「緋弾のアリア」の世界に、特殊な条件のループ能力持ちの転生者がいるお話です。
ループしている。神崎がそう感じたのは何時頃か。
両親が潰れて死に絶望の中で頼るべもなく里子に出された後、呆然としながらも何とか暮らしていたところ、よくわからない連中に殺され――気が付いたら両親が死ぬ前に戻っていた。
最初は予知夢の類かと判断し、両親が死ぬ場所へ近づかせないことで、二人の死を回避した神崎は安堵の中で日々を過ごしていた――ところで、再び縁もゆかりもない連中に両親共々殺された。
そして気が付けば、両親が死ぬ前に戻っている。
ループしている。流石に神崎でも気付かざるを得ない。
それに加え、己の記憶の中に
だが忘却することすら叶わない原作知識の中に、それらしい相手は見当たらない。
ゆえに、神崎は徹底してループの謎を追った――今のままでは折角助けられた両親の命どころか、碌に生活することも叶わない。
その結果――
忘れることのない原作知識が、他者に漏れた場合1年前に戻される。
己が裏方やバックアップに立つことは一切許されず、表立って動かなければ、行動前に戻される。
そして「原作の主人公たち」から長期間離れた場合は、「敵対者が増え、強化される」こと。
それらを把握した瞬間、神崎は乾いた笑い声が漏れた。
作中の敵役たちが転生事情以外は「一般家庭の人間」でしかない神崎を、あらゆる道理を無視して執拗に殺しに来た理由が――「ループのルールだから」。もはや笑うしかない。
彼ら敵役たちに「その」自覚はないのだろう。このループを仕組んだ相手の操り糸に意識することなく動かされているに過ぎない。
最初のループは里子に出されたことで「原作主人公たちから離れた」結果、「敵対者の襲撃が確定」し、神崎が殺される間際に思わずこぼれた原作知識の欠片が「原作知識の漏洩」のループ条件を偶発的に満たしたゆえ。
なにも語らずに死んでいればループすることもなく、己に降りかかる理不尽に気づくことすらなく死んでいただろう。
2度目は、「両親の死を回避する」名目で原作主人公から「離れすぎた」ゆえ、敵役に殺されるルートだ。襲撃者が同じ相手だったゆえに、色々口走っていなければ、ループはなかった。
もはや神崎は乾いた笑いを漏らすしかない、
バックアップ・裏方の禁止の枷により、隠れ潜むことも叶わず、襲撃のルールから原作の主人公たちの近くでコバンザメよろしく居続けなければ、まともに暮らせないのだ。
神崎に生きる希望をくれた大切な両親を今度こそ守りたいというのに、己にあるのは2度の襲撃の際に判明した「並外れた戦いの才能」だけ。
戦えば良いだって? 主人公の近くは当然争いの火種が多い。物語のアクセントなのだ。仕方のない話だろう。
そんな地雷原に等しい相手の近くで、いつまで神崎は両親を守り続けられる? 「緋弾のアリア」はかなりのロングセラーだ。敵役も当然多い。
3つのルールを順守しながら、二人を守り、不自由のない安全な暮らしを保証し、己も彼らに誇れるように生きる――ゴールは二人の寿命まで。
そんな難題を前に、神崎の脳裏にふと妙案が閃いた。
嫌な予感しかしない。
人の気配どころか生物の息使いすら感じさせぬ不気味なとある廃墟の一角で、棺を担いだ黒づくめの男がコートを揺らしながら、ひた歩く。
彼は巷で
法による裁きを、その素顔を覆う歪んだ笑顔の仮面で嘲笑い、法が届かぬ罪人に私的な罰を下すいかれたエゴイスト。
やがて、そんなエゴイストは、棺を括り付ける鎖をほどき、ゆっくりと棺を下した。
彼が背負う棺には、狩り取った罪人が収められている。地獄の門と繋がっている。はたまた不条理に涙する者の願いを叶えてくれる魔法の棺――など様々な噂が流れているが、その真相に辿り着いた者はいない。
そうして鎮座する棺のロックを外す音が響くと共に、彼はご機嫌を伺うように棺を4回ノックした。
「――ごぶほぁっ!?」
いや、3回目くらいで棺のドアは蹴り開けられ、黒ずくめの男の顔面の仮面に直撃し、吹っ飛ばした。
「テイカー!! 話と違うじゃない!!」
そんな具合で棺の扉を勢いよく蹴り開けた桃色のツインテールを揺らす少女は、成長の機会に恵まれなかった小柄な体で肩をいきらせて憤らせる。
