今回出てくる「彼」のキャラは好きなので、あまり変えるつもりはないのですが「こんな強さじゃない!」や
「こんなこと言うか!?」と思われるかもしれません。
20年以上原作から前ということで許してください。
親方、空から女の子が!の男性バージョン猛者風味を味わった俺は、恐る恐る近づいてみる。
「あのー…。うわっ…!」
少し血の匂いを感じる。本人は腹部に手を当てているが、よく見ると服が赤く染まっている。どうやら怪我をしているらしい。
「近づくな。少しでも変な素振りを見せたら殺す」
彼はそう言った。見た目といい、荒々しい『オーラ』といい、まるで獰猛な獣のようだ。
「あ、り、了解です」
どうしよう。この場から去ろうにも、俺の行きたい方向は彼が塞いでるし、後ろに戻るのも薄情な気がする。
(しょうがない。使うか…)
俺はひとつ決断をした。
【強化系を使用しますか? 残りオーラ14500/15000】
【変化系を使用しますか? 残りオーラ14500/15000】
【具現化系を使用しますか? 残りオーラ15000/15000】
俺は3つの系統を使い、あるものを1つ【具現化】する。
「『治癒薬』作成。使用オーラを13000に設定」
その瞬間、俺の貯めた『オーラ』が使用され、俺の手には1つ瓶が握られていた。
(使いすぎかなぁ…。でも効かなかったらめちゃくちゃ怖いことになりそうだし…)
俺は修行によって同時に3系統まで使えるようになった。また、特質系に『オーラ』が以前より多く貯まったことで、具現化系の『オーラ』も物質を【具現化】させるために使えることができるようになっている。
俺が今つくったのは『治癒薬』。強化系、変化系、具現化系の『オーラ』をそれぞれ等しい量消費することで、
消費した『オーラ』の量に応じた治癒効果のある薬を作成することが出来る。最低100ずつからで作れるが、あまり効果がないため、効果を期待するなら3000は少なくとも欲しいところだ。
(ほぼ最大量の『オーラ』使ったけど、さすがに効くよな…?)
この『治癒薬』、念能力者に対しては『オーラ』を沢山込めないと効果がない。鍛えられた強靭な肉体を治すためには、一般人よりも多くの量が必要ということなのだろう。
「あのーすいません。良かったらこれどうぞ。回復効果のある薬です」
俺は彼にそう語り掛ける。
「…。何が目的だ?」
かなり警戒しているようだ。
「いや、ホントに何もないです。あなたとは初対面ですし、とくに知っている訳でもないですけど、まあ治せるかもしれないならちょっとだけ頑張ろうかな?と思っただけで」
「…。」
「毒とかではないですよ?あ、でもこっちが言っても信用できませんよね…。うーん…」
「…。こっちに瓶を投げろ。お前は動くな。投げる以外の動作をしようとしたら殺す」
彼は一応俺を信用することにしたようだ。
「わかりました。はい、どうぞ」
俺は彼に向かって『治癒薬』の瓶を放り投げる。
彼はこちらへの警戒を緩めないまま、瓶をキャッチした。
「これの使用方法は。飲めばいいのか」
「あー、それでも使えますけど、今回は怪我の部分に直接かけた方が効果が高いと思います」
「わかった」
彼は片手で瓶を持ち、口で蓋をくわえて開けると、服の患部を破り取り、中身を腹部にふりかけた。
シュウゥゥ…!
「…!ほう…。効き目がいいな」
彼は『治癒薬』の効果の高さに感嘆の声を漏らす。
(そりゃーこっちのほぼ全力だからな。これで効かなきゃ逆にショックだよ)
彼の腹部を見ると、既に出血は止まっており、ほぼ治っていると言っていい。
そう、"ほぼ"だ。
(うわっ!?あんだけ『オーラ』使ったのに、完治してないのかよ!?)
