完璧な三角関係   作:サンダーソード

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これにて完結。赤裸々に愛し合う三角関係のお話、いかがでしたでしょうか。
溜めて溜めて溜めて存分にイチャイチャさせることができました。
ヒッキーとゆきのんとガハマさんは一生イチャラブしてればいいと思います。そういう話もっと増えろ。
お気に召していただけたのなら、よければ他の作品もいかがですかと置いておきます。
https://syosetu.org/?mode=user_novel_list&uid=210579


第28話

「~♪」

「由比ヶ浜さん、楽しそうね」

「ふふー、羨ましい? ゆきのんもやる? どっちがいい?」

「どちらもやらせてもらうわ。後でね」

「あたしも後でやってもらうねー」

「お前ら、俺の意見は」

「聞く必要があるかしら?」

「ダメなの?」

「……ダメじゃないです」

「ならよし!」

 現在の状況。文字通り精根尽き果てるまで色々、うん、まあ、死ぬほどがんばった俺は、由比ヶ浜に膝枕されて頭撫でられながら雪ノ下に腕枕しつつ頭撫でてる。つまりは天国だ。一方ならぬ体液を吸ったシーツだけは雪ノ下の手によって新品に換装されて、裸身の俺たちを包んでいる。

 寝室の雪ノ下の匂いは俺たち三人の行為の匂いに上書きされた。雪ノ下、この部屋で明日から平静で寝られるのかしら……。

「あ、痛っ」

「由比ヶ浜!?」

「きゃっ」

 穏やかに俺の頭を撫でていた由比ヶ浜が、震えるようにびくりと身体を強張らせた。

 思わず半身を跳ね起こし、腕枕してた雪ノ下を転がしてしまう。

「あ、違う違うのだいじょぶへーき。ってかゆきのんこそだいじょぶ?」

「え、ええ。ちょっと驚いただけ……。由比ヶ浜さん、どうしたの?」

「あ、えっと……。ヒッキーに、その……あたし、初めてだったから……ね?」

「ああ……。凶悪だったものね。私も鈍痛は残っているわ」

 じわっと頭皮の汗腺が開く感覚。話題が俺に針のむしろ過ぎる。その痛みを与えた当の本人がどの面下げて話に入れというのか。

「それにしても……まさか使い切るとは思わなかったわ。一ダース」

「あ、あたしもそれ思った。男の人ってそれが普通なのかな?」

「保健の授業で学んだ限りではそうでもないはずだけれど……。どうなの? 比企谷くん」

「……黙秘権は?」

「どうなの? 比企谷くん」

 ないですよね知ってた。知ってたけど超言いづれえ……。

「……………………お前らが綺麗すぎて可愛すぎてエロすぎるのが全部悪い」

 一日で二桁とか生まれてこの方やったことなかった、どころか俺に可能だとすら思ってなかったわ。

「わ……ヒッキーに素直に褒められるとなんかすごい照れる……」

「そ、そうね……。そう滅多にあることじゃないから……。エ……最後の評価は少し気になるところだけれど」

「でもゆきのん、肌超すべすべだし染み一つないし余分なお肉付いてないし、ほんとキレイって思うなぁ」

「余分な……と言うけれど、あなた全部胸に行っているじゃない。比企谷くんそこで三回も出したのよ? 三回も。私のでは一回しか出していないのに。三回も」

「そういうの数えるのやめてくれませんかねぇ!?」

「えへへ……おっきくても変に目立ったり嫌な目で見られるばっかでいいことなかったけど、ヒッキーが喜んでくれるんなら、あたしこれで良かったな」

「比企谷くん釘付けだったじゃないの。まあ彼がそこに視線を吸い寄せられるのは今日に限ったことじゃないけれど」

「もうやめたげて……俺のライフはとっくにゼロよ……」

「泣かない泣かなーい。よしよし」

「強制的にライフが回復されるぅ……」

「初めての童貞が付け損なうのに一回、私の中に二回、由比ヶ浜さんの中に二回、私たちに挟ませて一回ね。……ぜいたくもの」

「回復した端から削られてくぅ!」

「後はあたしの胸に三回、ゆきのんのに一回、口が一回ずつ、それと付ける前、最初二人で手で触ったときに一回出ちゃったね。と言っても、最後の方はびくびく震えるだけでほとんど何も出てなかったみたいだけどさ」

