艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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打ち明けられた真実

 目の前の青年がゆっくりと口を開く。

 

「今から話すことは他言無用でお願いします」

「無論だ」

 

 それが前提でなければ黒田は話さない。直感めいた確信があった。

 尤も、動くべきと判断せざるを得ないようなドデカい話が飛び出てくるようなら話は別だが。

 

 俺の言葉に頷いた黒田はゆっくりと話し始めた。

 

「ご察しの通り、私は無実です。虐待、横領、その他諸々に私は関与しておりません」

「…やはりそうなのか」

 

 何ということだ。

 この黒田の摘発は大本営にとっても衝撃だったことを覚えている。これがきっかけで多くの鎮守府で艦娘の待遇についての調査や是正が行われたことも記憶に新しい。

 だというのに、そもそもの事件がでっち上げられたものだったとは。

 

「それは北方鎮守府全体で仕組まれたことなのか?」

「いいえ、白川と一部の艦娘によるものです。ほとんどの艦娘は奴らに騙されているだけかと。断定はできませんが」

「どの艦娘が加担している?」

「虐待の証言をした鈴谷、榛名、翔鶴、浜風、由良は間違いないでしょうね。あとは事務関係の書類を弄れる大淀、明石、あとは…」

「…あとは?」

「いえ、なんでもありません。とにかく、今名を挙げた者以外は無関係と見ていいと考えます」

 

 黒田は自分の足元に視線を落とし、ボソボソと続けた。

 

「自分が情けないです、簡単に貶められるなんて。今思えば怪しい言動も度々ありました。何故その時に気付かなかったのか…」

「自分を責めるな、黒田。誰も自分が指揮する艦娘に裏切られるなどと考えない」

「…ありがとうございます」

 

 もし自分が同じ目に遭ったら。そう考えると冷や汗をかく。

 信頼する部下たちに嵌められる。まさに青天の霹靂だ。

 

「しかし、よく今まで耐えた。いや、落ち着きすぎだな。何故陰謀だと主張しなかった?」

 

 これが俺の1番聞きたかったことだ。黒田が自身の無実を証明しようとしない理由がわからない。

 

「青山中将は『艦娘』というものをどういうものだと考えていますか?」

「急にどうした?どういうものとは?」

「『艦娘』を兵器と捉えるか人間と捉えるか、ということです」

「彼女らは考えるし喋る。人間に近い存在だろう」

「中将ならそう答えてくれると信じていました」

 

 何が言いたいのかはまだわからないが、関係のある質問だったのだろう。

 

「少し前に艦娘を人として扱わないという思想がありました。人間が徹底的に艦娘を管理し、兵器として()()するという考え方です」

「把握している。賛同はできんが間違ってはいない」

「その思想を拡大解釈して越権行為に走る派閥があることもご存じですか?私の前任のような者たちです」

「…知っている。許しがたいことだ。そいつらのせいで本当の意味で艦娘を兵器として扱う司令官はもはや絶滅危惧種と言っていい。奴らがやっているのは計画的な管理ではなく()()だ」

「はい。私はそれが許せません」

 

 黒田の顔色は悪い。目の下には隈ができている。

 しかし、覇気がないわけではない。むしろ、その表情から並々ならぬ覚悟が窺い知れた。

 

「私の無実が明らかになれば、奴らに口実を与えることになり、艦娘に更なる苦痛を与えることになります。艦娘が司令官に、ひいては、人間に反旗を翻したという前例は作ってはいけないのです」

「それはお前の考えすぎだ。そんな飛躍した発想をする奴なんて…」

「いないと言いきれますか?艦娘に対して酷い扱いをする連中ですよ?いい関係を築いても裏切られるなら、逆に調教によって逆らう気力を奪った方が良い…そう主張するのが目に見えています」

 

 俺は反論ができなかった。

 黒田が信用していた艦娘に騙され、濡れ衣を着せられたという事実を知った奴らが、自分は同じ轍を踏まない、とより酷い虐待や重労働を強いる。確かに十分ありえる話だ。

 

 年齢も階級も下の男が酷く恐ろしく見えた。

 

「…何故そこまでする?いや、何故できるんだ?」

「艦娘が深海棲艦に対する唯一の戦力です。彼女たちの力無くして制海権の奪還はありえない。故に、私たちは彼女たちに敬意を払い、心ない人々の悪意から守らなくてはいけないのです」

 

 次に続く言葉に、俺はしばらく言葉を発することができなかった。

 

「私は命を捨てる覚悟で人と艦娘とこの世界を守ると誓いました。だから、真実を明かさないのです」

 

 本当は死ぬまで秘密にしておくつもりだったんですがね、と黒田は自嘲気味に笑った。

 

 白川に貶められた理由が、不本意ではあるが、わかってしまった。

 奴は嫉妬したのだろう、黒田という人間の大きさに。

 俺が黒田と同じ立場になったら、同じように考えられるだろうか。いや、無理だ。

 

 俺が口を開いたのは、それから1分ほど経った後だった。

 

「…最後の言葉は聞きたくなかった」

「中将が言えと仰ったのですが」

「ああ、後悔している。本当はお前との約束を無視して無実を証明し、本来の居場所に戻してやるつもりだった」

 

 黒田は少し驚くような表情をする。

 

「だが、お前のその覚悟を無駄にすることは、俺にはできない。してはいけないと思った」

「…ありがとうございます」

「今は約束を守ろう。お前がいいと言うまで誰にも言わん」

「今は、ですか?」

「ああ、そうだ。艦娘を酷く扱うバカ共を世界中から排除できたら、約束をなかったことにしてお前の潔白を証明する」

 

 黒田は一瞬ポカンとしたが、すぐ後にニヤリと笑った。

 それに俺も笑みで返した。

 

「世界中ですか。大きく出ましたね」

「こう見えてコネはある。不可能ではない」

「楽しみにしておきましょう。まあ、私のいる鎮守府は激戦海域ですから、その頃には死んでるかもしれませんが」

「死んだ後でも汚名は返上できるさ」

 

 負けてはいられない。俺も世界を守り海を取り戻すために力を尽くそう。

 黒田のように、自らの命や名誉をかけてでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 息を殺して提督と青山中将の会話を聞いていた。

 最初は聞くつもりはなかった。中将の大声が聞こえるまでは。

 

 会話の内容は、まさに私が提督に尋ねようとしていたことだった。

 提督は無実で、濡れ衣を着せられていた。

 鈴谷の睨んだ通りだった。

 

 胸が痛い。痛くて熱い。何故だ?苦しんでいるのか?何に?脳裏に知らない誰かの姿が浮かぶ。誰だ?いや、わかる。これは人間同士の戦争で死んでいった軍人たちの姿だ。国を守るため、家族や恋人を守るため、命を捨てて戦った者たちの姿だ。私たちの魂が、前世で守れなかった者たちの姿だ。

 そして、それが提督の姿と重なって見えた。

 

 2人が去った後、私は隠れていた岩陰からしばらく動けないでいた。




心理描写は難しい。
ちなみに、最後のは長門視点です。分かりにくくてすいません。

感想・評価等お待ちしております。

次話まで時間かかるかもしれません。
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