そうして、二日が経った。小町は宣言通り、余所事になり得る全てを俺の元まで届かせることなく片付けてくれた。この二日間、俺は一歩も外に出ることなく、寝食以外の全てを考えることにだけ費やしていた。
元旦に一度だけ、雪ノ下からのメールがあった。
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FROM 雪ノ下
TITLE 私たちのこと
1月3日の午前0時前に私の家に来てちょうだい。
大層な準備はいらないわ。
持ってきてほしいのは何があっても後悔しない覚悟だけ。
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雪ノ下らしい、実直なメールだった。
だが、望むものを持っていくことはとても出来そうになかった。
二人のことを考えていると、去年の冬に恩師に送られた言葉が記憶の底から何度も浮かび上がってくるのだ。
必要なのは自覚。大切に思うからこそ、傷つけてしまったと感じる。
誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだと。
でも平塚先生。取り返しのつかない致命傷を、何を置いても傷つけたくない人たちに与えてしまうとき、俺はどうしたらいいんですか。
進んでも、退いても、選んでも、選ばなくても、俺はきっとどちらかを深く深く傷つけてしまうのだろう。生木を裂くに等しいその傷は膿んで毒となり、きっと他の二人にも回ってしまう。そう思えるほどに、俺たちは近付きすぎた。
だというのに、立ち止まり続けることを、雪ノ下は否定した。卒業という終わりを前に、自分たちの手で決着を着けることを求めた。進めてしまった時計の針は、もう戻すことは叶わない。
あの時平塚先生は、お互いがお互いのことを想えばこそ、手に入らないものもあると言った。
けれど、それは悲しむべきことじゃない。たぶん誇るべきことなんだろうと。俺はその時、それを美しいものだと思った。美しいだけで、辛いものだろうと思った。でも今は、醜くても、辛くても、悲しくても、誇らしくなくてもいいから。二人を傷つけない道がほしいと、それだけを願うのだ。
そんな都合のいいものなんて存在しないと、分かっているのに。
× × ×
深夜。玄関で靴を履いてると、背後で静かに扉の開く音がした。そしてゆっくりと忍び寄る気配。
「……答えは、見つかった?」
「…………ああ」
「……そっか」
背中越しの声が、弱々しく沈んだのが分かる。何年お兄ちゃんの妹を、と言われたことを思い出した。
どれだけ考え尽くしても堂々巡りするばかりで、望むような答えは見つからなかった。
だからせめて、出来るだけ小さい傷であってくれと。不誠実な、そんな答えを捻り出した。
「……いってらっしゃい」
「いってきます」
そんなやり取りを最後にかわして、家を出た。