艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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提督の着任

 日本列島の南東にある離島。そこに俺の新しい配属先が決まった。

 

「まるで島流しだな」

 

 俺の独り言が聞こえたのだろう。近くにいた自衛隊員が書類から顔を上げ、不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

 わかった、黙ってるよ、という意味を込めて肩を竦めて見せると、彼はまた手元の書類を読む作業に戻った。

 

 この真面目そうな自衛隊員の反応は至極当然だ。なんせ、今の俺は権力を振りかざして艦娘を利用したクソ野郎だ。

 

 そんなことを考えていると、別の自衛隊員が部屋に入ってきた。

 

「黒田少佐、着いたぞ」

「ありがとうございます」

 

 俺はトランクケースを持ち、その自衛隊員に礼を言う。当然ながら返事はない。

 

 ふと、俺の背中に声がかけられた。

 

「司令官さん、長旅お疲れ様なのです」

「別に大して疲れてはない。お前はもう降りる準備はできているな?」

「はい、大丈夫なのです」

「じゃあ行くぞ」

 

 特Ⅲ型駆逐艦の四番艦、(いなづま)である。

 初期艦として前の鎮守府から着いてきたのだ。

 

「これから頑張りましょうね、司令官さん」

 

 電の言葉に何も返さず、俺は通路を進んでいった。

 

 

 

 

「お待ちしておりました。軽巡洋艦、大淀です」

 

 軽巡洋艦の大淀さんが港で出迎えてくれた。

 

「着任した黒田だ」

「秘書艦の電です。よろしくお願いします」

 

 大淀さんの敬礼に、司令官と私も敬礼で応える。

 

「早速ご案内しますね。荷物、お持ちしましょうか?」

「触るな」

 

 司令官は手を伸ばしかけていた大淀さんを拒絶した。

 その瞬間、大淀さんの肩はビクリと跳ね上がる。

 

「も、申し訳…」

「いい。さっさと俺の部屋に案内してくれ」

「は、はい!」

 

 司令官は無表情のまま大淀さんを見つめていた。彼女の額からは冷や汗が吹き出し、体は更に強張っている。

 

 大淀さんはぎこちない動きではあったが、目の前に見える大きな建物へと歩きだした。

 

「司令官さん、大淀さんの怯えようが普通じゃないのです。何か知ってるのです?」

「他の艦娘に聞くなりして自分で調べろ」

「…そうするのです。変なこと聞いてごめんなさい」

 

 司令官さんはつまらなそうに大淀さんの後に続いた。

 

 

 

 

 新しく着任した提督を、彼の私室まで案内した。執務室の奥にその部屋はある。

 

「電を部屋に案内してやれ。俺はここで荷物の整理をしている。何かあれば呼べ」

 

 提督はこちらを見ずにそう言った。

 

 反論する理由も気力もない上に、これ以上提督の部屋の近くに居たくなかった。言われた通りに電さんを駆逐艦寮に案内する。

 

「大淀さん、1つ聞いてもいいですか?」

 

 寮までの道すがら、電さんが私に話し掛けてきた。

 

「なんでしょう?」

「さっきの大淀さん、すごく司令官さんを怖がっていたのはどうしてなのです?」

 

 表情が強張る。電さんもそれを感じ取ったのか、こう続けた。

 

「言いたくないのなら別にいいのですが」

「いえ、大丈夫です。そうですね、電さんには知っておいてもらった方がいいかもしれません」

 

 私はこの鎮守府のことを電さんに話した。

 私たちがどんな仕打ちを受けてきたのか。どれだけの艦娘が沈んでいったのか。その全てを。

 

 最初は冷静だった私だったが、徐々に頭に血が上り、いつの間にか足を止めて泣きながら口を動かしていた。

 

「大淀さん」

 

 唐突に電さんは優しく私の手を握った。

 

「話してくれてありがとうなのです」

 

 その暖かい手に不思議と安心した。

 

「…いえ、取り乱してしまってすいません。お部屋、案内しますね」

「はい。お願いするのです」

 

 

 

 

 電さんが使う寮の部屋の前に着いた。

 

「ここが電さんの部屋です。すいません、相部屋になりますが」

「問題ないのです」

 

 コンコンコン、とドアをノックした。

 

「大淀です。本日着任した電さんを連れてきました」

 

 私がそう言うと、すぐにドアは開かれた。

 

「電!」

「はわわ!びっくりしたのです…」

「暁さん、ドアをそんなに勢いよく開けないでください」

 

 危うく私の顔に叩きつけられる所だった。

 

「ごめんなさい」

「次から気を付けてください」

 

 暁さんはシュンとなって謝ってきた。

 部屋の奥からさらに声が聞こえた。

 

「電が来たのね!待ちわびたわ!」

「これで第六駆逐隊再集結だね」

 

 雷さんと響さんだ。いや、響さんは今ヴェールヌイさんだった。

 

「よろしくお願いしますね」

「そんなに緊張しなくていいのよ。さ、入って」

「電のベットはこっちね。荷物はこの引き出しを使って」

 

 雷さんと暁さんが電さんを引っ張っていくのと入れ替わりに、ヴェールヌイさんが私に歩み寄ってきた。

 

「大淀さん、その、司令官はどんな人だったんだい?」

「…無愛想な人でしたよ」

 

 ヴェールヌイさんの言葉にドキッとした。

 

 提督が様々な悪行に手を染めてきたということは、長門さんをはじめ、一部の艦娘しか知らない。

 みんなを不安にさせない為にも、それは隠しておいた方がいい。

 

「そう…」

「やっぱり不安ですか?」

「まあね」

 

 話していると、私の無線に長門さんから通信が入った。

 歓迎会の準備ができたから全艦娘を食堂へ集まるように指示をしてほしい。そして、長門さんが提督を呼びに行くという内容だった。




のんびり書いてく

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