黒と金のアヴェンジャー 作:主将
朝焼けに染まるオラリオの市壁の上、シグルスとアイズは向かい合って剣を振った。木刀や鞘ではなくお互いに通常と同じ得物を持って殺すつもりで戦っていた。
シグルスの正面斜め上空からアイズの細剣の連続攻撃が見舞われその全てを両手剣を器用に使って受け止めると今度はシグルスが攻撃を素早く叩き込んでアイズに反撃をした。両手剣とは思えぬ程の素早さで振われる上にリーチが長くアイズは距離を取って避ける。攻撃の合間を縫って細剣で突いてみるが払われ剣を落とし、寧ろ隙を晒してしまうのだった。その隙につけ込んだシグルスはアイズを蹴り、転んだところに首元に剣を当てた。
「勝負あったな」
アイズの手がそおっと落とした細剣に伸びる。そしてそれを掴むとアイズは立ち上がりながら思い切りシグルスを薙いだ…つもりだったがそこにシグルスはいなかった。後ろからシグルスの香水の匂いが漂う。アイズの首に腕を回され
「…負けました。シグ、いい匂い…もう少し、そのままで」
「そのまま…って」
アイズの久しぶりのわがままを聞き入れるしかなかった。ただ、首に腕を回しているこの状態は側からみれば暴漢に襲われている少女だ。早朝とはいえ誰かに見られると面倒くさいことこの上ないからシグルスは首元の腕をアイズの腹部に移動させた。アイズは驚いたようで分かりやすく動いたが大人しくなった。
「(この体勢…良い、けど…緊張…する…)」
「(俺は何をしているんだろう…)」
沈黙が2人を包む。数分後、シグルスが口を開いた。
「そろそろ…いいか?」
「うん。ありがとう」
アイズの白い顔がほんのりと赤く染まっている。
「ねぇ、シグはなんでそんなに強くなれるの?」
シグルスとアイズは同じタイミングで冒険者になった。フレイヤに見出されたシグルスはフレイヤ・ファミリアにロキに見出されたアイズはロキ・ファミリアに。フレイヤ・ファミリアもロキ・ファミリアもどちらもオラリオの最強ファミリアだ。条件を同じくしてシグルスの方がステイタスも単純な技術も勝るがそこにはどんな理由があるのだろうか。
「執念だ。絶対に倒すという執念だ。そいつが俺をここまで強くしてこの先も強くしてくれる。ヤツを殺せるようになるまでな」
アイズが黙りこんだ。そして親を黒龍に奪われた2人の遠い昔の約束を思い出した。
「お前はそんなものに染まるなよ。お前の周りには良い仲間がいる。俺の周りにもだがお前はもっとだ。だから綺麗に強くなれる。俺みたいに汚れて強くならなくても」
アイズにはシグルスが悲しそうに見えた。ずっと昔からだがシグルスから生命力や生存欲や生気、活気のような生き生きとしたものが感じられないのだ。少し目を離せば死んでしまいそうにも思える。
シグルスはアイズの頭を撫でると立ち上がってアイズに背を向けて歩き出した。
「シグは全部終わったらどうするつもり?」
アイズはシグルスの背中にそう投げかけてみた。歩みを止めたシグルスは振り返って言う。
「復讐を果たせばそこが俺の人生のーーーーーー」
強風がシグルスの言葉がアイズの耳に届くのを阻止した。全部終わったら、全部終わったら、全部終わったら…私とずっと一緒に。
それは言葉にならずシグルスに届くことは無かった。