『治癒薬』は一般人よりも念能力者の方がより多くの『オーラ』を消費するが、『念』の練度が高ければ高いほどその必要消費量は増す。見た目や感じ取れる
『オーラ』から彼が猛者であることはわかっていたが、やはりかなりの実力者だ。
「まずは礼を言おう。おかげでスムーズに家に帰ることが出来る」
彼はこちらに対して声をかけてきた。
「無事治って良かったです。それでは」
俺は彼の怪我も治ったことだし、この場を去って宿に戻ろうと思った。
「まあ待て。恩人に対して礼がしたい。死ぬことは無かったろうが、仕事のミスで出来た怪我を治してもらったんだ。このままでは俺の気が済まん」
「いえいえ、お気になさらず。こちらの気まぐれでやったようなものですし」
なんか変なことに巻き込まれそうだし、俺は彼の提案を断ることにした。
その瞬間、特に姿勢や表情が変わった訳ではないが、彼の纏う雰囲気が少しだけ剣呑なものになる。
「俺としても感謝だけでこの提案をしているわけではない。あくまで断り続けるというのならば、無理やり連れていくぞ。だが恩人に対して俺もそこまで手荒な真似はしたくはない。もう一度言うぞ。礼がしたい。ついてこい」
礼とはこんなに乱暴で一方的なものだっただろうか。
要は『治癒薬』を作ったおれに興味があるってことだろうが、俺も念能力者の端くれ。自分の能力を他人に教えるようなことはしたくない。
「別にお前の能力を教えろという訳でもない。あの薬は有用だ、出来るならば俺の家に置いておきたい。ビジネスの話だ。悪くはしない」
彼は俺の表情からある程度の考えを読み取ったのか、そう言ってくる。
(メリット、デメリットがあるな…。上手くいけば収入が得られるかもしれないが、彼がどのような理由で怪我を負っていたかによっては、断ろう)
とりあえず、彼の情報を知るため、俺は彼に質問することにした。
「とりあえず、あなたのことと話せる範囲でいいので怪我の経緯を教えてもらえますか?とんでもない面倒事の最中ならば、俺としても巻き込まれたくはないのですが…」
「ああ、確かにそうだな。まずは名を名乗ろう。俺の名前はシルバ=ゾルディック。暗殺家業を営んでいる。この怪我は、仕事の際に少し想定外のことがあってな。その時に負った」
想定外の彼の言葉に俺は目を見開く。
「あ、暗殺ですか…。あれ、暗殺?」
「なんだ、本当に知らないのか。俺の家は代々暗殺一家でな。俺はそこの長男だ。一応、次期当主にあたる」
(ま、まさかあの『暗殺一家』がいるっていう都市伝説、本当だったのかよ!?)
サイトで見た情報を『トイレの花子さん』と同程度の噂話ととらえていた俺は、驚きのあまりフリーズする。
「別に俺たちの住所は隠してないし、なんなら観光名所としてバスも来るくらいだ。そこそこ有名だと思っていたがな」
シルバは苦笑いしながらそう言ってくる。
やらかした。俺はRPGをする時ボスを余裕を持って倒せるほどのレベリングは事前に行うが、攻略本を見ないタイプだから、楽しみを取っておくためにちゃんとパドギア共和国について調べなかった。
(まさかこんなところで仇になるなんて…!)
俺は過去の自分を殴り倒してやりたくなった。
「なにか落ち込んでいるようだが、まあいい。お前自身にも俺は興味がある。お前の纏っている『オーラ』の量は、大したことがない。しかしそれにしてはきれいな『纏』をしている。それに、俺に薬をつくった時は、『オーラ』の量が跳ね上がった。なにかの能力だろうが、面白い」
シルバはそう言って獰猛に笑う。先程は手負いの猛獣だったが、俺がほぼ治したせいで、今はまさに百獣の王のようだ。
(あー、さっき3系統使ったから、それを感知したのか)
俺は能力の性質上、実力を下に見られやすいが、能力を使う際使用する系統に貯めた『オーラ』は他人にも感知されるらしい。今回は強化系、変化系、具現化系と3つ使ったし、それをシルバは感じ取ったのだろう。
(やべぇ、俺もうあんま『オーラ』残ってないぞ!?)
俺は先程『治癒薬』に強化系、変化系、具現化系をそれぞれ13000ずつ使用したため、この3系統についてはほぼ『オーラ』がない。急いで各自の残りの『オーラ』を確認すると、
【特質系 残りオーラ50000/50000】
【強化系 残りオーラ1500/15000】
【放出系 残りオーラ14500/15000】
【変化系 残りオーラ1500/15000】
【操作系 残りオーラ15000/15000】
【具現化系 残りオーラ2000/15000】
『治癒薬』と昼の戦闘に使った強化系、変化系は1500、具現化系は2000しか残ってない。
(どうするか…)
これから行くのは暗殺一家の家。何も起こらないという保証は一切ない。ここでシルバについて行くべきか否か……。
「今何時か分かりますか?」
俺が時間を尋ねると、
「今は午後10時を少し過ぎたところだろう。正確な時間は時計がないからわからんが、そうズレてはないはずだ」
とシルバが答えた。
午後10時、ということは日付の変わる0時まではあと2時間ほど。俺の能力"生命力の樹(バンク・ツリー)"は日付が変わると貯められる『オーラ』の量がリセットされる。今日の分は既に使ってしまったが、あと2時間すれば少しは貯められる。
