艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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艦娘は娯楽が欲しい

 艦娘には休日はない。あくまで非番であり、緊急出撃できるように備えるか訓練を行うのが普通だ。

 今日も夕立と一緒に川内さんの下へ赴き、夜戦を想定した訓練をするつもりだった。

 

 しかし、何故か僕たちは提督の執務室にいる。

 

「…用件はなんだ?」

 

 提督は呆れたように僕たちに聞いてきた。

 そんな顔で見ないでほしい。僕も知りたいんだから。

 

 提督の問いに、僕たちを連れてきた張本人である暁とヴェールヌイが答える。

 

「目的はいつもと一緒よ。司令官とお話をしに来たの」

「時雨と夕立は来る途中で見かけたから連れてきた」

「帰れ」

 

 提督は短く拒絶したが、暁たちは何ともない顔をしている。

 

「帰らないわ。もうSM()作戦は始まってるのよ」

「SN()だよ、暁。司令官と(S)仲良くなる(N)作戦。それだと別の意味で()()()()()ことになる」

「別の意味?」

「わからないならいいよ」

「…?」

 

 暁とヴェールヌイの漫才染みたやり取りに、提督の表情はついにげんなりしたものになった。

 彼女らの姉妹艦であり秘書艦の電は、それを困ったように笑いながら眺めている。

 

「そんな作戦が決行されるなんて聞いてないのです」

「電は知らないのも無理はないわ。今決めたんだもの」

「やりたい放題なのです…」

 

 電の言う通りである。流石に提督も怒るのではないだろうか。

 

「…もういい、勝手にしろ」

 

 勝手にしていいんだ…。

 

「なんか、提督さんの私たちへの態度が柔らかくなってるっぽい?」

 

 僕と同じように困惑しながら眺めていた夕立が、そう耳打ちしてきた。

 確かにそうだ。用件もなく執務室に入り浸っているなら、すぐに出ていけと言われそうなものなのに。

 

「夕立の感じた通りだと思うよ。提督も僕たちと向き合おうとしてくれてるのかな」

「そういうわけではないっぽい」

 

 ふと見ると、提督は暁たちに一方的に話しかけられていた。まさに仏頂面という顔をしている。

 提督からの返事や相槌はあまりないが、暁と響は楽しそうだ。少し羨ましい。

 

「昨日の遠征任務の時に司令官に似た雲を見かけたのよ。見せてあげたかったわ」

「カメラという写真を撮る機械があるらしいね。司令官、是非支給を検討してほしい」

「響の意見に賛成!」

「却下」

「えー!みんなが撮った写真見たかったのに!」

「それは残念だ。艦隊の士気を上げる為にも効果的だと思ったんだけど」

「そう言えば俺が何でも許可を出すと思っているのか、ヴェールヌイ」

 

 ヴェールヌイはこくりと頷いた。

 

「甘味やお酒は許可してくれたじゃないか」

「飲食物は別だ。お前たちの食事は間宮たちに一任している。あいつらが必要と判断したから許可を出したに過ぎない」

 

 ヴェールヌイは肩を竦め、それ以上は何も言わなかった。とりあえずは諦めたようだ。

 しかし、もう1人は諦めが悪かった。

 

「カメラがダメならスケッチブックでもいいわ」

「しつこいぞ暁。何故そこまで拘る?」

「だって、非番の日には楽しいことしたいじゃない」

 

 暁は何を言ってるんだろう?

 出撃や演習がない日は装備の整備や点検をしたり訓練したりするものだ。そうでなくとも、ジッとして体を休めるべきだろう。

『楽しいこと』が何かはわからないけど、それは本当に必要なことなのだろうか。

 

「暁、出撃のない日は自主訓練するかメンテナンスするか体を休める為の日っぽい。それをサボる為の申請なんて通るわけないよ」

 

 夕立は僕よりも重く受け止めたようだ。暁は別にサボろうとしてるわけじゃないと思うけど。

 

「別にサボろうとしてるわけじゃないわ。夕立の言うことも間違いじゃないけど、今の生活のままじゃ息苦しいでしょ?」

「そんなことないっぽい」

「それは今までが辛い環境だったから平気なだけ。これから先も平気なわけないわ」

 

 暁は提督へと向き直る。その顔は真剣そのものだ。

 

「司令官のおかげでみんなは泣きそうな顔をすることが少なくなったわ。今度は笑った顔を増やしたいの。お願い、司令官」

 

 数秒間、静かな執務室で暁と提督の視線は重なりあった。

 その空気に耐えきれず、僕は思わず口を開いた。

 

「提督、僕からもお願いするよ」

 

 全員の視線が僕へ向く。

 

「戦う以外のことをやってみたいんだ」

 

 僕の言葉をきっかけに、ヴェールヌイと夕立も声をあげる。

 

「司令官、私も暁と時雨に賛同するよ」

「夕立も、戦いとは関係ないことちょっとやってみたいっぽい…!」

 

 提督はそんな僕たちを見ると、何かを考え込むように目を瞑った。

 

「わかった。検討しよう」

「やった!ありがとう、司令官!」

「ただし、お前たちの希望に沿った娯楽を与えられるかはわからない。文句は言うなよ?」

「もちろんよ!」

 

 提督の言葉に暁は飛び上がって喜んだ。彼女ほどではないが、ヴェールヌイも夕立も喜びの感情が表情から滲み出ている。

 かく言う僕も自然と口角が上がる。

 