彼女の名は「神崎・
なお、神崎
そのアリアの怒り心頭な視線を向けられている
「お痛たたたたた。えぇ~? ホームズちゃんのご要望通り、快適な棺ライフを提供したじゃないのよさ! 一体何がご不満な訳!?」
そう、テイカーの中の人こと神崎が閃いた妙案は至極単純――「原作陣営に関わり続けなければならないのなら、戦闘時に棺の中に入れて持ち歩けば良いじゃない!!」な具合である。
何故、そうも明後日の方向に突っ走るのか。
色んな原作陣営の人たちに棺の中に入って貰い、ループを悪用して鍛えに鍛えた
ちなみに前任者は「揺れ無理」と脱落し、アリアが紹介された背景があるが、今は関係のない話なので割愛させて頂こう。
そんな悪びれる様子が皆無なテイカーの姿にアリアは地団駄交じりに相手を指差し、怒りの声を上げる。
「『今日の侵入経路は裏からコッソリ入るぜ☆』とか言ってた癖に、真正面から突撃って馬鹿なの!?」
「いや、なんか色々用意してたっぽかったから、無視しちゃ悪いかなって――やっぱり裏方でコソコソするのは性に合わないね!!」
そうして身バレを防ぐ為の無駄にハイテンションな口調で話す神崎ことテイカーが、言い訳がましく並べる言葉も「裏方は駄目」との条件より、「正面突破したから裏方じゃない」理論ゆえ。
見方によれば「原作主人公たちと結束して悪を挫く!」と見えなくも――ないかもしれない。
「棺の中の私の立場は!?」
とはいえ、「棺が直接オシオキよ☆」された棺の中のアリアからすれば、文句も言いたくなる。箱に人を入れて振り回せば、どうなるかなんて誰の目にも明らかだ。
「ダイジョブ、ダイジョブ――衝撃吸収! 姿勢制御! 気分にあった音楽だって流れちゃう! まさにホームズちゃんのご要望に沿ったネオ『快適な空間』!! 安らかな眠りをプレゼンツ!! ――棺だけに」
しかしテイカーもキチンと、その辺りの問題は対処していた。
外から見れば武骨な棺に見えるが、内側は最新技術をふんだんに散りばめられたリラクゼーション空間なのだ。普通ならひき肉になるような揺れでも、ボロい車くらいの揺れになる。
それゆえに、テイカーは右手で作ったピースを自身の目元に当てながら自信満々に告げる。
「いつもより四割増しで振り回してもゲロ吐かなかったでしょ?」
「それよッ!!」
アリアの怒りの原因は明らかだった。
「どれよ? ハッ!? まさか音楽の趣味が合わなかった? 一押しのヘビメタから適当に選んだのがまずかったか……」
「馬鹿なの!! 幾ら快適にしても、アンタが振り回す度合増やしちゃ意味ないじゃない!!」
しかし大仰に「今気づきました」と全然違うことをのたまって見せるテイカーの足首に怒りの蹴りを入れながら答え合わせをするアリア。
「――っ~!? っていうか、吐いたことないから!!」
やがて痺れた足をピョンピョンしながら乙女の矜持を穢してはいないと注釈を入れる姿に、テイカーは肩をすくめながらオーバーに「やれやれ」感を出しながら語る。
「いやさぁ、こっちも鉄火場に身を置く以上、アレがアレでアレなのよ」
メッチャ適当なことだった。
「その鉄火場に連れていかれるこっちの身は!!」
「それはお互い納得した契約の上だから。こっちだってホームズちゃんの願い叶えたじゃん――おあいこ、おあいこ」
アリアの怒りが収まる様子を見せないが、テイカーとて「棺に入って振り回される対価」は支払っている。
「叶えてない!! 私は『アンタの強さの秘密を教えなさい』って言ったの!!」
かと思ったら支払ってなかった。いや、厳密には違うのだ。
「またその話~? 『ご飯沢山食べて、筋肉鍛えに鍛えまくってゴリラボディになればOK、OK』って教えて上げたじゃーん」
「適当言わないで!!」
「いやいやいやいや、これが適しているのよ。騙されたと思ってゴリラ目指そうぜ?」
「馬鹿なの!?」
両指の人指し指を己に向けるテイカーの姿に、アリアは何度目かも分からぬままに叫ぶ。
しかしテイカー側としても「それ以外に評せない」事情があった。なにせ中の人は、徹底した「脳筋」の人、狂気的なまでに身体を効率的に鍛えに鍛えたゆえの現在である。