(なんとかなるか…?シルバの「恩人に対して手荒な真似はしたくない」という言葉に嘘はなさそうだが…。断った場合無理やり連れていくということは、戦闘になりそうだ。今『オーラ』がほとんどない状態でシルバのような実力者を相手取るのは厳しい…。とりあえずついて行って、やばそうならすぐ『オーラ』を貯めて逃げよう)
ある程度の方針を決めた俺は、シルバに対して了承の意を伝える。
「わかりました。とりあえずついて行きます」
「そうか。ならば迎えを呼ぶ。近場だったから行きは1人だったが、お前もいることだしな」
そう言うとシルバは胸から携帯を取りだし、どこかへ電話し始めた。
少しして携帯を閉じると、こちらに向かって
「迎えを手配した。もう少しで来るだろう。飛行船だから少し拓けた場所に移動する。その間に少し話でもするとしよう」
そう言ってシルバはくるりと後ろを向き歩き出す。
仕方なしについて行きながら、俺たちは会話を交わす。
「シルバさんは何歳なんですか?」
「俺は25だな。お前はいくつだ?そういえば、名前も聞いてなかったな」
「あ、そうですね。俺はヨシヒロ=マンダ。歳は16です」
「そうか。それほど歳はいってないと思ったが、想像以上に若いな。その歳でそこそこ『念』を修得しているようだが、師匠はいるのか?」
「いますよ。シングルハンターなんですけど、すごい尊敬のできる師匠です」
「尊敬できるかは知らんが、ヨシヒロを見る限り念の師匠としては優れているのだろうな」
師匠をシルバに褒められて、少し嬉しくなったりした。
…ォォ、ブォォォ…
遠くから音が聞こえるのでそちらに目をやると、飛行船がこちらに向かってくる。
「迎えが来たようだな」
シルバがそう言うと、中から執事服を着た人たちが降りてくる。その中で大柄で特徴的な髪型をした女性がこちらに向かってきた。
「シルバ様。お迎えに上がりました。」
「ああ、すまないな」
「いえ、ゾルディック家に仕える執事として当然でございます。それで、そちらの方が?」
「ああ、ヨシヒロ=マンダというらしい。恩人だ」
「これはこれは。申し遅れました。私はゾルディック家執事のツボネと申します。この度はシルバ様をお助けいただいたようで、感謝申し上げます」
ツボネさんはそう言ってこちらに深々と頭を下げる。
「あ、いえいえ!成り行きですし!」
そう言って頭を上げてもらう。
「ではご自宅に参るとしましょう。シルバ様、ヨシヒロ様、お乗りになってください」
ツボネさんに促されて、俺とシルバは飛行船へと乗り込む。少しすると
ガコンッ
と音がして、浮遊感が身を包む。どうやら飛び立ったようだ。飛行船の中はかなり豪華な内装で、寝転がれるようなソファーもある。
俺たちはそこで寛ぎながら、また会話を続けていく。そこで話しながら俺はふと思った。
「シルバさんは、俺の渡した薬をそれ程躊躇いなく使いましたけど、良かったんですか?いや、誓って体に害はないはずですけど」
「ああ、そのことか。俺を含めたゾルディック家は生まれた時から訓練を受けている。俺に毒は効かん。もしお前の渡した薬が毒だったとしても、問題はないしその時はお前を殺すだけだったさ」
そう言いながらシルバはまた獰猛な笑顔を浮かべる。
(ヒェッ、『治癒薬』に『オーラ』多めに込めてて良かった…)
俺は心臓がキュッとなった。空にいるからだと思いたい…。
(俺、生きて帰れるのかな…)
そう思うが、その間も、飛行船はゾルディック家のあるらしいククルーマウンテンに向けて進み続けていた。
はい、シルバ=ゾルディックの登場です。怪我をしたところを主人公に助けられました。まあこの当時まだ若いですし、ミスの1つくらいはあるかなと。
主人公は現時点シルバと正面からのガチンコでは勝てません。少し善戦はするかもしれませんが、暗殺対象になってしまった場合は恐らく殺されます。次話はゾルディック家に着いたところからになります。
追記 シルバに「殺す」発言されたのに能力を使ってまで助けることが疑問であるとの質問をいただきました。理由はありましたが、主人公目線の作中では書けないのでここに同じ答えを置いておきます。
① シルバの情報が後にわかったこと。
暗殺一家で、暗殺の帰りであるということを知る前に行動しました。知っていたら行動が変わっていたかは怪しいですが、知らなかったから躊躇いがなかったのは確かです。
② 主人公の能力
主人公の能力の強みとして、系統を組みあわせることでの多様性が挙げられます。『治癒薬』作成は戦闘の能力ではないため、比較的簡単に他人に見せます。流石に一般人の前ではやりません。
(後の作中でも何回かやりますし、某ビスケに怒られた時このように釈明します)
③ 主人公の価値観が前の世界から変わっていない
これが最大の理由でしょうか。主人公はこの世界に来てからボトバイさんと修行に明け暮れていました。
つまり、主人公の『死』に対する考えは、現代日本の一般的なものとあまり変わらないです。(『あまり』なのはまた作中で書きます)
主人公が駆け寄って助けた後に「殺す」宣言されるとさすがに不快に感じたでしょうが、まだ主人公は行動にも移してませんし、シルバの雰囲気から『裏』の人間で『警戒』してるんだろうと考えています。
以上の3つが理由です。