艦娘嫌いな提督と提督嫌いな艦娘のお話   作:dassy

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艦娘たちの初陣

 新しい提督が着任し、初めての朝を迎えた。

 

『おはようございます。秘書艦の電なのです』

 

 施設内の有線放送のスピーカーから電さんの声が流れてくる。内容は今日の哨戒任務についてだ。

 

『全艦、食堂に集合してください。編成と装備についてはそこで指示をするのです』

 

 私は両隣のベッドで眠そうにしている姉妹に声をかけた。

 

「姉さん、那珂ちゃん、しっかりしてください。提督からの招集です」

「はぁ…わかってるよ」

「那珂ちゃん憂鬱ぅ…」

 

 二人ともテキパキと制服に着替えているが、やはりまだ眠気が引かないようだ。かく言う私も、何度か小さな欠伸をしている。

 原因は明白だ。悪夢による睡眠不足。前任者たちがいなくなっても、私たちは彼らに苦しめられている。

 

 私たちは制服に着替えるとすぐに食堂へ向かった。

 食堂には既に待機している艦娘が何人かいた。

 

「おはようございます、長門さん」

「おはよう、神通」

「…提督はまだいらっしゃっていないようですね」

「司令官さんは来ないのです」

 

 私と長門さんが話しているところに電さんが話しかけてきた。

 

「来ないとはどういうことだ?」

「司令官さんは既に別の仕事をしているのです」

「任務の詳細と作戦は?」

「電からみんなに伝えるのです」

 

 長門さんは呼び出した当人が来ないことに納得していない様子だったが、私はこれでいいと考えていた。

 任せても問題ない仕事は電さんにさせ、自分は他の仕事をする。確かに効率的だ。

 

 私が考え事をしている間に編成が発表された。私の名前も入っている。

 そして、作戦が伝えられたとき、長門さんが疑問を口にした。

 

「西方への哨戒?その方向は既に攻略済みだが。それにここ何週間、深海棲艦は西からは1度も攻めてきていない」

「それは司令官さんも把握してるのです。念のための哨戒と言ってたのです」

 

 警戒するに越したことはないが、深海棲艦がここ最近全く目撃されてない海域に出撃する意味はあるのだろうか。

 西方に出撃する艦隊のみんなも不思議そうな顔をしている。

 

 隣の姉さんが私の肩をツンツンとつついた。

 

「神通はどう思う?提督はちゃんと考えてると思う?駆逐艦だけの編成だけど」

「わかりません。編成を見る限り、みんな練度の高い駆逐艦です。何も考えてないわけではないと思います」

「那珂ちゃん的には巡洋艦1人くらい編成した方がいいと思うなー」

 

 ともあれ、私は私で東方の哨戒任務の旗艦に抜擢されている。戦果を上げるチャンスだ。

 

「伝達は以上なのです。それでは皆さん、各自朝食を取って準備をしてください」

 

 電さんの締めの言葉でみんなが解散する。

 さて、私もしっかりと準備しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「電の言ってたこと、どう思う?」

 

 鎮守府のある島から西に進んで少しの所、通信機から同じ艦隊に編成されている時雨の声が聞こえた。

 私はその時のことを回想する。

 

 

『霞ちゃん、ちょっといいですか?』

『電?どうしたの?』

『西方への出撃なのですが、もし深海棲艦を見つけたら、必ず鎮守府に連絡を入れてほしいのです』

『どうせいないわよ。ま、いいわ。見つけたら連絡ね』

『ありがとうございます。それと、無理に戦わないでほしいのです』

 

 

 正直、深海棲艦がいるなんて全く考えていない。電のことはともかく、司令官のことは毛ほども信頼していないからだ。

 

「まあ、言われたことは守るわよ。敵なんていないと思うけど」

「霞、油断は禁物ですよ。気を引き締めて任務に当たらないと」

 

 時雨の反対側で航行する朝潮姉さんが私を注意する。だが、それは姉さんの真面目な性格から来た言葉ではない。

 任務で失敗すると厳しい罰則を受けることになる。どんな些細なミスでもだ。

 

 姉さんはあの地獄に怯えている。

 姉さんだけではない。時雨も、私の後ろを航行する夕立も、そして私も、当時を思い出すと背中に嫌な汗をかく。

 

「僕も深海棲艦がこの海域にいるとは思えない。提督にはどんな考えがあるんだろう」

「…どうせ何も考えてないっぽい」

 

 今まで黙っていた夕立が口を開いた。

 

