完璧な三角関係   作:サンダーソード

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第2話

「明日明後日で、雪ノ下の家の煩わしいことは全部終わらせておくから」

 沈黙に支配される車中、雪ノ下は時折言葉を落として静寂に抗う。

「私たちの決着は、神様にだって邪魔はさせない」

 そうするうちに、由比ヶ浜のマンションに辿り着いた。由比ヶ浜は寂しそうな笑みを浮かべて、一言。

「良いお年を」

 とだけ言って、扉の向こうに消えた。逆光のせいかその体躯は、普段よりも小さく見えた。雪ノ下は俯けた微笑で同じ言葉をはっきりと返していたが、俺の返事は喉の奥に詰まったような明瞭としないもので、ちゃんと届いていたのかも分からなかった。

 そして再び車は滑り出し、会話もなくもう一つの目的地まで運ばれる。

 ふらふらと車を降りて先ほどの焼き直しを雪ノ下に送るが、これもまた届いていたかは分からない。ただ、雪ノ下からも同じ言葉が投げかけられた。

 頼りない足取りで玄関まで歩き扉を開ける。無意識の習慣で鍵を締めて靴を脱いでいると、轟音を立てて扉を開いた小町がリビングから飛び出してきた。

「お兄ちゃん! 雪乃さんは……」

 捲し立てる途中で、小町の勢いが窄んでいく。目には涙が浮かび、声に震えが交じる。

「…………ダメだったの?」

「いや……解決、出来たよ」

「え……えっ?」

「大丈夫だ。雪ノ下は、もう」

 靴を脱ぎ、三和土から上がる。小町は虚を突かれたように口をぽかんと開けていた。

「な、ちょっ……紛らわしいよお兄ちゃん! なんなのさその顔は!」

 どんな顔をしていたのだろうか俺は。自分ではよく分からない。

「…………ほんとにどしたの? ねえ、何があったの?」

 本当にどんな顔をしていたんだろう。そんなに簡単にわかるものなのやら。

「分かるよ。小町が何年お兄ちゃんの妹やってると思ってんの」

 溜め息一つ。お手上げだ。

「雪ノ下にな……決着を着けようって言われたよ」

「それって……」

 小町の表情が一気に真剣味を増した。たった一文に詰められた、果てしなく重い意味が伝わったことが分かる。

「お兄ちゃんは……どうするの?」

「どう……しようかねえ」

 本当に。

 本当に、どうしようもない。

 身動きが取れない苦しさというのは、本当にしんどい。

「お兄ちゃん」

「どうした?」

「お願いが、あるの」

 小町が居住まいを正して、俺に向き直る。その目は、今までにないほど本気の光を湛えていた。

「……なんだ?」

 小町は浅く息を吸って、吐く。そしてもう一度はっきり俺の目を見て、口を開く。

「家事とかは全部小町がやる。初詣とかも、めんどくさいなら……ううん、神様に頼むことじゃないし、そんなことしてる場合じゃないだろうから行かなくてもいい。お父さんとお母さんにも小町から言っておく。お守りも買ってくるよ。受験勉強は……多分手につかないだろうし、頭にも入らないだろうし、きっとそれどころじゃないってお兄ちゃんも分かってると思う。だから」

 滔々と喋り続けた小町は、そこで深く息を吸い。

「考えて」

 そう言った。

「小町のことも、他のことも、全部忘れていい。三人のことだけを考えて。理由も、あげない。お兄ちゃんが、お兄ちゃんだけの理由で、お兄ちゃんだけの答えを出して。頭がおかしくなるくらい考えて、考えて、考えて。……きっと、今がお兄ちゃんの人生で一番大切な時だから」

 熱のこもった吐息と共に紡がれる言葉が、そっと俺の背中を押す。

「だから」

 だから。

「考えて。お兄ちゃんのために。三人のために」

 身動きが取れなくても。ドツボにはまっても。袋小路に迷い込んでも。

「……分かった」

 考えることだけは、やめないようにしよう。

「……お兄ちゃんだからな。妹の願いは聞かないとな」

 そう言うと、小町はにへっと相好を崩して、俺の腕を引っ張る。

「だーから、理由はあげないんだってば。そんなのポイント超低いよー?」

 引かれるままに、リビングまで歩いて行く。そういや玄関だったなここ。

「……おかえり。雪乃さんのこと、頑張ったね」

 ふと、顔を伏せて、静かにそんなことを言われたので。

「……ただいま。ありがとな、色々」

 つい、俺もそんな言葉を返してしまっていた。

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