そうしてそれぞれが元通り席に着く。彩り鮮やかなサラダ、温め直したコーンスープ、切り分けたフランスパン、香ばしく揚がった唐揚げに天麩羅、ふんだんに海鮮を散りばめたマリネ、絶妙な火加減のローストビーフ、たっぷり甘くしたショートケーキ。飲み物はぶどうとみかんとりんごのジュース。ティーカップは雪ノ下が桃色がかった柔らかな赤、由比ヶ浜が抜けるような空の青、俺が黄金の小麦畑を思わせる黄色を配られたのだが、その時に雪ノ下が見せつけるようにシュシュを俺に向けていたずらっぽく微笑んできた。由比ヶ浜もそれを見て嬉しそうにするから、俺は何も言えなくなってしまうのだ。
ティーカップで小さく乾杯して、一時間遅れの誕生日会を再開する。二人の作った料理はやはりどれもこれもとても美味しく、また肴にする話も尽きぬほどにあったためか、三人で食べるには多すぎるかと思えたメニューは綺麗に全部腹の中に納まった。誕生日会は非常に和やかな空気の中で行われた。俺たちは奉仕部での二年間に花を咲かせて、くすぐったくも心地良い時間を過ごすことができた。
「あふ……」
「由比ヶ浜さん、眠いの?」
「ああ……もう三時過ぎてるのか。今日は本当に時計の進みが速いな」
「ん……でもまだ大丈夫だよ。今日一日はずっと付き合うつもりだし」
「無理をさせたいわけじゃないのよ。もう寝ましょう。私もそろそろ眠くなってきたわ」
「あれだけ食ったしな。眠くなるのも仕方ねえだろ」
と言いつつ、俺もかなり眠い。俺が一番食ったしな。気を抜くと眠気が鎌首をもたげてくる。
それより何より、ここ最近ずっと張り詰めてたのが、二人と抱き合って完全に緩められてしまったから。この部屋の空気は、嫌悪に慣れた身には些か以上に暖かすぎて。
「由比ヶ浜は泊まりか?」
「ええ、そうよ」
「あ、ゆきのんが答えるんだ」
「今日一日は放すつもりはないもの。……比企谷くんもよ」
「…………おう」
「あら、驚かないのね」
「まあな」
午前零時という集合時間然り、外に出るつもりはないという発言然り、そもそもの話として雪ノ下は初めから一日の時間をくれと言ってきていた。さすがにここまでくれば推測するには十分過ぎる。
「ただ何も持ってこなくていいって言ってたから、今日は本当に手ぶらだぞ」
「大丈夫よ。その……着替えも、用意しているから。サイズは分からなかったから幾つか買ってあるわ。あなたが選んでちょうだい」
「お、おう……」
どんだけ本気なんだよ。雪ノ下が男物の寝間着を複数サイズまとめて買ったのか……うわあ……。
「軽くシャワーで汗だけ流して、今日はもう寝ましょうか」
「ん……まあ、そうするか」
「由比ヶ浜さん、行きましょう」
「あ、うん。ヒッキー、お先に」
「おう」
そう言って二人で連れ立ってリビングルームから出ていく。その極めて自然な流れに、いつもそうしてるんだろうか、とか頭をよぎるそんな妄想を無理くり鎮めて、一人になったこの時間にあてのない別解探しを再開する。ロスタイムは二人のあとに俺が風呂を上がるまで。決して長くはないし、正直見つかる気もしない。それでもこれを止めることだけはしてはならないと、そう決めた。
昨日から今日にかけての四時間余りで、俺たちの距離が思っていた以上に近付きすぎていることをまざまざと見せつけられた。由比ヶ浜も雪ノ下も、明に暗に俺たちの関係を特別なものだと主張している。深夜に一人暮らしの女の子の家に集まったり、男女で固く抱き合ったり、保護者なしで一つ屋根の下に泊まったり、それは普通の関係などでは、きっとない。俺もそうだ。二人の叫ぶ特別性が替え難く嬉しいものだと思っているし、それ故に発露する行動も全て受け入れたいと思ってしまっている。だが、それでも答えを出さなければならないのだ。
問題の根が考えていたよりずっと深くなっていたことを骨の髄まで理解させられただけで、何一つ解決に寄与するものではなかった。平塚先生の言っていた、お互いのことを想えばこそ、手に入らないもの。それに当て嵌めることすらも、きっと今の俺たちは手遅れなのだろう。