あとクトゥルフ神話TRPG第7版ユーザー少ないのでそれもやりましょう(ダイマ)
オイフェミアとハインリヒ。
あの村で魔物達と戦っていた二人組はそういう名前らしい。
オイフェミアは腰まで届く絹のような金髪をした見目麗しい少女だ。その美しさは火守女にも劣らない。
いささかベクトルは違うが、ああ完成された美というのはこういうものなのだなと直感的に理解できるような美貌であった。
仕立てのいい白い服と鎖帷子をあわせた防具に身を包んでいる。雰囲気で言えば薄暮の国の騎士装束が近いだろうか。
ハインリヒは黒の短髪にメガネを駆けた"陰謀メガネ"という渾名が実に似合う男である。
黒い革鎧に刺剣と盾を装備している。だが革鎧といっても貴族の騎士が装備するような品格を持つ上等なものであることが窺えた。
オイフェミアに名前や出身国を尋ねられた時は思わず苦笑してしまった。
なんせそのどちらももはや忘却の彼方である。
灰の墓所で目覚めた時にフルプレートの騎士鎧を着ていたことから何処かの国の騎士であったのだろうがてんで覚えてはいない。
そのまま成り行きで救出した女性たちを朝まで護衛した。
流石に闇夜の中で放置するのは酷であろう。
あの世界で出会った女性たちは殆どが強かったが、どうやら彼女達は一般人である。同列に考えてはいけない。
日が昇り始めた頃合いに村へと戻る。
私が先行して村の様子を窺い、魔物がいないことを確認してからオイフェミア達に合図した。
どうやら首魁が殺されたことで残党は散り散りに撤収したようである。
村の現状は凄惨極まるものであった。
殺され焼かれた男たちの遺体。無残に殺さた子どもたち。焼け落ちた家。荒らされた畑に略奪された食料庫。
おおよそこの村で生活を続けるのは不可能であろう。
女性たちは村の惨状を改めて目の当たりにし、そのほとんどが泣き崩れる。
無理もない。今後の不安や肉親を失った悲しみなど、感情を突き崩すには十分すぎる要素が揃っている。
オイフェミアとハインリヒはその女性たちを見て苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
その心情は理解できる。もし私がもう少し早くこの村を発見していればこうはならなかったかもしれないのだから。
だがそんなことは後の祭りだ。
私はオイフェミアに問いかける。
「この後どうする。男は殺され、財産は焼け落ちた。このままでは格好の餌以外の何物でもない」
オイフェミアはしばし悩んだ後に言葉を絞り出す。
「ミスティアの王都へ戻りギルドへ報告します。ここが当家の領地であれば衛兵達を派遣することもできるのですが、生憎とここは他貴族の領地です。ギルドに報告した後にここの領主へ連絡をいれることくらいしかできません……」
彼女は悔しそうにそんな言葉を紡いだ。
ギルド…?そういえば夜に彼女が探索者やらダイアモンドやらと言っていたか。
恐らくはそれらを管理する組合のようなものだろうか。
どうやらこの世界では探索者なるものがかなり有名な存在らしく、昨夜はそれを知らなかったために大分驚かれた。
だがそれよりも気になっている事がある。
「昨夜から気になっていたのだが、オイフェミア嬢…でいいか?は貴族かなにかなのだろうか」
私のその言葉にハインリヒがあからさまに機嫌を悪くする。
……そんな顔をするな。知らぬものは知らぬのだ。
「ええ。自分で言うのは憚られますが、私はこのミスティア王国の公爵家の娘です。もっとも悲しみに打ちし枯れる民草を救えもせずに何が探索者、何が貴族かと思う所ではありますが」
悔しさを滲ませながら彼女はそういった。
だがそれは彼女の責任ではないだろう。
責任があるとすればこの村を含む地域の領主とやらだ。
聞いた所彼女の領地はここでは無いらしい。であれば尚更である。
国を為していようとも貴族は一枚岩ではない。それはこの世界でも同様であるようであった。
村の正面側から誰かの声が聞こえる。
どうやら旅の者かなにかが通りすがったらしい。
そちらへと向かってみれば武器や防具を装備した4人の人間らしき人物の姿があった。
いや人間だけではない。犬に似た耳を生やした女性や兎耳をもった女性の姿がある。
昨夜屠った魔物達とは違い禍々しい雰囲気は感じられない。
どうやらこの世界で人側に属している存在のようでった。
オイフェミアがそのもの達に声をかける。
どうやらその人物たちは昨夜聞いた探索者とやらであるらしい。