ゆえに拳銃や武器を使うアリアたちの戦い方がよく分かっていないのだ。この有様で何を教えろというのか。
「そう言われても、こっちは魔法使いじゃないんだから、叶えられる願いなんてお金でどうこう出来る範囲だけなんだよね~噂に尾ひれ背びれに翼にゴリラまで生えちゃって困ったもんだよ、全くぅ!」
その為、「アリアの願い」はテイカーには叶えられない。可憐な少女をゴリラ女にする以外に彼は方法を知らないのだ。とはいえ、アリアに何の対価を支払えていない訳でもない。
「それに結果的に、ホームズちゃんのご家族関係のアレもアレしてアレしたんだから、アレでしょ? 願い叶えたも同然のアレでしょ?」
悪人狩りの過程で彼女を取り巻く障害の排除といった別の形で果たされている。だが、アリアは「自分が強くなる」ことを望んでいた。
「もっと他にあるでしょう!! 武器・銃器の扱いとか! 能力の伸ばし方とか!! ていうか、アンタはなんで銃の一つも持ってないの!!」
「あっはっはっはっはっは、今更それ聞いちゃうとかアハハハハハハハハハ――ひぃっ!? 愛用の帽子多分48代目が!?」
とはいえ、「笑って誤魔化す」しかないテイカーが腹を抱えてブリッジしながら大笑いする演技を見せるが、アリアの愛銃から放たれた弾丸が彼の足の間を通り抜け、帽子を撃ち抜いた。
悲鳴と共に本当に愛用しているのか疑問に思う名称を割り振られた帽子の死をオーバーにいつくしむテイカーに、アリアは今までとは異なる怒りを見せる。
「アンタはいっつもそう!! 真面目な話は全部笑って誤魔化して!!」
そう、「欠員が出た」とか何とか「緊急時で棺に入れるフリーな人と連絡がつかない」とか何とか言われながら紹介され、アリアの元に現れたテイカーと契約し、棺の中で振り回される日々を送って来た。
だというのに、テイカー側は己のことを何一つ語らない。襲撃する場所も、何を目的にしているのかも、踏み込んだ話をアリアが始めた途端、おどけた態度で有耶無耶にし始める。
後、何度、「ホームズちゃん呼びはやめろ」と言っても聞きやしない。
そんな具合で、気に入らない部分は山のようにあるが、色々助けられたのもまた事実。
だというのに、相手の振る舞いがこれでは、受けた借りを返すこともままならない。
「そのくせ、避けられる癖にこっちの攻撃は全部受けて!! 舐めてるの!?」
「いやいやいや、こっちの無茶に付き合わせちゃってる訳ですし、相手の我が儘くらいは喰らいますとも。あっ、今のは『くらい』と『喰らう』をかけた高度なギャ――」
「いい加減に――」
そうして己が吐き出した胸の丈をくみ取る気皆無な相手に、物申そうとしたアリアの視界からテイカーが文字通り消えた。
「まぁ、真面目に答えるとするなら、自分よりも遅い武器持っても仕様がないよね――って話」
「――ッ!?」
そしてアリアの視界から消えたテイカーの声が、己の後ろから届く。帽子のつばをキュッとしたテイカーは決めポーズも忘れない。
そう、シンプルに「速く動き」「強く殴る」――これが彼の強味。伊達にゴリラではないのだ。
「はい! それでは今日の契約更新と参ります!! っても、ぶっちゃけ『鍛えて』とか言われても困っちまうので、無理させらんないね!! 守秘義務のアレだけアレで結んでオサラバしちま――」
「――ふん!!」
「おぶぁ!?」
だが、矢継ぎ早に用件を済ませようとするテイカーを余所に懐から1枚の紙を取り出したアリアの拳が、テイカーのどてっぱらに突き刺さる。
「ん? なにこれ? まさか、ラブレター!? でも、ゴメンね! もう心に決めた人が――」
「選曲よ!! アンタ、音楽センス皆無だわ!!」
そして相も変わらず、利いていない癖に痛がって見せる相手のふざけた言動に捨て台詞を投げつけながら、アリアは怒りのままドシドシと帰路についた。
ところ変わって、時間も飛んで、とあるレコード店にて、平均的な体躯の少年の驚いた声が木霊する。
「神崎・
「……アンタ、誰?」
だがアリアは、相手の男子制服を見て、同じ学校の生徒であることを見抜いた後は、興味なさげな様子だった。
