黒と金のアヴェンジャー 作:主将
風が吹く市壁の上、鍛錬をするわけでもなくシグルスとベルとアイズはそこに集まっていた。シグルス達の中で市壁はそれぞれファミリアが別々な彼らが集合する為の場所となっていて所謂溜まり場というやつとなっていた。落下防止の塀にシグルスが足を組んで座り、アイズはその隣にシグルスに向く様に腰掛ける。そしてそんな2人をまるで舞台を観るかのように市壁の通路の上に座るベル。ごくごくいつもの3人。とある日、シグルスとアイズを共に見ることのできる位置にいるベルが2人に質問を投げかけた。
「シグルスさんとアイズさんのピアスってもしかして色違いですか?」
ベルの方を2人がお揃いの動きで向く。その時シグルスは左耳、アイズは右耳にあるピアスが揺れた。シグルスは金の円のピアス、アイズは銀の円のピアス。形状は2人とも同じ。サイズすらも同じだ。
「ああ、これな」
ピアスを指で弾いて示しながらシグルスは言った。ベルはコクと頷く。
「2人で約束したことがあるんだ。それを忘れない為。あとは…」
「…秘密かな」
アイズがそう言った。シグルスもそれに便乗した。ベルが猛烈に知りたがっている顔を向けてくるのをクスッと笑った。いつぞやの記憶だった。
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シグルスはダンジョンに潜り、18階層で小休憩を取ると更に下の階へと足を進ませ、途中の
頭上を覆う結晶が割れて一匹の黒い巨大な怪物は18階層に生まれ落ちた。ゴライアス、通常ならばそう呼ばれるであろうその怪物だがゴライアスは基本17階層にしか出現しない。それにこんな黒い皮膚でこんな巨大ではなかった。おまけにその足元は下の階層から這い出てきたモンスター達がバラついていた。
リヴィラの街の冒険者達は突如現れた危機に慌てふためいた。そしてその光景を眺める影が一つ。
「助けなきゃ!」
白髪の髪を揺らして駆け出そうとしたベルをリューは「待ちなさい」と一言言って止めた。レベル2になってすぐのベルが18階層にいるのは異様だった。しかし彼は自分の意思で18階層に来たわけではなくとあるハプニングにおいて来るを得なかったのだが、そんなベルがゴライアスや18階層以下に住むモンスターを相手取るには少々力不足であるのは自明だろう。幸いなことにベルはソロではなく仲間はいるが仲間のレベルも高くはない。おまけに18階層に行くことになってしまったベルの身を案じてダンジョンに潜ることになったヘスティアという護衛対象も抱えていた。
「このパーティーで本当に助けに行きますか?」
だからリューの問いかけは正しいものだろう。ベルは仲間に目を合わせた。そして覚悟を持った目で言った。
「助けましょう」
「あなたはリーダー失格だ。だが…間違ってはいない」
こうしてリヴィラの冒険者とベルのパーティーによる黒いゴライアスの討伐戦が幕を開けた。
まずはヘスティアを安全な場所へ退避させることを指示したベルは仲間を鼓舞すると駆け出した。目標は遥か前で暴れる黒いゴライアスだ。
ゴライアスの足元には冒険者がまばらに残っていたがゴライアスやその他のモンスターの対応に追われていた。
「クソッ!なんでこんなことにっ!!」
ミノタウロスが冒険者の構えた剣を弾き飛ばして拳を振りかぶった。そして放たれんとしたとき、ミノタウロスの身体に一本の線が走った。背後から魔石ごと斬られたミノタウロスは灰へと変わる。そして怖気付いて腰を抜かした冒険者をリリルカが安全なところへ引きずって運ぶ。
一方リヴィラの街の方角ではリヴィラの頭領、ボールスが退路は既にないことを知らされていた。
「テメェら!!あの化け物と一戦やるぞ!!!」
そしてボールスは八つ当たりのようにリヴィラの冒険者を鼓舞した。
「街にいる奴を全員駆り出せ!臆病風に吹かれたやつはこの街に二度とたちいるんじゃねぇ!冒険者の意地を見せやがれ!」
そんなボールスの指示により各々の武器を携えた冒険者が高台の上からゴライアスと対峙していた。