「テキトーに強い駆逐艦を4人編成して、テキトーにそれらしいことを言って、テキトーに出撃させただけっぽい」

「そうかな?僕は何かしら考えがあるんじゃないかと思ってるんだけど」

「私もです」

 

 私は驚き、2人に理由を訊いた。

 

「明確な根拠があるわけじゃないよ。ただ、あの提督は前の人たちとは何か違うってなんとなく感じたんだ」

「南方と東方へ出撃した艦隊の編成は理にかなっていました。この艦隊にもなにかしらの意図があるはずです」

「…なるほどね」

 

 時雨も朝潮姉さんも性格や口調に難はなく、戦果も優秀だ。私や夕立よりは罰を受けた経験が少なかった。もしかしたら、私たちよりバイアスがかかっておらず、そのせいで、この出撃に意図があると感じるのかもしれない。

 

 ふと、昨日の私に罰則がなかったことを思い出した。

 

 ほんの少しの希望が湧いた。湧いてしまった。今までの司令官とは違うという希望だ。裏切られれば余計に傷付くというのに。

 

 私の考え事をかき消すように、通信機から夕立の声が聞こえた。

 

「深海棲艦の反応を確認したっぽい!4時の方向!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 電さんからの連絡で急に招集がかかった。

 同じく招集がかけられた赤城さんと共に、私は執務室へと急いでいた。

 

「私だけでなく赤城さんにも招集がかかるということは、まずいことでも起こっているのでしょうか?」

「相当強い敵が現れたのでしょう。加賀さん、気を引き締めて参りましょう」

「慢心は禁物、ですね」

 

 執務室に着いた。赤城さんがノックをする。数秒も経たずに電さんがドアを開け、私たちを入室を促した。

 このまま引き返したい気持ちを抑えつつ、私は執務室へと足を踏み入れた。

 

「全員揃ったな」

 

 提督は椅子に座ったままこちらを眺めている。

 

 執務室に集まったのは、電さんを除くと6人。私と赤城さん、重巡の那智さんと足柄さん、駆逐艦の暁さんとヴェールヌイさん。

 

「では、集まった6人には西方へ出撃をしてもらう。旗艦は赤城だ」

 

 西方ですって?この強力な編成で?

 私の頭の中が疑問符でいっぱいになる。

 

「先程、西方に出撃している霞さんから通信があったのです。深海棲艦を発見した、と」

 

 電さんの言葉にみんな驚きを隠せない。

 

「今回の出撃の目的は、霞たちの安全な撤退のサポートと深海棲艦の撃滅だ。疑問がある奴は今のうちに訊け。わからないことをわからないままにしておくとアクシデントが起きかねないからな」

「それではいいでしょうか?」

 

 赤城さんが1歩前に進み出た。

 

「敵艦隊の編成について教えていただけませんか?」

「霞たちが発見したのはイ級が1、ロ級が2、ホ級が1の水雷戦隊だ」

 

 一瞬だけ聞き間違いを疑った。しかし、みんなの表情を見る限りそうではないらしい。

 

「その程度の相手ならあの4人で十分撃滅できると思います。なぜ空母や重巡まで出る必要があるのでしょう?」

「それ以上に強大な敵艦隊がいると予測したからだ」

「根拠はありますか?」

「ない。ただ、イ級1体すらいなかった海域に水雷戦隊がいきなり現れたんだ。警戒はするべきだろう」

 

 なんだか新鮮な気分だ。

 今までこういう風に作戦について提督と話し合ったことはない。意見を言おうものなら、黙って言うことを聞け、と殴られていた。

 

「司令官さん、南方出撃艦隊から通信がありました」

「結果は?」

「イ級と数体戦闘したのみで、ほとんど敵艦隊は見つからなかったそうです」

 

 南方の敵がほとんどいないというのは妙だ。東方ほどではないにしても、黄色いオーラを纏う戦艦や空母がウジャウジャいる海域。何が起こっているのだろうか。

 

「聞いての通りだ。南方の深海棲艦が西から侵攻している可能性がある」

「提督はこれを見越して西方へも出撃させたんですか?」

「初日から来るとは思わなかったがな」

 

 今まで西から攻めて来なかったのは、東方と南方を警戒させて西方の守りを薄くさせるため。深海棲艦がそこまで頭を使った戦略を取るとは思わなかった。

 

「疑問は解消されたか?ではすぐに出撃だ」

「了解しました!」

 

 私たち6人は揃って敬礼した。

 

 ほんの少し安心できた。

 少なくとも出撃任務に関しては前任よりかなりマシになるだろう。




筆がノらないの

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