艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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ハワイ方面攻略作戦改

 何か狙いがあるのだろうか。それとも言葉通りなのか。

 ボートの操縦をしながら考えていたが、俺は答えを出せずにいた。

 

「何を考えている」

 

 そう呟きながら海の方に目をやる。海上をまるでスキーやスケートのようにして進むのは、駆逐艦の中では特に反抗的な艦娘である霞だ。

 作戦を通達したあの場で、こいつは俺の護衛に名乗り出た。即席とは言え拠点を構えるのに単独での行動は危険すぎると主張して。

 

 どさくさ紛れに俺を殺すつもりなのかとも考えたが、これは早々に選択肢から除外した。

 確かにこのシチュエーションならば俺を殺しても深海棲艦に濡れ衣を着せることはできる。前任の提督たちに対する憎悪から、俺に八つ当たりをしてもおかしくはない。

 しかし、無理がある。無傷の霞が深海棲艦に襲われたと言って、疑わない者が何人いるだろうか。損傷がないことよりも、()()()()()()()()()()()()()()()を霞ほどの艦娘が索敵の段階で発見できないのは、あまり考えられない話だ。長門辺りに突っ込まれるのがオチだろう。

 それに、初対面の時こそ突っ掛かってきたものの、基本的に霞は感情的に行動することはほとんどなく、そこそこ頭の回る艦娘。今俺が考えたことくらいは思い付くはずだ。

 

 ではそのそこそこ回る頭で俺に冤罪をかけるつもりだろうか。いや、これもない。

 二人きりならどうとでも話を作ることはできるが、ここは海上で、霞はフル装備だ。そんな相手に暴力や性的強要をできる奴がいるなら、そいつは艦娘の指揮なんかせずに深海棲艦を直接殴りに行くべきだ。

 

 他の艦娘に聞かせられないような相談があるのだろうか。いや、それを俺にする意味がわからない。信用されていない自覚はある。これもない。

 

 となると、残る選択肢で可能性が1番高いのは、本当に俺を守るためについてきているということ。正直これも本当かどうか疑わしい。

 

「司令官、そろそろ着くわよ」

 

 不意の霞の声掛けに俺は遅れて返事をする。

 

「…ああ。敵影は?」

「ないけど、大丈夫?考え事?」

「問題ない」

 

 霞は何か言いたげだったが、何も言わずに周囲警戒に戻った。

 

 その後、特に問題が起こることもなく島に上陸した。深海棲艦の影響で、海が赤黒く変色しているのが微かに見える。

 設営をしながら霞は俺に話し掛けてきた。

 

「何を考えてたのか、私にはわかるわよ」

「何の話だ」

「さっきの話。司令官、私が護衛に名乗り出たことを不思議に思ってるでしょ」

 

 霞は顔をこちらに向けず、作業をしながら淡々と続ける。

 

「司令官を守ることも艦娘の使命よ。私はもう貴方を司令官として認めてる。だから守る。それだけ」

「認める、か。どういう風の吹き回しだ?」

「白川中佐や前任の司令官の指揮下にいた身としては、司令官の能力の高さはあの人たちと比べ物にならないわ。それに、過去はどうあれ、私たちは前よりずっとマトモな生活ができている」

「あれらと比べられてもな」

 

 霞は振り返り、俺の目を真っ直ぐに見つめる。その目には恐怖や不安といった感情は見受けられない。

 

「あと、司令官は時雨の為に怒ってくれていた。階級が上の白川中佐に対して」

「別に時雨の為というわけではない。優秀な艦娘の無駄死には許容できないというだけだ」

「ふーん。まあそれはどっちでもいいわ。結局、私たちが沈まないように手を尽くしてくれるってことだし。それだけでも司令官は守る価値のある人よ」

 

 成長したのか、元々こういう性格だったのかはわからない。しかし、俺をクズと呼んだ頃の霞とはまるで違う。

 

 まだ完全に信用したわけではない。何か企みがあるのかもしれない。もし霞が俺以上に頭の切れる艦娘ならば、俺はなす術なく策に嵌められるだろう。

 それでも、不思議と気分はよかった。薄れていた生への執着が、微かに戻ってきた気がする。

 

 ただ、霞の知らないことが1つある。

 俺はここで()()()()()なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊、この長門に続け!」

 

