で作戦本部に帰るぞ…!」




鈴谷って他の艦娘のこと呼び捨てだっけ、さん付けだっけ?(今更感)
原作との矛盾、前話との矛盾があれば優しく教えてください。お願いします。

・鈴谷の一人称を修正しました。
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