弐什壱. 『守り抜く』
十六歳の
兵士の刃が振り下ろされるわずか一秒の間で僕は走馬灯でも見たんだろうか。あの日の彼女の表情が、声が、仕草が目に浮かぶ。
今度こそ死ぬのか、と目をギュッと閉じていると前方から鋭い
カシャン!
その轟音とともに僕に刀を振り下ろしていた兵士は腹部に血を流して倒れた。兵士が倒れた先には
すると、後ろの建物の屋根の上にはホオノキ様の右腕オダマキさんが両腕を組んで紫色の髪を靡けながらこっちを俯瞰していた。
「次から次へと、なんだ貴様ら!!」
「お、オダマキさん…!」
オダマキさんは山賊を率いて居間に飛び降りた。その反動で居間に砂煙が立つ。兵士たちは斜に構えてオダマキさんたちがいる方に近づいた。すると、オダマキさんがものすごいスピードで僕の隣に突き刺さっている戦斧を右手で取る。そして背中を向いている兵士たちに戦斧を大きく横に振ると戦斧から紫色の斬撃が放たれるた。
「「「「ウウッ!」」」」
兵士たちは重傷を負って倒れた。山賊たちも加勢して僕を取り囲んでいた兵士たちはだんだん倒れていった。その時、後ろから声が聞こえる。
「佐次郎君!!」
「ひ、姫様?!」
その声はユリ姫様だった。
「これ以上体を酷使したら本当に死んじゃうよ。もう休んでなさい。」
「でも…。」
「ここは私たちに任せなさい!」
姫様は真剣な表情で言った。そして地面から僕が落とした刀を取る。
「姫様…?」
「スウウッ…。」
姫様が目を閉じて大きく息を吸い込む。そしてパッと目を開けると、さっきのオダマキさんよりも速いスピードで跳躍して兵士たちを峰打ちで倒していく。僕は腑抜けた顔をして姫様を見据えていた。
暫くすると兵士はほとんど倒れて残りの兵士たちは恐怖にワナワナと震えていた。
「い、命だけは…!!」
「殺しませんよ」
姫様は寛大な心と闇も晴らせそうな美しい笑みで怯える兵士たちを安心させた。兵士の1人が姫様のことに気づいて訊く。
「あ、あなた様はユリ姫様ではありませんか?!」
「そうですよ。」
「なぜこの者たちと一緒に…?!今、城の捜索隊があなた様を探していますよ?」
「言えない事情があって同行することになりました。どうか見逃してください…。」
姫様は兵士たちに頭を下げた。そして兵士たちの後ろにある地下室の封鎖された扉を開けようとした。
その瞬間、建物の屋根からマントを被った国兵らしきものたちが飛び降りて山賊たちの首を斬り落とした。姫様は驚いて訊く。
「あ、あなたたちは?!」
「姫様。お迎えに参りました。城へ戻りましょう。」
その者たちはホオズキ様が送った捜索隊だった。姫様が抵抗すると捜索隊は力尽くで姫様を抑えて連れて行こうとした。
「離してください!私は城へは戻りません!」
「なりません。これは左大臣の命令です。あなた様の意志とは関係なく命令に従わせていただきます。」
パッ!
捜索隊が姫様を気絶させて取り縄で縛りつけると屋敷中に雄叫びが鳴り響く。オダマキさんだった。
「おのれ…、政府の犬どもめ!良くも俺の仲間たちを殺しやがったな!!」
「耳障りだ。片づけとけ。」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
捜索隊員たちはオダマキさんに飛びかかった。オダマキさんは戦斧を振って捜索隊員を一人ずつ斬り倒していく。
「くたばりやがれ!」
「ウウッ!」
オダマキさんに飛びかかった捜索隊員たちはみんな急所を狙われて致命傷を受けた。
「チェッ…。たかが山賊一匹に手間取ってるんじゃないぞ!貴様ら、それでも国兵か!」
捜索隊員を指揮していた男が姫様も隣の捜索隊員に引き渡してオダマキさんに向かった跳躍する。
「オダマキさん!」
「ヌッ?!」
その男は右手でオダマキさんの顔面を握って思いっきり地面に叩きつけた。
「ウーリャアアッ!!」
「クウッ…!」
すると居間の地面が割れていく。男はオダマキさんの頭を握った右手で体ごと持ち上げて正門の方へ投げつけた。そして面倒くさそうに言う。
「雑魚が。」
正門の前で頭から血を流したオダマキさんは立ち直った。そして不気味な笑みを浮かべて言う。
「お前は少々手ごたえをありそうだな。」
「ほざけ。」
男とオダマキさんは同時に駆け出す。そしてオダマキさんは戦斧を、男は防具を纏った脚で蹴りを互いに喰らわせる。その後何度か互いの攻撃を交わすと男は捜索隊員を呼びかける。そして隊員から槍を投げ渡してもらった。
「串刺しにしてやる。山虫。」
「こっちこそ三枚下ろしにしてやる。」
「「ハアアッ!!」」
二人は裂帛の気合とともに互いに攻撃を降り注ぐ。男は青緑色の長い槍をまるで自分の手足のように扱っていた。オダマキさんも速いスピードでデカい戦斧を振り回していて驚きが止まらなかった。戦いの最中オダマキさんがさっき地面が割れて弾き飛んだ石ころを踏んで足が持つれてしまう。男はそれを狙って槍を腹に刺した。
「クウッ!」
「貴様ら
男はオダマキさんを刺した槍を壁に投げてオダマキさんを壁に固定させた。すると捜索隊員たちが次々とオダマキさんの体に刀を差し込んだ。
「ウアアアアッ!!」
「まるで
男は地面に落ちている刀を一本取ってオダマキさんを狙う。
——まずい…。このままじゃオダマキさんが死んでしまう…!