ゴールド等級がどうのこうのと言っていたが詳しい内容は聞こえなかった。
ただどうやらオイフェミア達が王都のギルドへ報告しにいく間この村の生き残りの護衛を請け負ってくれたようであった。
「
オイフェミアのその言葉にしばし思案する。
現状この世界に対する情報は殆ど無いに等しい。
であれば彼女達に着いていき、この世界に対する知識を蒐集するべきでは無いだろうか。
それに折角結んだ縁である。例えそれが血なまぐさい夜によるものだったとしても、折角なら無関心で敵対でも無い道を選びたい。
「そちらが構わなければ同行させて欲しい。何分こちらの知識は殆どないに等しいからな」
本心を吐露する。
別に狐と狸の化かし合いの場ではないのだ。こういった場面の正直は美徳であろう。
「それはこちらとしても助かります。
オイフェミアは少し安堵したような表情を浮かべそういった。
ハインリヒも似たような心境なのか、先程よりも表情は柔らかい。
「助かる。ある程度腕には覚えがある。護衛の真似事くらいはできるだろう」
「ご謙遜を」
後から着た4人組の探索者が『え、コイツダイア等級にそんなこと言われるほどすごいやつなの?』という顔をしている。
その気持は少なからず理解できるため苦笑を漏らした。
どうやらダイアモンド等級という探索者はそれなり以上にこの世界で尊重される立場らしい。
私達は女性たちに一言告げた後王都へ向かって歩きだす。
あの世界とは違う世界。果たしてどのような未来が待っているのだろうか。
私達は偶然通りかかった探索者の一党に村の護衛を引き継いで貰い王都へと出発していた。
舗装されていない長閑な街道を進んでいく。
この世界では昨晩村で起きたことは別に珍しいことではなかった。
よくある悲劇の一つ。魔物に襲われ命を落とすなんてこの世界ではよくあること。
だがそれを前にして、救えなかったという結果を前にして心穏やかでいれるほど人間を辞めたつもりではなかった。
オイフェミアは貴族の間では"魔女"と蔑称されることもあるが、その心は他の10代の少女達とそこまで変わらない。
貴族の矜持や高位の探索者としての誇りは持ち合わせているが、逆に言うのならばそれだけである。
私達は暫くの間無言で道を歩む。
別に意図して無言であるわけではない。
単純に何を話せばいいか迷っているからであった。
ハインリヒを見れば彼も同様のようである。だが主たる私が話さないのであれば何を言うつもりもないようだ。
聞きたいことはそれこそ山のようにある。
卓越した戦闘技術や身につけた鎧のこと。身体に宿る燻りのような炎。
時折火の粉すら翔んでいるそれは幻覚や光の反射などでは無いことは間違いない。
そして竜と化したドレイクすらも一撃で屠った大弓。
いつの間にか持っていたそれはまたいつの間にか彼の手からは消えていた。
私達を凌ぐ実力者であることは疑いようもない。
だが何やら訳ありであることが会話の節々から窺えた。
得てして実力者というのは詮索されることを嫌う。
折角良好とはいかないまでもこうして一時的な一党を組んでいるのだ。
藪をつついて蛇を出す気は私にはなかった。
とはいえ終始無言というのも雰囲気が悪い。
騎士―――
貴族としての経験を総動員し地雷にならぬ話題を模索する。
私としても恩人である。折角ならば仲良くしたいと思うのは当然であった。
結果として当たり障りの無いだろう言葉をかけることにする。
「ミスティアを訪れるのは初めてですか?」
「ん?ああ、初めての土地だ。長い間遠方の地を旅していた。良ければこの周辺について教えてくれないか」
どうやら会話の糸口を掴むことには成功したようである。
どうもこの辺りの知識は殆どないようだ。
ならばどうやってその遠方の地からここまでやってきたのかと疑問を抱くが、虎の尾を踏みに行く必要はあるまい。
そのへんの事情は話したくなれば向こうから話してくれるだろう。
探索者の間では詮索はご法度というのが共通認識である。
尤も、
「そうですね。ではまずはミスティアについて話しましょう。ミスティアはこの周囲一帯を治める王国です。四季があり、豊かな自然が特徴ですね」
なるほどと言って彼は周囲を見渡す。
四方には生命の息吹を強く感じさせる緑の山々と清らかな小川が静かに存在していた。
この美しい景色は私の故郷の誇りだ。
彼の故郷や旅をしていた土地にはこのような景色はなかったのだろうか?