リューが舞い上がる。空中にいるリューを叩き落とそうと振られたゴライアスの掌を避けながらリューはゴライアスの片足を木刀で攻撃した。ダメージを受け片膝を他に付いたゴライアスの支えになっている腕をベルのパーティでタケミカヅチ・ファミリアの命と桜花の2人が斬りつけたが、2人の得物はゴライアスの腕にめり込み、ゴライアスは2人が腕にくっついたままの状態で拳を上げた。
「速く離脱しなさい!」
リューの指示を受け得物を手放して逃げることを選んだ彼らだが彼らが地についた隙をゴライアスのハウルが狙っていた。
「ウィル・オ・ウィスプ」
しかしそれは放たれることはなくベルのパーティメンバーでヘファイストス・ファミリアのヴェルフの魔力暴発を誘導する魔法によって阻止されていた。煙に覆われるゴライアスの顔。
「ッ!まずい!!」
やがて煙が立ち消えるとやけついたゴライアスの口元が再びハウルを放とうとしているのがあらわになったが舞い上がったリューの攻撃で阻止された。
「(やはり普通の階層主とは違う。このポテンシャル、レベル5に達する!!)」
内心そんなことを考えているリューは駆け出す。その時リヴィラの街の援軍が駆けつけた。
「リヴィラの街の魔導士達が詠唱に入ります。気を逸らして下さい」
「アスフィ、分かりました。私と貴方で囮になりましょう」
ゴライアスの足元を駆けるアスフィとリューを筆頭に様々な冒険者が動き出した。魔導士は詠唱し、弓兵は矢を放ち、バリスタによる援護射撃もありながらゴライアスの大きな身体に剣が突き刺されていく。
「もとより寄せ集めだ!連携なんざ捨てろ!互いの邪魔にならなきゃいい!自分のやり方で戦え!!」
ゴライアスのハウルの標的には倒れた冒険者がいた。ベルは思い切り駆けてその冒険者の首元を掴んでハウルから救うと勢いのまま飛び上がった。空中から自らの仲間に向かって救った冒険者を投げるとゴライアスにナイフをむけて飛びかかり、その皮膚にナイフを突き立てると重力を使ってゴライアスの身体に長い螺旋の傷を刻んだ。
「よぉーし!前衛は引けぇ!!デカイのぶち込むぞー!」
ボールスの声が響くと前衛はゴライアスから身を引いた。そして孤立したゴライアスに魔法の嵐が降り注ぐ。火や風や氷など、属性も様々な魔法の嵐はゴライアスの身体を焼き、切り裂き、凍らせた。
暫くの魔法攻撃が終わると膝をつき、身体から煙を上げたゴライアスが他に伏した。
「一気にけりをつけるぞ!!」
ボールスの掛け声とともに冒険者はゴライアスに駆け寄るが全員異変を感じて攻撃はしなかった。唸るゴライアスは手をつき身体を起こすと膝立ちになる。そのとき、ゴライアス身体を赤いオーラが覆うと焦げた皮膚はもとに戻り、骨が剥き出しになった顔も10秒も経たぬ内に元通りになった。
「…自己、再生…」
「ヴォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
立ち上がり怒り狂ったゴライアスの咆哮が響き、ゴライアスは両手を組んで作った頑丈な拳を思い切り地面に叩きつけた。
衝撃に冒険者達は倒れている中ベルは身体を起こした。無傷になったゴライアスは辺りを見渡していた。
立ち上がったベルと背中合わせにリューとアスフィは並んだ。ベルの目の前には這い出てきたモンスター達が、リューとアスフィの目線の先にはゴライアスがいた。
「私達でゴライアスを抑えます。その間にクラネルさんはモンスター達をお願いします」
「でも…」
「時間が経てば動ける魔導士が増えます。そうすればもう一度魔法を放てる。それでもダメならもう一度倒すまで。何度でも…!!御武運を」
ベルが答える隙もなくリューとアスフィはゴライアスへと駆けていった。既に動き出した冒険者は立ちはだかるモンスター達へと剣を向けていた。
「リトル・ルーキー!モンスター達はいい!お前はアイツをやれ!」
冒険者達が指す先にはゴライアスがいた。
「
「グングニル」
