艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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提督と艦娘の初会合

 執務室の扉をノックする。

 

「誰だ?」

「戦艦の長門だ。入室許可を頂きたい」

「入れ」

 

 部屋の中に入ると白い制服に身を包んだ男が1人、机の前に座っていた。

 歳は20代後半といった所だろうか。疲れた表情をしている。

 

「改めて挨拶をしたい。私は戦艦長門。黒田提督、だったか?これからよろしく頼む」

「ああ。で、何の用だ?」

 

 提督は表情をほとんど変えずにそう返してきた。

 

「実は新しい提督が着任するということで歓迎会を…」

「要らん。出ていけ」

 

 一蹴された。私は驚きのあまり、固まってしまった。

 

「何をしている。出ていけと言ったんだ」

「し、しかし…」

「しかし、なんだ?」

 

 提督の表情は変わっていない。それでも私は、何か恐ろしいものを感じ取った。

 

「所属艦娘との顔合わせは必要だろう。それに、私たちも貴方がどんな人間か知りたい」

「俺に関する資料なら既に送られているはずだ。どういう人間かなんて、それを見れば一目瞭然だろう」

「その資料は一部の艦娘にしか読ませていない。大半の艦娘は提督のことを何も知らないんだ」

 

 提督が僅かに目元を歪ませた。不愉快そうに。

 

「その言い方だと、お前はそれを読んでいるように聞こえるが?」

「その通りだ」

「それでよく俺を他の艦娘に会わせようなんて考えたな」

 

 確かに提督の言う通りだが、私たちは艦娘と提督。全く会わずに艦隊運営などできるはずもない。そんなこと、考えなくともわかるはずだ。

 

「百聞は一見に如かずと言うだろう。提督が話の通りの人間であってもそうでなくても、私たちは自分たちの目で貴方という人間を見定めたい」

 

 提督は面倒臭そうに頬を掻きながら私の話を聞いていた。

 そして、数秒の沈黙の後、唐突に口を開いた。

 

「いいだろう。会場はどこだ?」

「食堂だ」

「10分後に全艦娘をそこに集めろ。3分間だけ会ってやる」

 

 既に大淀には艦娘を集めるように連絡してある。

 

「了解した」

 

 私は提督に敬礼をし、執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿馬鹿しい。とても憂鬱だ。

 歓迎会と長門は言っていたが、彼女が洩らした通り、これは俺の品評会だ。

 

 ここの艦娘がどんな扱いを受けていたのかは知っている。最悪な環境だったことは間違いない。

 故に、艦娘たちは俺への不信感を持っているはずだ。

 同情はする。しかし、背後から撃たれるリスクを負ってまで関係を築きたいとはどうしても思えないのが正直な気持ちだ。

 

 暗い気持ちのまま、俺は食堂の扉の前まで来た。

 扉の向こうから話し声や物音がする。

 

「司令官さん」

 

 いつの間にか電が俺の隣にやってきていた。

 

「来てくれてありがとうございます」

「…顔を見せて一言言ったらすぐに戻る」

「みんなにもそう伝えてあるので、大丈夫なのです」

 

 電は長門から話を聞いて、俺がどう動くのかを把握していたようだ。

 俺が提督になったときからの付き合いなだけはある。

 

 時間になったので、俺は目の前の扉を開けた。

 

「全艦、敬礼!」

 

 長門の掛け声で食堂にいた全員が俺に敬礼をした。

 俺と電もそれに応えた。

 

「提督、着任の挨拶を頼む」

「…わかってる」

「全艦注目!提督はお忙しい中、時間を割いてここに来てくださった。着任のご挨拶をしてもらうので、しっかり聞いておくように」

 

 長門はそう言うと、俺の後ろにいた電のさらに後ろまで下がった。

 

 俺はゆっくりと口を開いた。

 

「本日着任した黒田だ。以前は北方鎮守府にいた。俺が来たからには必ず深海棲艦から海を奪還する」

 

 当たり障りのない平凡な挨拶だった。

 しかし、艦娘たちの表情は険しい。露骨に睨んでいる奴もいる。

 俺に対してどんな感情を抱いているのかが一目でわかるようだった。

 

「前任がどのような体制を敷き、どのような指揮を取ってきたかは把握しているつもりだ」

 

 その後に続けた言葉に艦娘たちが緊張したのが感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 提督の言葉にみんなが不安そうな顔をする。

 それを知ってか知らずか、提督は構わずこう続けた。

 

「だが、前任がどうだろうと基本は変わらない。俺の指示には基本的に従ってもらう」

「ちょっと待ってください!」

 

 提督の言葉に私は衝動的に声をあげた。

 

「今の声は誰だ?」

「私です」

 

 列の中から私は進み出た。

 提督が不愉快そうに少し目を細める。

 

「発言を許可した覚えはないぞ、鳳翔」

「っ…!」

「まあいい。なんだ?」

 

 提督の叱責に怯んだものの、後退りを耐えつつ何とか声を出した。

 

「発言の許可、ありがとうございます。今ほど提督は私たちが前任の提督からどのように扱われてきたかご存知でおられるようなことを仰いました」

「ああ」

「それを知って尚、提督は何も変えないと仰るのですか!?」

 

 提督は面倒臭そうに私から視線を外し、タメ息をついた。

 

「何か勘違いをしているようだ。変えないのは俺が命令を出し、お前たちがそれに従うことだ」

「…私たちの待遇は改善されると捉えてもよろしいのでしょうか?」

「しらん。それはお前たち次第だ。少なくとも前任の無能共が指揮を取っていた時よりは結果が出るだろうがな」

 

 私たち次第。判断のしにくい言葉だった。

 空母のまとめ役である私は、この提督が過去にどんなことをしでかしたのかを聞かされている。

 

「…戦果を上げれば私たちに酷いことをしないと、約束してくださいますか?」

「必要以上のことはしない。良いことだろうが悪いことだろうがな」




誰の視点で書こうか考える時、各艦種バランスよく登場させようとするのすごく大変。
全部駆逐艦になっちゃいそう。

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