ミスティアの王都周辺に至るまでには間違いなく見続ける光景であるのだが、謎は深まるばかりである。
「確かに美しい景色だ」
「ええそうでしょう。ミスティアの領土の多くは山岳です。主要な都市の殆どは山間部の盆地に築かれていますね」
「天然の要塞に守られた都市か」
「そのとおり。軍事にもお詳しいので?」
「いや。だが理解はできる。相手に数の利を使わせない事は戦いの基本だろう」
その台詞から彼は私達に近しい存在であるのだと言うことが窺える。
それは貴族らしいという意味ではない。探索者らしいという意味だ。
昨晩の戦い方を見てもわかっていたことだが軍人というよりも探索者のようなことをしていたのだろうか?
旅をしていたと言っていたしその可能性は高い。
「総人口は20万人ほど。この大陸では先進的な部類の国になります。一番多いのは人間ですが、亜人種の方々も多くいらっしゃいますね」
「20万も…それは…凄いな」
彼は驚いたような声色でそういった。
大陸の覇権国家たるヘイルダルム帝国に比べればそう多くは無いのだが、どうやら彼にとっては驚くに値することだったらしい。
「亜人種というのは、あれか。先程の……探索者か?それにいた犬の耳や兎の耳をした者たちのことか」
「ええそうです。彼女たちは
「探索者というのは異人種間で徒党を組むことが多いのか?」
「そうですね。同じ種族で一党を成すことも多いですが様々な種族の混成一党も少なくないですよ。同じ種族だけで人手を集めるのは大変ですからね」
なるほどと彼は相槌を打つ。
昨夜の会話でわかっていたがどうやら探索者についての知識も持ち合わせていないようだ。
益々どんな所を旅してここにたどり着いたのか気になる。
装備は上等なフルプレートの騎士甲冑であるし文明レベルが劣っていたとも考えにくい。
大海の先の全く異なる場所から訪れたのであろうか?
港もそれほど遠くはないしそれもありうる。
とりあえずは探索者についての説明もするべきだろう。
「探索者というのはこの大陸では一般的な存在です。昨夜も少し説明しましたが遺跡の探索や魔物の討伐、商隊の護衛などを生業とする人たちですね。探索者ギルドと呼ばれる組織で手続きをし登録すれば誰でも探索者となることができます。前科者などはその限りではありませんけども。基本的にはギルドが様々な人々や組織から依頼を受け、それを探索者へ斡旋するという流れが多いですね」
興味深そうに
やはり彼のいたところには探索者ギルドというシステムは無かったようである。
「なるほどな。そういえばダイアモンドだとかゴールドとか言っていたがそれはなんだ?」
私は胸元に駆けられた金剛石のネックレスを彼へと見せながらその質問に答える。
「ダイアモンドやゴールドというのは探索者の等級ですね。ダイアモンドは序列3位、ゴールドは序列5位の等級です。8位まで等級がありますね」
「なるほど。その等級によって依頼難度や報酬が変わってくる訳か」
「ええその通りです。加えて言えば上位の等級になればなるほど社会的身分というのは保証され上がっていきますね。国にもよりますがダイアモンド以上の等級になれば一部税の免除などの恩恵もあります」
「昇級がどう行われるのかはわからんが、それでは税収が下がるのではないか?」
「確かにその通りですがそれ以上に国や貴族にとって益が多いのですよ。軍を動かすにはそれこそ莫大な費用が掛かります。それに兵の訓練にだって人件費にだって金はかかるでしょう。ですが探索者であれば依頼報酬だけで信頼のある戦力を動かす事ができる。多少のデメリットに目をつぶってもお釣りがきますよ。軍事費というのは馬鹿になりませんからね」
私の説明に納得したようで彼はなるほどなと言葉を返す。
ここまで喋ってみて分かったが存外話しやすい人物であるようだ。
理知的で頭の回転も悪くない。
彼のようなものが探索者となれば間違いなく優秀な結果を残すだろう。
「王都についた後はどうなさるので?」
「特に決めてはいない。昨晩も言ったがあの村に通りかかったのもそちらとこうして歩いているのも偶然の結果だからな」
「でしたら探索者になってみては如何でしょうか?
