北海道から少し東に位置する島。そこに北方鎮守府があった。
太平洋北方はアメリカやロシアとの共同戦線によって深海棲艦はほぼ駆逐されている。そのおかげで、離島であるにも関わらず、資源のみならず日用品や娯楽用品といった物資も事欠かない鎮守府だった。
「提督、大本営からの連絡です」
「ありがとう、大淀」
大淀から茶封筒を受け取った茶髪の爽やかな好青年。彼がこの北方鎮守府の提督である白川中佐だ。
「それと、また数隻の艦娘から転属願が提出されていました」
「またか。今度はどんな理由だい?」
「黒田少佐に連れていかれた電さんが心配だから、だそうです」
ハハハと白川が笑う。
「1周回って最初の理由に戻ったね」
「提督が何度も転属願を却下するからでしょう」
「当然だよ。みんながどこかに行ってしまうなんて、俺には耐えられないよ」
「ふふ、ありがとうございます」
白川の芝居がかった台詞に、大淀は顔を赤らめながら微笑んだ。
「だけど、確かに電のことは少し心配だね。連絡を取ろうにも、俺たちは黒田さんには嫌われているから、まともに取り合ってくれないだろうし」
「そうですね。電さんを取り返す何かいい方法があればいいんですが」
大淀は顎に手を当ててそう言った。
そんな彼女を眺めながら、白川は渡された茶封筒を開封した。
執務室のドアがノックされた。
白川の返事の後に入ってきたのは重雷装巡洋艦の大井だった。
「失礼します、提督。私たちの転属願、受理して下さいましたか?」
「唐突だね。残念だけど、却下させてもらうよ」
「何故ですか?」
「君にはここに居てほしいからだよ」
白川は大井の顔をジッと見つめてそう言った。その仕草は、彼と視線を合わせていない大淀でさえ顔を赤らめるほどのものだった。
しかし、大井は動じない。
「その白々しい演技を止めたら如何ですか?」
「演技なんてしていないよ。俺は本気で…」
「そうやって他の子を騙したんでしょう?」
白川は微笑みを崩さずに口を閉じた。
「大井さん、失礼ですよ」
「…そうですね、失言でした。申し訳ありません」
大淀の一言で冷静になった大井は、そう言って頭を下げた。
「大井はそんなに電が心配なのかい?」
「…はい」
「そうか。気持ちはわかるけど、やっぱり大井にはここを離れてほしくないんだ。この鎮守府の夜戦最強戦力だからね」
「…そうですか、了解しました。それでは失礼します」
「もう行くのかい?お茶でも飲んでいけばいいのに」
「いえ、結構です」
白川は苦笑しながら、わかったよ、と頷いた。
それを見た大井はそそくさと執務室から出ていった。
「提督、何もしなくていいのですか?」
「何もって?」
「大井さん、多分何かを隠してますよ」
「ああ。いいんだよ、別に。彼女らにできることは何もないんだから」
ところで、と大淀が小首を傾げる。
「大本営からは何と?」
「さっきの封筒の中身のこと?演習任務だよ。近々ハワイまでの海域を奪還する作戦が行われるらしい。そのために練度の向上を進めよ、だってさ」
「演習のお相手は?」
書類の概要を読み上げた白川は、先程までとは違った質の笑みを浮かべた。
「相手は黒田さんが飛ばされた鎮守府だ」
キナ臭いことになってきましたね(直球)