そう、アリアは東京武偵高校では有名人である。まさに生徒たちの憧れの的。この手の好奇の視線には慣れたもの。
「あっ、すみません!? 急に失礼しました!? ボクはC組の神崎
そんなことなどつゆ知らず、慌てて男子生徒――神崎
揺れる買い物カゴとその背中は、有名人と偶々同じ苗字で苦労した感が溢れていた。
「悪いけど、知らない」
――同じ学年……
が、アリアからすれば学年が同じでもクラスが違えば、顔を合わせることもさしてなく、大勢の生徒の一人でしかない。
「あはは、そうですよね……じゃあ、お先に失礼します」
そしてそれは相手も承知の為か、おずおずと会計に向かうが――
「――待って」
アリアの名探偵の血ゆえの直感が相手を呼び止めた。
「は、はい!? なんでしょう!?」
「それ、買うの?」
「え、ええ、そうですけど……」
背筋をピンと伸ばしながら、緊張した面持ちでアリアの質問に答える神崎だが、当のアリアの視線は買い物カゴの中身に注がれる。
カゴの中に転がるCDなどの音楽媒体――その一曲が偶々視界に入った。
「……音楽好きなの?」
「は、はい、人並みには」
「ヘビメタは?」
「どちらかと言えばクラシック方面が……」
己を尋問するようなアリアの視線に、有名人相手ゆえかタジタジになりながらも返答していくが、やがて限界を迎えたようにポツリと零す。
「あ、あの何でしょう?」
「…………体格が違うか」
しかし小さく呟き、自分の世界に入っていたアリアは、暫しの逡巡の後、顔を上げた。
「アンタ、兄弟いる?」
「ひ、一人っ子です」
「そう、ならいいわ」
「は、はあ――では今度こそ失礼します」
やがて見知らぬクラスメイトの会合は、特に何のドラマを生み出すこともなく終える。
そうして、そそくさと会計を済ませて立ち去る相手の背中を見やりながらアリアは思わず言葉を零した。
「こんなとこに買いに来る訳ないか」
――いやー、偶然って怖い。口調と体格変えてて助かった。「有名人と偶然会ったクラスメイト」の振りは問題なかっただろうか……
そんな相手の心中など知らずに。
「あっ、母さん――うん、大丈夫。学校はなんとかついていけているよ。父さんにも無理言って通わせて貰っているんだから、途中で諦められな――うん、次の休みに帰――」
――あっ、無理やり押し留めた筋肉がズレたな……痛い。
やがて携帯電話片手に楽し気に家族との会話に興じる神崎は、帰路につく。
2人の幸せの為に神崎は戦う。
他には何もいらない。
~制作秘話など~
原作が未完結の作品であったので、あくまでチョイ話に留めさせて頂きました。
提示された条件「原作知識発覚の際リセット」「裏方した段階でリセット」「原作キャラと離れ過ぎると敵が増える」に対する神崎の解が――
ループを活用し、自身の武を極限まで高めた後、
「棺桶(的なものに)原作キャラを入れて担ぎ、原作の敵を真正面から殴り飛ばしに行く」スタイルに着地。
条件に反さず、尚且つ神崎らしい立ち振る舞いを追及した結果になります。
これが神崎流の戦妹契約さ!(おい)
Q:神崎個人の力で、作中の敵全てを処理できるの?
A:「ループ」の力と利便性が凄まじいので、個別に処理していけば十分可能かと思われます(言ってしまえばミスすれば再走が可能な訳ですし)
Q:神崎の「子供は守るもの」とのスタンスが崩れてない? アリアを危険な目に合わせている気が……
A:彼の両親の生存により、神崎の優先順位が「両親>超えられない壁>その他」になった為、最大限の安全策を講じる以外のことはしてくれません。
ですが、アリアが嫌だと言えば、すぐに契約は解除されます(他にも棺に放り込む協力者はいるでしょうし)
ループの条件と、「平穏の障害の排除」の為に「原作キャラを棺に入れて襲撃」のスタンスを取っているだけですから(条件に合致さえしていれば文字通り「誰でも良い」)
Q:神崎の活動は今後はどうなるの?
A:真正面からの襲撃・襲撃・襲撃オンリーです。それにより、敵対組織が協力しだしたりします。でも神崎は真正面から襲撃します。失敗すれば再走です――ループ能力エグい。