リクエストIF話の移転先   作:あぱしー

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「中間管理録トネガワ」の世界に、転生者がいるお話です。




マインドクラッシュは勘弁な! × 中間管理録トネガワ

「兵頭会長、お久しぶりです――随分と……お変わりになられましたね。私のことは覚えておいでですか?」

 

 帝愛グループの社内にて、神崎が深々と礼をする相手――兵頭(ひょうどう) 和尊(かずたか)は、その高齢さを感じさせる白髪と刻まれた顔のしわを歪めて笑みを浮かべながら、自身のヒゲをさすりながら値踏みするような視線を向けた。

 

 そうして過去の記憶を巡らせる兵頭に「そう言えば」と一組の夫婦と少年の姿が脳裏を過る。

 

「……ん? あぁ、あいつらのせがれか」

 

「昔の貴方は――」

 

「カカカ、くだらんな。屑ばかり見てればこうもなる」

 

 神崎は――いや、彼の一家は、過去の兵頭に大恩がある。

 

 ゆえに大人の端くれ程度になれた神崎は、今は亡き寿命を全うした己の両親に代わり、恩を返しにきたのだ。

 

 しかし今の兵頭に、神崎が幼少時に出会った「困っている人間を見捨てられない」優しい老人の姿はなく、人の悪意を煮詰めたように意地の悪い笑みを浮かべる変わり果てた姿があるのみ。

 

 

 そう、兵頭の他者に向けられていた善性は、金にまつわる幾度とない裏切りを味わった結果、失われてしまったのだ。

 

 

 

 

「では、屑以外を見れば、昔の会長に戻って頂けますか?」

 

「ほう、なんだ、言って見ろ」

 

「契約して頂きたい。条件は――」

 

 だが、人の苦しむ姿を愉しむ嗜虐的な笑みを浮かべる兵頭に、神崎はとある提案を投げかける。

 

 

 

 それはある種のギャンブル。

 

 ゆえに己の嗜虐癖をふんだんに込めた常軌を逸したギャンブルを何よりの愉悦とする兵頭は、神崎の提案――勝負の内容に愉快だと笑った。

 

 それは、命すらもてあそぶまでに精神を歪めた兵頭の「善性」を賭けた勝負。

 

「クカカカカ! いいだろう! 儂とお前の勝負と行こうじゃないか! じゃが、もしも儂を満足させられなければ――その時は分かっておるだろうな?」

 

 そうして不気味な笑い声をあげる兵頭が上機嫌に乗ってくるが、老いを感じさせぬ鋭い視線は、覚悟を問うていた。

 

 

 兵頭を満足させられなかった場合、神崎には想像するのも恐ろしい残酷な罰が待ち受けていることだろう。

 

 

 

 

 

 やがて時は流れ――

 

 

 

 

 

「かいちょー! えほんよんでー!」

 

「かいちょー! すごろくしよー!」

 

 様々な国の子供が弾けんばかりの笑顔で兵頭の元に集まっていた。

 

「こらこら順番だ、順番。みんなで一緒に読もうじゃないか。昔、昔あるところに――」

 

 やがてそんな子供たちの輪の中に座った兵頭は絵本片手に読み聞かせを始める。

 

 そうしてリクエストに応え続け、何冊かの絵本を読み終わった頃――

 

「会長、そろそろ」

 

「もうか。楽しい時間は直ぐ過ぎるな、利根川」

 

「えー! かいちょー、かえっちゃうのー!」

 

 白髪交じりのオールバックの壮年の男――最高幹部の1人である利根川(とねがわ) 幸雄(ゆきお)に杖を渡され、重い腰を上げる兵頭に、子供の1人が残念がるが――

 

「はは、スマンの。昔の皆のように助けを待っとる子たちがおるでな」

 

 そんな相手の言に、グッと我慢して小さくコクリと頷いた子供の頭に兵頭は、そっと手を置くと、他の子供も別れの挨拶を告げ始めた。

 

「みんな良い子でな」

 

 やがて軽くウィンクした後、兵頭は利根川の先導の元、この場を後にして次なる「助けを待つ者」の場まで向かう。

 

 だが、利根川の心中には言い得ぬ不気味さだけが残る。人が変わった。

 

――会長は変わられた……あの男が来てから……

 

「そんなに儂の変化が気になるか?」

 

「――ッ!? いえ」

 

 しかし、そんな己の心中を読んだ兵頭の言葉に、利根川は咄嗟に「否」を返そうとするが、それを手で制しつつ兵頭は語る。

 

「構わん。儂の金を騙し獲ろうとする屑どもを――肥溜めなんぞ見続ければ、心は摩耗しよう」

 

 そう、実のところ神崎は大したことなどしていない。

 