「やめ……やめてください……やめ……」

 しょうがないなぁって感じの生暖かい目で見られながら指折り数え上げられてスリップダメージがゴリゴリ入る。てか由比ヶ浜もきっちり数えてたのね……。

「それにしても、まさかあんなに不味いものだったなんてね……。由比ヶ浜さん、よく飲み込めたわね?」

「うーん……。確かに美味しくなかったけど、ヒッキーのだったしさ」

「だそうよ? 献身的な彼女に何か言ってあげることはないの?」

「……えーっと、その、な?」

「う、うん……」

「…………」

「…………」

「……言ってあげることはないの? 黙ってないで」

「ぐ……そりゃ、すっげえ嬉しかったし、無茶苦茶興奮したけど……でも、無理はしないでくれ。お前が辛いのは、嫌だ」

「だ、大丈夫無理してないから! ヒッキーのだし!」

「愛されてるわね。本当に」

「……おう」

 全く以て、俺如きには過ぎた彼女だ。

「あはは……あ、でもゆきのんがちゃんと用意してたのびっくりしたかも」

 そう、0.01ミリ三個入り四箱一ダースを用意したのは雪ノ下だった。俺? 元々それどこじゃなかったし、大体由比ヶ浜を振ったその場で雪ノ下とそういうことするなんて考えられるわけねーだろ。

「三人で居続けるという結論を見据えていた以上、その場でまぐわいあう可能性も低くはないと思っていたもの」

 すまし顔で言ってるけど、最初にモーションかけたのってどなたでしたっけ……? いや俺も由比ヶ浜も否やなんざあるわけねえんだけど。

「あー、もしかしてわざわざ紅茶淹れに行ってくれたのって、それ?」

 由比ヶ浜は勉強机に並べられた三つのティーカップに視線を投げる。おっつけ雪ノ下もその視線を辿り、くすりと笑って答えた。

「二人が消耗していたから、純粋に労いのつもりだったわよ? ただ、その時についでに持ってきたのも事実ね。鋭いわ」

「ほら、部屋の時間を止めるってゆきのん言ったじゃん。なのに外行ったから、なんとなく引っかかってて」

「すげぇな由比ヶ浜……」

 なんでそれでわかんの? ニュータイプなわけ? 君のような勘のいい彼女だと浮気とかしたら即バレしそう。殺されたってするわきゃねえけど。

「時間かぁ……。もうすぐ冬休みも終わって、そしたらすぐに大学入試で、学校も来なくて良くなって……卒業」

「そうね。そして、大学生になるの。……受験に受かればだけど」

「受かるよ! 絶対受かる!」

「ええ。今のあなたなら受かるわ。絶対に」

「まあ……お前、滅茶苦茶頑張ってたしな。その、なに? あれだ、総武高校ですら受かったんだから、大学なんざ余裕だろ。気楽に受けろ」

「あたし高校受験のときだってちゃんと勉強したかんね!? ……でも、ありがと」

「ふふっ……。もうちょっと素直に激励できないの?」

 うるせえ。それが簡単にできたら苦労しねえよ。

 完全に見透かされてるのが無性に気恥ずかしくて、でも膝枕に腕枕でそっぽ向くことも出来ず、燻った感情を溜息に乗せて逃がした。

「大学生になっても、こうやってまた三人で一緒にいられるよね……?」

「当たり前じゃない。そのための今日でしょう? むしろ私は同棲まで考えているのだけど」

「どっ!?」

「ええええっ!? ゆきのん、それ……!」

「驚くこともないでしょう。既に一線は越えているのだし、何より……」

 そこで言葉を一旦切って、雪ノ下は腕枕されたまま眠るように目を閉じる。

「こんな幸せな臥所、一度知ってしまったらもう戻れないわ」

「うー……ゆきのん、交替! 交替!」

「後でね。ふふっ」

「まあ、幸福なのは分かる……。溶かされる……やべえ……でも抗う気が全く起きねえ……」

 頭を乗せている由比ヶ浜の腿をそっと撫でる。

「……交替しましょうか、そろそろ」

「んー……やっぱり後でいいや。ふふ」

 手櫛で梳かすように、由比ヶ浜が髪を優しく撫でてくる。あぁ……幸せ……。

「同棲と言っても、毎日身体を重ねようとかそういう話じゃないの。子供のようにでも、大人のようにでも、私たちの気の向くままに。日々共にある幸いを存分に謳歌したいだけよ」