 そうしていると、突然執務室の扉が開かれた。

 そこにいたのは雷。ちょっと怒っている。

 

「やっぱりここにいたわね、暁。響も。今日は魚雷管の整備をしてから司令官に会う予定だったでしょ」

「順番の前後が代わっただけだよ。些細な問題さ」

「響の言う通りよ」

「いいから!早く戻るわよ!」

 

 嵐のような勢いで執務室に突入してきた雷は、暁と響の手を掴んで、また嵐のように去っていった。

 

「…お前の姉は騒がしい奴ばかりだな」

「あははは…でもおかげで毎日楽しいのです」

「僕たちもそろそろ行こうか。まだ演習やってるかな」

「途中参加させてもらうっぽい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「長門、艦娘から娯楽の充実化が申請されたという話は聞いているな?」

 

 提督に呼び出された私は、執務室に入るなりそう切り出された。

 

「聞いている。皆が無理を言ってすまない」

「いや、いい。いずれは必要だと思っていたものだ」

「そうだったのか。なら良かった」

「問題は他にある」

 

 提督がそう言うと側に控えていた電が紙束を差し出して来る。私はそれを受け取り、内容を確認した。

 そこに書かれていたのは、深海棲艦の拠点場所の予測と奴らの戦力の予測だった。

 

「輸送航路の安全性を確保し、輸送コストとリスクを下げなければならない。今のままでは嗜好品や娯楽用品の要望は間違いなく却下される」

「この資料を見るに、敵の本拠地を叩くつもりか」

「哨戒を増やしても根本的な解決にはならないからな。こちらから攻撃を仕掛け、敵の戦力を大幅に削るか殲滅する」

 

 提督はこれを機に前線を上げたいらしい。成功すればここら一帯は安全になり、物資の供給も潤沢に行われるだろう。私たちの練度でなければこなせなかった護衛任務や哨戒任務も、他の鎮守府に任せることもできるかもしれない。

 私はチラッと手元の海図を見た。

 

「しかし、敵の拠点とおぼしき場所が多いな」

「それはこれから哨戒や偵察の結果で絞っていく」

「作戦まで時間があるということか」

「戦力増強のための時間も要るからな。平行して進めていく」

「そちらを私が取り纏めればいいのか?」

 

 提督はコクリと頷いた。

 

「火力艦の数が心許ない。重巡勢の練度向上と榛名の調整に力を入れる。妙高と比叡に投げればいいが、進捗はお前が報告しろ。駆逐艦も使える奴を増やしたい」

「承知した。駆逐艦は川内型姉妹と天龍型姉妹に任せればいいな。空母や潜水艦には何かあるだろうか」

「特に言うことはない。今まで通りに訓練と任務に励め」

 

 指示を頭に入れる。

 私は提督と艦娘たちのパイプ役に徹すればよさそうだ。指導の方は私より教官に向いている者に任せればいい。

 

「海域の奪還が成功すれば、何かを楽しむ余裕というものを持てるのか。楽しみだ」

「呑気なものだ」

「今は何もやっていないようだが、以前は提督も何か趣味があったのか?」

「何故聞く?」

「参考までに聞いてみただけだ」

 

 半分嘘だ。ただの好奇心である。

 少し距離を取っていたつもりではあるが、私も心の奥底では提督との関係を良くしたいと思っていたのだろうか。

 

「…ごく一般的なものだ」

「司令官さんは映画鑑賞やスポーツ観戦が好きだったのです」

「おい」

 

 横から電がそう口を挟む。

 提督が睨むが電はそれを受け流した。

 

「ふむ、この鎮守府では難しそうだな。映画館もスポーツ施設も本土に行かないとないからな」

「テレビでも映れば解決するのですが、どのみち海域の安全を確保しなければいけないのです。近くに電波の受送信施設を建設できる程度には」

 

 ということは、提督の想定以上に力を入れなければいけない。

 輸送任務と人工物の建設では危険性もかかる防衛コストも違う。無論、後者の方が高いだろう。都度護衛艦隊を出せばいい輸送任務と比べて、常に警備する艦隊が要ると予想されるからだ。

 リスクもコストも低く抑えるには、さらに強くなって深海棲艦を根絶やしにするしかない。

 

「任せてくれ。この近海の深海棲艦を滅ぼし、()()()とやらを設置できるように艦隊の練度を向上させてみせよう」

「俺はそこまで命じていないぞ、長門」

「いや、やらせてくれ。私たちの待遇が改善されるというのに、提督に不便を強いるのはあり得ない。連合艦隊旗艦の名折れだ」

「しかし…」

「心配は無用だ。この長門、必ずやり遂げてみせよう」

 

 私の態度に提督は諦めたようだ。

 

「…無理はするなよ。訓練で疲労を溜めて任務が疎かになれば本末転倒だ」

「もちろんだとも」

 

 ふと見ると電がニコニコしていた。

 ふむ、どうやら上手く誘導されていたらしい。急に話に入ってきたと思ったら、そういうことだったか。

 まあ、だからといって気持ちが冷めることもない。言ったからには結果は出すさ。

 

「随分嬉しそうだな、電」

「へ!?な、何でもないのです!」

 

 ちなみに、電の思惑は提督にもバレていた。




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