 兵頭が荒んだ己の心を、「己から金をだまし取るような部類の人間が苦しむ姿を見て」発散していた負の感情を別のものに置き換えただけだ。

 

 

「心穏やかに過ごしたいのであれば、世界の綺麗なものだけ見ておれば良い。簡単な話だ」

 

 昔の兵頭が「人の善性」を信じて行動していた。つまり、かつては「恩義を返されることに喜びを感じていた」と言っても過言ではない。

 

「屑が叫び苦しむ姿を見て溜飲を下げるよりも、儂に恩を返そうと心の底から精一杯頑張る子らを眺める方が、心安らぐ――道理だな」

 

 ゆえに、神崎の行ったことは、その「選別」のみ。

 

 だからと言って、帝愛にてそれなりの立場をポンと与えた件に対し、利根川は苦言を漏らすが――

 

「だとしても、あのような余所者を重宝するなど――」

 

「アレの親は出来た奴らだった」

 

「お知り合いで?」

 

「誰かれ構わず人の善意を信じとった儂に、恩と金を返しに来た数少ない者たち――なれば、その忘れ形見に機会くらい、与えてやるのが筋だろう?」

 

 神崎の両親は、とある事故によって重傷を負った幼少時代の神崎を治す為に多額の治療費が必要であり、人の善性を信じていた時期の兵頭に立て替えて貰った過去がある。

 

 そして長い年月がかかったとはいえ、その代金はきっちりと返された事実は、過去の兵頭の心を僅かばかり救ってくれた――とはいえ、暫くして人の悪意によって、その心は少しずつ歪んでいったが。

 

「アレは人の影を見る目がある。あの二人から、よくもまぁ『あんなもの』が生まれたもんだ」

 

 そして冒頭の再会に戻る。

 

 そう、兵頭は神崎のことを予め知っていた。数少ない恩を返しにきた二人の息子、気にかける――とまではいかずとも、様子くらいは気になろう。

 

 だがその結果、善性に溢れた両親とは似ても似つかぬ精神性の持ち主だと知り、大きく落胆したものだ。

 

「最初はアレの目的見たさに泳がせてみたが、これがどうして――よもや儂への『恩義を返しに来た』との言葉が本当だったとはな」

 

 当初、兵頭は「さっさと本性を出せ」とばかりに切り捨てる気満々だったが、普通に 兵頭の心を慰撫するべく奔走する姿に悪いとは思いつつ嗤ったものだ。

 

「二人の育て方が良かったのだろう」

 

 亡くなった二人の善性は、しかと神崎の中で生きていた。ちょっと方向性はアレだったが。

 

「その結果が『箱庭』ですか?」

 

「クカカ、屑とハサミは使い様――と言ったところだ」

 

 屑をバラして殺して終い――より、その命の最後の最後まで効率よく扱う神崎の所業に、兵頭は愉快気に嗤って見せる。

 

 

 そう、兵頭の歪んだ精神を完全に無かったことには出来ない。だが、清濁の向ける方法一つで与える影響は大きく変わっていくのだ。

 

 

 

 

 

「伊藤 開司(カイジ)様ですね? 私は帝愛グループの――」

 

 そんな噂の人物、神崎は、紺のジャケットを羽織った長い黒髪と鋭いワシ鼻が特徴の青年、伊藤 開司ことカイジと対面していた。

 

「ですが、連帯保証人である伊藤様には、古畑様が確保されるまでの期間、此方の部署にて――」

 

「……捕まった古畑はどうなるんだ?」

 

 カイジは友人、古畑の借金の連帯保証人となったものの、その古畑が行方をくらませた為、借金返済のカタとして、身柄を抑えられている状態だ。

 

 現在、逃げた古畑は追跡中である。

 

「伊藤様の立場と代わることになります――その後は借りられた金額の返済がなされるまで、働いて頂くことになるかと」

 

 そうして「酷いことにはならない」と語る神崎は、それらしいことを並べ始めるも――

 

「そして我々の仕事は、伊藤様へお仕事の相談を――」

 

「……俺みたいなのを、はした金で使って借金返させようってのか」

 

 カイジによって、その内容は要約された。あながち間違いではない。だが、流石に「鞭」だけではなく「飴」もある。

 

「確かに数値上の給与は低いですが、住居・食事・医療サポートが充実している為、給与そのものが伊藤様の手元に残りますので、此方の給金表は返済も加味してのものになります」

 

「ようするに食費とかが、かからねぇってことか?」

 

――月々……いや、年間で考えれば実質の給与は……

 

「はい、その通りでございます。お酒などの嗜好品はひと月毎に支給される商品券で購入できる為、実質0円――と言っても過言ではありません」

 

 カイジが「はした金」と称した月々の給与も「生活にかかる諸々の諸費用がかからない」と考えれば、カイジにもそう悪くないように思えてしまう。

 