19階層への連絡路を少し進んだ高台、冷たいその声は誰に聞かれるわけでもなく消えた。
赤く不穏な色に染まった空間、冒険者達の上空を太陽と見紛うほどの明かりが覆った。それは尾を引く彗星のように美しいその物体で、綺麗に疾く空中を駆けた。そしてその彗星の目的地は自分達を絶望に叩き込んだあのゴライアスである。数秒後に彗星はゴライアスの足に着弾した。目も眩むほどの光を放って彗星は大きく爆発した。駆け抜ける衝撃波を冒険者達は防ぐ。光の中からは下半身を失ったゴライアスがいた。
しかしゴライアスは先程のように咆哮を上げると赤いオーラを出して下半身を生やした。さらに怒り狂ったゴライアスはハウルを乱射している。
「自己再生。余計だったか」
目を丸くしているベルの横にシグルスが並ぶ。
「シグルスさんだったんですか!?あの魔法」
「ああ」
シグルスは両手剣を鞘から抜いて構える。そしてゴライアスに駆け寄る。
「【戦鬼】だ!【戦鬼】がきたぞ!」
何者かが叫んだ。最強に近い男の名の参戦は冒険者達を奮い立たせた。絶望を抱いていた冒険者達は再び立ち上がる。
ゴライアスの身体を蹴って登り、器用に剣を叩き込むシグルスにリューが続く。そしてその2人の後ろに命が立った。そんな3人を見るベルにリリルカは一振りの大剣を手渡した。ゴライアスを一撃の元に葬り去るには十分であろうその剣を握ったベルが白く光輝いた。
「今は遠き森の空…」
「掛けまくも畏き…」
ゴライアスと高速戦闘中のリューと一歩下がったところにいる命が詠唱を始めた。
「ルミナス・ウィンド!!!」
詠唱が完了したリューはゴライアスに向けて魔法を放つ。風を纏った光球が無数に放たれゴライアスに打ち込まれた。魔法を打たれて唸るゴライアスはリューを掴む。
「フツノミタマ!!」
しかし命の重力魔法が完成し、ゴライアスは握った手を開いた。重力の結界に押し込められ、地に足がめり込むゴライアス。その時、声が響いた。
「お前らどけぇ!!!」
どこからともなく走って現れたヴェルフの背中には緋色の魔剣が担がれていた。飛び上がったヴェルフは重力に押し潰されて停止したゴライアスに業火を浴びせた。クロッゾの魔剣、シグルスもそれを聞いたことはあった。やがて魔剣は砕け散り炎は消える。シグルスはもう一度ゴライアスに駆け上り、ゴライアスの両腕を肩から切り落とした。再生されるとはいえ隙にはなる。
リューの魔法、命の魔法、ヴェルフの魔剣、シグルスの攻撃、残すは止め。
「ベル!お前がやれ!!」
ゴライアスから落下しながらシグルスはそう叫んだ。
どこからともなく鐘の音が響く。歪な大剣を握ったベルは白く輝く。そして両腕のないゴライアスに駆け出した。全ての人がベルを見ていた。
ーそれは圧倒的な力の差を覆しうるものー
ーすなわちー
『英雄の一撃』
ベルの雄叫びと共に振るわれた大剣が光を放ちながらゴライアスを飲み込む。光に飲み込まれたゴライアスは完全に死んだ、
「…嘘、だろ」
ベルの一撃を受けて下半身だけになったゴライアスは魔石を剥き出しにしていたが当の魔石は無傷だった。このままではまた再生される。諦めの雰囲気が訪れたがベルだけは諦めなかった。
ベルは駆け出すと腰のナイフを抜いた。そして勢いをつけて高く飛び上がった。ナイフの先で狙うは剥き出しになったゴライアスの魔石。落下の勢いで加速するベルはやがてゴライアスの魔石へと到達した。
ゴライアスの魔石に罅が入る。ミシミシと音を立てて数秒静止すると魔石は砕け、ゴライアスが灰になった。冒険者の歓声が響く。シグルスも満足げにベルを見て微笑んだ。
「おおお!みたぞ!このヘルメスはしかと見たぞ!!素質がない!馬鹿を言うな!!貴方の孫は、置き土産は本物だ!!それに彼は父の血を継いでいる!!父の剣を継いでいる!!【竜殺し】の血を、剣を継いでいる!!貴方のファミリアが残した、ラストヒーロー達だ!!」
ゴライアス「足がステージにめり込んで離れないぜぇ!!」
シグルス 「黒龍黒龍黒龍俺が狂ったのはアイツのせいだ」