北方鎮守府執務室の扉はその日、けたたましい音と共に大破した。
「な、何事ですか!?」
大淀の悲鳴に応えるように執務室へ踏み込んだのは、重雷装巡洋艦の北上。いつもの飄々とした雰囲気はなく、何の感情も読み取れない。
「き、北上か。何の用かな?ノックにしてはやり過ぎだと思うんだけど」
いつもと様子の違う北上に気圧されながらも、白川はそう尋ねた。
「私の要求は1つ。これに承認のサインを」
「転属願…またか」
「拒否権はない」
その台詞を聞いた白川と大淀は青ざめる。2人は北上が艤装を装備した状態でそこにいることに気付いたのだ。
「サインをするか、グチャグチャになるか。どっちかだよ、
「北上さん、提督になんてことを…」
「…は?」
「ひっ…!」
北上の眉間に皺が寄る。それを見た大淀の口から短く空気が漏れた。
「あんたらこそ、提督になんてことしてくれたんだよ…!」
無表情だった顔に殺気の混じった怒りの色が滲み出る。
そんな北上の様子に、白川は悟った。自分が黒田に濡れ衣を着せたことを知られた。そして、彼女の要求を飲まなければ本当に殺されてしまう、と。
「提督の口からはっきり聞いたよ。自分は無実なんだって。まあ盗み聞きしたんだけど、それは今はどうでもいいよね」
「う、嘘を言っていたら、とは考えないんですか?」
「大淀、私が調べもせずにこんなことする奴だと思ってるわけじゃないよね?」
「…証拠がある、なんて言うつもりですか?」
「証拠ってほどじゃないけど、何人か口を滑らせてくれたからね。提督の無実を確信するのはそれで十分」
さて、と北上は大淀に向けていた視線を白川に戻した。
「別にあんたらがやったことを公表するつもりはない。提督はそんなこと望んでないみたいだし。だけど、私はここに居たくないし、提督を信じてる大井っちと金剛にもここには居てほしくない」
「…わかった。認めよう」
「懸命な判断だよ。命拾いしたね。それじゃ、大井っちと金剛に転属願が通ったこと話してくる」
北上はそう言い残し、執務室を後にした。残された2人の周りには重苦しい空気が漂っている。
白川はおもむろに目の前の書類に拳を叩きつけた。
「クソッ!なんであいつらはあの男を選ぶんだ!どう考えても俺の方が価値のある男だろうが!」
「お、落ち着いてください」
「顔がいいのも、女にモテるのも、仕事ができるのも、全部俺だ!あいつは顔もパッとしないし、女の扱いもわかってないし、ここに座って報告書を読んでるだけだった!」
大淀はついに口をつぐむ。白川は短気な性格ではあるが、ここまでの激怒を見せることは少なかった。
「あれだけ証拠も証言もあるのに、未だ俺に靡かない艦娘が3人もいる?ふざけんな!あのクソ野郎、どこまで俺をイラつかせれば気が済むんだ!」
白川は黒田に対する罵詈雑言をひとしきり吐いた後、落ち着きを取り戻した。
そして、北上が持ってきた物を見る。彼に選択肢は残されていない。
こうして、北方鎮守府所属の北上、大井、金剛は黒田の下へと転属されることとなった。
大井っちは沸点低いだけだけど、北上様は沸点高い代わりにガチギレしたらヤバいって雰囲気あるよね。