 長門さんの合図で僕たちは次々と抜錨した。

 みんなの表情は真剣そのもので、必ず作戦を完遂させるという決意に満ちている。

 

「みんなやる気だね」

「まあ提督にあそこまでやられちゃ気合いも入るよ。私も今までで1番調子がいいしね」

 

 僕の独り言に隣の白露は笑った。

 

 提督が向かった無人島は、戦闘に巻き込まれる心配はほぼない場所にある。しかし、安全な距離が確保されているわけではない。深海棲艦に所在を感付かれてしまえば、逃げる間もなく砲撃されるのは間違いない。

 

 白露の言う通り、提督のその危険を顧みない行動に奮い立ったであろう艦娘は多い。

 例えば、霞。たった1人、提督の護衛に名乗り出た。以前の彼女ならそんなことはしなかっただろう。命じられれば従うが、提督の為に自分からそんな行動をするのは御免だ、と言うはずだ。

 そして、この僕もそのうちの1人。

 

「2人とも単純っぽい」

「夕立はなんだか冷めてるね」

「そう?私には結構熱くなってるように見えるけど」

「白露は余計なこと言わなくていいっぽい」

「皆さん、緊張しすぎていないのは結構ですが、もうすぐ敵と交戦するはずです。油断はしないようにしましょう」

 

 神通さんが僕たちにそう声をかける。

 いつの間にか、敵がいると予測されている海域の近くまで来ていたようだ。

 

「敵艦隊発見!」

 

 しばらくすると、赤城さんの声が艦隊へと伝えられた。

 

「赤城、敵の編成はわかるか?」

「空母棲姫が2、戦艦棲姫が2、リ級が4、その他駆逐艦が多数。恐らく40以上はいるかと思われます」

「私の偵察機でも確認しました。赤や黄のオーラを纏った深海棲艦は見当たりません」

「足柄、今の情報を霞にも伝えてくれ」

「了解よ」

 

 艦隊の雰囲気が少し重くなった。

 姫級が4体いることは提督が言っていたのであまり驚きはなかったが、随伴艦の数が異常な程多い。もし纏わりつかれれば、長門さんたちでも苦戦は必至だ。

 しかし、この雰囲気の原因は他にある。

 

「確かに敵には態勢を立て直す時間はなかったわ。でも、これじゃまるで…」

「ああ、まるで()()()()()()()()()()()()()ようだ」

 

 陸奥さんと長門さんは苦虫を噛み潰したような顔をしてそう呟いた。他のメンバーも似たような表情だ。

 

 前回の戦闘で深海棲艦側の戦力はかなり削った。その上、私たちが高速修復材を使って戦力補充される前に再出撃。

 敵からしてみれば、寄せ集めの駆逐艦を使った現状で最も有効な戦略なのだろう。僕が非情な深海棲艦の提督なら同じ手を使っていたかもしれない。

 …いや、深海棲艦に提督はいない。奴らは自分たちの判断で味方を盾にする決断を下したんだ。

 

「…嫌なこと思い出したっぽい」

「そうだね」

 

 僕は短い返事で夕立に同意した。

 

 駆逐艦は他の艦種と比べると火力がなく装甲も薄い。そして、低コストなためすぐに補充ができる。

 そう言った理由で大型艦を守る盾としての役割を命じられることが、前の提督の指揮下ではそれなりの頻度であった。

 僕の妹たちもその命令の犠牲になった。春雨、五月雨。優しくて自慢の妹たちだった。

 

「…長門さん、先制攻撃の指示を」

 

 赤城さんの怒気を含んだ、しかし、静かで落ち着いた声が聞こえた。

 

「鎧袖一触よ。あんな寄せ集めの駆逐艦の群れでは、私たちを止めることなどできません。それ(捨て身の盾)()()()()()()にしかできない大役です」

「今度は私たちも瑞雲を出して攻撃に加わりますわ。空母棲姫が2体もいる上に、あの駆逐艦の壁は見てられませんもの」

「戦艦も重巡も2人ずついるし、神通や夕立もいる。砲撃火力は結構あるし、鈴谷たちが航空戦に意識割いても問題ないでしょ」

 

 加賀さん、熊野さん、鈴谷さんは、そう言いながら艦載機の発艦準備をし始めた。

 