僕は必死で体を動かしてみたけど出血量多いせいで全身が痺れて動けなかった。それでも僕のために体を張ってくれたオダマキさんを死なせたくなかったから精神を集中して体を動かそうとした。
「フフフフッ。死んじまえ、
「く、き…っさまあ…。」
「やめろおお!」
男が刀を投げかけた時、僕は妙な経験をする。男の立っている地面から鋭利に尖った土塊が
「ウアアッ!何だこれは!!」
「こ、これって…?」
瞬く間に周りは捜索隊員たちのざわめきでいっぱいになる。
「あれってまさか…。」
「そう言や、あいつ
捜索隊員たちがみんな僕に目を向ける。すると、男が怒鳴りつける。
「何ボサッとしてやがる!!早くあの混血野郎の首を掻っ切っちまえ!!」
「「「はっはい!」」」
男の命令に隊員たちが僕に向かって走ってきた。僕はさっきの感覚の通りまた精神を集中して頭の中でイメージしてみた。そして気合を入れてみる。
「ハッ!!」
ゴゴゴゴッ!
すると、大きな地鳴りとともにさっきと同じような尖った土塊が捜索隊員たちの体を貫いた。
「これは…、
僕は自分が神才を使っていることに実感が湧かなかったけど、とりあえず目の前の敵を取り除くことを最優先とした。僕はオダマキさんの前を土で塞いで守った。そして姫様を捉えていた隊員を神才で倒して姫様も土の壁で守った。
「く、クソ!あいつの神才は厄介だ!お前ら一旦引け!!」
「「は!」」
僕が神才を使いまくると捜索隊の者たちは手こずって屋敷から去って行った。僕はやっと体を起こして両脚で立ち上がった。そして脚を震わせながらオダマキさんのところへ向かった。僕はオダマキさんの体に刺さった刃物を全部取ってオダマキさんを下に下ろした。
「ガキ…。助かった。やるじゃないか。」
「僕のせいで…。ごめんなさい。」
「その前にみんなの救出だろ…。」
「は、はいっ!!」
僕はオダマキさんの言葉にすぐ地下室へ向かった。そして固く封鎖された扉を神才の力で破壊した。扉が開くと先ほどの黒い煙が地下室の内側から漏れた。そして外の空気に混じって煙が少しずつ消えて行った。
——
僕は彼女を思いながら地下室の階段を一段一段降りて行った。そして地下室のおもて部屋に着くとそこには誰もいなかった。僕は裏に新しく掘った部屋に向かった。すると、そこには死にかけている
「和!!」
「この声は…!佐次郎?!」
和が怯えた声で訊いた。
「うん、僕だ!待たせたな。君を助けに来たよ!」
「佐次郎!!怖かったよ!何でこんなに遅かったのよ…。」
彼女が僕の顔を見ると涙目で僕に抱きついた。
「ご、ごめんね?少し事情があって…。」
「何、この傷…。一体外で何があっ…。」
彼女が風穴ができた僕の手を見て深刻な顔をして訊こうとした。僕は注意を倒れている海時さんたちに向かせる。
「そ、それより!…海時さんたちはどうしてこんなになってるの?」
僕が訊くと彼女は涙を流して言う。
「二人とも黒い煙を吸わせないために私を庇ってくれてたの…。それで二人とももう息を引き取られちゃった…。」
「そんな…!」
彼女の言葉に僕は目を丸くして海時さんたちに近づいた。そして海時さんの前にしゃがんで起こそうとすると、海時さんがいきなり起き上がって顎をやられてしまう。
「海時さっウゥッ!」
「人を勝手に殺すな!!死んでねえし!」
いつものような元気いっぱいの海時さんだった。和はびっくりして言う。
「佐次郎!どうしたの?あんた、死者を蘇らせれるようになったの?!」
「ちっげえよ!この馬鹿頑固娘!」
「ば、馬鹿頑固娘…?一体地下室で何があったんですか?」
僕は海時さんから子細を聞いた。
「なるほどですね…。すみません、僕のせいで…。」
「いや、お前を信じてたぜ。まあ、俺らよりもこの子がな。」
「え…!ちょっと!……。」
海時さんが和に目配せすると和は顔を赤らめた。そして彼女はモジモジしながら僕の手を握って言う。
「佐次郎…。助けに来てくれてありがと…。へへッ…。」
「……。」
「ん?佐次郎?」
彼女が手を握ってくれた途端に僕の体は緊張が溶けて一切力が抜けてしまった。そして僕はそのまま気を失っていく。
「佐次郎?佐次郎!!気をしっ……。」