 それは、なんて。素敵で贅沢な、日常。

「……ああ。いいな」

「うん! 大賛成!!」

「受験が終わったら、一緒に住処を決めましょう。きっとそれも楽しいわ」

「やるやる! あたし、大学入ったらやりたいこといっぱいあるんだぁ。夏祭り行ったり、パーティーしたり、高校の同窓会開いたり、花火とか買い物とか他にもいろいろ!」

「由比ヶ浜さん、あなた仮にも学生を継続するのだから勉学にも少しは比重を置きなさい」

「つーかぼっちにゃきついイベントばっかじゃねえか。なあ雪ノ下……雪ノ下?」

 この手の考え方に置いては同類であるところの雪ノ下に話を振るが、雪ノ下は腕枕されたまま俺の顔をじっと見つめて、何事かを考えていた。

 やがてまとまったのか、雪ノ下が口を開く。

「……比企谷くん。一つの命令と、一つのお願いがあるわ」

「お、おう……? どうした急に」

「ゆきのん?」

「もう、自らをぼっちと騙るのはやめなさい」

「騙るって……」

「学校一の美少女が二人、あなたを慕っているのよ。あなたはひとりぼっちなんかじゃないわ。……私たちが、させないわ」

「……うん。そうだね。あたしもそれがいいと思う。それにあたしたちのこと抜きにしても、ヒッキーはもうちゃんと友達いるじゃん」

「そうね、あなたは既にぼっちと言うには人に関わりすぎているでしょうに」

「……関わるっつっても、それは仕事で」

「あら、それなら私や由比ヶ浜さんとの繋がりも仕事の上だとでもいうつもり?」

「……その言い方は意地が悪いだろ」

「ふふっ。あなたを矯正するためなら意地の一つや二つ、幾らでも悪くしてあげるわ。きっかけがなんであれ、共に過ごした時間に嘘はない。そうでしょう」

「つっても、俺なんかがなぁ」

「ヒッキー。あたしの大好きな人はなんかじゃないよ」

「……そうね。それならあえて繰り返しましょうか。むしろあなたの過小評価を自覚しなさい。その……上手く言えないのだけれど、あなたがあなたでなかったら、きっと私たちはこうなってはいなかったわ」

 由比ヶ浜の真っ直ぐな否定と、雪ノ下の探るような言葉が耳と意識を打つ。繰り返すという言い回しに、決着を付ける前、もうちょっと正確に言うならお風呂に入る前にも全く同じことを言われたのを思い出した。

 『こう』なってはいなかった。それは確かにその通りだろう。俺も、雪ノ下も、由比ヶ浜も。誰か一人でも違っていれば、決してこうはならなかった。

「だいたい、私や由比ヶ浜さんが何の価値もない男に望んで一生を捧げたがると、あなたは思うの?」

「っ!」

 鮮やか極まりないチェックメイト。なるほど確かにその通り。俺はもう、この二人から思いを寄せられている人間なのだ。他の誰でもない、この俺が。

「あなたの私たちに対する評価がその程度であるならもう何も言えないけれど……。そうでないのなら、先程の答えも理解できるでしょう」

「うん……。あたしたちは、ヒッキーが大好き。嘘じゃないって、分かるよね?」

 お手上げ白旗完全敗北。少なくとも、もう無用な自虐なんざ一生するわけにはいかねーわな。

 俺はこれでいいと。雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣から、彼女たち自身に値する男だと。そう認められたのだから。

「間違いなく、あなたの過小評価。異論はないわね?」

「……ん。完膚なきまでに論破されちまったな」

「当然よ。……私たちが愛した男なのだから」

 腕枕する雪ノ下と、真っ直ぐ視線を交わし合う。得意気な彼女の笑みが眩しい。

「うー、もうガマンできない!!」

「お?」

 由比ヶ浜が俺の頭を両の手でそっと支えて、膝枕を静かに抜く。代わりに横に置いていた枕を宛がって、一旦ベッドから降りた由比ヶ浜は、腕枕で向かい合う俺と雪ノ下に覆い被さるように二人まとめて抱きしめてきた。

「はぁー……あたし、ほんと幸せだよぅ……」

「由比ヶ浜さん、甘えん坊ね」

「うん。あたし甘えんぼ。だって、ヒッキーに恋してるゆきのんと、ゆきのんを愛してるヒッキーを、あたし好きなだけ大好きでいていいんだよ? 最強の三角関係じゃん!」

「ええ。完璧な、ね」

「ああ。本物の、な」

 雪ノ下に焦がれる由比ヶ浜と、由比ヶ浜を恋い慕う雪ノ下を、誰憚ることなく愛する権利。これを幸せと言わずして何と言おうか。

「あ、そういえばゆきのん。命令ともう一つ、お願いがあるって言ってたよね。そっちはなんなの?」

「ああ、そうだったわね。比企谷くん、マックスコーヒーは控えなさい。口寂しいなら紅茶なり珈琲なりいつでも淹れてあげるから。あんなもの飲み続けて糖尿にでもなられたら困るもの。私たちを残して先立つなんて、絶対に許さないわ。何より、もう不要でしょう? だって……」

 雪ノ下はそこで言葉を切って、悪戯っぽい笑みで由比ヶ浜に視線をやり、何を暗黙に了解したのか、うなずき合って二人で俺を見つめてくる。

「もう、苦くはないでしょう? あなたの人生」

「そうだね!」

「違いない」

 三人で笑い合う。俺たちの先行きを願って、いつまでも。

 やはり俺の、俺たちの青春ラブコメは、完璧にまちがってしまっているようだ。


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