「…よし。赤城、加賀、鈴谷、熊野。艦攻と瑞雲で先制攻撃だ。仲間を平気で犠牲にする愚かな深海棲艦に、目に物見せてやれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 深海棲艦には普通ではないのがたまにいる。フラグシップやエリートと呼ばれるオーラを纏った艦だ。もしそれらが群れを成していれば、歴戦の艦娘でも勝つことは難しいだろう。

 しかし、逆を言えば、そうでないのなら群れが相手でもそれほど苦戦しないということだ。今、まさにそれを証明している。

 

「神通、ちょっとバテてきたんじゃない?」

「姉さんこそ、そのペースで夜戦まで体力が持つんですか?」

「言ってくれるね!」

 

 姉さんの煽りに軽口で返す。

 私にも姉さんにも余裕があるように見えるかもしれないが、実際はそうでもない。

 体力や弾薬に関しては問題ない。たった1撃でどれも撃沈できるからだ。しかし、その力量差からロクな反撃ができない上に、大した時間稼ぎにもならないまま沈んでいく敵駆逐艦の姿に、少しずつ精神的な疲労が蓄積している。

 

「リ級の接近を確認!4体とも突貫してきます!」

 

 朝潮さんの声が聞こえる。長門さんは姫級への砲撃をしている為、こちらに指示を出す暇はなさそうだ。となると、各自の判断で行動した方が良さそうだ。

 

「姉さん、第3艦隊でリ級の対処をお願いできますか」

「もちろん」

「駆逐艦の処理は私たちでやります」

「オッケー、任せた」

 

 指示を出すまでもなく、私の僚艦の駆逐艦の3人は深海棲艦を次々と撃沈していた。

 白露さんは基本に忠実に砲撃を当てている。

 時雨さんは抜群のセンスで魚雷を叩き込んでいる。

 夕立さんは…避けてみろと言わんばかりに、超至近距離から攻撃して敵を蹂躙している。なんですか、あれは。

 

 ともあれ、3人は周りの敵駆逐艦を着実に仕留めていき、姉さんたち第3艦隊とリ級軍団の砲撃戦が始まった。

 

「姉さんったら…」

「川内のやつ、リ級を八駆に任せて何もしないつもりなのか」

「まあ提督に燃料と弾薬を温存するように言われてたしね」

 

 那智さんや足柄さんが呆れ顔でそう言う。

 2人の言う通り、リ級の相手をしているのは駆逐艦の4人で、姉さんは周りの邪魔な駆逐艦を()()()沈めている。まるでウォーミングアップだ。

 なるほど、姉さんの考えている事が読めてきた。

 

「姉さんはここにいる誰よりも不測の事態に備えているようですね」

「提督の言っていた敵のさらなる援軍ってやつかしら?」

「ええ。この駆逐艦の群れは私たちの燃料や弾薬、そして体力を消耗させるためだと思っていましたが、もしそれだけが目的ではなく、援軍のための時間稼ぎが目的なら…」

「だとすると不味いな。間違いなく鬼級以上が来るぞ」

「力を温存しつつ早めに敵を殲滅しないとね」

 

 駆逐艦を沈めつつそのようなことを話している間に、朝潮さんたちはリ級を倒したようだ。姉さんが露払いをした甲斐もあって、損害なしの勝利だった。

 

「空母棲姫を1体撃破しました!」

 

 さらにこちらの勢いが増す報せが加賀さんから届いた。

 

「よし、このまま押しきるぞ!」

 

 主力同士の戦いを見る。残りの空母棲姫は赤城さんと加賀さんに艦載機を次々と落とされてる。戦艦棲姫は長門さんと陸奥さんの砲撃がモロに当たったのか満身創痍という状態だ。

 流れは確実にこちらに来ている。勝利ももう目前だ。

 

 しかし、そう簡単にいかないのが現実である。

 

「敵艦隊の後方に深海棲艦の反応あり!数は2体!」

「偵察機で確認しましたわ!敵援軍は戦艦水姫!」

 

 鈴谷さんと熊野さんの報告に、私は冷や汗をかいた。

 援軍にしては頭数が少ないが、それでもなお脅威となる大物の登場である。




毎度誤字修正助かります。
よろしければ感想・評価の方、よろしくお願い致します。


朝潮たちを何故か四駆だと思い込んでました。なんでや。正確には八駆です。すいませんでした。
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