「とはいえ、商品券の方は最低限になっておりますので、毎日しっかり晩酌がしたい――となれば、伊藤様が稼がれたお金から捻出して頂くことになります」

 

――流石に制限はあるか……だが、価格は凡そ適正のもの。出稼ぎに来たと思えば……

 

「…………そんなにうまい話があるのか?」

 

 しかし、並べられる情報の羅列に警戒するように気味が悪いくらい笑顔を振りまく神崎を見やるカイジだが――

 

「勿論『裏』がございます。食品ロスや、作物の廃棄などのお話を聞かれたことは?」

 

「まぁ、話くらいは」

 

「ゆえに我々は、そういった――」

 

「つまり、その辺のをタダ同然で流して貰ってる――ってことか?」

 

「はい、その通りでございます。お相手のご要望に沿った物品と交換をして頂き、よりよいご関係を――」

 

 神崎から次々と飛び交う口車に、先程まで露骨だった警戒心が目減りし続けていく。

 

 やがて「なんだ、帝愛っていい人たちじゃん!」とばかりな表情で、仕事場の方に案内されていくカイジを笑顔で見送った神崎。

 

 

 

 

「神崎」

 

「これは利根川様、お久しぶりです」

 

 そんな神崎へ、いつの間にやらいた利根川に声をかけられ、すぐさま一礼する神崎を余所に、ゴキゴキと肩を鳴らした利根川は溜息交じりに零す。

 

「態々こんな部署にまで実演に来ていたとはな……足を運ぶのも一苦労だ」

 

 此処は帝愛グループの幹部である利根川からすれば、辺境の地と言えるような部署だ。

 

「こんな部署だからですよ――人の心は容易く腐りますから」

 

 だが、神崎はだからこそ外からの「自浄」を意識せねばならぬ場だと返す。債務者たちに()()()()()()()()()()()、「気持ちよく」働いて貰うには箱庭の手入れは欠かせない。

 

「何も生み出さん屑共をおだてて木に登らせる訳か」

 

「いけませんよ、そのような物言い――彼らは『頑張り方』を知らないだけ」

 

 そんな箱庭の実情をそう揶揄する利根川へ、神崎は小さく首を横に振って笑顔で否定する。

 

「目標と生き甲斐、そして健康な身体があれば、人は何処までも頑張れる生き物なんですから」

 

 かつての地下労働による借金返済は「多くの脱落者」や「蹴落とし合い」などによる要因で債務者たちの労働意欲ことモチベーションは芳しくなかった。

 

 ゆえに神崎は彼らに与えたのだ。働く喜びを、得難い達成感を、人を思いやれる尊さを――そうして兵頭が嫌う屑をこの世から実質的に消し去るのだ。

 

 

 

――ふん、成程。心を騙す質の悪い詐欺師だ。

 

「それで今回はどうなされたんですか?」

 

「ああ、実は会長から――」

 

 やがて内心で警戒する利根川を余所に、神崎に促された「今回の用事」に話を移していく二人。

 

 

 こんな調子で、綺麗になった帝愛グループは、世の為、人の為、債務者たちをキレイキレイしていく。

 

 

 そうして稼いだお金で、困っている人を助け、彼らから困らせている人を聞き出し、キレイキレイする。

 

 

 まさに無限ループ!!

 

 

 世界がキレイキレイになるその日まで、神崎の闘いは終わらない。終わらないったら、終わらない。

 

 

~原作「中間管理録トネガワ」編 完~

 

どうして多重クロスしてるの? など制作秘話的な話

 

 

 

 

 

 




~制作秘話など~

兵頭会長は「昔は良い人だったけど裏切られまくって闇落ちした」との話があったので

兵頭会長の漂白にチャレンジさせてみた――山は高い程に登り甲斐があるのさ!!
(神崎の性格的に、悪辣な兵頭会長を放置する選択はないでしょうし)

「綺麗なものだけを見せる」「汚いものは視界に入れない」との契約の元、帝愛の改革の許可を得て、実行。

兵頭会長が「優しいお爺ちゃん」になった代わりに、神崎が黒くなる結果を生んだ。これが因果か……

カイジは指を失わない代わりに、(健康管理がキチンとなされた)地下施設で労働して良い汗をかいている――労働の後のキンキンに冷えたビール美味ぇー! 多分、幸せ。

Q:あれ? ハンチョウ――詰んでね?

A:グルメブロガーとして頑張っていくだろうから……(震え声)


Q:この先はどうなるの?

A:大きな山場は「カイジがトネガワの部下になる」くらいです。そしてトネガワから「こいつ、発想は悪くないな……」とか思われます。
神崎? キレイキレイに忙しいかと。


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