彼はしばし考え込む。
その後ふむと頷き言葉を続けた。
「悪くないかもしれない。いずれにせよ既に何か使命のある身ではないしな」
その台詞には多少の自嘲を孕んでいて。何処か悲壮な雰囲気を感じられた。
それに疑問を抱きつつも言葉を発する。
「それならば私達はこのままギルドへと向かうつもりでありますし、そこで一緒に登録を済ませてしまいましょう。助けていただいた恩もあります。私達も少しではありますが協力させていただきますよ」
ハインリヒも私の台詞に軽くうなずく。
それに対して若干驚いたような声色で彼は言葉を返す。
「それはこちらとしてもありがたい。だがいいのか?」
その言葉の真意は理解できる。
序列3位ダイアモンド等級の探索者が保証して探索者となるのだ。
彼が何かをしでかせばこちらにも迷惑がかかるのではと彼は思っているのだろう。
全く、優秀で聡明、そして優しい人物だ。
だが私としては全く心配していなかった。
それはこれまでの彼との会話と昨夜の戦い―――報酬も無しで村人達を救いに行った行いを見ての確信にも近い感情である。
彼は少なくとも無辜の民を殺すような野蛮な人間ではない。それに将来有望な探索者の保証人となれるのだ。
いわば未来への投資である。打算的になれずに何が貴族か……こんなことだから他貴族からは"腹黒オイフェミア"などと呼ばれてしまうのだろう。
多少の自己嫌悪を思考の彼方へと追いやりつつ私は言葉を返す。
「ええ。出会ってまだ少しの時間ですか、
彼は少し苦笑したような雰囲気を醸し出す。
だがそれを直ぐに払拭させこちらへと右手を差し出してきた。
「感謝する。オイフェミア……でいいか?よろしく頼む」
私はその手をしっかりと握り返し言葉を返す。
甲冑の籠手はゴツゴツしており、だがそれは金属の冷たさを伴ってはいなかった。
柔らかく温かい、燻る火のような優しい温かさを感じさせる。
まあ彼の身体の至る所には火の燻りが見られるので見た目通りといえば見た目通りだろう。
「ええ宜しくおねがいします
どちらからとも手を離しお互いに少し微笑む。
尤も彼の顔は兜で隠れているため実際には見えないが。
そして彼はハインリヒにも手を差し出し握手を行う。
「よろしく頼む……ハインリヒ?でいいか?」
「問題ないですよ
「ハインリヒッ!!?」
余計な事を言われる前にその言葉を止める。
今の私の顔は若干の赤を伴っている事は想像に難くない。
まったくこの男は……私の従者であるという自覚があるのだろうか。
いくら長年連れ添っているとはいえ時々疑問に思うことがある。
まあ何はともあれ。新たに親睦を深められそうな人物と出会えた事は僥倖だろう。
そしてある程度の信頼を交わした今ならば虎の尾をふむこともあるまい。
私はずっと疑問に想っていたうちの一つを彼へと質問した。
「あー……えっとそれで。ずっと訊きたかったのですが……なぜ身体に火が燻っているのかし…ですか?」
ハインリヒに猫かぶりを暴露されたためかちぐはぐな言葉遣いでそう質問する。
それに対して彼は『あっ』と、ミスを思い出したような声を発した。
今後はダイスを振って色々決めていく予定。
次あたりでAC勢からもキャラクター出したい。